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悪逆王女の領地経営  作者: 天月 灯翠
領地救済編
15/21

悪逆王女と海賊団

「おおぅ……!これは素晴らしいですわね……!どれも全て、歴代当主の方々の努力が見られますわ!」


「お褒めに頂き、光栄です。この領の者たちは、誰もリリアンヌさまを『悪魔』だなんて思っておりません。安心してくださいませ」


「えぇ。レイラさまの課題に答えつつ、領地経営についてのヒントを探らせていただきますわ!」


 リリアンヌは、テネレス公爵領に来ていた。

 旅行に来ているわけではない。そもそも、クレーレ領にそんな余裕があるわけがない。

 では、何故彼女たちがここにきているのか。

 それは、昨日までさかのぼる。


 第三者の声。それは、レイラの弟、ユーリであった。彼は、ずっと部屋にいたらしい。

 リリアンヌは、彼に気付かなかったことを詫び、そこで貧民街のことを思い出した。

 そして、レイラたちにある取引を持ちかけた。


「わたくし、この国の木材の自給率を上げようと思っているんですの。

 そのために、テネレス公爵家の方々にもご協力いただきたのですが……利益は、半分ずつ、山分けでどうでしょうか」


 レイラは、一瞬真剣そうな表情になり、


「いいわ」


 といった。そして。


「一つ条件を、飲んでくれたらね」


 取引とは、ほとんどうまくいかないものである。


 そして、冒頭に戻る。

 テネレス公爵家の領地は、クレーレとは比べ物にならないほど賑わっていた。

 テネレス領は、海に面しており、漁業が盛んだ。

 リリアンヌも、いずれは漁業をクレーレの産業として用いようとは思っているが、今は船を買う金がなく、不可能となっている。


「あら、新鮮な魚が売っているのですね。今日獲れたものなのですか?」


「えぇ。ここには、新鮮な魚しか売っていませんよ」


「では、売れ残った商品は?捨ててしまうのですか?」


「いえ。酒場などに、値引きして売っていますよ」


 リリアンヌの問いに答えてくれるのは、テネレス公爵家の使用人、セバス。

 レイラが遣わしてくれた者で、テネレス姉弟は既に帰ったのだ。

 ちなみに、セシルたちは少し離れたところで、興味深そうに周りを見ている。


「……あら?あそこは何かしら?」


 リリアンヌがさしたのは、港付近の人の集まりであった。それにセバスは、


「せり……ではないようですね」


「えぇ……」


 セバスも分からないようで、リリアンヌは首をかしげる。と、そのときだった。


「海賊団だ!カイル船長の海賊団だ!」


 人のかたまりから、叫び声が聞こえた。


✫ ✫ ✫


『カイル船長の海賊団を、なんとかしてほしいの。貴女のところには、優秀な闇魔法使いもいると聞いているわ」


『そこまでご存知でしたか……で、カイル船長、というのは?』


 カイル船長、というのは、最近テネレス公爵領で目立つようになってきた海賊団の船長らしい。

 彼らは、とても強く、生半可な騎士では敵わないのだとか。

 だが、ジークは、闇魔法使い。

 強力な拘束魔法も使えるので、お鉢が回ってきたのだろう。


『わかりました。なんとかしてみますわ』


✫ ✫ ✫


 回想終了。


「さすがに、ここまで早く俺に出番が回って来るとは思いませんでした」


 いつの間にか、リリアンヌの近くにセシルたちが寄ってきていた。

 ジークが少し冷や汗を流しながら言う。


「えぇ……わたくしもです」


「リリアンヌさま、俺最近、新しい拘束魔法を練りだしたんです。

 失敗するかもしれないですけど……必ず、拘束できますよ」


「そ、そうですの……。ちなみに、失敗すると、どうなるのですか?」


「魔力を込める加減を間違えると、相手の手足が爆散しますね」


「……微妙ですけど、必ず成功させなさい。殺したら許しません」


「御意に」


 ジークは、海賊団がいるであろう方向に手を向け、魔力を込め始めた。

 精神を集中させているのだろうか、目を閉じている。

 だが、不意に目を勢いよく開けると、


「闇魔法、〝闇鎖〟」


 そう呟いた。

 すると。


「え……?海賊団が、捕まった……?」


「あれは、魔法……?」


「けど、黒い……!闇魔法……?」


 そう言う人々の声が聞こえた。


「こんなもんですかね」


「えぇ……失敗していないわ!貴方、いつも氷人形の四肢を爆散させちゃうから、心配したわ……」


 ジークがこともなさげに言い、セシルが感激したように言う。

 セシルはジークの師であるため、あの技が成功して嬉しいのだろう。


「さて、みなさん、彼らにどういうことか、尋問しましょうか」


✫ ✫ ✫


「カイル船長、と言いましたね?」


「あぁ、そうだが……何だ?不敬だとか言って、すぐに処刑する気か?」


「いえ。そんなことは致しませんわ。わたくし、そういうことは嫌いなので」


 カイルは、素直に尋問を受けた。

 そして、処刑を受ける気であった。

 その覚悟は、とうにできていたらしい。


「じゃあ、何だよ。俺をどうするつもりだ」


 ギロリ、と睨んできたカイルには、威厳があった。

 だが、リリアンヌは全く怯まなかった。


「そうですねぇ……あなた、わたくしの――クレーレ領の騎士団長になって下さらない?

 あなたの腕前は、テネレスの騎士にも劣らないと聞きましたわ。

 レイラさまから、あなたを捕まえたら好きにしていい、と言われておりますし……。

 海賊の方々も、騎士になっていただいて構いません。むしろ大歓迎ですわ」


 カイルは、予想外のことを言われ、面くらった。


✫ ✫ ✫


 カイルは、孤児であった。

 彼は、幼い頃から理不尽を受け続け、大人たちに復讐するため、そのような仲間を集めて、海賊となった。

 貴族は、許さない。

 彼は、特に貴族に虐げられてきた。

 だから、貴族には容赦しない。

 なのに――。

 

 俺は、会ってまだ一日も経っていないお貴族さまに尻尾を振るのか……?

 いや、それも悪くない。このお貴族さまは、何か違う。

 これは、仲間を守るためだ。

 

✫ ✫ ✫


「へへっ。俺は孤児で、罪人だぜ?いいのか?」


「えぇ。罪人だとか、孤児だとか、有能ならば何でもいいですわ」


「……なら、俺は仲間と一緒にアンタの領地の騎士団長になってやるよ」


 リリアンヌの差し出した手を、カイルは手に取った――。


 ご読了有り難うございました。

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