聖女様のひとりごと
本日二度目の投稿。
かんちがい聖女さま、登場。
基本は理想しか見ない。
悪役令嬢ものの、ヒロインと同じ感じです。
ここは自分の世界だと思ってる感じ?(ひとりごと)
「聖女様、クレーレ領に着きました」
「わかったわ」
✫ ✫ ✫
リーナ・メーデルは、しがない子爵令嬢である。
貴族なのに、貧乏な生活を強いられ、碌に教育も受けられなかった。
だが、そんな彼女は、己の生活を苦と思わなかった。
何故なら、自分は将来、大金持ちのお貴族様と結婚できるのだから。
リーナには、前世の記憶がある。
前世の「私」は、『乙女ゲーム』をずっとしていて、寝不足によって、注意怠慢、事故に巻き込まれ、死んだ。
そしてその『乙女ゲーム』の、『ヒロイン』というのが――メーデル子爵令嬢。つまり、リーナのことだった。
攻略対象は、王太子はじめ、その側近たち、計五名。
ライバルは、王太子の婚約者、レイラ・テネレス公爵令嬢はじめ、側近の婚約者たち。それぞれのルートで、一人ずつ出てくるのだ。
そして、リリアンヌ・クレア・ティメイア。彼女は、サポキャラに属し、ヒロインの学友であった――初期は。
彼女は、最初こそ優しいが、徐々に本性を出していき、ルート終盤に入ってくると、『悪逆王女・リリアンヌ』となる。ライバルたちは、しょせんライバル。リリアンヌの踏み台に過ぎず、リリアンヌこそ、本物の悪役であり、ラスボスだった。
彼女は、本物の悪。表では「いい子ちゃん」を装っているが、裏では、使用人を木に吊り下げたり、気に入らない人間をその場で首にしたりした――物理的に。
そしてこのゲーム、R18版もあり、そちらでは、リリアンヌは、奴隷を買って、彼らに麻薬を飲ませ、発狂させ、その狂いっぷりを楽しんだり、実験台となった闇属性の、美形の少年の童貞を奪ったり……と、悪魔の所業をしていた。ちなみに、その闇属性の少年は、リリアンヌと同い年で、隠しルートの攻略対象だったりする。誰、とは言わないが、皆さんのご想像の通りだろう。
とまぁ、とにかくやべー悪役は貧乏領地に左遷されたのだが……実はまだ、ゲームのシナリオは始まっていない。
今から十ヶ月と二週間後。王都の、王立貴族学院にて、物語は始まる。
その前に、リーナは、レオンハルトたちを篭絡した。
早く贅沢がしたかったから。
レオンハルトたちは、すぐに落ちた。
お堅い婚約者たちに飽き、興味本位で付き合ったリーナに、好意を寄せたのだ。
そして、高価なドレスや宝石を貢いだ。
だが、リーナに、ある誤算が起きた。
リリアンヌ、そしてレイラはじめライバル達だ。
リリアンヌは、最初から苛めてきて、しかも『虐め』ではなく、幼稚な『苛め』である。
ライバルたちは、冷たい目で見てきたが、いじめもせず、呆れた感情が見て取れた。
最早諦観の境地に着いたのかもしれないが。
そんなこと、リーナが知るはずない。
だって、自分はヒロインで、この世界の全てなのだから。
✫ ✫ ✫
「え……⁉ここが、クレーレ領……⁉」
結論。リリアンヌの施政は、成功していた。
領民の多くが、以前とは比べられない生活標準であった。それでも一般的な生活をしているが。
馬車から、市井の様子をのぞいたリーナは、その大きな丸い目を見開いた。
リーナがここに来たのには、理由がある。
聖女として、領民たちの慰問にきた……わけではない。
次期王太子妃、ゆくゆくは王妃になるものとして、視察しに来た……わけではない。
もちろん、自分の威光を見せつけるために来たのだ。
リーナが想像していたのは、ボロボロのクレーレ領に、舞い降りるように馬車から飛び降り、『聖女の力』で、領民の心を癒し、ここでも支持を得る自分。そして、『女神』と崇められ、それに笑顔で応える自分。己の一挙手一投足に、誰もが魅了される自分。
すなわち、リーナは承認欲求を満たされたかったのだ。
そして、もう一つ、目的があった。
(ジーク君……どこかなぁ~)
闇属性の少年こと、ジーク。隠しキャラの彼を篭絡すること。
だが、今頃、領主館で魔力付与を研究するため、実験室に引きこもっているジークが見つかるはずない。見つかっても、リリアンヌのカリスマ性(……?)に心酔しているジークが、篭絡されるはずないのだが、そんなこと、自分がこの世の理そのものだと、信じて疑わないリーナが知るはずない。
リーナは、物珍しいように、侍女・護衛たちを連れ、キョロキョロとあたりを見回す。すると。
「えっ……!」
「あ、悪魔……!」
「悪魔を捕縛しろ!」
領地視察に訪れていたリリアンヌたちと、遭遇した。
ちなみに、リリアンヌ、侍女(侍女Aぐらい)、護衛(護衛Bぐらい?)の順である。
「き、キャァ――っ!い、今リリアンヌちゃんが……私に魔法を!」
慌ててリーナも役作りをする。勿論リーナが正当化されるように。リリアンヌが悪役となるように。
それが効いたのか。護衛たちは、攻撃を始めた。
「っ!セシル!カイルさん!貴方がたは自分の身を守って!今、ジークさんはいない……命を大事に!わたくしが民を守ります!」
そうリリアンヌが後ろの二人に命令すると、セシル、と呼ばれた女性は薄く氷の防壁を張り、カイル、と呼ばれた男性は、水の防壁を張った。そして、リリアンヌは透明な結界を張る。
かくして。後にティメイア聖女伝に載る、悪逆王女対聖女の、重要な戦いが幕をあけたのであった。
ご読了有り難うございました。