万能の聖女である私の婚約者が運命の番を見つけたといって婚約破棄を迫ってきたので、調べてみたら相手が私の腹違いの妹だった件についてお話しましょう
「運命の番を見つけてしまったんだ!」
「はあ」
「だから婚約を破棄してくれ!」
王太子が婚約者である私に土下座までしてお願いをしてきた。
有責の場合以外は、婚約解消が許されていないからだ。
「……相手は?」
「庶民だ、町にお忍びで出かけたときに見つけて」
「番とは、確かにわが竜人族では伝説となってはいますが、運命の番に出会える人は百年で1組程度、代を重ねても出なかったのに……」
「絶対に間違いない!」
一目会ったときから愛し愛され、ええ、でもどうして何もしていない私が婚約を破棄されなければいけませんの?
「私は嫌ですわ」
絶対に婚約破棄をしませんと言うと殿下は何度も何度もしつこくいってきます。
「……絶対に嫌ですわ」
私は万能の力を持つといわれる聖女、私と殿下の婚約は確かに私が聖女であるから決まったことですが、私は初めて会った時からこの人を愛してしまったのです。
「絶対に嫌です」
私が繰り返すとあきらめたように見えた殿下でしたが……。
「殿下が妾を囲っているそうだな、リリシア」
「そうですわね……」
「トランの家に対するこれは挑戦か?」
「さあ」
殿下は運命の相手とやらを王宮に連れてきて、婚約者として遇していると聞きました。
私は相手のことを調べてみて、自分が詰んだのを知りました。
「お父様、銀髪紫目のものはトランの家にしかいないはずですわね」
「ああ」
「殿下の妾は茶色の髪に、紫の目をしているそうですわ」
「は?」
「お父様、昔手を付けた使用人がいましたわね。栗色の髪の娘でお母さまにばれて追い出した」
「……」
「妾はそのマーシャが生んだ娘だそうですわ」
私は半分とはいえトランの家の血に連なるものなら、番という条件を加味すれば私の婚約は多分解消されると考えました。
「私の娘というのか!」
「ええ。手ごまとしては最適ですわ、お父様、私を見限ってそちらについてもいいのですわよ」
私はこの分だと聖女として神殿に閉じ込められる運命ですわねと笑います。
お父様が何やら考え出しましたわ。
でもただでは婚約者の座を譲りませんわ。
「番とは絶対それは運命だ。だからリリシア、婚約を」
「解消はいたしませんわ」
陛下に呼び出され、婚約を解消するようにと言われました。
私はにっこりと笑い万能の聖女と番という娘、利用価値はどちらが高くて? と笑いかけます。
「……」
「隣国の王太子殿下は婚約者がお亡くなりになったばかりだとか……」
「リリシア」
「この力、他国にわたってもいいと?」
私は陛下ににっこりと笑いかけます。万能の癒しの力はどんな怪我や病でも癒す。
とっておきの力ですわと笑いました。
「……わしの病をいやしてくれたのはそなただった」
「ええ、私の寿命を削ってまで」
「……」
「そうですわね、私は殿下を愛しておりますの、だからどんなことをしても婚約は解消しません。陛下、私、下手をしたら番とやらを殺してしまうかもしれませんわよ」
幼い時、殿下と出会って母を亡くして泣いていた私を殿下が慰めてくれた。
ただそれだけと思われるだろうがそこから私は彼を好きになった。
もう本人は忘れているようですが。
「……わかった」
「陛下、どう処断されます?」
「あれの目を覚まさせよう」
私はにっこりと笑いドレスの裾をつまみ一礼しました。
そして帰り道、番という少女を遠目で見ました。
愛らしくかわいらしい娘、ただそれだけ、番というだけで殿下の心を手に入れた。
娘に笑いかける殿下の微笑みを見ると、胸が痛みました。
「……私の娘かどうか調査が終わる前にあの妾が病で死んだそうだ」
「そうですか」
「殿下がお嘆きで……」
「お慰めにいってきますわ」
父がこちらを見て、お前何かしたか? と聞いてきます。私はいいえと首を振り笑いました。
このトランの家から出る万能の聖女、それは自らの命を削り、人の病やケガを癒す。だからこそ王族と密接なつながりを持つ。
「あの子が、万能の力を持たなかったからですわお父様」
「え?」
「為政者の恐れるものは老いと病、怪我、なら怪我と病がなければ、その治世は割と長く続きますの」
クスクスと笑い、恐れるようにこちらを見る父に一礼をしました。
トランの聖女は万能の力を持つ、されどその寿命は短い、先代は29歳で死んだ。
なら短い命であっても、思うように生きるのですわ。
愛する人は私の心をあの時癒してくれた。絶対にその存在を譲ってやったりはしませんわ。
たとえ……妹とやらであってたとしてもね。
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