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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
2/30

異世界転移

本日2話目


「……ん」

 眠りから目覚めた仁は現代人の習性なのか真っ先にスマホを手に取り電源を入れる。

 時間を確認し画面を暗くした後、画面に映る可もなく不可もない自分の顔、しいていいところを挙げるならきりっとした瞳で角度によっては中々なものかもという顔を見ているとはたと気付く。


 「あれ? 俺教室にいたよな……」

 おかしいと思った途端寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。

 完全に目が覚めると異常な事態を認識する。

 近くにクラスメイト達が倒れ伏しておりそれだけで問題だというのに仁のいる場所は見知った教室ではなく、いくつもの木に囲まれた森のような場所だということだ。


 「どうなってんだ」

 訳の分からない現状に覚醒した頭が一気に混乱する。


 「教室が眩しくなった後意識を失ったんだよな。あの後どこかに連れられたのか? ここは……」

 「……っ」

思考に没頭していると誰かの息づかいが聞こえてくる。

 「――――そうだ、朱乃」

 混乱しつつも事態を把握しようとしていた仁は大事な彼女の事を思い出す。

 自分は何ともないが彼女無事かは分からない。不安を感じた仁が彼女に近づき、その口に手を当てると規則正しい呼吸が手に当たる。


 「はぁ~、よかった」

 ひとまず安心した仁が見渡すとクラスメイト二十六名全員が眠っているものの傷一つ負ってないとわかる。

クラスメイトが無事とわかると仁は現状を把握するのを努めるのに戻る。


 現状を把握するといっても情報が少ないため分かるのは自分たちはどこかに攫われたということだけだ。

 ここがどこで、誰がどんな目的でどのような手段をもって自分たちを攫ったのかと肝心なことは何一つ分からない。


 「そもそも俺達を攫う意味が分からないんだよな。そりゃ、攫うに値する奴は何人かいるけど……」

 彼女の朱乃も含めて仁が通う学校は芸能関係の仕事に寛容ということもあり何人か事件に巻き込まれてもおかしくはない人物がいるにはいるが、一人攫うのも大変なのにクラスの全員、それも何の価値もない自分が攫われたという事実に誘拐のリスク面でも犯人の考えという点でも理解できない。


「……まてよ。そもそもこれは誘拐なのか」

 犯人の事を色々思い浮かべていた仁は一つの考えを思いつく。

 ――――これは誘拐なんかではなくクラスメイトのドッキリなのではないか。

 そもそも集団誘拐なんて普通じゃない。それならクラスメイトが仕掛けたドッキリだという考えのがありえる。

 自分が焦っているのをカメラかなんかで撮っているのだろう、少々度が過ぎているとは思うがありえないことではない。


 「おい、もうドッキリだって気付いたから起きていいよ」

 仁は朱乃の体を揺するが朱乃は目を閉じたまま動かない。

 

 「もう気付いたからいい…………ほぁ?」

 朱乃の体を揺する仁が不意に視線を上げた時一つの影を捉える。


 「なんだあれ……」

 仁の見つめる先の空に一匹の生物が浮かんでいる。

 その生物は紅く巨大な体躯を雄々しい翼で悠々と飛行していた。


「ウソだろ……」

 その生物を見た途端仁はここまでの出来事と自分が知るある知識にを一気に結びつけていく。

 そんなはずはないと仁は首をふる。

 仁が思い浮かべたのはドッキリや集団誘拐とは違う。それこそ絶対にありえないことだ。

 しかし、自分の置かれた状況にどうしようもない既視感を感じる。そして、仁はその正体に気付いている。

 ――――実際に見たことがあるんだ、今の自分と同じ目にあっている奴を……本の中で!


 物語のような異世界への転移。正気とは言えないこの考えを先程のドラゴンとも呼ぶべき生物を見たことで間違っていないと仁は確信していた。




 


 「どうしたのじんくん?」

 「いや、なんでもない」

 仁が自分が置かれた身を理解してからすぐにクラスメイトの目が覚めた。

 目覚めたクラスメイト達は自分たちが教室から移動していることに驚いた後、すぐに先程の仁と同じく自分たちは誘拐されたのではないかと思い至り不安そうにしている。

 ただ一人自分たちが普通ではない所にいると知っている仁もまた不安を感じていた。


自分たちは何故この場に居るのか、物語と同じだとしたら誰かが連れてきたのかもしれない。仮に呼ばれたのだとしても相手が善人にとかぎらないかもしれない。

 何より、ここが本当に自分が知る世界と違うなら自分たちは帰れないのかもしれないと様々な不安が押し寄せてくる。


 とてもじゃないが仁一人で背負うには荷が重すぎる。



 「……天野くん、ちょっといいか」

 だから仁はこの不安をみんなで分散することにした。


 「大丈夫だから落ち着いて……ん、何だい遠野くん」

 大多数の者達が不安がっている中、クラスメイトを宥めていた天野と呼ばれた少年が仁へと顔を向ける。

 

 「どうしたらいいか決めかねてるか尋ねたいんだけど」

 「うん。どうしたの?」

 自身も不安を感じているであろうにそれをおくびも出さずに天野は人のよさそうな笑みを見せる。

 仁もここが地球ではないと話したらパニックになることは容易に想像できる。だから、平凡な自分とは違う全てが特別側の天野に決断を託すことにした。

 

 「ここ、多分地球ではないと思うんだ」




 もしクラスメイトが突然自分たちは違う世界に来たんだと言い始めたら周りがどう思うのか。

 仁は今、それを身をもって感じていた。


 侮蔑に呆れに哀れみ、様々な目をクラスメイト達が向けてくる。

 ――――まぁ、当然だよな。

 たとえ見知らぬ場所に来ていたとはいえここが異世界なんて信じられるわけがない。普通にあり得ないことだからだ。

 仁自身もドラゴンを見ていなければ絶対に信じない。


 「何か根拠はあるのかい」

 しかし、そこは容姿に頭脳、そして人望まで兼ね備えた優等生の天野、荒唐無稽な仁の話を一笑に付すことはなく今の様子から仁が何かを知っているのではないかという可能性からちゃんと質問してくる。


 「ある……って言ってもきっと信じないからスマホを見てくれないか」

仁が言うと天野や朱乃が真っ先に自信のスマホを取りだし、少し遅れてクラスの全員も連絡が取れるかもという期待も込めてスマホを取りだし始める。


 「圏外だね……これがどうかしたかい」

 連絡を取れないように電波の遮断位するだろうと言いたげな天野に仁は首を振る。


 「俺が見てほしいのは時間だよ」

 「時間……あ」

 「さすがに早いな」

 「時間がどうかしたの?」

 即座に理解した天野と違い朱乃は仁の言いたいことが分からないようでそれは他の者も同様だった。

 仁は朱乃に伝えながら周りにも聞こえるように大きめの声で話す。


 「朱乃。俺達が誘拐されたとしてそれはいつだったかわかるか」

 「う~ん、ピカーって光った時だよね。あれは確かじんくんと教室についてすぐだったよね」

 「そうだ。だとしたらおかしいだろ。あまりにも時間が経っていなさすぎる」

 「あ」

 「わかったか。時間はあれから十分と経っていないんだ。一クラスの人間を攫うだけならまだ可能かもしれない、だけど全員を十分以内で移動させるなんて不可能なんだよ。それこそ神隠しにでもあわなければな」

 仁の言葉に聴衆の顔が曇る。その様を見た仁はしかし、クラスメイトが異世界に来たというのを信じていないことを察する。

 ――――それでいい。

 ちょっと話しただけで信じてもらえるなんてはなっから思っていない。信じられたとしたらむしろ頭を疑いたくなってしまう。仁の目的は今起きているのはただの誘拐ではないかもと危機感を高める事だ。

 

 「そっか~、ここ地球じゃないんだ」

 どうやら朱乃はあっさりと信じ込んだようだがそれは恋人の言葉を疑いたくない乙女心によるものだと思いたい。


 「……ふむ、そうだね。皆、彼の言う通り僕たちの現状は普通ではない。だけど安心してくれ、僕たちは一人じゃない、みんなで協力すれば大丈夫だ」

 天野はクラスメイトを鼓舞する様に声を張り上げる。

 その声を聞いたものは心なしか落ち着いたように見える。


 圧倒的な信頼とカリスマ性の差が如実に表れたが仁は気にすることなくこれからの行動に思考を巡らせる。


 ――――見た感じ誰かに召喚されたというわけではなさそうだな。所謂テンプレではなさそうだけど突然見知らぬ場所に放り出されるのも困るな……こんな時、物語の主人公達ならどうする? 

 「……あの…………」

 思いついたことを話そうとしたした仁は待てよと口を紡ぐ。

 自分は今、この状況において割と目立っている。このまま自分が矢面に立つという事は自分が責任を負わなければいけない事態が起こるかもしれない。

 それはまずい。仁は後先考えず行動できる物語の主人公ではない。責任なんて負いたくないし自分では抱えきれないとも理解している。

 だからこそ、それができるであろう天野に決断を託したのだ。自分は傍観者に徹するのだと人から見たら最低な行為を自分はモブの役割を果たすだけだと言い換えてこれ以上の口出しをやめる事に決めた。

 そうと決まれば仁の行動は早い。発言するために前に出ていた所を群衆の中に紛れようと人ごみに戻っていく。

 

 「さてこれからについてだが……」 

 「――――あ、んだこれ」

 仁の期待通り天野がこれからの行動方針について話そうと口を開けた所、一人の男の声が割り込む。

 

 「どうした拓海?」

 「見てみろよ翼、なんか変なアプリがスマホに入っているんだよ」

 天野に拓海と呼ばれた男が差し出したスマホの画面を人ごみに戻ろうとしていた仁は何となしに目にする。


 「これは……なんだ? 数字と文章?」

 「だから俺も知んねーって」

天野は首をひねっていたが仁はスマホを見つめて目を見開いていた。

 スマホに映っていたのは天野の言う通り数字と文字の羅列。正確に言うといくつかの数字の下にスキルという欄があり文章が書かれていた。

 スマホには爆裂拳――――爆発させる意思の元触れた物を爆発させる云々が書いてある。それは仁にとってすごく見覚えのあるものだ。


 「ステータス……」

 「わかるのかい?」

 「わかるよ。ゲームなんかでもよくあるだろ。HPやMPそれに魔法なんかのスキルを含めたその者のステータス。まさかここが異世界だからってそんなものまで」

 異世界に来て人並み外れた力を得る。なるほど物語の中ではよくあることだ。

 だとしたらこのまま口を噤むのはまずい。ここは目立とうがスキルについて理解させる。


 「すまない。僕はゲームとかはやったことがなくて」

 「ああ、天野はまじめそうだし知らないかもしれないけど異世界物の本やゲームとかではよく見るんだよ。赤羽のスキルを爆裂拳……危険なこれを発動させようと思ったら本当に爆発が起きる!」

 恐らく、いや絶対ステータスに書かれた事が実際に発動する。だとしたら赤羽の様な強力なスキル持ちは自覚させておかないと大事故に繋がる。

 

 「おい……いい加減にしろよお前……」

 仁が天野に詰め寄っていると危険人物扱いされた赤羽が仁の襟に掴みかかる。


 「さっきから黙って聞いてれば、異世界だの神隠しだのスキルだの意味わからねえことばっか言いやがって、お前気持ち悪いんだよ」

 「でも、ほ、本当なんだ。証拠に皆のスマホもみてくれ」

 睨みつけてくる赤羽に全員のスマホを確認する様に仁は口にする。

 

 「はぁ!」

 「……本当だよ拓海、僕のスマホにも書いてある」

 皆はどうだいと天野が促すとクラスメイトの私も俺もとスキル名らしきものを叫ぶ声が仁の耳に届く。


 「聖奈お前もか」

 「うん、ウチにも――――」

 赤羽に聞かれた髪を派手に染めた女が質問に答えようとすると「もういいでしょ!」という怒り声が遮る。


 「拓海君、じんくんは嘘言っていないよ。だからその手どけてあげて」

 「いや、けどよ朱乃、こいつが変なこと言いやがるから」

 「いいからどけて」

 朱乃に怒られた途端態度を変えた赤羽は一度舌打ちした後、手を下して仁から距離をとる。

 赤羽の豹変ぶりに驚愕しつつもそう言えばこいつは朱乃に好意を抱いていたんだと思いだす。

 仁にとって赤羽は朱乃と同じく特別側の人間だから付き合う前はお似合いだと思っていた時期があった。

 他に好意を抱いていた者が嫌がらせなんかをしてくる中、赤羽は何もしてこなかったからてっきり諦めていたのかと思ったがあの様子だといまだ好意を持ったままらしい。

 

 「――――まてよ。実際にやってやればいいのか」

 解放された安心感から仁が益体もない事を考えていると赤羽から不穏な呟きが発せられる。


 「いいぜ、遠野。お前の言う事を信じてやろうじゃないか。その代り……お前で試させてくれよ」

 そういった赤羽は勢いよく振り返りそのままの勢いで拳を向けてくる。


 「じんくん!」

 朱乃が悲痛の声を上げてクラスメイトは赤羽の暴挙にどよめく。


 「――――!」

 そんな中、当の本人である仁は一言も発せないでいた。

 拳が当たったら自分は死ぬ。突然の事だ、避ける事はかなわない。いや、あるいは普段の仁なら避ける事は出来たのかもしれない。これでも反射神経にはそこそこの自信がある。

 しかし、今目の前にある拳は相手に自覚がないとはいえ当たったら即死の拳だ。もしかしたらスキルは発動しないのかもしれない。それでも発動するかもしれない。

 リアルに感じる死が仁の自由を奪っていた。


 やけに視界がスローモーションで動く中少しずつ死の拳が近づいてくる。

 着実に迫る拳に恐怖を感じているとこれまでの生涯が走馬灯のように思い浮かぶ。


 拳が鼻先に当たりそうになる。

 ――――死んだな。

 自分の顔が破裂するのかと恐怖を感じている仁にできるのはギュッと目を瞑ることだけだった。


 「……あれ?」

 死を覚悟した仁が拳の感触が訪れないことを不思議に思い目を開けると赤羽の拳は鼻先に当たる寸前で止められていた。


 「なんてな」

 赤羽がニッと笑い周りもよかったと安心している。

 自分が何をしようとしていたのか自覚していない赤羽にイラッときた仁が何か言おうとすると呂律がうまく回らない。

 「あ……はりぇ」

 呂律が回らないだけではなく体に力が入らず尻餅をつく。


 「じんくん!」

 朱乃が駆けつけて心配そうに仁の名前を呼ぶ。


 「だ、大丈夫ぅ……」

 心配ない。大丈夫だと朱乃に笑いかけようとしたところ視界が真黒に染まる。

 あっ、やばい。と思った時には遅く地面に倒れ込んだ音がかろうじて聞こえる。


 「じんくん! じんくん」

 朱乃が呼びかける声も次第に遠のいていきそのまま仁の意識は途絶えた。



 異世界に来てからわずか数十分で仁は死の恐怖を感じて二度目の気絶にはいることとなった。



コミケ参戦したいな

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