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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
6/30

裏切り

本日6話目

ついに物語にが動き出します。


君島奏が亡くなってから十日。

表だって変わった事は特になかった。

天野が先陣を切って皆を纏めてくれたおかげで悲しみや恐怖を感じながらも仁達は生活を続けることができていた。


しかし、君島が抜けた穴は他では埋められない程大きく。徐々にだがクラスメイトの不安や不満は確かに大きくなっていた。


そして不満の矛先が一人だけ役立たずの仁に向くのは当然の事だった。


ほとんどの者が仁に対して冷めた目を向け、それを口に出すものもいる。


「この無能力者が!」

冷めた目を向けられるだけなら屈辱を感じるものの特に実害はなかった。問題は裏では仁に対して暴力を振るうものがいるということだ。


仁を罵った黒髪の男は拳を振り下ろす。

強化された肉体でふるわれる暴力は仁にこれまで感じたことのない痛みを与える。


「っ、はっ……」

惰弱な肉体では強化された拳に耐えられず体は傷つき血を流す。


「わかっているよな遠野。この事は誰にも言うじゃねーぞ」

出血しているにも関わらず仁が暴力をふるわれていることに身近にいる朱乃でさえ気付いていない。


「じゃあ頼むわ佐々木」

「仕方ないですね」

男に頼まれた佐々木蒼汰は眼鏡をクイ、と指であげてから仁に触れる。


佐々木が触れた途端仁の傷が塞がっていき痛みが引いていく。


回復魔法――暴力をふるわれるたびに魔法で治療されるため誰にもばれることはなかった。


「さっすがー優等生だぜーい」

派手に黄色く染髪した男が目の前で起きた出来事に興奮している。

「くそ! 俺も回復魔法に適正があったら」

「土田くんと坂上くんのような野蛮な者には聖なる魔法は使えませんよ」


「何が聖なる魔法だよ。どうせこの後やるんだろ」

「ええ、勿論。私はまだ楽しんでいませんから」

優等生然とした佐々木は酷薄な笑みを浮かべる。




「くそ。あいつら何度も何度もやりやがって」

回復させられた後、本性を剥き出しにした佐々木から何度も魔法で攻撃された仁は地面に横になっていた。


「……早く帰らないと」

暴力を振るわれる時、仁は森の中に連れていかれる。いつモンスターが現れるか分からないから急いで戻らなければならないが仁はその場に残っていた。


「……いつまで続くんだ」

スキルで作ったゴーレムで攻撃してくる土田亮、単純な殴り合いをしてくる坂井和也、そして、回復魔法で治しては傷つけてくる残虐な佐々木蒼汰。


この三人に仁は毎日暴力を振るわれていた。



誰かに打ち明けようにもこれ以上の問題は確実に集落に亀裂をもたらす。


そうなったらクラスメイトはバラバラになる。

最悪自分一人で暮らさなくてはならない事にもなるかもしれない。

見知らぬ異世界で一人になるのはどうしても避けたかった。


そもそも仁にはこの世界を生き抜くのは厳しい。

佐々木は仁が打ち明けられないのを知っていながら暴力を行うのだからたちが悪い。

「魔力があればよかったんだけどな」

君島奏が亡くなった後、クラスメイト達は生き抜くために力を求めた。

そんな時に分かったのがスキル以外でも魔法を扱えるということだ。

行使する上で適正はあるが適正がある者なら魔法を行使する事ができる。


だが、仁にはそもそも魔法を扱うのに必要な魔力がない。


魔法という力を得たクラスメイト達との差はどんどん広がっていた。


「……そろそろやるか」

立ち上がった仁は木の裏に隠していた石槍を手に取る。


仁が危険な森に残っていたのは石槍の鍛練をするためだった。


広場でやると人目につくし、何より佐々木達に見つかると面白半分で石槍を破壊されると分かっているからだ。


クラスメイト達との差は広がっていても鍛えているおかげで仁はこれまで耐えることができていた。


「朱乃も頑張っているんだ……俺も頑張らないとな」

仁が知る限り君島の死以降、もっとも変化したのが朱乃だった。

仁を守ると言ってたのは本気だったらしく探索隊のメンバーに加入して日々鍛えている。


戻ると女子部屋で休むため今では余り会うことができないが朱乃が頑張っているからこそ仁は精神面で強くいられることができる。


「今日は確か森を抜ける方向で探索しているんだよな」

毎日の探索によって森を抜ける事ができている。

今やっているのはどの行路でいけば安全かを調べると言っていた。


森を抜ければ人がいるかもしれない。そうなれば世界の事を色々知ることができる。


(何より……スキルについて調べられるかもしれない)

仁のスキル――支魂譲渡。いくら試してみてもこのスキルが発動することはなかった。

スキルについて知れば発動出来ることができるようになるかもしれない。

そうなれば仁は無力じゃなくなる。


「帰るか……」

重い足を引きずって仁は今日も帰路につく。






「…………何だよこれ」

鍛練を切り上げた仁が目にしたのは火に包まれた小屋だった。


突然の事に状況が掴めない。

広場を見渡すと仁以外には誰もいない。


(まさか……)


最悪の想像をした仁はすぐにそれを否定する。

この場には誰もいないしその亡骸も存在しない。


「どういうことだ?」

何かが広場を襲撃したのだろうがその割りにはどこかの柵が壊れているということもない。


「仁……くん?」

「朱乃!」

後ろから声をかけられた仁が振り向くとそこに居たのは恋人の朱乃だった。


「よかった……仁くんいなかったから。よかった無事だったんだね」

涙を流した朱乃が抱きついてくる。


「それはこっちもだ。無事だったんだな、怪我はないよな」

「うん……」

「よかった……」

状況は理解できないが朱乃の無事が分かった仁は一安心する。


「それで朱乃隠れてたって事は状況が分かっているんだろ」

戻ってくる道すがら朱乃を見ることはなかった。

ということは朱乃は自分がいなかったから隠れて待っていたんだ。


「……うん」

「じゃあ一体何が!」

「その前に仁くんあれを見て」

朱乃が燃える小屋に指を向ける。

仁は指された方に視線を寄せると火の中を影が蠢く。


「何だ……あれ」

「あれが私達を襲ったんだよ」

「あれ?」

「そう。異形よ」

朱乃が口にすると突然炎が急速に収まっていく。


「炎が縮んだ……」

「あの、異形は魔法を喰らうんだよ。だから、私達が皆が逃げるため足止めしてたの」

確かに朱乃のいう通り、急速に収束していく炎を見ていると蠢く何かが喰らったというのも嘘じゃないように思える。


炎が収束していくと蠢いていたそれが姿を現す。

それは、まさに異形だった。


ゆらゆらと蠢き、輪郭をハッキリとさせない二メートル程の黒い塊。目も鼻も口もないはずなのに何かを啜るような音が聞こえてくる。


啜る音と共に炎が収束していく、朱乃が言ったことが本当ということだ。


「あれは何だ?」

「えっ?」

「あの異形の足下にある小さなかた……まり」

そこで仁は口を閉じる。

異形の足下にある塊、黒の異形と同じ色ながら目を奪われるそれは人の形をしていた。


何かを啜るような音が続いていると人の形をした塊が異形に吸い寄せられていく。


「まさか魔法だけじゃなくて人間――がっ!!」

異形が塊をまさに喰らうという所を仁が見ていると背後から衝撃が襲う。


「なっ、なんだ?」

地面に倒れた仁は混乱する。


「朱乃!」

直ぐ後ろに朱乃がいたことを思い出した仁は慌てて振りかえる。


「え……朱乃?」

しかし、振り返った先に居たのは笑みを浮かべた朱乃だった。


「アハハハハ……ゴォメンネー仁くん」

「は? は? どうして……どうして」

仁を見つめる朱乃の目は他の者と同じ仁を見下すものだった。


此方を見下し嘲笑する朱乃に仁は戸惑いを隠せない。


「どうして? 分かんないの? アハハ……足止めのためだよ仁くん」

「足止め……」

「見ての通りあの異形にいくら魔法で攻撃しても意味ないの。だからこうして私達が足止めしてるって言ったでしょう」

「ま、まさか」

異形の足下にあった黒の塊と小屋を包む炎。

仁の頭のなかでそれが一つに繋がった。


「あの死体はお前のせいなのか……」

「アハハハハ――せいかーい」

「なんで……なんでそんな!」

「しつこいですね。朱乃さんが言いましたよね足止めのための道具が必要だからって」

突如この場に仁と朱乃以外の声が割って入ってくる。


その聞き覚えのある声に仁は固まる。

先程聞いたばかりで二度と聞きたくないと思っていた声……


(まさか、まさかまさかまさか――)

新たに現れたのは仁に暴力を加えた佐々木蒼汰だった。後ろには坂井と土田も笑みを浮かべて立っている。


「??」

混乱の連続に仁の頭はフリーズする。

考えたくもなかった事が現実に起きていた。


(朱乃もぐるだったのか)

とてつもないショックを仁は受ける。


「それにしても助かりましたよ。足止めをしたもののあの異形の食事の早さは予想以上でした。あの炎も間もなく喰われてまた私達を追って来るでしょう、しかし、こうして新たな道具が自らやってきたのですから」

「ふざけるな……」

やっとのことで仁の口からでたのはその一言のみでそれが仁の思う事の全てだった。


「ふざけてないよ仁くん。私達も心苦しいんだよ。でも、しょうがないじゃない――だから死んで」

「あがっ――――ぁぁぁぁぁ!!」

朱乃が放った炎の魔法が仁の背中にぶつかり火をあげる。


(熱い熱い熱いあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい)

余りの痛みに仁は地面を転がり絶叫をあげる。

その様を朱乃達は笑い声をあげながら見ている。


「それじゃあ、異形も食事を終えたようだし私達は行くね……ばいばい仁くん」

仁が悶えていると朱乃達は去っていく。

追いかける余裕は既にない。

地面を転がり回ったことで火は消えたが痛みで仁の意識は虚ろになっていた。


「俺は死ぬのか……」

これまでにないほど死が間近に迫ってきている。

このまま目を瞑れば仁はあの異形に喰われて死ぬ。


「――嫌だ。そんなのは嫌だ!」

死にたくない。絶望を感じながらも仁は死に抗おうとしていた。


「絶対に生き抜いてやる」

激痛を堪えながら仁は立ち上がる。


「よし、早くこの場を立ち去らないと……」

仁が一歩踏み出そうとするとチクリとした痛みが頬に走ると同時に大木に穴があく。


「あいつがやったのか……」

仁が異形を見ると異形も此方を見ていた。

異形には目はないが何故か仁は異形自分を見ていると確信していた。


「どうする……」

仁は異形に勝てるとは思っていない。

逃げるにしても異形は遠距離から攻撃することができる。


「だったら!」

迷った仁がとった行動は横に飛び込むというものだった。真っ直ぐ逃げれば大木に穴をあけた攻撃で殺される、かといって勝負に挑むのは無謀だ。

しかし、横に逃げれば仁の体は柵の影に隠れて異形からは見えなくなる。




「絶対に生き延びてやる……絶対に死んでやるものか……このまま殺されてたまるか」

突然異世界に来て自分だけ無力でそして暴力を加えられてきた。

そして、最後は裏切られて自分を見下していた者達を逃がすためだけに死ぬ。

そんなのくそくらえだと仁は心のなかで毒づく。


「絶対に生きてやるんだ」

絶望だけの世界でもせめて命だけは守ってやると仁は走る。


――――そんな、願いもむなしく絶望は迫ってきていた。


影が勢いよく落ちてくる。


「嘘だろ……」

大きな落下音をたてたのは黒の異形だった。


「はは、そういうことかよ」

どの柵も破壊されていないのが不思議だったが仁は理解した。

異形は跳躍できるのだ。だから、柵を破壊することなく広場に現れた。


「ふざけるな。ふざけるなよ」

無力というだけで傷つき裏切られる。

力があればと仁は強く渇望する。

しかし、目の前の異形に死を覚悟した仁の意識はそこで途絶えた。







……痛い。

全身の痛みを覚えた仁はそっと瞼を開く。


「俺は生きているのか……」

目を開くと日の光が目に入り眩しい。


「朝だ……」

眩しさを感じた仁は起き上がる。

すると、体が悲鳴をあげる。


「痛い……はは、痛いぞ……はははは、痛いぞーー」

涙が出るほどの痛みに仁は生を実感させられる。



「誰も……いないよな」

広場に入るとそこには仁以外には誰もいない。

炎も消え去っており死体も無くなっている。


「あれもいなくなっている」

殺されるのも覚悟したいたが異形は仁が目覚めると姿を消していた。


だが、またいつ姿を見せるとも限らない。

仁はこの場に留まるのはよくないと判断していた。


かといってクラスメイトを追うわけにもいかない。

会えば今度こそ殺されるかもしれない。

想像した仁の体が小さく震える。


「何で、俺があいつらに……」

殺されかけた事はトラウマとして仁に刻まれていた。認めないと仁は腕を強く掴む。


「そんなの許さない。どうして俺がこんな目に合わないといけない……」

ぐつぐつと何かが心の中で煮えたぎる。


「絶対に……絶対に許さないぞ……」

体の痛みを今度は怒りに替えて仁は広場を出ていく。

その瞳の奥にはこれまでになかった黒い感情が宿り始めていた。





幸せからの転落上手く書けない……( TДT)


連続投稿はこれで終わりです。

久しぶりだと編集だけで疲れる……

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