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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
4/30

探索

本日4話目


支魂譲渡。

 支配した者の魂の一部を譲渡される。

支配した者のステータスの一部を使用することができる。

 「どういうことなんだ」

 自身のスキルを思い出しながら仁は何度目かもしれぬため息を吐く。

 二行で簡潔に説明されたこのスキルだが、そもそも魂とは何かという点で仁を悩ませていた。


 ――――パッと思いつくのが目に見えぬ心のようなもの。でも、心の一部をもらうって何だ?


 効果は載っているが魂を貰うということの意味がよくわからない。

 かといって誰かに相談することも仁にはできないでいた。


 スキルが発動する条件は相手を支配した時、そんなスキルの相談など一介の高校生である仁にできようはずがない。

 それともう一つ。

 

 「おい、遠野。もっと早く運べよ」

 「ご、ごめん」

 怒鳴られたことで思考を中断された仁は怒っている男子生徒に手に持っていたおぼんを渡す。

 「チッ、これだから無能力者は……」

 

 無能力者。何故か他の者からは仁のスキルを見る事ができないため何人かのクラスメイトにそう呼ばれていた。

 それにはもしかしたら何か理由があるのかもしれないという意味でも相談できずにいる。 


 「なんだよ、その目は、なんか文句あんのか」

 相談できないとはいっても相手の態度にはいらつくものを感じる。


 「いや、別に」

 憤りをグッと堪えて仁は男子生徒から離れる。


 仁が目覚めて二週間。二十五名の集落は不穏な空気を漂わせていた。


 



 二週間前――異世界三日目。朱乃から告げられた事に仁は困惑していた。


 「朱乃、俺にスキルが無いってどういう……」

 スマホには確かにスキル名が記されている。しかし、朱乃が冗談を言っているようにも見えない。


 「鑑定スキルっていうのを持っている人がじんくんはスキルが無くてステータスの数値も低いって」

 「ステータス。朱乃はどれくらいなんだ」

 「私は――――位。皆も大体同じ」

 朱乃が言ったステータスの数値は仁の倍以上あった。

 女の朱乃がステータスの力、という項目で少し鍛えていた仁を上回るはずがない。


 ――――俺は本来の力のままで他が強化されているってことか。

 

 「なるほど、確かに俺だけ弱いな。でも、鑑定か、便利なスキルだな」

 自分のスキルだけ確認できないのは疑問だが事前に相手の力を知れるというのはまた強力なスキルだなと仁は思う。

 

 「いや、待てよ……朱乃。俺のスキルを見たのって鑑定スキルだけか?」

 もしかしたら、自分のスキルを鑑定持ちの人物が理由は分からないが黙っていたのではと仁は考えた。


 「うん。そうだよ……だってじんくんのスマホ壊れているのか確認できないから」

 「は?」

 朱乃から返ってきたのは予想だにしていない答えだった。


 俺のスマホが壊れている……そんなはずがないとスマホに視線を向けると先程と同じように画面にはステータスが記されている。


――どういうことだ?


唯一人ステータスが低く、何故か他者にスキルが見えないようになっている。


偶々ということはないだろう。間違いなくこれは誰かが意図的に仁のステータスを隠蔽している。


しかし、それが誰かは分かるはずもない。

その目的もだ。


「どうかしたの?」

スマホを凝視しながら固まる仁に朱乃が心配そうに声をかける。


「ああ、実は……」

ステータスのことを打ち明けようとした仁は口は開けたまま声を発することを止めた。


――――本当に打ち明けてもいいのか……


ステータスを他者に認識させないということには何かの意味があるはすだ。

それを話して問題はないのだろうか。


「じんくん?」

「いや……なんでもない」

少しの間逡巡した仁は開いた口を閉じた。

自分におきた事を話して不安を分かち合いたい気持ちはあった。しかし、他者には自分の事を話すなと得たいの知れない何かが仕組んだような状況に仁は結局打ち明ける事ができなかった。


――でも、まぁ、相手を支配するのが発動条件なんて言うべきでもないよな。


「じんくん、本当にどうかしたの?」

再度黙りこくった仁に朱乃は心配を深める。


「な、なんでもないって! それよりも外に出てみないか。天野がスキルをどう活用しているのかこの目で見たいんだ」

朱乃の心配を察した仁は慌てて話を逸らす。

と、いっても天野がスキルをどう使っているかを知りたいと言うのは本当でもあった。


「うん、そうだね」

仁が話を逸らしたと理解しつつも朱乃は笑顔を浮かべて頷いた。



 

外に出た仁が始めに見たのは周りを囲む柵と仁が眠っていた小屋と同じもう一つの建物だった。建物に感心した仁はあらためて周囲を見渡すと、森のなかにポツンと切り取られたこの場所がそこそこの広さがあると実感する。仁がいた小屋の広さが教室一個分位に感じたからクラス分の小屋を建ててもなお余裕がある位の広さはあるように感じられた。


「もう一つの部屋で女の子は寝てるんだよ」

「へー……あれは?」

朱乃の説明を聞きながら周囲を確認していた仁が次に目を止めたのは二階建ての一軒家程の高さの柵の下にいる君島と三人の男子生徒達だった。


「柵を立てているんだよ」

「柵を? なら何で君島さんが?」

柵を立てるだけなら君島さんがいる必要はないはずだ。

「じんくん、君島さんのスキルは創造でしょ」

「それは分かっているけど、柵を立てるだけなら君島さんのスキルは関係ないだろ?」

君島さんのスキル創造のその名の通り物を創造するスキルだ。ならば柵を作った君島さんが立てるのを手伝う必要はないはずだ。


「あ、それ天野くんも最初不思議がってたけど、なんかねスキルを発動するとあるべき形? で創造されるんだって」

「あるべき形で……」

「うん。家を創造しようとすれば建った状態で創造されるの」

「それは……すごいな」

創造というスキルは仁が思ってた以上に強力なスキルだった。

だが、本人も言っていた通り万能というわけではないのだろう。

その証拠に君島は小さな小屋を二つしか作っていないでいる。

大きいのがいいとは言えないがあの小屋は手狭すぎる。もう少し広い部屋、もしくは小屋を増やすかした方がいいように思える。

もし、天野が仁の埒外の考えを持っているのでなければ君島のスキルには欠点があるということだ。


 ……いや、俺のスキルと同じで発動の条件が厳しめなのかもしれないな。


 どんな物事にも前提というものがある。鑑定スキルの様に目にするだけという簡単なものから仁のスキルの様に相手を支配しなければいけないといけない難題なものもある。

 君島のスキルにも厳しめの条件があってもおかしくはない。


 「ね! 君島さんはすごいよね。あんなにかわいいのに」

 「……ああ」

 本当にすごいと仁は心から思った。



 「あれ、もう起きて大丈夫なのかい?」

仁が朱乃と話しているとこちらに気付いた君島が声をかけてくる。


「十分休んだし大丈夫だよ。それにしても君島さん、すごいね」

君島に声をかけられた事で柵の真下に来た仁は改めて見上げた柵の大きさに感嘆する。


「そんなことはないさ。これも皆が協力をしてくれたからできたことさ」


「皆の協力を……」

どういう意味だろう。そう尋ねようとした時、朱乃が声を張り上げる。


「ううん。それでもすごいよ君島さん! も~、ちっちゃくて可愛いくてすごいよ~」

「うっ、とても苦しいのだが離れてくれないだろうか。それにそんな見せびらかされるとボクが悲しくなるのだが」

感激のあまり抱きついた朱乃から離れた君島は自身の胸にそっと手を当てる。

残念ながら君島の胸は薄く小さな身長と相まって仁と同じ高校生には見えない。

小学生のような見た目からスキルがなければこの場所にいるのが不自然なほどだ。


 「君島さんこの柵はどれくらいの強度があるの?」

 「そうだね。簡単に突破されないくらいの強度はあると思いたいね」

 「……そうだね」

 仁が確認した異形の生物は今のところあのドラゴンだけだ。残念ながらあの巨体の攻撃を柵一枚で防げるとは思えない。

 しかし、あれを基準に考えていいのかは情報が少なすぎる。


 「まぁ、心配する必要はないよ。天野君は大丈夫だと言っていたしね」

 「え、なんで天野はそんなことが分かるんだ」

 朱乃の話によればまだ仁以外には確認したものがいないはずだ。


 「それがどうやら先程遭遇したようだよ」

 「遭遇って、大丈夫なのか」

 初耳なのか朱乃と男子生徒三名も不安そうにしている。そういえば他のクラスメイトの姿が見えない、もしかしたら天野の所に集まっているのかもしれない。


 「もう一回言うけど大丈夫さ。探索隊の者達は初めは驚いたようだが脅威は無いとの事らしい」

 「そうか……それはよかった」

 「詳しい事を知りたいなら柵の向こうに行くといいよ。そこに皆集まっている」

 「そうするよ」

 君島と別れた仁は朱乃を伴い、クラスメイトが集まる場所へと向かった。





「遠野君。もう平気なのかい」

柵を超えて直ぐにクラスメイト達は集まっていた。真っ先に気付いた天野が仁に声をかけてくる。

 「ありがとう。もう大丈夫だよ」

「それは、よかった。それで君島さんは?」

「まだ柵を作らなきゃいけないからこっちには来ないって」

「そうか」

 天野との会話を終えた後、仁と朱乃はクラスメイトの列に紛れる。

 天野と探索隊のメンバーが前に立っている。

その中には勿論仁の気絶の原因を作った赤羽もいる。

    


「あれは……」

赤羽は手ぶらではなく何かを握っている。

近くでよく見るとそれは人のようなものの腕だった。

ただ、それは人のようなものであって人ではない。

肌の色が緑色な事からそれは明らかだった。


緑の肌と紫色の血液から現実感が湧かないがあれは何かの生物の腕なのは間違いない。


赤羽が持つ腕に誰もが言葉を発せずにいる。


「皆、見て分かると思うけどこれは生き物の腕だ。作り物でもなんでもなくね。拓海、説明を頼めるかい」

 「あ、ああ」

 天野に促された赤羽はどこか呆然とした様子で話し始めた。







「あー、森の調査をしろってどうすりゃいいんだよ」

探索のメンバーに選ばれた赤羽は苛ついていた。この三日間歩きっぱなしで、その割りには成果も挙げられていない現状に赤羽はぼやく。


成果というのも食べられる食材を見つけたという事だけだ。大手柄かもしれないが、それも判明したのは他の者のスキルのお陰だ。


「くそ。翼も分けわからないことを言うし、一体何が起きてんだよ」

三日前、自身が原因で仁が気絶し、その後否定しようとした仁の言葉を自らが証明した時、天野から赤羽に警告してきた。

曰く、この森には異形とも呼べる生物がいるかもしれないとの事で、混乱を招かないためにも調査をしてくれないかとお願いされたのだ。


仁を気絶させた負い目もあって天野のお願いを赤羽は引き受けた。

一日目は食べられるものはないかと付近を探して、二日目は見つけた食材の周辺をどのくらいの量があるのかを確認した。

そして、三日目である本日は探索範囲を拡大した。

始めこそ見知らぬ場所での探索という事もあり慎重な足取りで散策していた赤羽達は成果が挙がらず何の変哲もない緑が続くだけの景色に次第に緊張が抜けていた。


それもそのはずだ。赤羽はあくまで見知らぬ場所にいることに対して慎重になっているだけで天野のいう異形を信じているわけではない。


(確かに、俺達が普通の状態じゃないのは認めるけど異世界なんてありえないだろ!)


赤羽は自分達は何処かに集団で誘拐されて放置されていると考えている。

仁が言った時間もただ端末が壊れていただけだと、それが考えられる唯一の可能性だと常識的にそう思っている。

赤羽の触れたものを爆発させるスキルとは違う君島の創造スキルという非現実的な物を目にすれば信じていたであろうが残念ながら探索に夢中になっていた赤羽は建物が一瞬で作られる様を目撃することはなかった。

探索を終えた赤羽は小屋を皆が建てた物と思っていたし、周りもまさか赤羽が異世界だと信じていないとは気付かず赤羽にここが異世界だと伝えるものもおらず、不幸にも赤羽は唯一人現状を把握できていなかった。


「あー。疲れた。そろそろ休もーぜ」

疲労だけが蓄積された赤羽はその場に座り振り替える。


「さんせ~い。うちももうクタクタだし」

真っ先に賛成した金髪の少女は赤羽の所に駆けて行きそのまま膝の上に座る。


「いって。てめ、星奈! 何すんだよ、重いじゃねーか」

「何って。うち、地面になんて座りたくないし……それにうち重くないし!」


「相変わらず仲がいいな」

赤羽根が少女と言い合っていると服を着込んでいても筋肉が盛り上がっているのがわかる頭を刈り込んだ男が隣に座する。


「そうだよね。流石幼馴染み! ね! 東雲さんもそう思うよね」

「……そうだね」

明るく同意を求めた少女と興味なさげに頷いた。少女もその場に座り休憩の体勢をとる。


赤羽拓海、星野谷聖奈、須藤徹、西野恵、東雲雫。この五名が探索隊として選ばれたメンバーだった。



「……んで、この後どうする」

「どうするって?」

「飯は徹が食えるのを見つけたし、水も飲めることが分かった。なら、次は何をすりゃいい」

疲れた赤羽の本音は帰りたいのだが男が言うわけにもいかないとのプライドから周りに尋ねる。


「それもそうだよねー。徹はどう思う?」

「翼が行けと言ったんだ。成果も無しには帰れまい」

「あー、うちもそう思う」

「チッ、どっちだよ。恵は何かないか」

意見を変えた聖奈は頼りにならないと赤羽は恵に話を向ける。



「私! うーん。そうだなー。取り敢えずもう少し探してみればいいんじゃないかな。もしかしたら他の人がいるかもしれないし」

「……そうするか。お前らもそれでいいか」

赤羽が顔を向けると全員が同意の頷きを返してくる。


「じゃあ、めんどくせーけどもう少し休んだらいくか」

そう言いながら赤羽はポケットからオレンジ色の木の実を取り出しす。


「やっぱこれ桃だよな」

オレンジ色なのに味は桃のような甘い味と不思議な気分だった。


「よくこんなの見つけたよな徹。褒めてやるよ」

「構わない。スキルのおかげだ」

「あ……」

須藤のスキル、状態異常無効を知らない赤羽が忌みを聞き返そうとした時、枝を踏みしめた音が全員の耳に届く。



「「「「「!!」」」」」

音が鳴った方に顔を向けた全員が驚愕に目を見開く。


「ぐげ」

全員の視線の先、そこにいたのは緑色の人形の生物だった。











 


  

 







 

 















君島さんボクっ娘です

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