4 父、そして名案
母が亡くなり、父親と一緒にいることが格段に多くなったミエラリス。だがミエラは、以前まであまり面識がなかった父に反抗的だった。
これを見た父親はこう思った。
『母親似で容姿だけはいい。将来も考えて自分好みに躾たほうがいいだろう』
と。
そこまで考えた彼は、闇ギルドの者にミエラを誘拐するように依頼する。『盛大に脅して恐怖を植えつけろ。ただし傷はつけるな』という言葉を添えて。
そして当日、ミエラに『今日は決して外に出るな』と言いつける。ミエラはそれを破って、屋敷の外に出たところを誘拐されてしまう。
誘拐犯はミエラを脅して怖がらせ、限界まできたところで父親が登場。誘拐犯を倒してミエラを救出し、『私の言いつけを守っていたらこんな事にはならなかった』と説教。“自分の言うことは正しい”と洗脳まがいのことをする。
よくよく考えてみれば出てきたタイミングといいかなり芝居臭いが、幼く、ましてや恐慌状態に陥っていたミエラにそれを看破する術はない。
これにより、ミエラは父親の歪んだ思想に影響されていってしまう。
………というのがミエラリス誘拐事件の真相。
前々から分かっていたことだが、どうしようもない屑である。
ここで、話したくもないが、父について説明しようと思う。
名前はプラメミウス・ナヴェーレ。歳は35。黒髪に水色の瞳の髭を生やしたイケメン。だが、その眼は常に充血しており、せっかくの顔を台無しにしている。欲望にまみれており、性格は屑・ゴミ・糞の3コンボで、更に雰囲気をぶち壊している。
ゲームでは正室メリエッタと実子に出て行かれ、側室シエラに毒を盛って殺害。様々な悪事に手を染めて、最終的にクーデターを起こそうとして捕まり、処刑台行き。
うげぇ
マジで胸糞悪い。
プラメミウスの実家、ナヴェーレ家は元々貧しい子爵家………つまり王家を抜いて5ある貴族の階級のうち4番目だった。が、彼が家を継ぐと、力ある子爵家が次々と没落。その影響でナヴェーレ家は力を増し、伯爵へ昇進。色々なこと(軽犯罪)に手をつけ始め、メリエッタと結婚。レイナード達が生まれる。
その後ナヴェーレ家は勢いが止まることを知らず、側室にシエラを迎えたタイミングで侯爵となった。
ちなみにナヴェーレ家の情報はお母様ズに教えてもらったもの。
途中の笑い声が若干怖かったが、仲良くなったようで何よりだ。
ついでに、とメリエッタさんの実家のことも教えてくれた。
なんと、メリエッタさんは攻略対象者の1人、騎士団長の息子の祖父の娘……つまり騎士団長の妹らしい。
それ聞いて、私は思った。
“今の状況から考えて、プラメミウスがミエラリスの誘拐を計画する確率は五分五分。だから、強くなるにこしたことはないのでは?”
と。
そこからは早かった。
まずメリエッタさんに頼み込んでお義祖父様のお茶会に出席できるようにし、面会を取り付けてもらう。これは剣を教えてもらうためだ。これでも“わたし”は剣道経験者。他の人についていけず辞めてしまったが、一応有段者だった。
更に駄目だった場合に備えてレイナードお兄様にも頼み、準備を万端にした。
そして意気揚々と出かけたが………
「ミエラリスはまだ3歳だろう?体力の作り方なら教えてやれるが………」
もっともだった。3歳児が剣を習うとか無理ですよね、ハイ。
「それにあの男に知られると厄介なことになる。アレが居ないときにやるように」
ちなみにお兄様にも同じことを言われた。
そんなわけで、現在若干へこみながら屋敷の外を走っている。レイナードお兄様と護衛の人も一緒だ。
3歳児の身体にはキツいかも、と思ったが………
身体が軽い。3歳にしては体力がある。護衛が意外そうに驚いている。
そう、私、ミエラリスは運動神経がいい。前世との差がすごい。
あれ、これいけるんじゃね?
誘拐(予定)まであと4年。
逃げる方法ぐらいは教わりたいなぁ……。