01 転生したら目つきの悪い老執事が立っていた
今、俺には強く困惑していることが二つある。
一つ目は、何故か自分がさっき倒した裏ラスボスと同じ格好、すなわち吸血鬼貴族の格好をしていること。
もう一つは、これはかなり深刻な問題なんだが、どうもゲームの世界が現実になってしまったらしいことだ。
「いやいや…そんな訳ないよね。これは夢さ。ハハッ」
アメリカ人みたいに肩をすくめてみせた時、指先が窓から差す日光に重なった。
その瞬間――
「ぎゃっ⁉︎」
指先が、まるでストーブに触れたかのごとく熱い。見ると、焼け焦げて煙が立っていた。
「ご主人様、日光にはお気をつけ下さいませ。我ら吸血鬼の大敵でございますので」
目つきの悪い老執事にそう言われ、俺は黙って指先をさすった。
何故こんなことになってしまったのだろう。
きっと”あの時”だ。まさかこんな事になるなんて……。
話は20時間ほどさかのぼる――。
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「はぁ~~……またか」
自宅でパソコンのメール画面を見てため息をつく。
「――誠に残念ではございますが今回は採用を見合わせていただくことになりました。志士戸様の今後のご活躍をお祈りしております」
不採用の返事も30社を超えてからショックも受けなくなってきた。
俺ももういい歳になってしまった。※年齢を表す際は「歳」なので。
資格や派手な経歴がなければ転職が難しいのは分かっていたけど、こうまで厳しいとは……。
最後は自分の力次第だとは思うが、それでも時代の運が悪かったと言いたくもなる。
就活の時は極度の不景気と人余りで正社員になれなくろくにキャリアも積めず、会社の経営が傾いたらリストラ。
体を壊してまで社畜してたのに退職金は無し。
老後は不安なのに税金ばかり取られて貯金も出来ず、自己責任と非難されてばかり――。
「くそ! みんな社会が悪いんだ!」
言ってて、酔っ払いの中年の愚痴みたいだなと自分でも思ったが、それでも口から出てしまった。
自分もその立場になる日が来るとはね。
「はあ~~……」
全身がだるい感じに包まれていたが、そんな中右手だけが半ば無意識に動いてあるアイコンをクリックした。
『アナザー・ヴァース・オンライン(AVO)』
今もっとも人気のMMORPGの一つ。
俺の唯一の心の支えだ。
何でも政府から払い下ろされたスパコンをサーバーに使っているとかで、その驚異的な処理能力を使って現実としか思えないような異世界を作り出している。
もともと宇宙シミュレーターに使われたスパコンだというのも納得のスペックだ。
圧倒的なハイクオリティが受けて大人気のゲームだが、その中で実は俺はトップグループの一人だったりする。
「黒騎士のレオ」と言えばたいていのプレイヤーは名前を知っている魔法剣士で、俺の自慢のキャラだ。
今日はその「黒騎士のレオ」の名に新たな伝説を刻もうと思う。
トッププレイヤーたちはほとんどのボスキャラは倒してしまって、誰もやったことのない実績というのは一つを除いてもう残っていないが、その最後の一つをやろうと思う。
裏ラスボスの討伐。
メインストーリーで戦うラスボスの他に『AVO』には9体の裏ボスがいる。
山よりも巨大なドラゴンのニーズヘッグ、空中戦が必要な巨鳥シームルグなどそれぞれ規格外の強さを持った裏ボス達。だがトッププレイヤーたちが力を合わせて、一体ずつ倒していった。
そんな中、一体だけどうしても倒せない裏ボスがいた。
吸血鬼貴族ドラクナイド。
裏ボスの中では唯一の人間サイズで、ステータスも一番強いという訳ではない。だが、こいつが持つある能力が討伐を困難にしていた。
「血族支配」。攻撃した相手を一定の確率で吸血鬼化してしまい、支配下に置くという能力だ。
これを喰らうとパーティー内で同士討ちが始まってしまい討伐どころではなくなる。
それ以外にもドレイン効果を持つ血の霧の全体攻撃や、一定時間で復活する部下の執事吸血鬼ヤミー・マイヤーズなど厄介な特性を多く持っている。
トッププレイヤーが束になっても勝てなかった相手だが、俺はある作戦を思いついていた。
だったら一人で戦えばいいんじゃないか?と。
一人で行けば後ろから同士討ちされる心配はない。
もし自分が血族支配を喰らってしまっても一定時間経てば支配は解ける。
血族支配を受けている間は敵の仲間扱いになるのでドレイン攻撃で回復されることもない。
完璧な作戦だ。
装備やスキルを対吸血鬼用に特化すれば、一人でも攻撃・回復のサイクルはギリギリ間に合う。
問題は、どうしても少しずつダメージを与えることになるので討伐までものすごく時間がかかるということ。
ボスHPの推定値をダメージで割ると15時間くらい掛かる計算だった。
……さすがに無理か?
普通に考えたら正気の作戦ではない。
だがこの日の俺は、強敵だからこそ戦う意味があるんだろうが!という熱い気持ちの方が強かった。
困難は男を熱くさせるもんさ。
……いや、正直に言おう。
本当は、先の見えない転職活動に疲れて他のことに没頭したかったんだ。
無職生活が続いてアパートの家賃もそろそろヤバくなっている。
とにかく何かに熱中したかったんだ。
俺は食糧の買い出しに、夜中のコンビニへと出かけた。
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食糧を買い込み帰宅すると、さっそく食べ始める。
途中でトイレに行きたくならないように水分は最小限にしつつ、カロリーとカフェインを取った。
さて、これでしばらく大丈夫だろ。
椅子に座って深呼吸すると、俺はVRゴーグルを被りゲームを起動した。
転位ポイントから裏ボスの待つチェイテ城に向かい、一直線に最奥を目指す。
最上階の広間に入りドアが閉まったら戦闘開始だ。
ドラクネイドは赤黒い影のようなものを身にまとい、それを鎌や盾に変形させて攻撃してくる。
ボスの攻撃を避けながら、まずは執事のヤミーを倒す。
ヤミーは一定時間で復活してしまうのだが、2体から攻撃を受けながら戦うのは無理なので仕方ない。
攻撃パターンを読んで回避、HPを削りながら隙を見て回復、ヤミーが復活したら急いで倒してまたルーティーンに戻り、を繰り返す。
回避しきれず「血族支配」を喰らってしまったら効果時間を体感で計り、支配が解けた瞬間に距離を取って再び攻撃――。
何ヶ月もかけて溜めた高級回復薬をバンバン飲みながら精密工場のロボットのように立ち回り、ボスのHPを徐々に削っていく。
もう何時間経っただろうか。
何度も復活する執事のヤミ―・マイヤーズも数え切れないほど倒した。
こいつ絶対俺のこと恨んでるだろうなw
さすがに段々眠くなってきた。頭もちょっと痛い――。
心臓の鼓動に合わせてこめかみの血管がドクドク波打っている。
でもあと少しだ!
予想より時間がかかっていてこちらも高級回復薬が尽きかけている。
また同じ条件で挑むとしたら準備に数ヶ月かかるだろう。
なんとしてもここで倒しきる!
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苦労のかいあって、とうとうHPが残りわずかまで来た。
あと一回攻撃を入れれば――!
その時、ドラクネイドの攻撃速度が急に上がった。
「くそっ!」
ダメージを受ける。もう一撃喰らったらヤバい。
「その前に、倒しきる!!」
だが敵もノーモーションで突進してきた。
間に合うか――!?
すれ違いざま、互いに攻撃を食らったのは同時だった。
ドラクネイドが最後に出した攻撃「血族支配」の噛みつきを喰らってしまったようだ。
ステータス異常の欄が「血族支配」に変わる。
「だ、ダメか……?」
俺のつぶやきにこたえるように、サウンドが鳴った。
それは、勝利のファンファーレだった。
「やった……やったぞー!!」
数ヶ月の苦労が実った勝利に胸が高鳴るその刹那、
ドクン、と大きく心臓が波打った。
「ぐっ!?」
胸がめちゃくちゃ痛い。
ドッドッド、と脈が不規則に暴れる。
あ、これヤバいやつだ――。
瞬時に頭を駆け巡る走馬燈。
パソコンのデータ消さなきゃ。
っていうか俺が倒れたら誰が見つけてくれるんだ?
家賃滞納で大家が来るのは数月後かな――。
俺、このまま死ぬのか?
この年で孤独死かよ。
胸が刺されたように痛い。
ダメだ、もう、意識が――。
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「う……」
視界がうっすら明るい。
はっと気がついて俺は目を開けた。
「なんだここ? どこだ……?」
そこは洋風のお城の廃墟のような空間だった。
ガランとした広間で、俺は椅子に座ったまま気を失っていたようだ。
「あれ、俺何してたんだっけ? ……そうだ、ゲーム! ドラクネイドは倒したよな!?」
思い出してみれば、ここはチェイテ城の最上階の広間だ。
だが何か様子がおかしい。こんな廃墟みたいなエリアではなかったはずだ。
「お目覚めですか? ご主人様」
「うわ!?」
突然声をかけられて驚くと、そこには一人の目つきの悪い老紳士が経っていた。
「だ、誰だ!?」
いや――この老人には見覚えがあった。
初投稿です! 隔日ペースの更新で頑張っていきますー!




