断罪の場は茶番と化す
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「レイラ・テネレス、おまえのした、彼女に対する悪行は全て知っている。
よって、おまえとの婚約を破棄する」
その言葉を聞き、私は思った。
――あぁ、我らが王太子はやはりバカだなぁ、と。
「……めんどくさい」
「……何か言ったか?」
「いえ、何でも」
何故私がこんな公の場でこんな辱めを受けなければならないのか。
それは、殿下の腕にその細腕を絡め、べったりとくっついている、恥知らずな女のせいである。
めんどくさい。本当に面倒くさい。
さっさと終わらせてしまおう。
やりたくないことは、さっさとやってしまうのが一番である。
「その理由、お聞かせ願えますか」
私は完璧なアルカイックスマイルを浮かべて言った。
――私がそんなことされて、泣きつくとでも思ったのかな。
もともと、王太子殿下との婚約は政略的なものだった。
愛もないし、私は『影』を統括する公爵家の令嬢として、将来の国母となる予定だった。
それでも、愛人のひとりやふたり、許そうと思っていた。側妃を娶るのだって、別に構わなかった。
それを殿下に明言したし、あの娘にも普通に接していたはずだ。
私は何もしていないし、あいつらが勝手に私に冤罪を吹っ掛けているだけだ。
「とぼけるつもりか?おまえは、彼女……リーナにわざとぶつかり、そのうえ、転んだ彼女を笑っただろう!」
「そんな醜い嫉妬をするなんて……テネレス公爵家も落ちぶれたものですね」
王太子が言い、その側近が参戦する。確か、侯爵家のものだ。
「たかが侯爵令息が、公爵令嬢たる私に口出しするのですか?今の発言は我が公爵家への侮辱と受け取りますが」
「汚いですよ、レイラ・テネレス公爵令嬢」
侯爵家の人間が、公爵家の人間を非難すれば、それ相応の罰が待っている。
それも分からないのか、この無能共は。
「お言葉ですが、私はメーデル伯爵令嬢に対し、ぶつかっておりませんし、笑っておりません」
それに――と、私はその続きを言う。
「そちらの方が、私に勝手にぶつかってきて、勝手に泣いて、勝手に去って、勝手に貴方に告げ口しただけですわ――嘘を」
あのバカが言っているのは、恐らく学園でのことだ。
私とリーナ・メーデル伯爵令嬢は、私と同じ学年。
学園では、学力と魔法の技術がものを言う。それを総合し、高い順からクラスが決まり、一番上がAクラス、一番下がDクラスだ。
彼女と私は、違うクラスで、自慢ではないが、私がAクラス、彼女はDクラスだった。
「それに、私は彼女をいじめるほど時間がありません。王妃教育に忙しいので。
ついでと言っては何ですが、メーデル伯爵令嬢と私のクラスが全く違うこと、ご存知ですか」
「レイラさま……ひどい!私がDクラスだということを笑うんですか⁉
確かに私は貧乏貴族でレイラさまのように賢くも、魔力の扱い方もうまくありません……けど、あなたより下の位だからといって、卑下するのは違うと思うんです……違いますか?」
「リーナ、おまえはなんて心が澄んでいるんだ……レイラとリーナが比べられるなんて、リーナに対しての侮辱だろう」
「レオン様……!」
なんという茶番を見せつけられているのだろうか、私は。
全く持って意味不明である。
どこをどうすれば彼女の身分を卑下したことになるのだ。
あのお花畑どもの頭の中を見てみたい。
「……えぇ、分かりました。婚約破棄の件、承りました。……廃嫡になっても、知りませんから」
「罪を認めるか。そしてお前は思った以上にバカだったみたいだな。私は王太子だ。次期王になる者であり、廃嫡はあり得ない」
「そうですよ!レオン様は王様の次に偉い方なんですよ!って、なに無視してるんですか⁉私の言うことなんて、聞く意味がないって言ってるんですか……?」
「いえ、今後の食料自給率と木材の自給率に関して考えていたところです」
「……?なんでそんな難しいこと言うんですか……?私にはレオン様の婚約者は務まらないって言ってるんですか……?ひどい……!」
うざい。この上なくうざい。
大体、何故そんなことになる。
食料自給率と木材自給率の意味も分からないのか。
あほかバカか、お花畑か。
レイラは、前者ふたつだろうと見切りをつけた。
「とりあえず、今日は皆さんに失礼です。後で国王陛下を交えて相談しましょう」
さて、レイラたちを遠巻きに見ていた下級貴族の令嬢たちは。
「ねぇっ、あれって……」
「うん!あの断罪パーティの再現じゃない!」
「殿下、かっこよかった!リーナさんもすごい役作りだった!」
「けど、再現にしてみてはレイラさんの悪役令嬢さがないよね」
「確かに……何があったんだろう?」
芝居をしていると思い込んでいる令嬢たちは、その後、レイラとレオンハルトが本当に婚約破棄し、リーナとレオンハルトが婚約したと聞き、「芝居じゃなかったんだぁ」と、気落ちする。そして、「すっごい茶番だった!」と、後世に残る『ティメイア聖女伝』の記録に残ることになるのだが……これはまた、別の話。
かくして、物語は進んでいくのであった。
読んでくださり、ありがとうございました!