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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
20/30

エピローグ

この話で一章は終わりです。


「おーい。無事か少年」

朝日が登り始めた時刻、予定通りにラインハルトがやってくる。


「……大丈夫みたいだな」

ラインハルトの視線は事切れた坂井に注がれていた。


「はい、そっちはどうですか」

「こっちも大丈夫だ。全員とは云えないが数名捕らえる事に成功した」

「そうですか、それは良かった……所で他の皆さんは?」


やって来たのはラインハルトだけでアインの部下の兵士達が一人もいない。

 「ああ、心配するなやられたわけじゃない。実はなリオが目を覚ましてな、治療のため運んでもらったんだ」

 「それは、よかったですね」

 あの血の海に沈んでいたからだめだと思ったがどうやら、無事だった者も居たようだ。


「そうだな。それにしても少年、何か変わったか?」

「変わった?」

自覚はないが何処か変わったように見えるのだろうか。そうなのだとしたら早急に取り繕わねば。

いきなり俺の力が向上していればおかしく思われる。隠す必要があるだろう。


「いや、何か少年が大きくなったような……って、気のせいかもな」

 「そうですか、それじゃあ帰りましょう」

「そうだな、少年も疲れただろうしな......エルフの嬢ちゃんはどこ行ったんだ?」

「彼処で休んでますよ」

エルが寄りかかって休みを取っている大木の方を見たラインハルトは安堵したように胸を撫で下ろしている。


「良かった、何かあったのかと思ったぜ」

「無事ですよ。一番頑張ってくれたんで休息をとらせたんです……連れてきますね」

ラインハルトから離れてエルの元へと歩いていく。


「大丈夫かエル」

「……ん、へいき」

そう言いつつも疲労した様子のエルの腕をつかんで立ち上がらせる。


「後ろに乗れ」

「……ん」

言われた通りにエルが背中に体重を預けてくる。

両の足を腕で挟みエルには首に腕を回してもらいおんぶの体勢をとる。


「ど、どうだ。ちゃんと掴まってるか」

「……ん、つかまってる」

何処か嬉しそうに声を上擦らせたエルは腕に力を込める。掴まってくれて助かるが少し苦しいくらいだが、緩いよりはましだと我慢する。

それに、より密着してくれた方が好都合だ。


「――――エル、どうだ」

声を潜めて問いかける。


「……ん、いまはいない」

「そうか、やっぱりいたか」

視線を一瞬だけさ迷わせるが誰の姿も発見はできない。

いや、そもそも俺は先程までいた者にも気づけなかった。だから、エルに任せたのだが、やはり、予想通り監視していた者がいたようだ。


エルの網を掻い潜り未だに此方を監視している者がいるかもしれないがそうなった場合は対処のしようがないと諦めるしかないが、もしそうでないならもう一つの作戦も上手くいくだろう。


「ま、兎に角疲れたし急いで帰ろうぜ」

「……ん、おなかもすいた」

「だな。戻ったら何食べる?」

「……おにく!」

「エルフのイメージにそぐわないな」

結果はどうなるか分からない。

だけど、今はただ日常に戻ろう。

俺はこの世界で普通に生活したい、ただそれだけなんだから。









 「それで、調査結果はどうだ」

 ダンジョン都市の兵舎の執務室。アインは目の前に立つ部下に問いかけていた。


 「この一週間来訪者ジンは都市に留まりミクロ村のラインハルトに稽古をつけてもらっているようで今の所怪しい動きはございません」

 「そうか」

 「宜しければ更に詳しく調べましょうか?」

 女は主に諜報を担当している。上司が更なる詳細を求めれば直ぐにでも行動を開始するつもりでいた。


 「いや、不要だ」

 「そうですか......」

 上司の判断に女は不満は抱かないものの意外感には包まれていた。

 女が知る上司は情報の重要性を大事にしており収集に余念がないはずだった。


 「そんな意外か......まぁ、私も出来れば彼の事を知りたいのだが、上がな」

 「左様ですか」

 上からの指示だと頭を抱えている上司を見てしかし、女はどうりでと納得した。


 「上が王都に向かったもの達を優先して探れというのは理解できるが彼もまた、来訪者なんだがな」

 「仕方ありませんーーーー私もまた彼は相応しいとは思えませんから」

 「確かにお前の報告通り、彼の実力がラインハルトにも劣り、能力も認識の阻害……それも、対象は一人のみなら彼は対したことはないだろう」

「そうではないと」


アインの言い方は明らかに含みを持った言い方だ。

女は自分の能力に客観的に見ても一定以上のものだと自負している。間違いなく自分が調べた限りでは報告にあげた通りのはずだ。


「私もお前の能力を疑っているわけではない。ただ、妙な違和感を感じるのだ」


「違和感、ですか」

「ああ、来訪者に気付かれず近づき殴りつけた事や、ラインハルト達と別に行動した事やエルフを助けた時の動きから報告通り、相手の認識を阻害するような能力、それも一度にかけられる対象が一名のみというのは確かに推測としては可笑しい所などない」


アインは数々の実績を積んできた女を信頼している。そもそも、情報源が一つのみの現状ではその情報で判断するしかない。

報告を聞いた限りでは不審な点はない。

その筈なのにアインは何処かで納得できない自分がいることを自覚していた。


「だが、私はこの推測はまるで誘導されて辿り着いたような、そんな気がしてならないんだ」

「誘導……ですか」

己の上司の言葉に女は黙るしかない。

本音で言えばアインの言葉を否定したい所だった。


アインの言うことが本当なのだとしたら来訪者の少年は自身が監視するのを承知の上で此方を謀ったということだ。事態は緊迫しておりそのような余裕などなかったはずだ。


緊迫した中でもそれを利用したのだとしたらゾッとする。

だから、そんなはずがないと思う女だったが決め付けは己の視野を狭くすることも理解している。


女は上司の勘が正しいと仮定して一週間前の事を思い出していく。


来訪者通しの戦闘が終結するまでを鮮明になぞっていくと盗賊に身をやつした来訪者の死に際の言葉をおもいだす。


『まさか……ここまで』


最後まで紡がれる事の無かった呟きの続きがもし、ここまで読んでいたのかだったと仮定すると女は背筋が粟立つのを感じた。


「どうした」

女が僅かに顔色を悪くした事に目敏く反応したアインが尋ねると女は囁くような声量から自分が抱いた畏怖を語りはじめる。


「その、アイン上官の言うとおりにここまでが全て彼の計算の上などだとしたら気になる事がございまして」

「気になる事……」

「はい。報告にあげた通り、彼は相手の視力と機動力を奪い見事実力差をひっくり返して勝利しました。この点ではアイン上官の仰る通りに彼は戦の才があるといえます。もし、その状況を作り出せる彼が本当に私達の推測をも誘導しているのなら彼は同郷の者の最後まで予測していたのではないでしょうか」

「というと」


続きを促す上司の問いに女は一度生唾を飲み込んでから答える。


「盗賊の来訪者の能力は視界の緩慢にするもの、そして、その最後は身動き出来ない中での心臓への一突き。自分の胸が貫かれるまさにその瞬間をゆっくりとした時間で認識していたはずです……自分が死ぬ瞬間をじっくりと監察させる、この絶望の死にかたが計算されたものだとしたら、彼はジンは大変危険な人物なのではないのでしょうか」


「ふふふ――――ふははははは」

「じ、上官……」

突如笑いだしたアインに気でも触れたかと女は呆然とする。


「いや、すまない。そうか、お前も同じように推測したか、これで自分の推測の確信が高まったよ」

「ということは上官も同じように」


「ああ、報告を受けたとき可能性の一つとして浮かべていた」

「そうですか……流石」


高い読みを見せたジンの読みを前以てまえもって読んでいた上司に女は流石だと戦慄を覚えるが、同時に自分の推測が当たっている可能性が上がった事にも戦慄せずにはいられなかった。


「上官……やはり、彼の監視を続けた方が」

得たいの知れないかもしれない来訪者を野放しにするのは不味いと進言するがアインはやはり首を左右に振る。


「駄目だ。下手に詮索しているのを上にバレるわけにはいかない――――それに、幾ら策謀を用いようと彼は器足り得ない。肝心の実力が圧倒的に足りない」

「ですが」

「しかし、それは現時点での話」

女がジンに何かを感じ、警戒しているのに対してアインもまた、同じ予感を抱いている。


「外での監視は上に察知される恐れがある。幸い彼はこの地に留まっている、その間に接触し、彼の事を見極めろ」

「はい!」

「うむ、私が留守の間、頼むぞ」

「はっ!」

アインはこの後、任務の為にダンジョン都市アスタールを立つ事になっていた。

その、任務地は王都ドラグシア。


「私は私で見極めてくるさ――――勇者足る者がどのような者かをな」


そこはジンのクラスメイトが向かった地だった。


 



 



前書きにも書いた通り一章はこれで終わりです。

次回は幕話として短編を一話入れてから二章です。

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