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悪役令嬢ものの悪役である元平民の成り上がり令嬢に転生しました

作者: 妃月イナ


「いよいよだな、プリシラ」

「はい、アレックス様。ずっとこの日を夢見ていました」


私の隣で寄り添うようにエスコートしてくれる彼は、私にそう囁いた。

ついに、ずっと狙っていたカモ……ではなくて、最愛の人の婚約者になれるのだと思うと私の胸いっぱいに幸せが広がるのを感じた。


「今まであんな悪女を野放しにしていて悪かった。あんな女が今まで私の婚約者だったと思うと虫唾が走る」

「そんな、元はと言えば私が、私がアレックス様を愛してしまったから……」

「散々嫌がらせをされて心細い思いもしただろう」

「でも、いつだってアレックス様が側にいてくれましたから」


ポッと顔を赤らめて見せれば、王子はたちまち私に見惚れて私以上に頰を赤らめる。


元平民の私が王子に見初められるなんて夢みたいな話でしょ?

でも私の場合、それが夢じゃないの。

私に夢中になってくれる王子様は、きっと私の言うことを何でも聞いてくれるわ。

この国の頂点である王子様のお嫁さんになって、国で一番裕福で贅沢な暮らしをして、誰もが羨むお姫様になれるのよ。


「これからする婚約破棄によって、私とプリシラは正式に婚約者、恋人同士になれるだろう」


幸せそうな顔をする王子様に、同じく幸せいっぱいの満面の笑顔を返す。

「嬉しいです」そう言おうと思ったその時、体に感じたのは奇妙な浮遊感。

そして夢から覚めたような、正気に戻ったような、それでいて気持ち悪い気分になった。


あれ?私、は?私は……私はプリシラ、で、でも、違う

あれ?この世界は、あの世界は……???





このタイミングで、私は前世の記憶を取り戻した。





「プリシラ?大丈夫かい?」

「だい……じょうぶ、です」


だいじょばない。

様々な感情が駆け巡り、だんだんと明確になっていく脳内に私は呆然とする。

そんな私を心配そうに見るのは王子ーーもとい、この国の第一王子であるアレクサンダー殿下。


「少し、目眩がしてしまって」

「疲れが出たのかな?無理もない、あれだけ心労が重なるような日々を送ってきたのだから……だが、そんな日々も今日で終わりだ」

「そう……ですね……」

「これからは僕が君を守るよ。それでは行こうか」

「ちょっ、ちょちょちょちょちょっと待ってくださいますかアレックス様!」


私は思わず全力で王子を止めた。

わずか一瞬、されど一瞬。この一瞬の時間で、私の脳は前世の記憶を取り戻し、そして私の本能はこの状況はマズイと全力で警告していた。


今私がいるこの場所は、王侯貴族の子息令嬢が通う学園の大広間の前。

大広間では王侯貴族の子息令嬢やその両親である現貴族の頭首などの権力者たちが招待された舞踏会が開かれている。

未来の国王である第一王子ももちろんこの舞踏会に参加するわけで……ーー婚約者でもない、私をエスコートして。

これから起きるであろう状況にめちゃくちゃ既視感があるんだが。


「アレックス様……私たち、今から何をしようとしていたんですっけ?」

「どうしたんだプリシラ、今からあの女を大勢の前で断罪して私の婚約を破棄する計画だっただろう?」


ですよねーーーー〜〜〜〜!やっっぱりね!!この状況はそうだよね!どう考えても婚約破棄シーンの一歩手前だよね!何回も読んだことある!!!ゼミで習った!!!!(習ってない)

改めてこの状況は王国史上最悪な羞恥事件一歩手前だったことに血の気が引いた。


今にも歩き出しそうな王子の腕をがっちりホールドして何とかこの場にとどまる。

全力で王子の手を引いて行かないでのアピール。


「やっぱり、やめませんか?」

「?、何のことだい?」

「その、婚約破棄をやめませんか……?」

「プリシラ……?まさか、またあの女に何か言われたのか?」


先ほどから王子の言う「あの女」とは、現在王子の正式な婚約者であるクローディア様のこと。

例に漏れず才色兼備で完璧な公爵家のご令嬢で、時期王妃に相応しい品格と技量と器をかねそなえているお方。


しかしそんな女より私の方が王子の嫁に相応しいと考えていたわけだ、さっきまでの私は。


「うっわ無理ゲー無理無理無理……アレックス様!今日はやっぱりやめにしませんか!?」

「どうしてだい?この日のために下準備もしてきたというのに」

「いやあ……でも、あの、その、ね?」

「本当にどうしたんだい?君の方から破棄してほしいと言って、ずっと二人で計画を練ってきたじゃないか」


ぐはぁっ!そうでした!ちくしょう脳内お花畑系の成り上がり令嬢の過去の自分め!


「大丈夫、緊張しなくても私がついているから大丈夫だ」


それ違うんや。貴方がついているから大丈夫なんじゃなくて貴方がついているからアカンのだわ。


「あの、実は今日体調が優れなくてですね、」

「そうなのかい?さっきまではあんなに元気そうだったのに」

「さっきまでは!さっきまで元気だったんですけど!」


とりあえず今は時間が欲しいぃ……。

こうなったら最後の手段だ!と私は王子の両手をぎゅっと握りしめた。ヒロインの必殺攻略対象堕とし!


「ダメ……ですか?」

「えっ」

「お願いアレックス様、私たちが恋人になれる日は、もっとちゃんとした日に迎えたいの」

「わ、わかった!ごめんプリシラ。そうだね、もっと君の体調に気遣うべきだった」


ふぅ、なんとかなった。

記憶が戻れどさっきまで息をするようにブリブリのぶりっ子だったからね!ヒロインのスキルや記憶や経験が消えたわけじゃないからね!どっちかというと消えていてほしい記憶だけどね!


一息ついたのもつかの間、私の背後から複数の聞き覚えのある声がした。


「アレックス、プリシラ、どうしたんだ?」

「もうそろそろ入場してもいい時間ですよ」

「もしかして何か問題があったのかい?」


あーー、そういやこいつらもいたんだった!!!

私は再び頭を抱えたくなった。


現れたのは、王子の側近であり友人でもある美形3人。

近衛隊隊長の息子にして王子の護衛であるスタンリーくん。

宰相の息子で秀才な頭脳を持つ神童ノーマンくん。

若くして王宮魔術師に任命されたレジナルドくん。


例に漏れずこの国のお偉方のご子息たちであり、有能で有力で見目麗しく、しっかりと将来が約束された金の卵たち。


「プリシラ、大丈夫か?」

「あまり無理してはいけませんよ」

「何か問題があったらすぐに言うといい、必ず力になるから」


お分かりいただけただろうか?どいつもこいつも私に骨抜きにされてしまった男どもだ。

抜かりねぇなぁ過去の自分(泣)

つーか国の次世代の中枢を担う奴らがそろいもそろって一人の女に現を抜かしやがってよお……お前らもっとしっかり生きとけよお……私が言えることじゃないのは百も承知だけどさあ……


「アレックス、一体どうしたんだ?」

「急にプリシラが体調が悪いと言い出してね」

「そうなのですか?プリシラ」

「あ、はい!なので今日はこの辺で帰りたいと思いまして……」

「そうか、待ちに待った日だったのに残念だな」

「プリシラのせいじゃない。ものはといえばあの女のせいだ」

「その通り」

「あ、あはは、ありがとうございます……」


お、おお……。見よ、この圧倒的な姫扱い。もはや私の胸は違う意味でドギマギしている。

明らかに後でどんでん返しがくるフラグだぞこれ。

私は実際に胃がキリキリ痛み出した時、もう一人私たちに近づいてくる人がいた。


「殿下、プリシラ、どうしたのかね?早くしないと舞踏会が終わってしまうよ」


そう言いながら現れたのは人の良さそうな初老の男。この国の有力貴族で大臣でもあるブロウズ侯爵だった。

大臣でありながらずっと王子と私の仲を陰ながら応援していてくれた人で、今夜の婚約破棄計画を知る数少ない一人。


「ブロウズ侯爵。申し訳ありませんが、プリシラの体調が優れないそうなので今日の計画は延期することにしました」

「何?そうなのかねプリシラ?」

「は、はい!緊張したからかお腹が痛くなっちゃって……すみません」

「ふむ、婚約破棄を言い渡すのなら今日が最適だと思ったのだがな」

「やはり侯爵もそう思われますか?」

「確かに、今日しか来られない貴族の方々もいるからな」


え?何この流れ?私行かんぞ?自分で自分のバッドエンドフラグ取りにいかんぞ?

焦っている私を見てか、そんな流れを遮るように進言してくれたのはレジナルドだった。


「でも、プリシラの為の計画なんだから、プリシラを優先するなら延期するのが道理だ」

「ありがとうレジナルド様!」


お前最高かよ愛した。思わず手を取って近寄れば、レジナルドは恥ずかしそうに目を逸らしながら頰を染める。純情か。

その様子を見た他3人は慌ててレジナルドに同意し始めた。


「そ、そうだな!レジナルドの言う通りだ!」

「ああ、今はプリシラを優先しよう」

「機会はまだあるしな」

「次の機会で、今日以降の大きな舞踏会となると……建国記念日の舞踏会でしょうか。あの舞踏会は王室主催ですし最適だと思うのですが、どう思われますか?ブロイズ侯爵」

「ほう、王室主催の舞踏会か。悪くはないだろう」


大臣もしょうがないと言う風に眉を下げる。ずっと私と王子の恋仲を応援してくれていたのに、現在の私からはそんな恋だか愛だかの幻想はきれいさっぱり消え去ってしまっている。なんかもう本当申し訳ねえ。

それでも何とか話はまとまったようで、私はほっと胸をなでおろす。もうとりあえずはこの場を脱せたら何でもいいわ。


「プリシラもそれでいいかね?」

「はい!」

「それじゃあそうしよう」

「建国記念日にはより大勢の王侯貴族があつまるしな」

「プリシラは今日はもう体を休めるんだよ」

「はい!」

「私たちもしっかりサポートしますからね」

「婚約破棄の舞踏会まで備えるようにな」

「はい!」

「建国記念日が楽しみになってきたな」

「そうですね。それじゃあ七日後に」

「はい!……ん?え、えっ!?」


七日後?今七日後って言った?

七日後の舞踏会で?再び婚約破棄イベント?


……時間なくね?


私が呆然と思っているうちに、王子に優雅にエスコートされながらその日は帰途についてしまった。














「うわああああーーーーどぉぉーーーーすんのよ………」


家に帰った後に自室にこもり、私は一人頭を抱えていた。


えーとつまり?

私は現在、「乙女ゲームの中の悪役令嬢が主人公」の「悪役令嬢系の小説」に「ヒロインぶった悪役ヒロイン」として転生した、と。ややこしいわっ!


声なき声で叫びながらぼんやりと自分の姿を思い出す。

「プリシラ」なんて可愛らしい名前に、わざとらしいまでにピンク色の髪に、甘ったるい声と愛嬌のある顔。

これってあれでしょ?本来の悪役である悪役令嬢に「お前との婚約を破棄する!」って堂々と言い放つ王子の横で「私この人にいじめられてたんですぅ」って言ってぶりっ子になる世間知らずの腹黒女のポジションでしょ?私。


実際私は元平民。そこから何やかんやあって男爵家に引き取られて、一年前から王侯貴族が通う学園に通っていた。そこで王子たちに会い、必要以上にベタベタとくっつき回って。純情無垢で愛らしいと愛でられて、調子にのってどうせならお姫様になっちゃおう☆って思っての今現在です。

このままいくと王子様と結ばれてハッピーエンド♡というのは、「悪役令嬢系の小説」の中の「原作の乙女ゲーム」の展開である。

だからこそ「原作の乙女ゲームのヒロインのハッピーエンド」の展開にもっていけばいんじゃね!って思ったけど、駄目だった。


なぜかって?

例に漏れず、私は悪役令嬢ポジの人を、ここでいう王子の婚約者であるクローディア様を悪者にするため様々な手を使ってデタラメな話をでっち上げて、もう取り返しのつかないレベルで色々とやらかしてしまったからだよ……!!

されてもいないイジメを触れ回り、悪評を広めての偽装工作に次ぐ偽装工作。目上の存在たちに対する無礼の数々。しかしそれすらも世間知らずの体で通した。

おまけに自分で階段から転げ落ちて「クローディア様に突き落とされましたぁ」と言って大袈裟な包帯を見せながら王子らに嘘をつくテンプレまでこなしてしまった。


万事休す。詰んだ。もう私に道はない。未来はない。

このままだと私は、今までの無礼な態度の罪、王子を誘惑した罪、虚偽の触れ回った罪などの不敬罪で牢屋か改心のための神殿で一生を終えなければならない展開一直線だ。それどころか悪役ヒロインは死刑エンドの小説もあったりしたっけ……。



っっっも”お”〜〜〜!!なんで記憶を取り戻したのがこんな色々やらかした後だったんだよ!

もっと早くに記憶戻ってたらこんなバカなことしてないよ!

なんだったら私だって悪役令嬢の方に生まれたかったよ!ざまあされる方じゃなくてざまあしたかったよ!


……と、いっそ狂ってしまいたくなるほどに、今までの私の言動はひどいものだった。




『プリシアさん、先日もお伝えしましたが、貴族社会には身分という制度があります。公の場では、下級貴族の者から上級貴族の者に話しかけてはいけませんし、言葉遣いも正しくしなければなりません』

 

そんな優しく教えてくれたクローディア様に対して私は。


『そんなのおかしいです!下級とか上級とか、皆平等な人間なのに、上下をつけるなんて間違ってる!そんなものよりも大切なものが人にはあるはずです!』


またある時は、


『私は何度も申し上げたはずです。プリシラさん、殿下のことを敬称で軽々しく呼んではいけません。「アレックス様」ではなく「アレクサンダー殿下」とお呼びするように。このままでは不敬罪と捉えられてしまいます』


『そうやって権力をかさに着て、みんな私のことをいじめるんですね……。私は、そんなクローディア様の横暴には負けません!それにアレックス様がそう呼んでいいって言ってくれたんだもの、私たちの愛はどんな障害も乗り越えますっ』


しまいには


『ップリシラさん!階段の踊り場は危ないから、そこでは暴れないようにとあれほど……』


『いたぁぁーーーい!!クローディア様っ、いくら私がアレックス様に愛されてるからってこんなことするなんて酷い!あっ、アレックス様!クローディア様が私を……グスン、いえ、やっぱり何でもないです、私が悪いんです……うう……』



はい、察してくれたかな?

恐ろしい。本当に末恐ろしい。無知は罪っていうけどこんなんもう世紀の大罪でも生ぬるいくらいだわ。

どうして過去の自分は貴族社会でも平民の価値観を振りかざせたのか。



…………いや、そもそもさあ、王子がちゃんとしてればこんなことにはならなかったのよ。ね?身分が違いすぎる男爵令嬢に入れ込むって王族としてどうなのよ。時期国王としてどうなのよ。


うん、ハイ、現実逃避でーす。私が一から十までわるいです。知ってた。

うーん、これからどうしよう。









とりあえず、謝ろっかな……。

この度の最大の被害者であるクローディア様に、まずは誠心誠意謝罪しよう。

記憶を取り戻すのが婚約破棄宣言後でなかっただけ幸いだ。


今日はもう心身ともに疲れたし、もう寝る。

あ〜〜〜、全部夢だったらいいのになあ……。



















運命の舞踏会まであと六日。



「詰んだわ」


クローディア様の屋敷から追い返された後、とりあえず私が今できることをやろうと、これまで迷惑をかけた令嬢たちの家々を回った。

結果はもちろん惨敗でした!

全ての家に門前払いされるどころか、今度は何を企んでいるのかとむしろ警戒されてより敵視された気がする。

まああっちからすると今更謝るなんてふざけんなって感じだよね。


このままだとテンプレの悪役令嬢ハッピーエンド一直線、つまり私の死!


「はあぁぁ、どうしてこんなことに……」


他の手は思い浮かばず、結局何もできないまま私は帰途についていた。

答えの分かりきっている問いかけに、今日何度目になるかわからないため息をつく。


「本当に、どうして周りの人間は私たちを止めてくれなかったんだよぉ……」


……いや、止めてたな。止めてはいたわ。

王子は国王や周りの重鎮たちに止められ、私はクローディア様に止められ、それを無視しまくって盛り上がっていたのは私たちだわ。


それでもね?私を棚に上げてることは百も承知で言わせてもらうとね?将来を担う王子がアホなことをしだしたらちゃんと止めようよ〜!!

もっと粘れよ〜君たちの未来の王様がこのままだと国が滅ぶのまったなしだよ〜〜!

最初止めていた人たちはだんだん口出さなくなっていたしさ〜。

諦めたのか見切りをつけたのか知らんけど、未来のオウサマが脳みそ空っぽ女とイチャコラしてんの見逃すってことある?ねえわ。


そんな中で最初から最後まで味方でいてくれたのは大臣だけだったねえ。

政財界の中心人物でもあるブロウズ侯爵は、いつも私たちに親身に接してくれたし、時折助言とかもしてくれた。

今の私からしたら超有難迷惑だけど、プリシラと王子が結ばれることを陰ながら応援してくれていた人だった。





……。

……。

……ん?


あれ?おかしくね?



「何で、ブロウズ侯爵は私たちの味方を……?」


まさか、と思いつつ、私は今まで考えなかったことを考え始める。


だっておかしくね?

大臣ほどの地位も身分もある人だったら、王族の結婚の重要性はガキでも分かること。

王族の結婚とは国のためにあり、ある時は国の繁栄、ある時は権力維持、そんな国の政略にかかせないもの。

それなのに、王子とアホ女(私)の恋路を応援していた?


あれ?大臣ってそんなロマンチストでした?

今までは人の良いおじさまって思っていたけど、本当は国のため王子のために色々と止めるべきだったんじゃないの?



どうにも、引っかかる。



「ワンチャン、あるかも」


一つの考えが浮かんだ私は、急いで馬車を王城へと走らせた。














「アレックス様!」

「プリシラ!着てくれて嬉しいよ」


突撃!私の王子様!

本当は王城に来るには相応の手続きが必要なんだけど、アホな王子様の采配で私は年間フリーパスでございます。なんて清々しい権力乱用なんでしょう!周りの使用人たちの冷めた視線がたまりません!


だが今はそんなこと言ってらんねえ。


「ちょっとお話がしたいんですけどぉ、二人きりになれますか?」

「もちろんだよ。」


記憶が戻ったとは言え、なんだかんだ言ってぶりっ子キャラが板についている我が身が憎い。

でもその方が話がスムーズに運ぶから仕方ないよねえ?


「アレックス様、昨日はわがまま言っちゃってごめんなさい」

「大丈夫だよ。むしろもっと早くにプリシラも体調に気づくべきだったんだ。大臣も心配していたぞ」

「……ブロウズ侯爵は、いつも私たちの味方になってくれますね」

「そうだな。クローディアは、プリシラが私にふさわしいと言ってくれたのも大臣だったんだよ」

「へぇ〜そうだったんですねぇ!」


記憶戻る前であれば、「やっぱり大臣分かってる!私はやっぱりお姫様になるべきなんだわ!」って花畑脳みそで喜んでいるところだが、今は胡散臭さしか感じられない。

何だよクローディア様が暴君って。それに私が王妃になった暁には比喩なしで国滅ぶわ。


「プリシラとこうしていられるのも大臣の采配だからね。感謝をしてもしきれないよ」

「でも、他にもアレックス様を思ってくれる人はいますよ!」


王子の暴走を止めてくれた人とか!苦言を呈してくれたクローディア様とかね!


「確かに、スタンリーも、ノーマンもレジナルドも、心強い私たちの味方だ」

「ん〜それ以外にもいたような〜??」

「プリシラ、私が国王となった暁には、私たちを認めなかったものたちを国政から遠ざけると決めている。その代わりあの三人には私の側近になってもらうよ。そして信頼している大臣に私の補佐として宰相の座を設けて、爵位も上げたいと思うんだ。私はまだ王として未熟だから、大臣には一緒に国を支えていってもらいたいと思っている。だから、私たちには素晴らしい未来が待っているんだよ」


話が通じているようで通じてねー。

えーとそれってつまり、

地位も身分も権力もないバカ女(私)と結婚して、

国を思って王子に進言してくれた人はクビにして、

自分を肯定してくれる人だけ侍らせて、

頭空っぽな自分を自覚しつつ大臣の言うことだけは聞いちゃうってこと?


ン〜〜〜〜〜、

それなんてフラグ???

無能な王が大臣の傀儡として操られちゃうフラグかな???


「あのぉ、ちなみにアレックス様は昔からブロウズ侯爵と仲が良かったんですか?」

「いいや、昔は少し苦手だったかな。でもプリシラを彼だけが認めてくれたから、彼が素晴らしい者だということに気づけたんだよ」


一気に黒幕説濃厚だわ。

普通ぽっと出の田舎娘(私)を一国の王子にあてがうか?ねえわ。でも結果として王子のことを何でもかんでも肯定していれば、更なる地位と身分が手に入ることほぼ確定してんじゃん。


もうさ、これあかんやろ。

こうなったら一刻も早く婚約破棄計画を阻止せねばーー


「あの、アレックス様――」


そのことを話そうとしたその時、ガチャリと扉が開いた。

王子が入るなと言った部屋に入れる者はそういない、そこにいたのはブロウズ侯爵だった。


「っ侯爵!」

「やあ、近くまで来たのでお邪魔してしまったよ。プリシラ、体調はどうだい?」

「おかげさまでもう大丈夫です!昨日は本当にごめんなさいでした……」

「いやいや大丈夫だよ。それじゃあ、計画は予定通り行えるね?」


細められた大臣の視線に、一瞬ぞくりと背筋が凍る。

あ、アカンわ。


一瞬にして理解した。

これ大臣が何か察しているやつだわ。昨日の私の不自然な態度を見て訝しんでいる。

そして、この大臣が黒幕だったと確信した。


「……勿論ですよぉ!アレックス様と一緒になれるだなんて、もう夢見たいです♡そのためには、クローディア様には悪いのだけれど、」

「そんなことない!プリシラはこれまでクローディアからの抑圧に耐えてきたんだ。これは正当な

正義だ、何も悪く思うことはない」

「アレックス様……!ありがとうございます。私、嬉しいです」

「はっはっは、お二人が仲睦まじいようで何よりだよ」


私たちのイチャコラぶりに大臣が満足そうに微笑むのを見て、内心ホッとする。


何とか昨日のことは杞憂だと思わせられた模様。

ふっふっふ、伊達に頭の悪いぶりっ子やってないからね。

大臣から私への馬鹿さ加減の信頼度は高いことでしょう。


だから、悟られるわけにはいかない。


「アレックス様の恋人になってお姫様になれるの、とっても楽しみです!」


純粋無垢な少女の顔で、満面の笑みで言ってやる。

その様子を見て大臣は安心したように部屋から出ていった。




「プリシラ、私も君と恋人になれるのが待ち遠しいよ。それに私はーー……」



王子がなんか喋っているが無視してこれからのことを考える。

さっきは婚約破棄イベントの中止を王子に言おうと思ったが、婚約破棄計画を中止したところで私の悪行がなくなるわけじゃない。


それならいっそ、私がしでかした「悪行」を「善行」にすり替えればいいんじゃないかって思ったわけよ。そこにそれ相応の理由があれば、正当化されるかもしれない。

そしてその「理由」は、たった今確立されたわけでして。




つまり、「悪役」を私ではない「誰か」に置き換えてストーリーを変えてしまえばいいわけだ。




私の少ない脳みそでは、バッドエンドを回避するにはこの方法しか思いつかない。

ようやく見え始めた一縷の光に縋り付くようにぐるぐると考えを巡らせた。


今の私の立場は全てにおいて最低最悪。

今は奇跡的に破滅していないが、いつ暗殺されてもおかしくない程度には恨まれていると思う。


勿論王子たちには様々な力があるが、いかんせん現在は盲目的な部分が多いし大臣に全幅の信頼を寄せている。

だからこそ、王子や取り巻きの他に、最終的には私の無罪を主張してくれるような、私を援護してくれる協力者が必要だと考えた。

大臣にも悟られない、それなりの地位があって、周りに干渉されにくい。

それでいて大臣とも対立できるような、そんな都合の人物ーー……。


「…ーーラ?プリシラ?」

「えっ?あ、ハイ?」

「話を聞いていなかったのかい?」


いつのまにか私に話しかけていた王子に無意識に返事をする。BGMと化してたわスマン。


「一体何を考えていたんだ?君が上の空だなんて珍しい」

「いえ!舞踏会のことを考えていただけです!舞踏会では私が主役だから、やっぱりもっと豪華なドレスがいいかな〜なん、て……」


そう言いながら王子の顔を見て、ふと一人の人物が思い浮かんだ。


その人物とは別段親しくないし、関係最悪といっても過言ではないんだけど、むしろそれすらも希望に思えてきた。


「そうだね、髪飾りやアクセサリーを増やしてもいいかもしれない」

「協力してくれるかは五分五分だけど……」

「プリシラの髪と瞳の色に合うものを選ばないとね」

「いけるかもしれない……」

「ん?プリシラはどんなドレ」

「アレックス様!ひとつお願いがあるんですけど!」

「え?」








**










所変わって王城の外。品の良い装飾品が並べられた、質素でありながら優美な部屋。

そこで響いたのは地を這うような冷たい声だった。


「ーー兄上が来ると聞いていたのだが?」


あれから数時間後、今私がいるのは離宮でございます。

そして私の「協力者」として望みを持ったのが、今私の目の前にいる第二王子でもあるエルドレッド様。


アレクサンダー殿下の弟君であるんだけど、側室の子どもである故に継承権はないに等しい。でも頭脳明晰で才色兼備、天才だと名高い頭脳は国宝とまで言われているすごい人〜!イエ〜イ!


勿論簡単に会える身分ではないんだけど、

『ねえアレックス様、私第二王子のエルド様に大事な話があるの。お願い♡』で通した。

私からのおねだりに王子は二つ返事で了承し、あっという間に非公式な謁見の場を設けてくれました♡


一方エルドレッド様の方は兄であるアレクサンダー殿下が来るって聞いていたのに、王族でもないプリシラが来たことにとてつもない嫌悪感と凍りつくような視線をくれている。冷や汗が止まらねえ。


「お前が来たっていうことは何だ?また媚を売りにでもきたのか?」


ま〜〜〜分かっていたけど、私めっちゃ嫌われているね〜〜〜。

何故かって?過去の私は彼にもしっかりとツバをかけようとしていたからね!偶然を装ってのラブアタックに次ぐラブアタック。王子と関係を持ちながら更に取り巻きを増やそうとしての所業でした。下劣の極みですみません。

幸い第二王子はそんなアタック器用に全て避けて、おかげで私の毒牙にかからずに済んでいる次第です。


「ここを一体どこだと考えているんだ?こんな無礼な真似が許されると思うなよ。兄上が貴様をかばいだてしているからと言って貴様自身の価値があがるわけでもない、お前が厚顔無恥で振舞っている学園とは訳が違うということをいい加減理解しておけ。この場所も貴様のような者が足を踏み入れる場所ではないことくらい分からないのか?それに第一……」


滅茶苦茶ボロクソに言われているが、とりあえず言いたいことを言ってもらおう。そんなことを思っていたが、余程恨みつらみが積もっていたらしく数十分ノンストップで喋るもんだからさすがに飽きた。

ので、エルドレッド様が疲れてきたように一息ついた瞬間を逃さずに私は瞬時に深々と頭を下げた。


「この度は、正式な手順も踏まずエルドレッド殿下への面会を求めたこと、お詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした」


大切なのは、私の人が変わったというアピール。そのために恭しく頭を下げ、今まで微塵もなかった丁寧な口調で口上を述べた。今までだったら『だってぇ、アレックス様がいいって言ってくれたんですぅ』だったから目に見える変化だろう。

決して媚は売らず、敵意も他意もないことを明確にし、しっかりとした口調で淡々と告げる。

狙い通り、以前とはうって変わった私の態度に、第二王子は訝しげに目を細めた。



「無礼は承知の上、私がアレクサンダー殿下に頼んでこのような形でお会いする機会を設けていただきました」

「……」

「私のこれまでの言動についても謝罪申し上げます」

「……謝罪をしたからと言って許されるとでも?」

「そのようなことは思っておりません。許されるものではないことは理解しているつもりです」

「それなら他にも謝るべき相手がいるんじゃないか?」

「謝罪に出向いたのですが、門前払い……謝罪する機会を得られませんでした」

「フン、だろうな」


この間、何を企んでいるのか探るような視線を向けられている。全く信頼されないまま、第二王子は諦めたようにため息をついた


「謝罪ならもう良い。貴様の顔はもう見たくないからさっさと出て行け」

「お待ちください、私が今日ここへ来たのは謝罪のためだけではありません」

「貴様と話すことなど何もない」

「ブロウズ侯爵についてのお話です」


その名前を出した途端、第二王子の動きがピタッと止まった。

お?どうやらこれはいけるパティーン?


「私がこれまでこのような態度をとったこと、その起因はブロウズ侯爵が私に接触したことに始まります」

「貴様のこれまでの言動は侯爵の目を欺くためだった、と?」

「はい。本日はその理由と過程についてお話したいと思ってまいりました」

「……続けろ」


そこからは、プリシラ独壇場の捏造過去暴露のオンパレードヒャッホウ!でした。


アレクサンダー殿下に近づいたのは、それが侯爵の思惑だったため。

それでも侯爵の望む通りに動いたのは、周りに警戒されないため。

王族や上位貴族への無礼な態度は、周りからの反感を買って私が王子に相応しくないと明確にさせるため。


などなど。これまでの行動の動機、もとい、さっき考えたこれまでの悪行の言い訳をさも正当であるかのように話す話す話す。

つまり今までの悪行が意味のないものだったとするならば、意味のあるものにすり替えればいいのだ。それがきっと私に唯一残された救済ルート。

そのために、完璧な「悪役」であるブロウズ侯爵の存在は渡りに船だったのよ!


「して、侯爵の狙いは?」

「アレクサンダー殿下と私を事実上国の政財界のトップに立たせ、それを裏から操りやすくするためかと」

「そのために恩を売るように見せかけて、兄上を外れた道へと唆していたというのか?」

「信じていただかなくても構いません。しかし私には侯爵を庇い立てする理由はなく、今話したことが私が知っている全てです」


聴き終えた第二王子は考えるように腕を組み、しばらく見定めるようにこっちを睨みつけた後でおもむろに口を開いた。


「クローディア嬢と兄上の婚約破棄の計画を立てていたそうだな」


うっわぁここにきて痛いところをつかれた。


「おっしゃる通りです」

「私がそのことを知ったのは、昨日の舞踏会の直前だった」

「(マジでごめんなさい)」

「そんなことが起きれば、確実に兄上の評価は下がり、国の中枢が揺らぐことだっただろう」

「(うわもう反論のしようがねえ)」

「だがその計画は実行されなかった」

「(お?)」


胃が痛くて外していた視線を第二王子に戻すと、向けられている視線がわずかに緩められているのがわかった。なんか知らんがいい流れ?


「それを止めたのは、貴様だったということも聞いている」


その通りやで!!

あーーやっぱ昨日が運命の分かれ道だった!直前でも記憶戻って良かった私!!


「直前でしか計画を阻止できなかったのは私の実力不足です」

「それが事実かどうかは置いといて、計画が実行されなかったことでこちらが助かったのは事実だ」


認めたくないような口ぶりで、第二王子はポツリポツリと独り言のように話し出す。


「ブロウズ侯爵は多方面において力を持った歴史ある家門の有力貴族だ。社交界での影響力は多大で、それ故に権力は王家の同等とも言われている」

「王家と同等、ですか?」

「無論この国が王国として成り立っている以上、王家が頂点に立っている。しかし侯爵や取り巻きの連中それを覆さんとしているのは明確だな」


うわぁ地獄絵図やんけ。もう嫌だ貴族社会関わりたくない。


「侯爵はいろんな貴族を味方につけようとして、証拠を隠滅した上で腐敗した政策を見逃していることも多い。しかしそれも時間の問題だと思われた。父上は賢王であり、やがて王座を継ぐ兄上も思慮深く聡明な人だったからな……一年前、貴様が兄上の前に現れるまでは」


おっと耳が痛い。


「一年前から変わり始めた兄上の様子を心配する者はたくさんいた。誤った道を行けば止めてくれる者はたくさんいた、そんな人脈を兄上は築いていた。だが、それもブロウズ侯爵によって排除されていったんだ」


あ、そうだったん?

だから王子に苦言を呈する人が途中からいなくなってたんだぁ……おっそろし。

何が恐ろしいって、そんな侯爵の計画の一端を私が担っていたってことだよね。こっっわ。


「兄上は立派なお人だ」

「側室の子どもであった私にも、隔てなく接してくれた優しいお方だ」


うん、今まで話して分かったんだけどお兄ちゃん大好きっ子だね君。

ふいに立ち上がって私を見据える。


「不本意だし、貴様のことを信頼したわけでもない。それでも、便宜上は貴様と協力する」

「ありがとうございます(っっしゃああああああああああ!!!!!)」


なんだかんだあったが、首の皮一枚繋がった!!!!!

























運命の舞踏会まで、あと五日。


第二王子に何とか協力を取り付けた翌日、私は早速次の手として私の取り巻きと化してしまった例の哀れな4人に集まってもらった。


「昨日ぶりだな、プリシラ」

「は?アレックスは昨日もプリシラに会ったのか?」

「婚約者とはいえ、抜け駆けは許せませんね」

「僕だって、彼女に会いたかったのに」


あーーーもーーーやめてくれーーーー。何だこれ逆ハーか?逆ハーだね。以前の私だったら「私のために争わないで!」って言っていた状況が今では恥ずかし過ぎて穴を全力で掘って全力で埋まりたくなる。

そんな衝動を全力の理性でとどめ、これ以上言わせるかと早々に四人の前で深々と頭を下げた。


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」


私の態度の変化に当然ながら四人は呆然とする。


「プ、プリシラ?突然どうしたんだ?」

「まずはこれまでの無礼を謝罪させてください。アレクサンダー殿下、スタンリー様、ノーマン様、レジナルド様、誠に申し訳ありませんでした」

「他人行儀ではありませんか、いつものように話していいのですよ?」

「そうだ、そんな言い方はやめてほしい」


皆が戸惑う中、王子は訝しげにすっと部屋の隅に視線を向けた。


「エルドレッド、何か知っているのか?」


さすがはハイスペック王子様、第二王子の気配にはとっくに気づいていたらしい。

実は四人が来る前から「貴様のことを監視する義務がある」とか言って第二王子が部屋の死角になる場所で待機していました。まあ元から呼ぶつもりだったしね!いいけどね!


「さすがは兄上、よくお分かりになりましたね」

「エルドレッド、あなたは確かプリシラを毛嫌いしていましたね」

「彼女に何か吹き込んだのか?」

「いいえまさか。話しかけて来たのは彼女の方からですよ。それは兄上もご存知でしょう?」

「ああ。だが話の内容までは知らないな」

「プリシラに何を言ったんだ?場合によってはアレックスの弟だろうが許しはしない」

「それについては彼女から説明がありますよ」


その言葉と同時に皆の視線が私に向けられる。胃が痛い。


「プリシラ、説明してくれるかい?」

「はい」



それからペラペラと二枚舌三枚舌で話し始めた。

ブロウズ侯爵が、悪いことをしているのを見てしまった!

どうやら、私と王子が恋人になるのを利用しているみたい!大変!!

だから、みんなで侯爵をやっつけよう⭐︎、みたいな。


まぁあることないこと含んで、さも自分が被害者だと話し続けたね。

シラフの自分だったらあまりの居心地の悪さに「あ、やっぱ嘘ですエヘヘ」なんて言い出したかもしれないけど、今は私の運命がかかっているのだ。他のことなんて知るか。

そんなことを考えながら全力のプレゼンを話し終えた時には、四人は愕然としていた。

しばらくの沈黙の後、口を開いたのは王子だった。


「プリシラは、私と別れたいということか?」

「…………そういうわけではありません(嘘)。ですが殿下や皆様との身分差を知らぬふりして、厚顔無恥に振る舞ったのもまた事実。今回のことが切欠で、私はアレクサンダー殿下にふさわしくないと気づけたのです」

「そんなことはない!」

「いえ、これは私のけじめです。どうか一時、距離を置いていただけないでしょうか?」


再び、しばしの沈黙、めっちゃ気まずい。


「……それで、プリシラは何故今その話をしたのですか?」

「(よくぞ聞いてくれたノーマン!!)はい、実は皆様にお願いがあってこの場を設けていただきました。端的にいうと、ブロウズ侯爵を失脚させたいのです」

「失脚!?」

「現在侯爵の勢力は勢いを増し、王族と同等の力を持たんとしております。先日の舞踏会でクローディア様の婚約破棄の計画を実行してしまっていれば、確実にパワーバランスが崩れ王家の威信に関わっていたでしょう。それらが全て侯爵の思惑だとすれば、侯爵のこれまでの計画や魂胆を暴けるのは婚約破棄計画の決行予定の日、五日後の舞踏会が最後の機会だと思ったのです」


はっきり言えば、クローディア様婚約破棄計画→→ブロウズ侯爵を潰そうぜ☆計画!

そして今遠回しに「私たちめっちゃアホなことやらかそうとしてたんやで」と告げた。


「はい、アレクサンダー殿下には多大なご迷惑をおかけしてしまいました。しかし相談するにはブロウズ侯爵の目があったため、誰にも気づかれないようにとエルドレッド殿下に協力を求めたんです」

「……」

「力をお借りできないでしょうか?」

「……」


返事がない。ただのしかばねのようだ。

なんて呑気に考えてる暇なんてないんだよ!

しかし4人は4人とも顔色が悪く、何かを思案するように考える人ポーズになってしまっている。

その様子を見て、痺れを切らした第二王子が前に進みでた。


「みなさん、私に対する誤解は解いていただけましたか?」

「昨日話していたのはこの内容だったんですね」

「はい、最初に言ったでしょう?彼女から話しかけて来たのだと」

「正直、信じられないことが多くて頭がついていかないな……」

「ついていかずとも、それが事実です」

「プリシラの味方をしてくれたブロウズ侯爵が、悪い人だと思えない」

「そう思わせるように、彼は今まで振る舞っていましたからね」

「何かの勘違いじゃないのか?」


こいつら全っ然煮え切らねえじゃん。

まあ気持ちはわからなくもないけど、もう五日後なんです、私の運命が決まるの。もう一週間ないんです。早よして。


もう最後の手段だ。

私はもう自分可愛さにどんな手段でも取れる女じゃ。


「ごめんなさい……」

「プリシラ?」

「ヒック……こんなお願い、無理ですよね、私っ、いつも自分勝手で皆様に迷惑をかけてばかりで……ごめんなさい……」


ポロポロと涙を流して、悲劇のヒロインのように肩を震わせる。

そんな私を見れば、みんな慌てたように駆け寄って声をかけてくれるよね。もう経験則で知ってるのよ。


「ごめんプリシラ!そういうわけじ

ゃないんだ!」

「君を信じていないわけじゃない」

「本当ですか?」

「勿論ですよ」

「ああ、君のいうことなら何だって信じられるんだから」

「それじゃあ、お願い……できますか?」


瞳を潤ませての上目遣い、顎の前で可愛らしく手を組み、少し首を傾けて尋ねる。


「任せてくれ!」

「当然です」

「プリシラが言うなら当然」

「いくらでも君の力になろう」


全員頰を赤らめてすぐさま同意してくれましたー!

うん、心臓がいてえ!!!

ごめんみんな!!本当にごめんね!!!!今はこれぽっちも気持ちはないのにごめんね!!!!!!


そして第二王子―、じとーーっとした視線が送らないでくださーーい。

いや、確かに昨日もう王子を誑かさないって言ったけどこれが一番てっとり早いやん!ごめんって!!


「皆様、ありがとうございます。皆様のことはこの国の上に立つ方々として、心から尊敬しております。この局面でも救ってくれると信じております」


感情のない涙を拭って、さっさと場の空気を切り替える。


「まず初めに、侯爵に関する資料、情報をできる限り集めて欲しいのです」

「そうだね、いつまでにだい?」

「明日までに」

「明日まで!?」

「お願いです!」


必殺ヒロイン魅了スキル!!


「「「「わかった!」」」」


ありがとうヒロインスキル&お花畑恋愛脳。

その後それぞれがやることを決めて、この日は解散となった。











「さて、時間がないぞ〜」


いつも二つ結びにして毛先までくるんくるんと可愛らしく纏めていたピンクの髪を乱雑に一つにまとめあげる。

解散になった後、私は動きやすいようにドレスの袖を捲り上げて髪型を変えた。今はとりあえず情報を集めて整理していかなければいけない。忙しいのだ。

なのに何故この人はまだ部屋から出ていってくれないのだろうか?


「あの……エルドレッド殿下?」

「……」

「もしこの部屋を使うのでしたら、私がこの部屋を出て行きますが……」

「なあ尻軽女」

「その尻軽女って言うのやめてもらえません?」

「じゃあ馬鹿女」

「否定できねえ」

「あ?」

「いえいえいえいえ殿下のお好きなように呼んでいただいて結構です」

「じゃあ尻軽でいいじゃないか」

「あ〜まぁそうですねじゃあもういいです何でも」


だんだんイライラしてきて受け答えも雑になるけど私悪くないよね?

つっても今の私にはやらかしてしまった前科が多すぎて強気にはでられないんだけど。


「お前」

「はい?」

「なかなかの役者だな」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めてはいない」

「じゃあ貶していただき光栄です」

「ブロウズ侯爵を欺くために馬鹿みたいな言動をしていたと言ったな。あれは嘘だろう?」


…………そこ蒸し返すぅ?

いや私もさすがに無理あるかと思ったけど奇跡的に皆納得してもう行動してんじゃん。聞かんといてや。


「何故そう思われるのですか?」

「この一年、兄上にまとわりつくお前を見て来たが、あれが欺くための演技だったとは思えなくてな。生憎人の裏を見抜くことには長けているんだ」

「あら、では事が終わったら女優にでもなろうかしら」

「それに欺くだけだとしたら無駄な言動が多すぎた」

「細かいことはいいじゃないですか」

「細かいことだとは思えなくてな」

「グスッ、そんなぁ、私は本当にみなさんのことを思ってぇ」

「茶番はやめろ」

「……」

「……」

「じゃあ、本当のことをお話しますけど、きっと信じませんよ?」

「何でもいい。お前のことはハナから信用していないから今更だ」


もうほんとヤダこの人。

でも話さないとしつこそうだし、私は馬鹿正直に全て話した。


王子にまとわりついていたのは、紛れもなく自分だったこと。

それがある日突然別の人格になったこと。

自分の未来に破滅しか見えなかったこと。

ブロウズ侯爵が自分が助かるのに都合のいい人物だったこと。

ついでに前世があるってこともゲロッた。


「どうです?信じますか?」

「信じてもらう気が全くないような話し方だったな」

「信じてもらえるとは思っていませんから」


しばしの沈黙、もとい、にらみ合い。

の後、第二王子はおもむろに笑い出した。


「クッッ……ハハハハハ!」

「え、え〜〜、何で笑って」

「嘘だとしたら、随分と穴だらけの滑稽な話だな」

「だから信じなくていいですよ」

「いや、むしろ今の話の方が納得できる」


何でだよ。


「何の打算もなく突然侯爵を失脚させようとする方がおかしいだろう?」

「そういうものですか?」

「お前の話し方が変わったのもそのせいだったのか」

「勿論です。これまでの無礼な態度を改めようと思いまして」

「そっちじゃなくて、先ほどまで私に話していたような無礼な物言いのことだ。その方が素なのか?」

「あ“――、申し訳ありません。まあ、今の私の素はこっちですね。以後気をつけます」

「いや、公でなければ構わない。フフッ」


結局第二王子は大爆笑した後ご機嫌で部屋を出て行った。

本当に何なんアイツ?
























運命の舞踏会まであと四日。


さすがに1日では情報は集まらなかった。今日も集まれるかいオーディエンス的な手紙を全員に送ったら全員から「ごめんもうちょっと待って」的な返事が来た。

ですよねごめん。無理言って本当ごめん。でも頑張って私の人生かかってるから。

ちなみに第二王子からは「ふざけんなクソアマ」的な内容が来た。アイツまじで何なん?絶許。



だがないものは仕方ないと切り替えてさっさと王立図書館に向かった。

今のところ私にできることといえば、誰でも知っているような事件や事故が侯爵と繋がりがないか事細かに調べていくことだろう。

と、思いながら街中を歩いていれば、見知った顔を通りすがりの馬車の中に見つけた。



「スタンリー様?」

「!、プリシラ!」


いやどんな聴力やねん。

すれ違いざまにぼそりと呟いただけなのに聞こえたらしく、思わずツッコんでしまった。

スタンリーはすぐさま馬車を止めて窓から顔を出す。


「プリシラ!今少し時間いいか?そこらへんの喫茶店で……いや、馬車に乗った方がいいか?」

「あ〜そうですね、時間は大丈夫ですのでお邪魔してもよろしいでしょうか?」


この大事なときにブロウズ侯爵側の人にでも見つかれば大変だしね!

そう思って滑るように入った馬車の中は超絢爛豪華でした。

さすがは公爵家の息子だねえ。


「侯爵について何かお分かりになりましたか?」


そう尋ねると、スタンリーはどこか気まずそうに躊躇いながら顔を伏せた。


「いや、そのことに関してはもう少し時間がほしいんだが、その、昨日のことについて少し聞きたくてな」

「何なりとお聞きください」

「その、プリシラのことを疑っているわけじゃないんだが……昨日言ったことは、エルドレッドに騙されているだけじゃないのか?」


割と直球できたね君。


「正直言って、プリシラは話し方だけではなく態度や性格がここ数日で変わりすぎじゃないか、と思ってな」

「そうですか?」

「アレックスのこともきちんと敬称をつけて呼んでいたし、語尾はのびていないし、動作もナヨナヨしていないし」

「(ボロクソに言うやんけ)」

「それで原因があるとすれば、エルドレッドかと思ったんだ」


いっそ第二王子のせいにすれば割と物事がスムーズに進むのでは?という悪魔の囁きを払いのけて、私は首を横に振った。


「エルドレッド様は関係ありません。私が自分で考え、自分で出した結論です」

「そうか」


無理やり納得しようとして納得できていないスタンリーが微笑ましくて、思わず笑みがこぼれる。

騎士らしく真っ直ぐで、愚直で素直な性格は彼の強みであり魅力だ。腹の探り合いが昼夜行われる貴族社会において、裏表のない人間というのは騙されやすく、それでいて信を置ける貴重な存在。

それを「プリシラ」という異分子によって壊されてはならないのだ。


「私ね、皆さんが羨ましかったんです」


ふいに出てきた言葉は、「私」の言葉ではなかった。

しかし本能的に、「プリシラ」が思っていた本音なのだと察した。


「生まれた時からお金持ちで、美味しいものが食べられて、いくらでも贅沢ができて、なんて羨ましくて、ズルい人たちなんだろうって思ってたんです」


私にはないものを持っている人たち。

私が決して手にできないものを持っている人たち。

だったら、少しくらい自分に分けてくれたっていいだろうって。


「でもね、それだけじゃないって気づいた、気づけたんです」


通りを走っていく豪華の馬車を、通りを歩く人々が羨望と嫉妬の目で見ているのが窓から見える。

彼らの目はかつての「プリシラ」と同じだ。


「あなたたちには上に立つものとしての義務があり、責務があり、その上での犠牲があります」


上辺だけの憧れだけで成り立つものではない、無償の贅沢など存在しない。


「この先の未来、この国の民を導くべくして生まれ、それ相応の環境と教育と知識を享受したあなた方には、それを還元する義務がある」


だからこそ、道を間違えぬように。


「私は元平民の男爵家の人間、スタンリー様は公爵家の御令息。どんなにわかり合ったとしても、持っているものも失うものも、栄光も犠牲も、決して同じにはならない」


これは悲しいことではなく、単なる事実で、誰もが知っていること。


「何も見ないふりの無知なプリシラはもう卒業した、それだけなんです」


次々と口から出てきた言葉は、自分でも気づかなかった私の思いだった。





……喋りきったあとで気づいたんだけど、私喋りすぎてね?

なんか偉そうなことペラペラとくっちゃべってね?

そもそも第二王子について話してなかったっけ?その辺は何とか誤魔化せた、かな?


恐る恐るスタンリーの顔色をそっと伺う。

彼は寂しそうに、そして少しスッキリしたように笑っていた。


「そうか、そうだったんだな」

「はい」

「なあプリシラ、怒らないで聞いてくれるか?」

「勿論です」

「その、実はな、俺は、お前のことが好きだったんだ」

「……」



……

…………

いや知ってたわーーーい!

むしろ気づかれてないと思ってたんかコイツは??

そんな決死の大告白みたいな感じで言われてもこっちが困るわ!


「でもお前はアレックスを選んだと思った」

「……はい」

「だから諦めようと思ったんだが、今度はアレックスとの婚約すら避けているように思えてな」

「……」

「幸い味方になってくれる侯爵もいて、身分差を超えて愛を貫くお前たちがとても輝いてみえたんだ」

「(もう愛もないけど)」

「不思議に思っていたんだが、そんなことを考えていたんだな」


彼の中でいろいろと整理できたのだろう。先ほどとは違い、心底納得したように頷いている。

正直スタンリーを私の逆ハー計画(?)に巻き込んでしまって申し訳なかったけど、今は彼と関われたことが少し嬉しかった。


「スタンリー様」

「ん?」

「私のことを好きだと言ってくれて、ありがとうございました」

「……こちらこそ、ありがとうな」


それからスタンリーは図書館まで送ってくれた。

なんだかんだいって昨日は怒涛の勢いで話してしまったこともあったから、改めてしっかり話すことができて良かったと思う。

馬車が走り出す直前


「侯爵に関しては楽しみにしておけ。俺は人脈に関してはそこらの貴族よりも自信があるからな」


そう言って不敵に笑ったスタンリー様は、…………めっちゃかっこよかった。

推そ。














スタンリーと別れた後は図書館で1日を過ごし、気がついたときには外は暗くなっていた。


「やっべ。明日はまたあのメンツで集まる予定があんのに」


足早に家に帰ると、家の前にはこれまた見覚えのあるお客人がいた。


「あれ?ノーマン様!?」

「プリシラ、会えてよかった」

「こんなところでお待たせしてしまい申し訳ありません。どうぞ中へお入りください」

「いえ此処で結構。少し話がしたかっただけですので」


え?別に約束してないよね?我知らんぞ?我これ以上不敬罪重ねたくないぞ??

内心めちゃくちゃ焦ってビビりながらノーマンを見ると、いつもの堂々とした出で立ちはなく、どこか居心地が悪そうに顔を伏せていた。


「ノーマン様?」

「……プリシラ、僕にはわかりません」

「へ?」


あれ?これスタンリーくんと同じパターンか?また?


「どうして貴女は……」


あ、同じだね?

いや〜どうせならスタンリーと一緒にきて欲しかった〜、なんて思うのは本気で悩む本人に対してさすがに失礼だけど。


「(でもスタンリーはあの性格だし……あれ?)」


ちょっと待って、なんかおかしくない?

スタンリーは馬鹿正直な性格だから悩むのもおかしくはなかったけど、ノーマンは神童って呼ばれるほどの才能を持っている人だったよね?


父親が宰相ってこともあって幼い頃から高等教育を受けているノーマンは、この国の仕組みや王侯貴族の言動の重要性については誰よりも詳しいはずなんだよ。

そんな彼がここまで私に傾倒するというのが、そもそもの可笑しな話。

いくら恋は盲目といっても、これはさすがに異常では?


俯いたまま中々話し出さないノーマンを見て、今度は私から話しかけた。


「ノーマン様、貴方は本当は分かっていらっしゃるんでしょう?今の貴方やアレクサンダー殿下の行動が異常であることを」

「!」

「ノーマン様や殿下はこの先の国を支えていく存在です。そんな方々が一様になって、一人の女に現を抜かしていいはずがないと、お気づきですよね?」

「プリシラの、言う通りです」


違和感もうちょっと早く仕事してほしかった!

そんな私の叫びなど知らず、ノーマンは苦しそうに言葉をこぼしていく。


「私たちは、この国に仕えるべき存在です。それなのに、今の私たちは明らかにその義務をないがしろにしている。分かっているんです。分かっているのに、思考が上書きされるように、そのことに罪悪感を感じなくなっているんです。そのことが、何よりも怖い」

「はい」

「プリシラ、端から見れば、貴女はこの国の害悪でしかない」

「(正論だけどひでぇ)」

「だけど、それでも構わないと思っていました。貴女がそれを望み、笑っているのなら、国など二の次にしてこのままでいよう、と」

「(国の滅亡フラグあっぶね!)」

「でも、貴女はそれを否定した。否定してくれた」

「(本っ当にあの時記憶を取り戻してくれてありがとう私!!)」

「その時、私は安堵しました。その反面、まだ貴女を想う自分もいるんです」


自嘲気味に笑うノーマンは、悩んでいるというよりは、苦しんでいるように見えた。


「ノーマン様……?」

「屈託のない笑顔で笑い、着飾らない言葉を紡ぐあなたが好きでした」

「今の私は、お嫌いですか?」

「いいえ、そうじゃない。だからこそわからない……」


どうやら、ノーマンは私が思うより随分と思いつめてしまっている。

今にも泣きそうなその顔に、今まであまり感じなかった罪悪感が湧き上がってくる。

もう一度しっかり向き合おうと、ノーマンの手をしっかりと取った。


「ノーマン様、賢く聡明な貴方ならわかるはずです」


ここでヒロインスキルを使わないように細心の注意を払う。

甘えるような猫なで声ではなく、しっかりと意志を持った声で。

絡め取る甘い視線でなく、真意を証明まっすぐに見つめて。


「あなたたちは、この先この国を支えていかなければならない、貴族社会で生き抜いていかなければならない」

「……」

「一人の女に現を抜かす、それが貴方のあるべき姿ではないことに既に気づいていらっしゃる。ならば取るべき行動は決まっているでしょう?」


作られたようなこのストーリーを壊してくれないと、私が困るのだ。

誰も破滅の未来なんて望んでいない、ならば利害の一致であるべきものをあるべき場所に返そうではないか。


「それに、」


そして悪いけど、これだけはちゃんと言わせてもらう。


「私、ノーマン様のことは別に好きじゃないので」




……鳩が豆鉄砲を食ったよう、とはこのことを言うんだろう。

申し訳ないという気持ちがないわけじゃないけど、マジでその気は一切ないので早めに言わせてもらいましたごめん。


目を見開いたノーマンはしばらく固まり、沈黙し、そして堰を切ったように笑い出した。


「……ッフフ、アハハハハハ!」

「は?」

「フフッ、申し訳ありませ……フッ、フフフ」

「いや、えっと、その、大丈夫ですか?」

「ええ大丈夫です。ありがとうございます」


さっきまでの蒼白な顔は一瞬でなくなったノーマンは、実に楽しそうに爆笑している。

え、マジで意味わからん。


「プリシラ」

「あ、はい」

「ありがとうございます」


私、あなたをフっただけですが?


「こんな簡単なことにどうして気づけなかったんでしょうね。なんだか憑き物がおちたようです」

「それは、まあ、ヨカッタデスネ?」


なんだかよく分からんが本人が納得したんだったら良かった良かった。

むしろさっきまでのシリアス展開返してって感じだわ。


「プリシラ」

「はい……えっ!?」


もう解散の雰囲気か、とボーッとしていた私の手を取り、ノーマンはそっと口付けた。


「最後に、貴女に敬意と親愛をこめて」

「は……」

「明日には、貴女が望む以上の侯爵にまつわる情報をご覧に入れましょう」


ノーマンはそう言い残して、いつもの堂々とした足取りで去っていった。






……っっっっやっぱみんな顔だけは最高だわ!!!!!!

ありがとうございます!!!!!




急にきたファンサ(?)に浮足立ちながら、今日のことを改めて思い出す。


「やっぱ、最初っから違和感はあったんだよねぇ」


国の最上級といえる教育を受けてきた王子とその側近たち。

そんな彼らの浅はかな傾倒ぶり。

なんの価値もない小娘への異常な依存。

その割には、昨日今日の私の言葉を不自然なほどアッサリと受け入れていた。


ここがゲームや小説の中だとすれば、この世界の強制力というものなのかもしれない。

それとも……


ここで私は一つの可能性を導き出した。もしかしたら、全てを覆す一手になるかもしれない。

そしてそれを調べてくれるのに最適な人物もすぐそばにいる。


過去のプリシラが作り上げた交流に感謝しながら、若き王宮魔術師であるレジナルドへと手紙を出した。
































運命の舞踏会まであと三日。


「……エルドレッド様、確か集合時間は1時間後でしたよね?」

「そうだが何か問題でも?」

「いえ、ただ随分と早くいらっしゃったのですね」

「その言葉そのまま返そう」

「私は皆様に迷惑をかけてしまった身ですので、誰よりも早く行動するのは当然のことでございます」

「殿下は本当にアレクサンダー殿下のことがお好きですよね」

「なっ、はあ!?」

「なぜ驚かれるのです?もしや気づかれていないとでも?あれだけ兄上兄上と惚気られればさすがの私でも気づきます」

「……フン、惚気ているのではなく、事実を言っているだけだ。それほど兄上は優秀なお方だからな」

「はいはい」

「貴様、このような無礼を働いてタダで済むと思うなよ」

「申し訳ありませんお許しください聡明で高尚な殿下のご尊顔を拝謁できて誠にわたくしは恐悦至極で」

「うるさい黙れ」

「理不尽にもほどがある」


記憶を取り戻した夜、もう絶対に身分が上の人に対して無礼な態度は取らないぞ!と誓った私だったが、第二王子を前にしてその誓いはアッサリと崩れ去っていた。


「第一お前がまた何かしでかさないか監視する必要もある」

「ソレハソウデスネー」

「ったく、なぜ兄上はお前のような者を受け入れたんだか」

「そんなの今更じゃないですか」

「クローディア様とは比べものにならないどころじゃないな」

「別にいいじゃないですか、エルドレッド様は先程から何をおっしゃりたいんですか?」


そろそろ堪忍袋の緒が切れそうになって第二王子の方を睨みつけると、若干、つーかかなり顔をしかめながら何かをぼそりと呟いた。


「………………礼を言う」

「は?」

「礼を言う、と言ったんだ」

「え、もしや風邪でも召されてます?」

「うるさいぞ無礼者」


言いたくないけど、という雰囲気を全力で出しながら第二王子は渋々口を動かした。


「私は……兄上だけでなく、スタンリー様にも、ノーマン様にも、レジナルド様にも、何度も説得していた。このままでは国が傾く、侯爵の言いなりになってはいけないと。だが、誰も聞く耳を持とうとすらしてくれなかった」

「……」

「ならばいっそ彼らを逆賊として、国を守ろうとも考えた。でも、私は裏切ることもできなかった。あの方々は、私が幼少期の頃から分け隔てなく接してくれ、たくさんのことを教えてくれた人たちだったから」

「そう、だったんですね」

「すでに全てを諦め、兄上が」

「だから、礼を言っておこうと思っただけだ」

「……なるほど」

「……」

「……」


いや急にシリアス入れてくんなよ!!!!!!

気まずいわ!!!!!


「……何か言え」

「急にシリアス入れてこないでください」

「は?」

「いえ、やっぱりエルドレッド様は昔からアレクサンダー殿下のことが大好きだったことだけが分かりました」

「そんな話はしていないだろうが」


ネチネチネチネチ騒いで言い争っているうちに、すでに1時間経過したのか王子たちがやってきた。

もう王子たちがめっちゃマトモな人に見える。もはや癒しですありがとう。

だから「二人はいつの間に仲良くなったんだ」とか意味不明なことを言うのはやめてください。オイ睨むなエルドレッドこっちこそ願い下げじゃボケ。






「さてと、簡単にまとめると集められた情報はこれくらいかな」


数分後、決して小さくない机に並べられたおびただしい数の資料に、私はただただ目を向いた。

さすがに1日で情報が集まらなかったが、二日でこの量って、どういうこと???


「よく……集められましたね」

「ああ、だが1日と言われたのに二日もかかってしまった。申し訳ない」

「いや、そんな」

「何しろ侯爵に気づかれてはいけないというハンデがあったからな。周囲の者に安易に手伝ってもらうわけにもいかなかったんだ」

「それなのに、こんなに……」

「この二日で、改めて分かりましたが、ブロウズ侯爵は私たちの目が背いているのを良いことに随分と危ない橋を渡っていたようですね」

「そしてこれが、侯爵の一連の証拠リストだ」

「何だこの高スペックの塊たち」


少し目を通しただけで分かった。これもう勝ちゲーだわ。


「どうやってこの短期間でこれほどのものを……」

「侯爵については、すでに調べてくれていた者たちがいたんだ」


いわゆる王子の味方といえる貴族が、侯爵に見つからない範囲で細々と情報を集めていたらしい。


「信じて待っていて良かった、と言われたよ」

「そうだったんですね」

「それに、エルドレッドもありがとう」


急に王子に感謝を告げられたエルドレッドは少し顔を赤らめてそっぽを向いた。


「ここにある資料の3割は、エルドレッドが独自で集めたものなんだよ」

「すごい……」

「エルドレッドにも、その者たちに報いるためにも、作戦は絶対に完遂しなければいけないね」


材料は揃った。

あとは、これをうまく使うだけ。

皆で顔を突き合わせながら、三日後にせまった舞踏会での作戦を練りに練った。


つっても私ほとんど何もしてないけどね!

だって皆私より頭いいからさ!







作戦会議が終わったのは夜遅く。

私はレジナルド様の馬車に乗って王城から自宅まで送ってもらうことになった。

理由はもちろん、昨日手紙でお願いした件について。


「レジナルド様」

「わかってる。昨日の手紙のこと、だよね」


昨日急遽レジナルドにお願いしていたこと、それは、「王子たちの感情が作られたものではないか」という調査だった。

だってさ、恋は盲目とはいえ、私に対する皆の言動はやっぱり異常だったんだよね。

だからその異常の原因が、魔法で作られたものだったんじゃないかと思ったんです。

レジナルドによれば、感情書き換えによる精神干渉の禁忌魔法ってやつみたい。

だってここ剣と魔法の世界だもんね!


でも理由もなく「みんなアホになってました」って言うよりは「魔法のせいでみんなアホになってました」って言う方が色々説明つくし、私の心労が減る。うん。


「急なお願いで申し訳ありませんでした」

「大丈夫、もしプリシラの予想が本当だったら大変なことになっていたしね」

「それで結果は……」

「今、鑑定待ちの状態」

「そうですか」


もし鑑定結果が違ったら……もう説明しようがないよね。

間皆が皆、脳内お花畑な恋愛脳になって、婚約破棄というアホな計画企てていたってことだよね。キッッツ。



「ねえ、プリシラ」

「はい?」

「もし、その魔法が本当だったらどうする?」

「どうする、とは?」

「みんな、本当はプリシラのことが嫌いだったのに、魔法で好きという感情が作られていたとしたら」

「……どうも、しないですね。そのままを受け入れます。魔法がどうであれ、私が皆様に多大なご迷惑をおかけしたのは紛れもない事実ですから」

「そっか……。でも、これだけは言っておくよ」


向かいに座っているレジナルドが、そっと私の手をつかむ。


「たとえ魔法で作られていたものだとしても、僕がプリシラと一緒にいられて、嬉しい、楽しいって思っていたこと、それは紛れもない事実だから」


っっっ思わずときめいちまったぞコノヤロー!!


「っ、ありがとう、ございます」


最後に少しだけ強く手を握り、どちらも未練なく手を離した。

ありがとうございます役得です。また推しが増えた。



……でも本当に、もし、彼らの「好き」という感情が作られたものだったのならば、その魔法が解ければ彼らは私を嫌いになるのかな。

それは望んでいたことだけど、考えると少し寂しい気もした。








その頃、王子、もとい、アレクサンダーは流石の高スペックで淡々と仕事をこなしながら先日のことを思い出していた。

昨日、プリシラから遠回しに別れを告げられた時、悲しかった。悲しかったのだが、自分でも驚くほど傷つかなかったのだ。

傷つかなかったことに心底おどろいた。


そこに未練や執着は一切なく、むしろ何か枷が解けたような、頭のモヤが突然晴れた感覚さえした。

いつもはその姿を思い浮かべるだけで甘く高鳴っていた心臓も、今は何も感じない。

不思議と特別な感情は湧き上がらなくなっていた。




















運命の舞踏会まであと二日。



いよいよ時間がなくなってきた、と皆が慌ただしく動いていたとき、レジナルドが朗報を持ってきてくれた。


「プリシラが言っていた通りの、魔力痕跡が見つかった」


その知らせを聞いた時、私の全米が泣きスタンディングオベーションを展開して天をも貫くガッツポーズを繰り広げた。


「ありがとうございますレジナルド様!!」


昨日はちょっとしんみりもしたけれど、あってよかった魔力痕跡。なかったら困ってた魔力痕跡。

レジナルドの手をとって踊り出しそうなテンションの私を止めたのは他ならぬエルドレッドだった。


「おい、魔力痕跡とは何のことだ?一から百まで説明しろ」

「そんなに睨まなくても説明いたします。それはですねーーー」








「ーーつまり、私たちの感情は作られていた、と?」

「端的にいえば、そういうことになる」


レジナルドが話し終えれば、みんな愕然とし固った。

禁忌魔法が自分たちにかけられていたこと、そのことに今の今まで気づいていなかったこと、自分たちの感情が偽りであったこと。それだけの事実が一気にくれば無理もないけどさ。

でも驚きつつも、どこか納得したような、腑に落ちたような表情をしていた。


それから私は、改めて長々と話し始めた。

ブロウズ侯爵が実行しようとしていた計画のこと。

自分は今までブロウズ侯爵を欺くために演技をしていたこと。

それによる周囲の被害、影響、現在の状況。

でも侯爵に目をつけられそうだったため、最近まで行動を起こせなかった、などなどなど。

半分以上嘘ですごめんなさい。


「つまり、プリシラ嬢は今まで独自に動いていたのか?」


スタンリーがこぼした疑問に、私は堂々と答える。


「はい(嘘)」

「周囲から非難の目で見られることを承知の上で?」

「その通りです(嘘)」

「エルドレッドだけが貴女の協力していたようですが」

「そのため、バレないようにとエルドレッド殿下とは敵対関係にあると見せかけていたんです(嘘)」


9割嘘ですごめんなさい。エルドレッドの視線が痛い!!!睨むな!!!!

一通りの問答が終わったところで、ずっと口を噤んでいた王子が私の前に立った。


「では……私は、プリシラのことが好きではなかったのか?」


私には分からない質問。

それに答えたのは、レジナルドだった。


「アレックス、魔法は便利でも万能なものではない。禁忌魔法とはいえ、存在しない感情を作り出すのは不可能だ。分かりやすくいえば、私たちにかけられていた魔法は好意を拡大させるものだった」

「つまり、私の感情は嘘ではなかったのだな」

「そういうことになる」

「……そうか。なら、良かった」


哀しそうに、安堵したように、王子は柔らかく微笑んだ。


「プリシラ、君のことが好きだったよ」


その言葉に、すでに王子は魔法から抜け出していたことを察した。

不本意なことであっても、過去を否定せずに受け入れる


「アレクサンダー殿下」


そんな王子に、最上級の礼と、最後に心からの告白を。


「お慕いしておりました」


自分の今までの気持ちに矛盾が生じたことで、誠実な王子はさぞ困惑したことだろう。

それでも既に全てを受け入れ微笑む姿は、王たる者にふさわしいものだった。


「プリシラの働きを無駄にしないよう、尽力すると約束しよう」


さすが王子(本物)!!!!!

そしてエルドレッド!視線が怖えよ!!分かってるからそんなに睨むな!!!




この後、レジナルドによって全員から完全に魔力が取り除かれた。

一年間で様々な手を使って常に禁忌魔法をかけられていたため薬漬けみたいな状態だったらしい。

かなり精神的にも肉体的にもかなり危ない状態だったのだが、元凶である私が拒絶したこと、皆の魔力が元々高かったこともあり大事には至らなかったのだとか。


それを聞いたブラコンエルドレッドの目からはハイライトが消えてた。怖。




















運命の舞踏会まで、あと1日。



この日までくれば、あとは私が何もしなくても何もかもスムーズだった。

いやむしろ私が何もしなかったからこそスムーズにいっていた。頭の良い人たちの会話わかんない。


「この場合はーー」

「侯爵の側近にいるあいつらはーー」

「その時はこっちのーーー」


明日の打ち合わせに関してはいくつものパターンを想定し、それに応じた対処法も事細かに決めていった。

さすがはエリートたち。見事な人脈と采配と予想図と先見の明で次々に決めているね。

私の場違い感がすっげえ。



こうして見てみて改めて思う。

将来国を支えていくであろう有望な彼らの未来を潰さなくてよかった。



近所のおばちゃん気分で彼らの成長ぶりにしみじみしながら見ていると、エルドレッドの鋭い視線がこちらを向いた。こいつ警戒心強すぎやろ。


「何を考えている?」

「ん?いや、別に」

「言え」

「アッハイ、えっと、皆様すごいなあと思いまして」

「は?当たり前だろうそんなこと」

「ええ、当たり前なんです。当たり前だから、私が皆様とこの国の未来を潰すことにならなくて良かった、と改めて思いました」


そう言って笑うと、エルドレッドは顔を背けてぼそりと呟いた。


「そうなっていたら、私がお前を潰していただろうしな」


ほんっと一言多いなコイツは。
































そして、運命の舞踏会、当日。



建国記念日の記念式典も含めたこの日の舞踏会は、七日前に突撃しようとしていた舞踏会よりも華やかで、豪勢で、そして多くの貴族が集まっていた。


七日間。間違いなく人生で一番長くて短くて死ぬほど頑張った七日間だった。誰か私を褒めて欲しい。

だけどその努力も今日を無事に乗り切ることで報われる。言い換えれば今日が無事に終わらなきゃ報われない。


「はぁああああ〜〜……緊張する」


今にも逃げ出したくなる衝動と胃を抑えながら、鏡の前の自分を見る。

絢爛豪華な宝石が散りばめられたドレス、いくらするか分からない髪飾り、普段はあまりしない化粧

百戦錬磨の王宮付き侍女によって磨かれた私は、見事に可愛らしい美しい少女に化けていた。


これでいつも通りの「プリシラ」を演じれば、さぞ滑稽に見えることだろう。

馬鹿女を演じるのに最高の戦闘服といったところだね。




「プリシラ、準備はできたか?」


入ってきたのは王子かと思いきや、エルドレッドだった。


「はい、エルドレッド様。本日はよろしくお願いいたします」

「……ああ、」


なぜか歯切れが悪い。これから勝負というときにそういう反応はやめてほしい。


「エルドレッド様?」

「っ、馬子にも衣装といったところか?」

「言うことないなら黙っててください」

「それにしても、少し衣装と今回の目的が合っていないような気もするが」

「どういうことでしょう?」

「……そのドレスは似合いすぎていると言っているんだ。もう少し馬鹿っぽい格好をしろ」

「あら、素敵なドレスだからこそ馬鹿な女が引き立つのですよ?試しに演じて見ましょうか……エルドレッド様ぁ♡、プリシラ、今日の舞踏会こわぁいの。だから、一緒にいてくれる?」

「気味が悪い気持ちが悪い二度とやるな」

「言い過ぎじゃないですか?」

「うるさい。早く来い時間がなくなる」

「(お前のせいやろ)それは申し訳ありません。お待たせしました」


部屋を出ようとすると、エルドレッドはすっと手を差し出してきた。

反射的にその手を握れば、そのままエスコートされるように歩き出した。ていうかこれエスコートだわ。

てっきり私のことなんて触れたくないほど嫌っていると思っていたけど、さすがは王族の英才教育ってところかな?


なんてことを考えながら4人が待つ部屋に入る。


「失礼します。お待たせいたしました」

「プリシラ」


私の声で、4人が一斉に振り向く。

その瞳に嫌悪感はない。

結局、魔法が解けた4人が私を嫌うことはなかった。

しかし恋愛感情はきれいさっぱり消えたらしく、今では奇妙で微妙な関係となっている。


「綺麗……だな」

「不思議だな、こんなにも美しいと思うのに、つい先日まで感じていた胸の高鳴りは、もう思い出すことさえできないらしい」

「馬子にも衣装ってやつだな」

「ちょっとギラギラしすぎじゃないか?」


訂正、微妙な関係っつーか、悪友みたいな関係になった。

この4人は元々の性格もあってか、かなり口が悪……、かなり物事をハッキリ言うようになったけど、今はむしろその方が居心地が良かったりする。


「ありがとうございます。褒め言葉として受け取っておきます」

「この格好であの性格になると思うとゾッとするね」

「まあそのアンバランスさがいい意味で目立つといいのですが」

「どう考えても悪目立ちしかしない」

「もう少し褒めてくださってもいいんですけど?」


「おや、賑わっているようだね」


ふいに聞こえた聞き覚えのある低い声。

予想外の人物が現れたことに皆の動きが一瞬固まるーーー前に、私は前に飛び出して瞬時に猫を被った。


「侯爵様っ!来てくれたんですね♡」

「おやおやプリシラ嬢、こんなにも美しくなって。私の目に狂いはなかったようだね」

「もうっ、侯爵様ったら褒めすぎですよっ……ですよねぇ?アレックス様?」

「っ、ああ、プリシラはいつ見ても美しいよ」

「このドレスもプリシラのために用意したものだろう?」

「今日の舞踏会ではプリシラが一番綺麗でしょうね」


皆も遅れながらもいつもの調子を取り戻す。

しっかりしてくれ〜〜〜〜!

注意深く侯爵の様子を見ていると、ふと何かを思い出したように振り返った。


「そういえば、私の他にもお客人がいたんだよ」


そう言った視線の先にいたのは、美しいドレスに身を纏ったクローディア様だった。

他に類を見ない美しさに、毅然とした態度。

だけどそれでも隠しきれない目の下のクマが彼女の苦労を物語っていた。


「あらぁ?そこにいらっしゃるのは、クローディア様ですか?」


そんなことには一切気づかないふりをして、いつもの「プリシラ」で話しかける。

もう罪悪感がすごい。誰かクローディア様を支えてあげてぇ。


「ご機嫌ようプリシラさん。殿下は、いらっしゃるかしら?」

「殿下……?ああ、アレックス様のことですか?いますよ〜!何かご用ですか?」

「プリシラさん、アレクサンダー殿下は今夜の私のパートナーです。中々迎えが来ないようですので私が出向かわせてもらいました」

「えっ?でもアレックス様は私をエスコートするって言ってましたよ?」


信じられないように目を見開く。

普段感情を見せないクローディア様の表情が明らかに変わったことに、ここぞとばかりに言葉を続ける。


「もしかして、私、クローディア様のお相手取っちゃいましたか?」


絶望を表情にするのなら、きっと今のクローディア様だと思う。

それなのに、逃げることなく私を見て、毅然とした態度を貫いていた。


「プリシラさん、私とあなたでは身分が違うから口調を改めなさいと、何度も申したはずです」

「ひっ!そうやってまた私のことをいじめる……アレックス様ぁ」

「クローディア、いい加減にしろ」

「殿下、私は……」

「クローディア嬢、年寄りが口を挟むのもどうかと思うが、嫉妬はあまり人前に見せるものではないよ?」


ブロウズ侯爵の言葉に、今度こそクローディア様は口を噤んだ。


「失礼、いたしました」


最後の礼までしっかり行い、姿勢を崩さずに去っていく。

そんな一部始終を見たブロウズ侯爵は満足そう笑っていた。

その横顔は……ザ・悪役。


「侯爵様ぁ、どうしましょう。私、クローディア様に嫌われちゃったかもしれません……」

「そんなことは気にしなくていいんだよ。君には、君を好きでいてくれる人がたくさんいるだろう?」

「そうでした!エヘヘ、殿下、今夜は私のエスコートをよろしくお願いします♡」

「こちらこそよろしくね、プリシラ」

「では、私はそろそろ行くよ。今夜の舞踏会を楽しみにしているよ」


侯爵は待ちきれないといった様子で機嫌よく部屋を出て行った。






「心臓止まるかと思った……」


後になって吹き出してきた汗をぬぐいながら言えば、堪えきれないというように一斉に笑い出した。


「プリシラ!お前すっげえな!」

「スタンリー様痛いです。叩かないでください」

「やっぱりあっちの方が素なんじゃないのか?」

「エルドレッド様睨まないでください」

「さすが、としか言いようがないですね。一瞬動揺してしまった私たちをフォローしてくださりありがとうございました」

「お褒めいただき光栄です。ですが、疑われないように皆様ももう少し演技をしてくださればと思います」

「今見ると、すごい馬鹿みたいだ。今までの僕たちはよく平気だったな……」


もう不安。今から不安。

頼むからしっかりしてくれ。


「演じるなら徹底的に、最後までやりきりましょう。そして、彼に目にものを見せてやりましょうね」


喝を入れるように私が言うと、皆力強く頷きいて含みのある笑顔を見せた。

その顔は、正直さっきの侯爵に負けず劣らずの悪役の顔だった。怖。


















男爵令嬢という身分には、不釣合いの豪奢なドレス。

エスコートされるのは、身分不相応な元平民の男爵令嬢。

それらを全て理解した上で、私たちは堂々と会場に入った。


当然周囲から向けられるのは驚愕と軽蔑の視線。

王子にエスコートされるだけではなく、複数の男を侍らせるように我が物顔で広間を歩く私は明らかに愚かな女として周りに認知されていた。


ぁあああああ本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!


「っ私、もうクローディア様のあの視線に耐えられません……!」

「我慢してくれプリシラ。私だって心が痛い」

「それを言うなら俺だって辛い」

「泣き言を言うのはもうやめましょう、気が滅入ります」

「もう帰りたい……」


これから始まる茶番劇に、私の心臓は張り裂けそうだった。

だってクローディア様が、めっちゃ傷ついた顔してるぅ……。

それでも「アレックス様♡」「プリシラ♡」とバカップルを演じる続けているわけだが、もはやこれすらも侯爵の手の内なのではと思うくらいには精神的にキツかった。吐きそう。


侯爵に不審に思われないように後から入場したエルドレッドは、予想していただろうに会場の雰囲気を見て明らかに顔をしかめた。


『プリシラ、お前後で覚えてろよ』

『これも作戦の範囲内なのに……』


そんな会話を目線だけで交わしつつ、ブロウズ侯爵がいる方へと向かう。


「ご機嫌よう、侯爵さま」

「本日はお越しくださりありがとうございます、侯爵」

「先程ぶりだね、殿下、プリシラ嬢、最高の夜になりそうで何よりだ」

「そう言っていただけて何よりです」

「周りが何と言おうと気にする必要はないよ。堂々と君たちの愛を貫けばいいのだからね」

「(この狸オヤジ)はい!ありがとうございます!」

「さあ、プリシラ行こう」


さあ、舞台は整った。

誰もが憧れる王子に手を引かれ、私たちは大広間の中心、もとい、茶番劇の舞台に立った。






「今宵は、皆に聞いて欲しいことがある!」


突然響いた王子の声に、会場にいる皆が振り向き、そして隣に立っている私を見て疑惑の目を向けた。

そんな視線を見ないふりし、メンタル鋼の王子は声高に宣言した。


「本日をもって、私はクローディア公爵令嬢との婚約を破棄する!そして隣に控えるプリシラ男爵令嬢と新たに婚約を結ぶことにした!」


会場全体が水を打ったように静まりかえり、そしてすぐにざわめきが広がった。

そしてモーゼのようにクローディア様の周りからは人が消え、広間の中心へと道を作った。

クローディア様は、顔が遠目でもわかるくらい真っ青に染めながらも、しっかりと私たちの前まで歩みをすすめた。


「なぜ、とお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なぜだと?プリシラに対してあれほど陰湿ないじめを続けたよいうのに、まだシラを切るつもりか」

「シラを切るつもりなど毛頭ございません。私にはそのようなことをした記憶は一切ございませんから」

「その面の皮の厚さだけは見事なものだな」


私はそんな二人の応酬を内心ハラハラしながら見守っていた。

特に王子、あんたには人の心がないんか?っていうくらい傷をえぐる物言いをしてくる。さすがは王子スペック。

だけどごめんクローディア様。ここでスタンリー、ノーマン、レジナルドの援護射撃!


「プリシラは、お前が階段から突き落としたって言っていたぞ」

「その時の彼女は痛々しい傷まで負いました。それでもまだ言い逃れができるとでも?」

「早く認めた方が、クローディア嬢のためにもなる」


クローディア様に大ダメージ!

これは痛い!反撃できるか!?


「目撃者はいらっしゃったのですか?証拠もないのにそのような状況証拠と一人だけの証言で物事の事実を決めつけるなど、荒唐無稽ですわ。第一、私はプリシラさんを階段から落としたことなど一度もありませんもの」


しかし効かない!さすがクローディア様!どこまでも高貴で気高い方でいらっしゃる!!

もう未来の王妃はあんたしかいない!


「プリシラは嘘をつかない。そうだろう?、プリシラ?」

「え?あっハイ!そうですよ!クローディア様、嘘つかないでください!」

「知らぬ存ぜぬを通すのも、ここまでくると見苦しいな」

「さっさと自分の罪を認めたらどうですか?」

「身に覚えのない罪を認めるなど、そのような愚かしいことは私にはできません」


クローディア様、強い。

きっと私だったらとっくにメンタル潰れてる。

その後も似たようなやりとりが続き、不毛な話し合いが続いた。

あんまり長く続いたのでこれいつ終わるん?と誰かが考え始めたその時、


「クローディア嬢、もういい加減諦めたらどうかね?」


延々と続く押し問答に待ちきれなかったのか、ついに侯爵が口を挟んだ。

待っていたぜ!!ブロウズ侯爵、召喚!!!!

このチャンスを逃すまいと私は王子と一瞬だけ目線を交わしてわずかに頷いた。

それを合図に、ノーマンが侯爵の前に進み出る。


「ブロウズ侯爵も、そう思われますか?」

「そうだね、こうも往生際が悪いと同情心すら湧かなくなってしまう」

「っブロウズ侯爵!私はーー」

「それでは、どうかここにいる方々にも彼女の罪状を申し上げてはいただけませんか?」

「は?」

「侯爵、私からもお願いしたい。そして私とプリシラの関係についても、侯爵の口から宣言していただきたい」


侯爵は、その鋭い感覚でどこか空気が変わったことを察したようだった。

だけどさすがにここまで来て私たちが裏切るとは考えていないようで、


「そうですな、まず初めにクローディア嬢について話すとーー」


かかった。

今更気づいても、もう遅い。

私は思わず緩む口元に手を当てた。










「ーーー以上のことから、ブロウズ侯爵が行ってきたことは紛れも無い殿下への侮辱。つまりは王家への反逆行為ともとれるでしょう。これは、侯爵のこれまでの裁かれるべき罪状です」

「おい、これは一体どういうことだ!」


いやー、見事な手際でした。

こう言ってはなんだけど、王子たちの手口マジで悪辣。敵には回したくないタイプ。

ブロウズ侯爵をひたすらヨイショして、あることないこと喋らせて、そのあとで見事なまでのアッサリ手のひら返し。

ほら周りの貴族たちの半分くらいはまだ展開についていけてないじゃん。

クローディア様は…………めっっっちゃビックリした顔してる。あ、ちょっと泣きそうにもなってる。カワイッ。


「貴様らの妄言などに付き合ってられるか!大体そろいもそろって一人の小娘に現を抜かしていたのは誰もが知ることだろう、どうせ今回のこともその女に唆されてやったに決まってる!その悪女こそ処刑すべきだ!」


若干合ってて内心ドキッとする。

実際今の侯爵と同じように思う人も多いだろう。

でも、それに対抗する布石はちゃんと打っておきましたから


「そのことに関しては、私が保証いたします」


ここで突然出てきたエルドレッドに、周囲は一層騒然とした。

王子と敵対していたと思われていた第二王子、その登場に一番驚いているのはもちろん、ブロウズ侯爵だろうけど。


「な……貴様、この女を庇いだてするというのか?」

「庇いだて、とはおかしなことをおっしゃいますね。私と兄上たちは、同じ目的のもと手を取り合っている者同士ですよ?」

「嘘をつくな、お前はずっとこの女のことを憎んで、アレクサンダー殿下に、失望して」

「ここ一年での兄上方の行動は全て作戦のうちのこと、あなたを失脚させるためのね。私は影ながら支えさせていただいただけですよ」


今にも崩れ落ちそうな侯爵に一歩近づき、エルドレッドはにっこりと微笑む。


「侯爵、もういい加減諦めたらどうですか?」


さっき自分が言ったセリフの特大ブーメラン!!

それにより耐えきれなくなった侯爵は一気に逆上した。


「ふざけるな!!!」


同時に近くにあったテーブルに置かれていた食器をすべて薙ぎ払う。

もったいねっ。


「貴様らに、これまでどれほどの金と時間をかけたと思っているんだ?尻拭いをしてやって、それが、全て演技だったと!?ふざけるな!!」


もう隠す気がないようで、次から次へと愚かしく自分の罪を吐露して行く様は実に哀れだった。

まあ、侯爵が飲んだワインに自白剤混ぜたのは私たちなんだけどね。


「私はっ、私はくだらないことのために……、こんなところで終わってなるものか!……おい!衛兵!」


ブロウズ侯爵が叫んだ瞬間、会場に入って来たのは武装した兵士たちだった。どうやら侯爵お抱えの私兵みたいで会場はあっという間に阿鼻叫喚の渦となる。

さあ王子、次はどうする?ってな感じで振り向けば……めっちゃ呆然としてた。


「……殿下?」

「侯爵め、まさか私兵を会場付近に待機させていたとは……」


いや予想外なんかい!!!

昨日あんなに話し合ってたじゃん!いや途中から作戦聞いてなかった私が悪いね!!ごめんね!!!!


慌てて侯爵の方を見てみれば、既に走り出して大広間の出入り口から逃げようとしていた。

スタンリーやレジナルドが追おうとするが、兵士に邪魔されてそのうちに公爵はどんどん出口に近づいていく。


今逃すと、次捕らえられるのはいつになるか。

国外に逃亡されたらそれこ終わりだ。


……

…………


「逃すか私のハッピーエンドォォオ!!」

「は!?」

「おいプリシラ!!」


兵士たちも私が動くとは思っていなかったんだろう。その隙をついてするりと包囲網を抜け出す。

いざという時のために、身軽になれるような仕組みにしていたドレスのクリノリンを脱ぎ捨てる。

同時にドレスに飾られていた宝石たちが飛び散って、美しく結わいていた髪が解けた。


後ろで呼ぶ声が聞こえるが、構わずに侯爵の元まで一気に駆け抜ける。

そしてそのままの勢いで、思いっきり飛び蹴りをかました。


「っら”ぁ”あ”あ”あ”!」

「ぐぁああっ!!」


人生初の飛び蹴りは思いの外綺麗に入り、軽くない侯爵の体は勢いよく吹っ飛んでいく。っしゃ!!

しかし火事場の馬鹿力かは知らんが、侯爵の逃走劇はそれでも止まらなかった。


「いや待てや!!」


近くのテーブルに置いてあったワインボトルを掴み、再び侯爵の元へと一気に走る。そしてーー、

思いっきり振ボトルをりかぶって、大臣の頭にぶち当てた。


ガシャァァアアアンッッ!!


プロ野球選手もびっくりな綺麗なフォームのフルスイング。綺麗に決まった。

ボトルの中に残っていたワインが飛び散り、私のドレスに物騒な感じに模様をつけた。

パリンパリンパリン、と割れたガラスの落ちる音が嫌に響く。

おや?これは私の勝利の祝福のファンファーレかな?そんなわけあるか。




や  っ  ち  ま  っ  た。




そして周りからの視線が痛い。

でも、もうここまで来たら最後まで堂々といくしかなかった。

今度こそ侯爵が卒倒して床に伸びていることを確認して、ボサボサになった髪を緊急処置でひとまとめにし、捲れたドレスを見てくれだけ直す。


そしてまっすぐに王子に元へ向かい、膝をつき、頭を垂れた。


「アレクサンダー殿下、これまでの無礼をどうぞお許しください」

「……プリシラ嬢、面を上げよ」


私の態度が一変したことにより、周囲が息を飲むのが分かった。

お互いが呼び捨てや相性ではなく、身分に応じた呼び方をするの目に見えるり分かりやすい変化だろう。



「これまでの国を思っての行い、大儀であった。王家の一員として感謝する」

「過分なお言葉でございます」


簡潔な言葉のやりとりを終えると、私は王子の近くに立つもう一人の人物に近づいて、同じように頭を下げた。


「クローディア様」

「プリシラさん……」

「これまでの無礼、この場をお借りして謝罪させてください。誠に申し訳ございませんでした」


許さない……なんて言わないよね?

いやいや私がしてきたことなんて許されるもんじゃないから、許されなくたっていいんだけどさ、こんな大仰に振る舞ったあとで頭を下げればその場の雰囲気で許してくれるだろう、なんて疚しいこと考えてませんって。

まさかそんな下心なんて。アハハまさか。


「プリシラさん」

「はい」

「あなたがこれまでして来たこと、許されるものだとは思っていません」

「……ごもっともです」

「そして、今私の目の前で起こったこと全てを私は把握できていません。だから安易なことは口にできません。ですが、貴女がこの国のために何かをしてくれたことは、殿下の口から確かに聞きました」


クローディア様は決して頭をさげることなく、しかし会場に響き渡るような透き通る声で言った。


「プリシラさん、ありがとうございます」


その言葉で、全てが報われた気がした。

まあプリシラがやらかしたことは消えないとは思うけど、それでもこうして、あるべきものがあるべき場所に帰すことができたと思う。


「私ごときにもったいないお言葉です。それでは、私はこれにて失礼いたします」


ああ、良かった。

王子様の横に立つお姫様、なんてお似合いなんだろう。

これが本来あるべきストーリー。

小さい頃から少女たちが待ち望むハッピーエンド。


だからこそ、この世界の異分子イレギュラーはさっさと退散しましょうか。



























































終、わ、っ、た。

終わった?終わったよね?

全身にビシバシ感じる視線に耐えながら、私は大広間の扉をくぐって外に出た。

誰からも見られていたいことを確認した瞬間、全身から力が抜けて膝から崩れ落ちた。


「……はあ〜〜〜〜ーーーーーあっ」

「お疲れ様、とでもいえばいいか?」

「どわぁあああ!!……エルドレッド様」


いたんかーい、と思いながら何とか足に力を込めて立ち上がる。

王族の前で無礼な真似をするのはこりごりだからね。向き直ってお辞儀をしようとしたけど、それを制したのはエルドレド本人だっった。


「今夜はもう良い。今夜の働きに免じて許してやろう」

「あぁ……ありがとうございまっ!?」


礼を言おうとしたとき、急にふわりと体が浮いた。

と思ったら、エルドレッドにお姫様だっこをされていた。え、オヒメサマダッコ?何それ?


「あーーーーーえっと、エルドレッド様?」

「なんだ?」

「下ろしてください」

「どうせ歩けないんだろ?だから馬車まで運んでやるだけだ」


え〜……

いや正直ありがたいんだけど、エルドレッドにそんなことやられたら明日は槍が降りそうっつーか、縁起でもないつーか。


「今ロクでもないことを考えているだろ」

「いーーーえっ、まっさかぁ!」

「やっぱり貴様は最悪だな」

「いやもう今日は疲れたんでエルドレッド様に構う元気はないんですよ、ごめんなさいね」

「私がいつお前に構って欲しいと言った?」

「言ってませんねサーセン」


本当に疲れてて抵抗する気も起きないし、おとなしくぼーっとしながら怒涛の一週間を思い出す。


「……エルドレッド様、私、あれで良かったのでしょうか?」

「ああ、よくもまああの最悪の状態から持ち直したとは思う。いずれ来る兄上の時代の良いデモンストレーションにもなっただろう」

「そうですか、……良かった」

「まあ最後のクローディア様への謝り方はあざといとは思ったがな」

「ウグッ(バレてた)」

「気づかれてないと思ったのか?」

「そういうの気づいていても言わない方がいいと思うんですけど」

「…………」







あれ?言い返してこないな。

不自然な沈黙に、何気なく顔を見上げようとしたその時、



「?」



エルドレッドの顔がめちゃくちゃ近かった。

そしてそのまま、唇に何か当たった。




「っ、??????」








は?え?は?えっ…………え?

……………今キスされた?






理解が追いつかずにエルドレッドを見るが、何もなかったかのように平然と歩き続けている。




あれ?今の幻覚?私疲れすぎてる?








………

………………は?




「っっっっっっはぁ”あ”あ”あ”あ”あ”?」

「もっと色気のある反応はできないのか」





はああああ?何この展開何この展開?

望んでねえよ予想してねえよ!!!


「ふざっけんなあああああ!!!」

「いってえ!!」


もう反射みたいに頭突きをかまし、火事場の馬鹿力の底力で脱兎のごとく逃げ出した。



もう何なんだよこの人生!転生ガチャ最悪だよ!

まず異世界転生とか意味わかんないし、記憶戻ったら最悪だったし、全部解決したと思ったら……あぁあああああああ!!!

もうふざけんな!もうこんな波乱万丈ごめんなんだよ!!

私の顔が今熱いのだって、きっと疲れて熱が出たから!それ以外に何かある!?


「おいプリシラ!」

「追いかけてくんなあああああ!!!」


ぁぁぁあどうかどうか!

次に転生する時は、典型的な方の悪役令嬢になれますように!!




夜中テンションで書き切ったので変なところがあったら教えてくださいぃ。

短編書こうとしたら、なんかめっちゃ長くなってた。





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>「逃すか私のハッピーエンドォォオ!!」 何度読んでもここ大好き
[一言] 4年前の作品かよ!めちゃくちゃおもしれーなw
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