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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
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小さき恋心

次回から二章です


ぼくは学校が嫌いだ。

正確には人が嫌いなのだろう。

ぼくはまだ16歳だから人が集まる学校が嫌いなんだ。

別に何をされたわけでもない、ただ自分とは違うから嫌になるんだ。


小学生の頃はよかった。ぼくはまだ普通だったんだ。

だけど、中学生になるのぼくは周りとは少しずつ違っていった。離れていく視線。向けられる普通とは違う奇異な者を見る目。


ぼくを普通扱いしない人がぼくは嫌だ。

そう思いながら成長しぼくは高校生になった。


正直憂鬱だった。だけど、やはり将来を思えば進学しないわけにもいかずぼくは入学式を迎えた。



そこでもやはり、奇異な者を見る視線は向けられた。

だけど、高校生にもなれば周りも大人の対応を取れるようにぼくはからかわれたりはしなかった。


だけど、それでもぼくは普通とは違うと思われる事が嫌だった。

しょうがない所はあるだろう。誰だって自分とは違うものを見れば良くも悪くも気にはなる。

それを理解していながらも大人になれきれない自分がいるのも、ぼくは自覚していた。



毎日のストレスが溜まり、ぼくは学校に行くのが億劫でその日も遅刻ギリギリで学校に向かっていた時、ぼくは君と出会ったんだ。


「やべぇ、急がないと」

背後から慌ただしい足音と共に誰かが近づいてきた。


お仲間がいたかと背後を振り向くとそこには決して整っているとはいえず、かといって不細工でもない普通の顔立ちの恐らく同級生であろう少年が額に汗を流して走っているところだった。


ぼくが見つめると自然と彼と目が合う。


「君も急がないと遅刻するぞ!」

そう言って彼はぼくを通り過ぎていった。

それからも彼が何度か遅刻ギリギリで学校に向かう姿を目撃して名前は知らないのに覚えてしまった。



どうやら彼は遠野仁というらしい――――いや、待て、別にぼくがわざわざ調べたとかではないぞ。


二年に進級すると遠野くんと同じクラスになったというだけだ。


そして、このクラスは存外過ごしやすいクラスだった。というのも、このクラスにはどういう偶然か学校内でも存在感の強い者達が集まっていた。


容姿のみならず文武両道の天野翼に始まり。

性格はともかくワイルドチックに整った容姿でモデルや俳優をこなす赤羽拓海。

野球部に属しドラフト入り確実と将来を嘱望されている須藤徹。赤羽と同じく芸能界に入っている美少女、星野谷聖奈。褐色の肌に陸上部のエース西野恵。美人すぎる剣道小町とメディアでも話題の剣道部の東雲雫。全国模試でトップをとったといわれる佐々木蒼汰。

そして、特に目立った役職に就いているわけではないが性格と容姿から人気を誇る高坂朱乃。


全員何処か好きになれないこのそうそうたるメンバーのお陰でぼくに誰も注目しないからだ。


このクラスならのんびりとできると思ったぼくがふと遠野くんを見ると彼もまた、眠たげな眼差し目差しで机に肘をついていた。


そんな日常にくすりと少し可笑しさを抱いたある日、ぼくは信じられない事態に巻き込まれた。


突如として教室を眩いばかりの光が覆い、気を失ったぼくたちが目覚めると見たこともない森の中らしき場所へと来ていた。皆が事態を飲み込めず立ち尽くす事しかできない中で一人声をあげる者がいた。


 それは、以外に目立つことが苦手そうな遠野くんだった。


 「ここ、多分地球じゃないと思うんだ」


 天野翼と話していた遠野くんがそういった瞬間空気が変わったのが分かった。理解できない者へ向ける奇異な視線ーーーーぼくが嫌いな視線だ。


 何で誰も信じようとしないんだ。せめて発言の真意くらいは尋ねるべきだろうに。


 だけど、遠野くんの言葉に否定的な態度をとらなかったのはぼくだけじゃなかった。



 高坂朱乃が遠野くんの言葉を信じると言ったのだ、前々から気になっていたのだがこの二人はどういった関係なんだろうか、ぼくが疑問に思っている間も状況は推移しており気づいたら遠野くんが気絶していた。



 その後、赤羽が起こした爆発によって遠野くんの正しさが証明された。

 

 それから、遠野くんを気絶させた事でいたたまれなくなって赤羽が何人かを引き連れて逃げるように探索に行くと、クラスの男に何事かを質問していた。


 



 「成る程やはりそういうことか......もしそうなら」


 よく聞き取れなかったが、天野翼が何事かを呟くとクラスメイト達を集めて話し出した。話の内容はここは異世界で各々がスキルという力を得たということ、そしてその内容を教えてほしいというものだった。


 話を終えると天野翼はぼくに小屋を作ってほしいといってきた。

 ぼくのスキルなら可能だし遠野くんをいつまでも地べたに寝転がせるわけにもいかない、そう思いスキルを発動させると唐突に小さな小屋が二軒創造された。わかっていたことだがぼくたちは驚かずにはいられなかった。

 本音をいえばもっと大きな建物を創造したかったのだがスマホに記されたスキル欄に材料を超過するものは創造できないと記されていたため断念せざるをなかった。


 それからぼく達は須藤徹のスキル状態異常無効のお陰で安全な食料を確保することができ、飲み水も近くの湧き水を発見したことで衣食住すべてを確保することが出来た。


 その間に鑑定スキルを持つ山田孝が遠野くんがスキルを持っていないと喚いていたが些末な事だろう。








 三日後、目覚めた遠野くんがぼくの名前を覚えていたことに嬉しさを感じたが、まぁ、これも些末な事だ。



そして、この日ぼくは異界のモンスターの存在を認識した。


モンスターの存在にその日は誰もが押し黙り静まりかえっていた。


それは、ぼくも同じで衝撃がまだ残っていた。 


「ちょっといいかな」

日も暮れた頃、ぼくが小屋に戻ろうとすると声をかけられる。

声の主は遠野くんだ。


「どうしたんだい遠野くん、こんな夜更けにまさか夜這いかい?」

どうしたんだろうか、ぼくらしくもない。こんな挑発的な口調をするなんて。



「あははは、それは魅力的だけど彼女に怒られちゃうからな……一つ、お願いがあってきたんだ」

「ふん、誤魔化す必要はない。分かっている、こんな貧相な体に欲情するわけがない」

またもや、ぼくらしくもない口調で自嘲したぼくに対して遠野くんは首を傾げる。


「なんでだ? 可愛い女の子に魅力を感じるのは普通だろ?」

「なっ……」

至極当然のようにぼくを可愛いという遠野くんに言葉が一瞬でなくなる。


「御世辞はいい! お願いを早く言わないか!」

真っ赤に染まった頬を見られないように顔を背けて原口に捲し立てる。


遠野くんは照れ隠しの原口に一度笑ってから声を真剣なものにする。


「俺に武器を作ってほしいんだ!」

「武器だと? なんでだ」

「皆今の所、衝撃を受けただけで危機感が薄そうだから言うけどこの世界の事を俺達は何も知らないんだ。備えとかないとな……俺は無能なんだから」

「そうだったな」


そういえば山田がそんな事を言っていた。それに、危機感についてもその通りだ。ぼくはいや、ぼく達は現状そこまでの危機感を抱いていないのかもしれない。


ぼく達に手に終えない化け物がいるとは考えておくのが当然なんだ。


「分かった。少し待っていてくれ作ってくる」

「いいのか?」

「君の言うとおりここは危険かもしれないからね、君には死んでほしくないし」

「……有難う」

笑顔で礼を言う遠野くんと別れてぼくは小屋の裏にまわる。

ここには幾つかの材料が置かれている。


「えーと、武器を作るなら弓か槍だよな」

しょせん森の中、武器の材料になりそうなのは大木や幾つか拾った鉱石だけだ。作れる武器の選択肢は多くない。


「……槍にするか」

弓は練習が必要だが槍なら勿論修練は必要だが弓よりは遥かに扱いやすいだろう。


内にあるエネルギーを全て注ぎ込むイメージで掌同士を合わせて合掌のポーズをとる。


「『創造』――――」






「ほ、ほら、完成したぞ」

「本当に有難う! でも、なんか疲れてる?」

「頑張りすぎたのかな」

まるでエネルギーを使い果たしたように体が怠く重たいが遠野くんは喜んでいるし良しとしよう。



「それじゃあ俺、戻るね、本当にありがとう」

「ああ、お休み」

「お休み!」

余程嬉しいのか終始笑顔で遠野くんは去っていった。


「そうだ! ついでにあれの意見も聞こうかな」

今日拾ってきてくれたあれの使い道を相談するとしよう。そうと決まれば遠野くんを追いかけよう。




……最悪だ。あの後、遠野くんを追いかけたぼくは遠野くんが高坂朱乃と抱きあっている所を目撃してしまった。

まさか、本当に彼女がいたなんて、それもあの人気者の高坂朱乃だなんて意外だ。


何より意外なのはぼくがショックを受けている事だ。

遠野くんとはそんなに接点があったわけではない。

一方的にぼくが知っていただけだ。


なのに何でぼくはこんなに悲しいんだ…………





その夜は結局寝ることが出来なかった。


「外の風でもあたろう」

時刻は早朝、見張りの者以外は全員まだ寝ている。

起こさないように静かに小屋を後にする。


やはり、まだ早朝だからか空気が冷たく身に染みる。


「長居はできないな、少ししたら戻るか」

風を浴びながらふと、男子達が寝泊まりする小屋に視線を向ける。


「ん、あれは遠野くんか?」

男子部屋の前には肌寒いというのに上半身裸にした遠野くんがいた。


「彼は何をしているんだ」

気になり凝視していると遠野くんはその場で伏せて腕を上下させて腕立て伏せを開始する。

三十分程休憩を挟みながら腕立て伏せを終えると、遠野くんはランニングをはじめる。


「訓練しているのか……ちゃんと槍を扱えるように」

遠野くんは武器を持った事に安堵などせず、それを万全に扱えるようにと基礎体力から鍛えている。


……嬉しいものだな。


自分が作った物を大事に考えて扱おうとしているのだ製作者冥利に尽きるというものだ。


遠野くんは次の日も同じように基礎体力の訓練を終えた後、槍の訓練を開始していた。


遠野くんの特訓風景を眺めながらぼくは目の前の作品の制作に着手する。

とはいえ、今からやる作業はぼくにとっても初の試みだ、緊張に額に汗が流れる。


「さて、これをどう指輪として組み込むか」

手元にはシルバーアクセサリーと魔力というエネルギーを込めると強く発光する不思議な鉱石がある。


指輪はアクセサリーを変換させるとして鉱石を加工して指輪に嵌める、この二段階の作業が未体験の事だった。


「先ずはイメージだ」

遠野くんを思い浮かべながら魔力を込めていく。

すると、確かな手応えと共に望むイメージ通りに形作られていく。





次の日も遠野くんは訓練をしていた。

その姿を見ながらぼくの心は羞恥で叫んでいた。



……バカかぼくは、指輪なんてどの面下げて渡すつもりだったんだ。


指輪を完成させた後に、自分が異性に指輪を渡す理由も度胸もない事に気づいた。


「うぅぅぅぅ、バカバカバカぼくはバカだー」

自分がこんなにも普通の女のように恥ずかしがるなんて想定外だーーーー。






―――――ふふん、ぼくはやるときはやる女なんだ。

あの後、何とか遠野くんに指輪を渡すことができた。

遠野くんは指輪のサイズが自分の指とピッタリ合う事に驚いていたが君のために作ったといえる訳もないし渡せただけで取り敢えず満足としておこう。



「俺、今日散策に行ってみるよ」

次の日遠野くんは突然そんな事をのたまった。


「はぁぁぁ、何を言っているんだ君は! 自分で言っていたじゃないかここは危険だと」

「勿論分かっているさ、遠くにはいかないし西野にも付いてきてもらうし」

「西野さんが?」


そういえば探索メンバーの一人だから戦闘はできると知っているが能力までは把握していなかった。


「うん。西野のスキルは強力だから直ぐ近くを廻るだけなら危険度はそこまで高くないよ」

「それは、そうかもしれないが……」

「それに、槍を試してみたいんだ。だって折角作ってもらったものなんだぜ」

「しかし……」


その槍は君を守るために作ったものなんだ。自ら危険に向かったら本末転倒じゃないか。

積極的に賛成する事はできない。


「わかった! いきたまえ、ぼくが作った槍の威力を思う存分ふるってこい」

やけぐそ気味に叫ぶと遠野くんはまたも満面な笑みを浮かべる。今わかったがぼくはこの笑顔に弱い。


「じゃあ、早速行ってくるよ」

「くれぐれも気をつけてくれよ」

「わかってるって」

遠野くんは手をふり去っていく。


「たく、存外彼も子供だな」

だが、そんな彼といると何故か落ち着く。

彼の普通な感じがそう思わせるのだろうか。

或はぼくは彼が――――


「って、ないない」

そんな訳がない。彼には彼女がいるんだそれも、人気者の彼女だ。

どう足掻いたってぼくに勝ち目なんてない。


「だから、何故そうなる!」

やはり、今のぼくは可笑しい。

何か作業に没頭しなければ。




小屋の裏に周り材料を手に取る。


「そうだ、ぼくにはやるべき事があるんだ、今は彼の事なんて……」

材料を置こうとすると、置く前に落下音が響く。

何が落ちたのか視線を向けるとそこには人間の腕が落ちていた。


見覚えがある小さな掌に指に嵌まった彼と同じ指輪――――落ちているのはぼくの腕だ。



「うぁぁぁぁぁぁぁ」

腕を認識すると全身を激痛が駆け抜ける。

余りの痛みに絶叫をあげることしかできない。



何が起きた――――いや、誰がやった。


犯人を確認しようとすると衝撃が襲い一気に意識が遠退く。


やばい。ここで気を失えば自分は殺される。

意識を保とうとするが無情にも意識は曇っていく。



死ぬのかぼくは……嫌だ、死にたくない。

心残りなんてないはずなのにどうしても生きたい。


なんで――――わかっている。

浮かんだのは彼だった。


人間なんて、嫌なはずだったのに彼が浮かんだ。

 死ぬ間際に自分自身を騙す必要はない。


ぼくは――――君島奏は遠野仁くんの事が…………


心の中ですら想いを伝える事ができずぼくの意識は途絶えた。




君島さんのイメージは黒髪ロングの凛とした美人です。

ロリリンと呼ぼうと思います

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