表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
二章 ダンジョン都市アスタール編
30/30

片鱗

遅くなりましたが明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします。


 「ライカはダンジョンの内装がどんな感じか知っているか」

 「うぅ、知らないです」

 「ダンジョンは主に一階層毎に2フロアに分かれているんだ。一つが見ての通り迷宮を進むが如く道が続いていくフロアと、もう一つが階層主が住む、ボスフロアだ」

 ここら辺はゲームと同じ様な仕組みだったりする。

 一階層ずつにボスが出現し、ある階層に達すると強力なボスが出現する。尤も伝え聞いた話であり、実際に俺は強力なボスと戦った事はない。というよりも、戦闘はCランクからと定められているから戦いようがなかった。 


 「室内なのに明るいです」

 ダンジョンを進む道すがら、ライカは辺りを見渡している。

 


 「部屋全体が発光しているんだよ。お陰で部屋は意外と明るい。まぁ、真っ暗な階層とかもあるみたいだけどな」

 「それは、危険そうです」

 「......へいき、じんと、えるなら」

 確かにエルと、その力の恩恵を得ている俺なら何とかなるのかも知れない。


 しかし、今のエルの言い方だと、


 「へー、そういえば、エルフは私達とは違う意味で目がいいっていいますしね......あれ? ジンさんはなんでです?」

 このようにエルフの知識を持つ者に疑問を抱かれてしまう。



 「まぁ、色々な方法があるって事だよ」

 ライカにはスキルの事を教えていないため適当にお茶を濁しておく。


 「ふーん、そうですか......」

 何処か納得してない様子だがライカは頷いた。

 

 「それより、二人で聞き込みして得た情報はなんだっけか」

 お金を全て奪われた事の衝撃が大きく、聞き逃してしまっていた。


 「......ん、さいきん、どろぼう、おおい」

 「何でも、盗みが多発しているらしく、被害者達がそれを必死で探しているようです」

 「それ、商人から聞いたんだよな」

 「そうです、皆さん知ってましたよ」

 「思ったより、広まってるな......」

 「広まるとまずいです?」

 「うん、この事が商人に留まらず一般人にも知れわたるということは犯人も動きにくくなるという事だろ」

 もし、犯人が犯行を控える等しようものならば、情報を集めた時間は無駄ということになってしまう。



 「そんな......じゃあ、もう捕まえられないですか」

 「いや、その可能性があるってだけだ。犯人が特定されない間は犯行を繰り返す可能性も十分ある」

 「そうですか」


 ライカはほっと息を吐く。

 しかし、安心するのはまだ早い。犯人が慎重なら犯行を止める可能性だってある。いや、もう今この瞬間にも止める可能性だってあるんだ。



 「......ジン、なんとかなる?」

 「何とかするしかないだろ。一応、当てはあるんだ」

 「本当です!」

 「本当だ。ちょうどタイミングが良かった」

 ちょうど今なら、正体不明の怪盗が現れる可能性があるかもしれない。


 「どういうことです?」

 理由を聞いてこようとライカが身を乗り出して来るが手で制する。


 「詳しくは後でだ、それより、扉が見えたぞ」

 視界の先では三メートル程の高さの扉が待っている。

 

 「え、もうです? モンスターは?」

 「先に来た奴らに倒されたんだろ」

 当然ながら、ゲーム等に似ているとはいえ、この世界は現実だ。モンスターも常にいるわけではなく、先に来たものが狩れば当たり前の事だが一時的にモンスターは存在しなくなる。

 

 


 「モンスター倒さないとお金貰えないです」

 「心配しなくても、この扉の先にはいるさ」

 「どうしてです?」

 「見てれば分かる」

 見えてきた扉に一歩一歩近づいていく。





 『この先に進みますか、それとも、移動しますか』

 扉に間もなく着くというところ機械のような無機質な音声が響く。


 「えっ! な、なんですか!」

 驚いたライカは目を見開き、毛を逆立てるように警戒する。

 

 「安心しろ、扉から発せられただけた____俺達は進むぞ」

 いい終えると扉は激しい音をたてることなく一気に開く。

 

 「これは......闘技場です?」

 扉の向こうは石柱が舞台のような所まで等間隔に並んでいる。

 ライカの言う通り闘技場のような場所だ。

 

 「そうだ、彼処でこの階層のボスと戦う事になる」

 「でも、倒されてるかもです」

 「それは、心配ない。さっき声はボスに挑むか、違う階層に行くかを問うためのものだったんだ。そして、二階層目のボスとわざわざ戦う者はそうはいない」

 「違う階層ですか?」

 「ああ、行った事がある階層までだけどな」

 ゲーム等に良くあるシステムと一緒だ。

 一々行き来しなくてすむようにするための都合のいいシステムが、此方の世界でも反映されているようだった。


 二階層目は通過しなければいけないという手間はあるものの一からやり直す事に比べれば大した手間ではない。


 「それは便利です。ダンジョンとは本当にすごいですね」

 「そうだな。それに、このシステムのお陰で大人数で移動しなくてすむしな」

 一々全部の階層を通過しないといけないとなると、どうしても疲労が溜まってくる。それを回避するには分担を減らすため人数を増やす必要が出てくる。


 しかし、一足飛びで目的地に行けるなら人数は余りに多くする必要もないし、かかる物資も少なくすることができる。 


 人数を減らせばその分どうしても命の危険は高まるがそこはしょうがないだろう。



 「へー、すごいですね。そういえばジンさん達は何処まで行ったことあるですか」

 「俺達も最近昇格したばかりだし、9層までだな......くく」

 「どうしたです?」

 「いや、そういえば扉が声を発した時、エルが面白かったなって」

 無表情でいながら、目を見開き直立不動の体勢になったときは思わず笑ってしまった。



 「むぅ、ジン、いっちゃ、だめ」

 怒ったのかエルが頬を真っ赤にして少し頬を膨らませる。


 「はは、ごめん、ごめん。ほら、先行こうぜ」

 余り怒らせるのは良くないし、さっさと進む事にする。


 


 「ここはどんなモンスターがでるですか?」

 闘技場へと向かう道すがらライカが聞いてくる。

 ボスフロアにはボス以外いないため顔を直接俺に向けている。


 「ここのボスはゴブリンジェネラルだ」

 普通のゴブリンよりも頑強かつ、豪腕なのがゴブリンジェネラルだ。

 強さ的に個体差があるため一様に断言はできないが基本的なゴブリンジェネラルならDランクが5名いれば倒せると言われている。



 尤も俺とエルは一人でも余裕で倒せる。


 「どうだ、ライカ、戦ってみないか」

 「えっ、一人でですか?」

 「そうだ。いっぱしのDランクなら、油断しなければゴブリンジェネラルにそう簡単には遅れをとらないはずだ。それに、いつでもサポートする準備は整えておく」

 ライカの様な少女に一人で戦えというのは地球では畜生な発言だが、ここは異世界だ。

 ライカがある程度強いのは見れば分かるし、ゴブリンジェネラルでも対応できると思うし。何より俺はその先が見たい。


 ライカの実力が如何様なものなのか見極めたい。


 しかし、残念ながら現在の俺では戦闘を行いながら他者の力を計る事はできない。

 物語のように最初から鑑定等のチートを俺は持っていないし、

 力を見たいなら一対一で戦うのを客観的に見るしか方法はない。



 「さぁ、どうする?」

 「うーん、わかりました。やるです」

 一分程悩んだライカはコクりと首を縦にふった。


 「それで、モンスターは何処にいるです」 

 ライカが舞台の上を凝視してもそこにモンスターの姿はない。


 「まぁ、見てろ。恐らくそろそろ......」

 闘技場に向かって歩き続けていると、舞台の一部が盛り上がる。

 どうやら、来たようだ。


 「な、なんです! なんなのです!」

 突如盛り上がる隆起にライカは恐怖を感じ震えている。

 隆起は段々と手足に分かれ、人形へと変貌していく。初見の者はまず驚くような様相を呈していた。


 「ライカ、ここに来るまでにモンスターが倒されてると言ったよな。だけど、そのわりには亡骸がなかっただろ? それはな、ダンジョンで死んだ生物は時間が経つとダンジョンに吸収されて消えてしまうからなんだ」

 「そ、それがなんです」

 「モンスターが吸収されるなら逆もまたしかり、ダンジョンによってモンスターが造られる」

 言い終えると同時にそれは完成した。

 小人のゴブリンと違い、大人サイズかつ、ボディービルダーも真っ青な筋骨隆々とした青色の肉体に鋭い牙、大剣を手にしたゴブリンジェネラルが現れる。



 ギロリとゴブリンジェネラルの視線が向けられる。

 敵は誰かというようなゴブリンジェネラルの視線をライカが身を前にして遮る。


 「私が相手ですよ」

 「いけるか?」

 いざ実物を目にしたライカが怖じ気ずいていないか問いかけるとライカは力強く頷く。


 「はい、問題ないです」

 ライカには臆した様子がない。

 いや、それどころかその瞳には余裕の色がある。

 


 獲物が舞台に上がるのを待っているのかライカが舞台に近づいていってもモンスターは動かない。


 「さぁ、始めるです」

 余裕をみせるライカが一歩舞台に足を乗せた瞬間モンスターが吠える。


 「グウォォォォ」 

 「ちょ、うるさいです」

 狙っての事なのだろう。大きな叫びに耳を押さえたライカを見てモンスターがニタリと笑い、突進していく。


 発達した足は短距離においては俊敏な動きを発揮し、ライカとの距離を一気に縮める。

 モンスターは勢いをつけたそのままに大剣を振るう。


 「ちょ、さすがにそんなんで死ぬほどまぬけじゃないですよ!」

 振り下ろされた大剣をライカは横に移動して避ける。

 叩きつけられた大剣は地面を砕き大きな破砕音を上げる。


 「うへぇー、なんちゅう力ですか、それに、それは剣じゃないですよ」

 ライカの言う通りゴブリンジェネラルが持つ剣は剣というより鈍器だ。

 しかし、驚いた様な声を上げたライカの余裕は崩れていない。

 ライカは今、振り下ろされていた大剣を見切り淀みない動作で避けていた。

 

 「次は此方から行くですよ」

 大剣を振り下ろして一瞬硬直したモンスターにライカが拳を突きだす。


 「グウォ!!」

 ライカの枝のようにか細い腕がモンスターの肉の鎧を突き破りモンスターを悶絶させる。


 

 「あれは......強化魔法か」

 ステータスという概念があるこの世界とはいえ、余程のステータス差がなければライカのような少女が肉体的に不利なゴブリンの筋肉の鎧を貫けるはずがない。

 出来るとすればそれは、強化魔法だ。

 精霊魔法モードを使用し、魔法の感知力を上げるとライカの肉体を魔力が流れているのが見える。


 ライカに流れる魔力は綺麗で澱みがない。

 魔力の練度が俺よりも遥かに高い。


 「どうやら力をみたいようですから、どんどんいくですよ」

 「ゴラァァーー!」

 追撃を仕掛けようとしたライカにモンスターが腕力に任せて地に埋まっていた刃を横凪ぎに振るう。

 

 「あぶないですね」

 至近距離から迫る刃をしかし、ライカはバックステップで紙一重で躱わす。

 バックステップでは剣の長さを見切らないと紙一重では避ける事は出来ないのだが、ライカは事も無げにそれを成した。


 

 これは、予想以上だ。

 想像を越える芸当を見せるライカに驚いていると目の前では仕合の決着がつこうとしていた。


 オークジェネラルが刃を縦横無尽に振るう。

 少しでも触れれば致命傷を負うであろう刃の殴打をライカは左右に避け、後ろに下がり一撃もくらうことなく躱わしている。


 「そろそろ、決めるですよ」

 ライカは大きく後退し、重心を下げる体勢をとる。


 「なんだ?」

 重心を下げたライカに流れる魔力が急速に膨れ上がる。

 いや、それだけじゃない。


 「魔力の流れが速くなった」

 魔力が流れた所が強化されるとしたら、流れが早くなることで絶え間なくその場所が強化されるとしたら......。


 膨れ上がり早くなりはじめた魔力が下半身に集中的に集まる。


 「終わりです」 

 魔力の高まりが最高潮に達した時、ライカが爆発する。


 そんな、錯覚を覚える程、急加速したライカは加速したままに更に上半身にも魔力を勢いよく流していく。


 ライカの姿を見失っているであろうモンスターにライカのロケットパンチのごとく拳が射出される。


 先程の時点で既にライカの拳はゴブリンジェネラルの筋肉の鎧を粉砕していた。

 では、更なる強化と速度を持った拳がモンスターにぶつかったらどうなるのか、その答えを俺は目撃した。




 ゴブリンジェネラルの筋肉の鎧。それをライカの拳は紙切れが岩を包むじゃん拳と違い、薄紙のような鎧を呆気なく貫いた。



 絶叫を上げる間もなく息絶えたモンスターは光の粒子となって消える。


 「あれ? 消えたです」

 「ダンジョンに吸収されたんだよ。あくまでダンジョンによって造られたモンスターだ。死んだ後も吸収され、また出てくるんだ」

 「そうなんです」

 「ああ、それにしても強いんだな」

 「......ん、おどろいた」

 呑気に言うエルもまた、可憐な容姿から想像出来ない位に強いが、ライカもまた、華奢な見た目から考えられない程肉体面で強い。


 「えへへ、そんなことないですよ~」

 頬を染めて照れるライカだが、目の前で見た強さは事実あった事だ。


 それに、俺はもう一つ目撃した。


 ____ライカが魔力を加速させ爆発した時、地面が抉れ二つの跡が残った事を。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ