スキル
本日3話目
「……うっ」
「起きたのじんくん!」
仁が目を覚ますと目を真っ赤にし、涙目の朱乃の顔が真上にあった。
「膝枕……って、そうか、俺気絶して」
今の状態を理解した仁は自分が気絶していたことを思い出す。
「そうだよ。私このままじんくんが起きないって思ったら」
余程悲しんだのか朱乃はギュッと抱きついてくる。
「大丈夫だって。ほらこんなに元気だし」
涙目だったのは既に泣いた後だったと気付いた仁は大慌てで起き上がり、予想外の倦怠感を押し殺して自分は元気だとアピールする。
「よかった。みんなも心配してたんだよ」
「皆……」
周りを見るとクラスメイト達が仁を囲んで立っていた。
皆一様に顔をほっとさせている。
「……どうかしたのか?」
クラスメイトを見渡して違和感を感じた仁は朱乃に尋ねる。
「うん。あのね、じんくんさっきここが異世界だっていったよね」
「ああ」
「それが本当だって皆分かったの」
「……なるほど」
道理で皆安心しつつも心配そうな顔をしているわけだと納得する。
分かってしまったのだ。事の重大さを。
しかし、なんで皆信じたのかが不思議だ。考えられるとしたら自分と同じように地球外の生物を見たからか。
「遠野君。君を疑って済まない実はあの後……」
皆を代表してか謝罪した天野が仁の疑問の答えを教えてくれた。
天野によるとあの後、つまり仁が気絶した後、気絶した仁を何と気絶させた張本人である赤羽が笑ってしまったらしい。朱乃が怒って睨むと思わず笑っちゃったと謝罪した赤羽はおもむろに一本の幹に近づいていったらしい。幹に着いた赤羽は拳をそっと押し当てたようだ。どうやら仁の言葉を否定したいがための行動は皮肉なことに仁の言葉の正しさを証明してしまったらしい。
何が起きたかというと赤羽が幹に触れた途端轟音が鳴ったらしい。
轟音が鳴りやまった後、跡形もなく消えた木を見た赤羽達は仁の言っていたことが正しかったと理解したということだった。
これが三日前の事だ。
「……って三日前!」
話を聞き終えた仁はびっくりした。死の危機を感じて気絶した仁は三日も眠っていたのだ。道理で体が重く、朱乃があんなに悲しんでいたわけだ。
「という事は俺達は三日もこの場所に居たんだよな。その間どうしてたんだ」
食料も何もない状態で来たんだ。三日では死なないと思うがそれにしては皆の体調はよさそうに見える。
「それはね遠野君。君が教えてくれたスキルの力で何とかなったんだ」
「スキルで?」
「皆」
天野が指示する様に声を出すと仁を囲んでいたクラスメイト達が二つに割れる。
「これは……」
人垣が割れた視線の先では木で作られた壁があり上を向くと同じく木で作られた屋根が下を向けば床がある。
「そう、僕たちはこの場所に居住地を作ったのさ」
「そんなまさか」
這いつくばったまま扉に近づき外を眺めると二つの建物とそれを囲むように柵が建てられていた。
「すげえ、でもどうやって…………」
三日間で、それも普通の高校生が木造の家を建てられるはずがない。
「先ほども言った通りスキルの力さ」
「スキルっていったいどんな」
「ボクの創造ってスキルだよ」
仁と天野の会話に甲高い声の持ち主が入ってくる。
「君原さん……だったよな」
仁は声の持ち主に自信な下げに尋ねる。
「うん。ボクの名前は君原奏だ。大丈夫合っているよ」
「そ、そうか、それで創造とは」
「その名の通り万物を創造するスキルだ」
「それはすごい……」
創造スキルがあれば家だけではなく日用品、それどころか兵器でも何でも作れるという事だ。そう考えると恐ろしいスキルなのかもしれない。
「でもこのスキルは万能というわけにはいかないんだよ。申し訳ないけどね」
仁の恐れを悟ってか君原さんはそう補足する。
「そんなことない。こうして家を建ててくれただけでも君原さんには感謝してるよ。ね、遠野君」
「う、うん。おかげで野宿しなくてすんだよ」
もし、君島さんのスキルが無ければどんな生物が住むかもわからないこの場所に無防備に三日も眠っていたという事だ。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
君原さんは安心したように小さく微笑んだ。
くぅ~~。
会話が一段落した途端仁のお腹が小さな音を鳴らす。
「あ」
そこまでの音量ではなかったとはいえタイミングが悪かった。誰も声を発していない時になった音はこの場に居た全員に聞こえてしまっていた。
カァァァァぁ、と仁の頬がうっすらと赤く染まる。
「フッ、そうだね、三日も食べなければお腹が空いて当然だ。寝起きで本調子ではないと思うし食事をとりながら休むといい」
「え、でも、まだ聞きたいことが……」
仁にはまだ聞きたいことがいくつかあった。
休むのは構わないが自分だけ何も知らないというのも嫌だった。
「これ以上の話は朱乃さんから聞くといいさ……君も恋人から教えてもらった方がきっといい」
「……え」
僅かに声のトーンを落とした天野に真意を尋ねる前にクラスメイトを連れて出ていってしまう。
「それじゃあ説明してくれるか」
仁は朱乃から貰った見たことのない魚と緑色の果物を食べながら話を切り出す。
「うん。まず何から聞きたい?」
「まずは目覚めた時から気になってたんだけど、赤羽も含めて何人かの奴らがいなくなっているのは何でだ。もしかして……」
「違うよ! 生きてるよ。ここに居なかった人は探索に行ってるだけだよ」
「ああやっぱ」
目ざめた時、自身を気絶させた張本人の不在に仁は気付いた。
他にも何人かいないと分かり、死んだかと思いクラスメイトの顔を見たら少し暗い表情をしつつも落ち着いていたので生きてはいるなと思っていた仁の考えはどうやら正しかったらしい。
といいつつも三日たっていると聞いて実は心配していたりもした。
「で、探索っていうのは」
「うん。水を取り入ったり食料の調達とか他に人がいないのか調べるために」
「なっ、それは危険だぞ!」
この世界にはドラゴンのような生物がいる。なら、他の生物が存在する可能性は高い。
先程見なかったのは数人だけだ。その人数での探索はあまりに危険だ。
「だからこそだよ~」
危ないと詰め寄った仁に朱乃がそう零す。
「危険だから。何かがいるかもしれないからこそ少人数での行動なんだよ~」
「……どういうことだ?」
「えっとね。この森には何かいるかもしれない。だから、強力なスキルを持つ人かつ、異世界に来た現実を受け止められてる人が探索するのがベストだって。ほかの人は不安がっちゃってるとも言ってたし」
「誰がそう言ってたんだ」
朱乃の言いようだと誰かが言った発言という事になる。
「天野君」
「天野が……」
探索メンバーを決めたのが天野と知り仁は思案する。
――――確かにその通りかもしれないな。
まず戦闘向きのスキルは必須だし、君島の例から考えると逃走に適したスキル持ちがいる可能性もいるのかもしれない。仮にいなかったとしても食料は絶対に必要だから一度森を散策する必要がある。
でも、危険があると分かっていながら志願する奴もいないだろう。突然の事態に不安がっているならなおさらそうだ。
となると探索に行かせるとなると戦闘向きのスキルを持つ者、それでいて今の状況を理解し行動にうつせる者となる。
赤羽なんかはまさに適しているだろう。
納得した仁は朱乃の言葉の引っ掛かりに気付く。
「なぁ、朱乃」
「何? じんくん」
「今、何かいるかもしれないって言ったよな」
「うん。天野君がそう言ってたよ」
「という事は、森に居るものを直接見たわけじゃあないのか」
かもしれない。この言い方だと、可能性について言っているだけのように聞こえる。
「うん。そうだよ」
そして、朱乃はその通りだと頷いた。
可能性。いや、柵があることから天野は確信に近い物をいだいていたはずだ。
――――しかし、どうやって知ったんだ。
「どうして。天野は森に何かいると思ったんだ」
「えっ、ごめんじんくん、わからない」
「そうか。そうだよな」
他人の考えを朱乃がわかるわけがない。
そもそもそこまで気にすることでもないはずだ……にも拘らず仁はどうしても天野の答えを聞きたかった。
何か、言葉にできない何かを感じたのだが仁自身にその自覚はない。
「で、でも待って、天野君クラスの人たちに何か聞いていたよ」
「何か……ってなに」
「じんくんが気絶した後、ここが異世界って分かったでしょ。でも天野君異世界って言われてもピンと来ないからそういうのに詳しい男の子に異世界っていえば何を思いつくって聞いてたの」
そういうのに詳しい。オタク系の人らかと察した仁は先を促す。
「そしたらその男の子たちは。スキルの他に勇者や魔法、チート? とかモンスターとかお姫様色々言ってたの」
「……それで」
「うん。話を聞き終えた天野君はスキルの使い方を皆に話してじんくんの様子からここは危険かもって君原ちゃんに家を作ってって」
「俺の様子から?」
クラスメイトの話と仁の様子からどうして確かな危機感を抱いたのか考えてみたが分からない。
「うーん。もう少しで分かりそうなんだけどな」
「なら、疑問は今はほっといてご飯くお?」
「……そうだな」
もっと考えておきたいところだったが、朱乃が悲しそうな顔をしていたため仁は食事に集中することにした。
「にしても、この果物うまいよな」
メロンサイズの緑の果物はメロンの様な見た目に近いのに蜜柑の様な甘酸っぱい味をしている。
蜜柑好きの仁の味覚にドはまりする味だった。
「だよね。このお魚もおいし~」
「だな、でもよくとってきたよな。こんな黄緑を超えて濃い緑色の果物をさ。最初に食った奴は勇気あるな」
「あっ、それは平気だよ。病気なんかにならないスキルを持った人が毒無いって言ってたから」
もぐもぐと食べながら放たれた何気ない一言に仁の動きが止まる。
「スキル持ちを活用しているのか」
「うん。天野君が」
「そうか、天野が……」
そうい赤羽に絡まれていた時、状態異常無効というスキル名が聞こえていたことを思い出す。恐らく天野はその効果を利用して毒があるかを見極めたのだと察する。
――――異世界やスキルについて知らなかったのに君島さんの事も含めて頭の回る奴だ。
「ん? そういえば。俺のスキルって何だ」
赤羽はスマホに書いてあったよなと仁はスマホを取りだし確認しようとする。
「じんくん……」
仁がスマホを取りだすと何故か朱乃が悲しそうな声を出す。
「どうした、そんな声をだして」
そういえばさっきの天野も突然声のトーンを下げたなと不安を感じる。
「じんくんスマホ確認してないよね」
「おお、だから今から見ようとして」
「そのことなんだけどね……実は……」
「何だと。怖いんだけど。一体何が書いて――――」
恐怖を感じながらも仁はスマホの画面に目を向ける。
「実は――――じんくんだけスキルがないの」
朱乃が残酷な真実を告げるように悲しそうな声で叫ぶ。
――――この瞬間、仁は二つの衝撃を受ける。
一つは天野がどうしてここには危険な存在がいると分かった理由について。
天野は仁と同じように異世界物の小説などを愛読する者たちから情報を得て異世界の事を知った。
現在の状況と物語のいくつかが一致していることからこの世界にはモンスターという異形が存在すると考えた……ここまでなら仁でも想像できる。
しかし、天野には確信を抱いている様子があり、その理由が今まで分からなかった。
先程朱乃は天野が仁の様子から確信を得た様な事を言っていたと言っていた。
では、仁の様子とは何か、仁が他の者と違ったのはどこか、それが今、スマホを確認した時、点と点が繋がるようにして理解できた。
仁が変だったのは、他の者と違っていたのは何故か、それは仁だけが異世界に来ていると自覚していたからだ。
では、仁が何でここが異世界だと自覚していたのかそれはドラゴンという非現実的な生物を目撃していたからだ。
天野を含めてクラスメイトは眠っていたためそれを知らない。だから、仁の言う事を信じなかった。
だけど、赤羽のスキルを見たことで仁が言ったのは本当だったと信じた。気絶した仁を見て悪いと思った。
それが普通の者の思う所だ。でも、天野はそうじゃなかった。
天野は恐らくこう考えた。何で仁はここが異世界だと分かったのか、疑問を抱いた天野はクラスメイトに異世界についての情報を聞いた。
そしてこう結論付けた。森に居ながらここが異世界だと確信するには三つの方法がある。一つは他者に教えてもらう。これはこの場には自分たちだけだから却下。二つ目はスキルなど地球ではあり得ない力を使ったから。
これも仁が赤羽のスマホを見た時驚いていたから却下。ならば、最後の選択肢であるあり得ない存在を目にした、だ。そして、クラスメイトから得た情報、仁の様子、初めに仁が目覚めていたという事実からこれしかないと思った天野はこの世界には危険な生物がいると確信した。
そこに思い至った天野の洞察眼と頭の回転力に仁は衝撃を受けた。
そして、もう一つの衝撃。
――――俺にスキルが無い……………………………………………………………………………
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………………何言ってるんだ?
――――支魂譲渡。
……それは朱乃が言う事に反して仁にはスキルがそれも、なんかすごくやばい名前のスキルを持っていたことについてだった。
久しぶりの投稿コメントでのアドバイスドシドシ宜しくお願いします。