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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
5/30

モンスターと指輪

本日5話目です。



一目見たときの印象は緑色の小さな人間だった。

ぶよぶよの肌と醜い顔、そもそも緑色の肌と人ではないのは明らかだったがそれは人のように二本の足で立っていた。


「……なんだよあれは」

自分とは異なるそれに赤羽は呆然と呟く。


「グキャ」

人間とは違う音を発するそれに赤羽は動けずにいる。いや、赤羽だけではない。それぞれの心境は分からないが全員が動けずその場に立ち尽くしている。


「グキャ……グキャァァ!」

牙を剥き出しにして叫んだそれは走り出す。


(おいおい、まじかよ。なんだあれは)

突然現れたそれが駆けてきても赤羽は動けない。

あまりに予想外のそれの存在に頭は混乱していた。


混乱している赤羽はそれが敵意を剥き出しにしているのに気づけない。


「……あぶない」

だからそれの敵意をはね除けたのは赤羽ではなかった。


「……は」

「ギャァァ!!」

赤羽の視線のすぐ先では木の棒を手にした東雲雫が何の変哲もない唯の棒でそれの腕を切り裂いていた。


地面にそれの腕が落ち、紫色の血が間欠泉のように吹き出て地面を汚す。


「東雲さんすごい」

「いやいや、すごいってレベルじゃないでしょ。うちなんて一歩も動けなかったよ」

西野恵と星野谷聖奈は安堵感から動きを再開する。

そんな中、赤羽は未だに動けずにいた。

混乱は治まった。現状も把握した。自分は本当に異世界に来たのだと理解した。


赤羽が動けないでいたのは圧倒的な屈辱感と悔しさだった。


(俺は動けなかったのに、くそ、女に助けられちまった……)


自分の不甲斐なさに怒りすら沸いてくる。


「グキャ……グキャギャ!」

「……まだ生きて!」

多量の血液を流しながらも迫ってきたそれの生命力の高さに雫は驚き対処に遅れる。


「させねぇよ」

「グキャ!」

東雲に攻撃しようとしたそれを怒りを原動力に動いた赤羽が力一杯殴り付ける。


「お前のせいで気分が悪い」

殴られふらついたそれが東雲から離れた時、赤羽は中指を経てる。


「だからお前は死ね」

一言呟くとそれは大きな音をたてながら爆散した…………






「……てなわけで体が無くなったからこうして腕を持ってきたんだ」

説明を終えた赤羽は持っていた腕を前に放った。

地面に落ちたその腕は所々が紫色に染まっており生々しい。


「……皆、驚いただろうけど大丈夫だよ。そうだよね拓海」

「ああ、簡単に倒せたしこの柵があれば侵入してくることもねーだろ」

「聞いた通りだ。交代ずつ見張りをして警戒すれば恐れる必要はないよ」

天野と赤羽の言葉にクラスメイト達は胸を撫で下ろす。

ドラゴンを見た仁はこの柵で安心できるわけもなく、また、この森にいるのが赤羽達が遭遇した奴だけとは思えなかった。


「スキルに緑色の小さな人間……まぁ、鉄板ちゃあ鉄板か」

緑色の小さな人間のようなものそれには心当たりがある。そして、それらの名称も仁は知っている。


――――モンスター。仁の知識があっているとしたらそれは他にも沢山の種類がいるということだ。


その中にはあのドラゴンも含めてこの柵を突破出来るものがいるだろう。


「問題はそうなった場合、現段階の俺には対処のしようがないということか」

ステータスは強化されておらずスキルもそうそう発動できるものでもない。

今のままであのドラゴンに絶対に敵うわけがない。


「……やっぱ武器か」

古代より相手を殺すために作られた武器があれば仁にも攻撃手段が手にはいる。


(だと、したら……)

天野の話を聞き流しながら仁はこの後どう動くか考え続けていた。





「もー、じんくんずっとどこ行ってたの」

解散後、用件を済ませた仁が男子部屋に戻ると入り口の前に朱乃が立っている。


「悪い。少し君島さんのとこ行ってた」

「奏ちゃんの?」

「うん。これ作るのに協力してもらったんだ……」

仁は朱乃に握っていたものを見せる。

それは棒の先に黒い石がついた石槍だった。


「そんなの危ないよじんくん!」

仁が持つ石槍が高い殺傷能力を持つのは一目でわかる。現代人の朱乃が忌避感を感じるのは無理のない事だ。


(そんなの……か)

その言葉には忌避感以外にも武器は無くても問題ないというふうにも聞こえる。


実際必要とは考えていないのだろう。赤羽の話はスキルの有用性を裏付けた。


「私が絶対にじんくんを守るから!」

「……ありがとう」

朱乃に抱きつかれて嬉しいはずなのに仁はどんどん冷静になっていく。


見知らぬ異世界なのに朱乃の危機感が薄い。これは朱乃の以外の全員も同様の事だった。


向上した能力に強力なスキル。非現実的な状況に誰もが楽観的になっている。


とてもじゃないが仁はそんな気分にはなれなかった。自分だけそのままの能力に隠されたステータス。


何より、一つの不安が胸中を占めていた。





「ふっ、ふっ、ふ!」

あれから三日。異世界通算六日目、仁は槍を突いたり引いたりと鍛練を続けていた。


「中々様になっているじゃないか」

「あっ、君島さん。随分早いね」

気恥ずかしさもあり仁は早朝と夜遅くに鍛練をしている。ちなみに今は日が明けたばかりの早朝だ。


「こっちは暇だからね。目がさめちゃうのさ」

「ああ、それもそうだね」

この世界には娯楽がない。スマホもステータス以外では使い道がないと仁もその点ではたいくつを感じていた。


「だけどびっくりしたよ。ここ三日、ボクが目覚めると遠野くんが槍を振っているんだから。おかげで君の成長を見れて楽しいよ」

君島の言うとおり仁の動きは三日前に比べると明らかに良くなっている。


「これも君島さんのおかげだよ」

「三日前、君が急に武器を創ってくれと言ってきた時は本当に驚いたよ……でもまぁ、こうも熱心に頑張っている姿を見るとその甲斐があったというものだよ」

「本当に感謝してるよ」

何しろ柵を立て終わった直後に行ったにも関わらず君島は仁の頼みを二つ返事で快く引き受けてくれた。


「あっ、そうだ。遠野くん、これをあげるよ」

「えっ」

君島が掌に小さなリングを乗せて見せてくる。


「これは?」

「これは赤羽くん達が取ってきてくれた鉱石から創造したものでね、不思議な効力を持っているんだ。見てて」

仁が見つめる先、君島の掌に乗るリングがポウ、と小さく発光する。


「どうやら魔力を込めると少しの間光を放つ不思議な鉱石だったようでね。せっかくだから指に付けれるようにリングにしたのさ。これはその試作品さ」

「試作品って、そんなの貰えない。どうせオレじゃあ使えないし」

現在の仁のステータスの魔力欄は0という数字になっている。仁にはこのアイテムも、魔力という単語から存在するであろう魔法も使うことができない。


「何、大丈夫さ。魔力を込めれば少しの間は光を発するといっただろう。朱乃くんに頼めばいい。それに今は二つでも直ぐに量産してみせるから安心したまえ」

「……まぁ、そこまでいうならありがたく頂戴するよ」

仁が指にリングを嵌めると偶然なのか指にピッタリと嵌まる。


「良かった。サイズに問題ないようだね……さてと、そろそろ戻るかな」

「うん。色々ありがとう」

「何、遠野くんもあまり無理はするなよ」

眠たそうにあくびをしながら君島は去っていく。

それを見届けた後仁は鍛練を繰り上げて小屋へと戻る。



「じんくん!」

仁が小屋に戻ると朱乃がとことこと小走りで近づいてくる。その手にはタオルを握っている。


「朱乃、今日も起きてたのか」

朱乃から受け取ったタオルで汗を拭いながら三日連続こうして待ってくれている事に驚愕する。


(あんなに朝が苦手だったのに)

出会ってから朱乃が仁よりも早起きしたのは両手で数えられるくらいしかない。

それなのにこうして鍛練を終えるたびに仁の事を朱乃は待ってくれている。


「うん。じんくんが頑張っているんだから応援しないと」

「朱乃……あんなに武器の事、嫌っていたのに」

「それは、今でもそれは怖いけどじんくんがいっぱいいーーっぱい頑張っているの知ってるもん……私は彼女だからじんくんを応援しなきゃだもん」

朱乃は頬を真っ赤に染め恥じらうように呟く。


疲労故だろうか、照れた朱乃に吸い寄せられるように仁は顔をそっと接近させていき……


「あっ……っ」

気がつけば唇を合わせていた。

初めてのキスは唇同士を軽くくっつけただけのものだった。

顔を離した後はお互いに顔を赤く染める。


「き、急にごめん」

「う、ううん……嬉しかった」

「っ! 俺小屋にもどって少し休んでくるわ! あ、朱乃も休むんだぞ」

恥ずかしくなった仁は慌てて捲し立てて、逃げるように小屋へと入っていく。


この時、確かに仁の心は幸福に包まれてい

た………………




「くそ! やっぱり固い!」

キス事件の翌日――異世界生活7日目、仁は森の中へと山草を採るために入っていた。


最初は順調に採取できていたが問題が起きた。

突如一体のモンスターが仁達の前に現れた。

大きなダンゴムシのようなそのモンスターは四日の間に何度か目撃されておりその特徴は聞き及んでいたが仁は今身をもって実感していた。


見た目から分かる通り、丸まった大きなダンゴムシは固く仁の槍による攻撃をことごとく弾いていた。


(少し固いだけじゃなかったのかよ)

クラスメイトの話ではこのモンスターは他のに比べると少し固い程度との事だった。

しかし、このモンスターは少し固いなんてレベルではなく仁ではダメージを与える事ができない。

これで他の者にとっては少しやっかい程度と差をつくづくと痛感させられる。


「遠野、どいて、私が決める!」

仁が攻めあぐねていると背から西野恵が声をかけてくる。


西野の指示に従い仁が下がると西野は腕を前に突きだす。


「切り裂け【ウィンドカッター】」

西野が叫ぶと、僅かな間を置いてダンゴムシが真っ二つに切り裂かれる。


二つに分かれたダンゴムシは白の液体を噴き出しながら地面に落下する。


「初めて見たけど強烈だな。これが風魔法か」

風魔法――西野が探索隊のメンバーに選ばれたのはこのスキルがあるためだった。

威力は今見た通りで仁がいくら攻撃してもダメージを通さなかったダンゴムシを一発で倒してしまった。

さらに恐ろしい事に、このスキルは風という事で目に目視する事ができない。


「でも、何でいちいち技名を言うんだ?」

「し、しょうがないでしょ! 言葉にしていった方がイメージしやすいんだから!」

西野も恥ずかしいと思っているのか顔を真っ赤にして怒る。

仁もその気持ちを察せられたのでこれ以上は触れないことにした。


「ほんっと恥ずかしい。早くイメージすることに慣れないと」

「ああ、だから戦いたくないって」

一緒に付いて来てくれないかと頼んだときの西野の言葉に合点がいったと仁は頷いた。


「そうだよ。もっと練習したかったのに遠野が一生のお願いって頼んできたから……誰にもばれないようにしたかったのに。たく、何で今日に限って」

昨日のキスをした時の事を思い出すと気まずいから朱乃には頼めなかったのだが、落ち込んでいる姿を見ると罪悪感が湧いてくる。


(ハァ……言うしかないよな)

急にも関わらず頼みを聞いてくれた西野に黙っているのは悪いという思いと、どうすればいいのかを助言してもらいたいという打算も込めて仁は昨日の事を西野へと打ち明ける。






「いやー、まさか、そんなことなっているとは、やるじゃん遠野!」

「……うるさいな」

山菜採取の帰り道、ずっとニヤニヤしている西野に仁は苛立ち始めていた。


「いいじゃん。こんな状況で恋人がいるなんて羨ましいよ。あー、私も欲しいなー」

「これでも色々大変な事もあったりするんだぜ」

「気にしすぎだよ。朱乃は嬉しいって言ってたんでしょ」

「まぁ、言ってくれたけど」

「なら、いいじゃん。ほら、しっかりしろ」

ドンと力強く西野が背中を叩いてくる。

強化されてるだけあって女子とは思えないくらい力が強く仁の背中がジクジクと痛みを訴える。



「ん、何か聞こえない」

「……確かに聞こえるな」

間もなく広場にでるという頃、騒がしい声が聞こえてくる。


「なになに! 何か面白いことでも起きたのかな!」

広場の騒ぎを何かの祭りだと思ったのか西野は笑みを浮かべて駆けて行く。


「待てよ西野、一人で置いていくなって」

仁が追いかけるも西野の足の方が早く二人の距離は開いていく。


「きゃあぁぁぁ!」

「西野!」

先に行った西野の悲鳴が耳に届く。


(何だ……何が起きた)

嫌な予感がした仁は息が上がるのも気にせず走り続ける。


「ハァ、ハァ……見えた」

森を抜けて広場にでると人の輪ができているのが見える。


仁が先に着いた西野の元に行くと顔を真っ青にした西野がいた。


「どうした? 何かあったの……」

仁が事情を尋ねようとするとその原因が目に飛び込んでくる。


(何だあれ……腕?)

西野の視線の先を目で追うとそこには腕が落ちていた。

モンスターじゃない。肌は肌色で深紅の血が付着している肘から先と思われる小さな腕。


仁は直感する。落ちているのは――人間の腕だ。


(――――うそ、だろ……)

人間のものらしき小さな腕。

その腕から更に下の指を見るとそこにはリングが嵌められている。


―――ドクン、心臓が大きく鼓動を刻む。


指輪には見覚えがあった。間違えるはずがない。それは昨日見たばかりもので現在自分の指に嵌まっているからだ。

そして、リングは仁のも含めて二つしかなかったはずだ。


「……遠野……君島さんが……君島さんが」

落ちていたのは小さな少女――君島奏の腕だった。


(ああ、そうか。これか)

仁はやっと気づく。

自分が感じていた不安。それは異世界に来たときと同じように今の平穏も脆く崩れ去るのではないのかというもの…………そして、その後に起こるであろう地獄、仁はそれを理解した。





君島さん……

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