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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
14/30

隠形

一応2話目


「やるじゃないか少年」

狼型のモンスターとの戦闘を終えると先陣をきっていたラインハルトが俺へと言ってきた。

……しまった。エルには念のため余り実力を見せるなとは伝えていたが魔法速度については何も言っていなかった。

予測出来ていなかったから仕方ないとはいえ、不味いかもしれない。


「いえ、俺は全然ですよ。エルが凄いだけです」

「確かに流石エルフってだけはあったな。すげー発動速度だったぜ」

良かった。やはり、この世界でもエルフは魔法に長けているらしい。お陰で誤魔化せた。

いつかはバレることであるとはいえ、俺もまた同じ位の速度で発動できる事はできるだけ知られない方がいいからな。武器はできるだけ温存するべきた。


「自慢の仲間ですからね。でも、皆さんの魔法も凄かったですよ」

「まぁ、大きな町に比べたらまだまだだけどな」

ラインハルトはむず痒そうに頭を押さえつつぼやく。

どうやら、謙遜している訳ではなさそうだ。

俺の魔法よりも威力が高いのに大きな町と比べるとまだまだとか上には上がいるということか。


「何をしておる! 魔物を倒したなら早く進むぞ!」

「っと、依頼主さんがご立腹だ。おい、お前ら! 移動開始するぞ」

依頼主のブランが馬車から顔をだして叫んでくる。先程から戦闘が始まる度に馬車に閉じ籠っているこの男は態度と声だけは大きい。


「ほら、早くせんか!」

「はいはい、急ぎますよ。ということだ。少年、俺はお偉いさんを宥めにいってくるわ」

「頑張ってくださいね」

辟易そうにしながらラインハルトはブランの下に駆けていく。

しかし、思った以上にラインハルトは親しげにするな。


「まずいな」

演技にしろ素であるにしろ今の態度のまま接するのは余り良いことではない。自分が心からラインハルトを憎める気が欠片もしないのだ。

情は判断を鈍らせる事に繋がる。


「駄目だな。何処までいっても甘さが抜けきらない」

もっと強くなるには甘さは捨て去らなければいけないというのに。

それにラインハルトとは現在明確な敵対関係にいるのだ。

躊躇せず殺れるようにならないと――――


「おい、そこのがき共、早くせんか!」

「っと、うるさいな、今いくっての、エル急ぐぞ――どうした?」

既に動き始めた馬車に追い付こうとエルを振り向くとそこには頬を染めて呆然としているエルがいた。

何で頬を染めているんだ?


「……自慢、仲間」

「えっ?」

呟きは小さくよく聞き取れない。


「良く分かんないけど、このままじゃ置いていかれちまう」

動かないエルの手を引き馬車を追っていく。


「……えへ、えへへ」

無表情で頬を染めながら笑い声を上げるエルはどこか不気味だった。




「なあ、少年。あの嬢ちゃん凄すぎねーか」

「凄いなんてものじゃありませんよ。次々と倒していきますよ」

ラインハルトとリオは唖然と呟く。

気持ちはとてつもなく分かる。

俺達の視線の先ではエルが次々とモンスターを薙ぎ倒していっている。エルは殺すことができないため全てのモンスターはまだ生存しているが倒れた状態で止めを指すだけなら容易いことだ。


……エルはあそこまで強かったのか。


思えばこれまでエルが本気で戦闘しているところを見たことがなかった。


また、肉体面では虚弱だと思っていたがそれほどでもなく、流れるような身のこなしでモンスターを翻弄している。


「ジン、彼女は何者なんですか」

呆然としつつもリオが聞いてくる。

「何者もなにもエルフだけど」

「それは、見れば分かります。そうではなく彼女は何処の出身のエルフなのです」

「さぁ、彼女とは出会ったばかりなので」

リオは新人だからかエルが奴隷商人の下に居たことを知らないのかもしれない。


「そうだったのか……それにしても強い。エルフとは皆ああも強いのか」

リオが驚愕している間もエルはモンスターを倒していく。その獅子奮迅ぶりにこの場の冒険者全員も驚き足を止めている。


誰も目からも明らかだ。一番幼く、尤も可憐な少女がこの場で一番強い。


「それにあの魔法発動速度は本当に驚異的ですね」

「そうですよね。とても、真似できない」


既に魔法を見られたエルはその力を万全に行使している。地から岩を突きだしモンスターを殴打し、水の弾丸でモンスターの意識を刈っていく。

エルの魔法速度が早いためかモンスターは魔法に気づく間も無く意識を途絶えさせているように見える。



俺達が驚き動けないでいる間もエルはモンスターを薙ぎ倒していき戦闘は終わりを迎えるところだった。


戦闘を終えるとエルはとことこと駆け寄ってくる。

「……ジン、終わった、いこ」

俺の手を引き先へ進むよう促してくる。


「そうだな。行くか。ラインハルトさん進みましょう」

「おう! よし、おめぇらとっとと森を抜けるぞ」

ラインハルトは相変わらず馬車に籠っているブランに出発する旨を伝えにいく。


良かった。エルがモンスター全てを生かしていることがばれずにすんだ。明るみになっていればエルが殺せないというのがばれてしまう。


偶発的にだがラインハルトを含め全ての冒険者がエルへと注目している。結果としては俺達へと警戒は高まるであろうがエルの力を目の当たりにした今では迂闊に向こうも行動出来ないはずだ。そんな中で弱点が露呈するのは良くない事だ。


「ジン、どうだった」

エルは興奮した様子で聞いてくる。どういうわけか先程からずっとこの調子だ。


「ああ、凄かったぞ」

「ん、とうぜん」

エルは自慢気に胸を反らず。


「だけど、余り好きに動かないでくれよな」

いっそのこと力を見せつける行為は正解だった。

だが、気になるのはこの行為がエルの独断によるものだということだ。結果的には良かったとはいえ、余りに独断で行動されると一緒に行動をとる上では余りよろしくない。


「ん、ごめんなさい」

「別に怒ってはいないさ」

シュンと落ち込むエルにそこは否定しておく。

独断で動きすぎるのも良くないが俺が全てを決めるのも良くないし、結果として上手くいかない事くらいは分かっている。


「要は二人で相談しあっていこうってことだ。仲間だろ?」

「ん! なかま」

どうやら機嫌が回復したらしくエルは雰囲気を明るいものにした。


「所でエル、俺に稽古をつけてくれよ」

「ん?」

突然の頼みに首を傾げたエルの耳元に顔を寄せる。


「ほら、俺の力、教えただろ」

俺の力はエルにお陰で手にいれたものだ。なら、俺の上位互換であるエルに色々と教えてもらうのが強くなるためにはてっとり早いだろう。


「エルに教えてもらいたいんだ。いいか?」

「ん、エル、おしえる」

思いの外やる気を漲ぎられたエルに面位ながらも引き受けてくれた事にほっと安心する。


「ジン、さっそく、おしえる」

「おいおい、稽古は依頼が終わってからでいいからな」

やる気を漲ぎらせすぎたのか今すぐ特訓を始めようとしているエルを慌てて止める。

俺としても教わるなら早めがいいのは勿論だが、今はまずい。


「俺はまだ迂闊に魔法を見せるわけにはいかないんだよ」

折角エルという隠れ蓑を得たんだ。自分から手の内を晒すこともないだろう。


「ん、わかった。なら、みられなければいい?」

「まぁ、そうだけど」

魔法以外なら肉弾戦の事か。確かにエルからは魔法以外での肉体面でも学ぶ事はある。


「……ん、じゃ、おしえる」

「ああ、じゃあ、次休憩になったとき頼むな」

空も段々と薄暗くなり始めた時刻だし、そろそろ野営の準備に取り掛かるはずだ。





「いいか、貴様ら、今日は貴様がノロノロとしていたためここで野宿する事になってしまった。夜の間私の安眠が妨げられないようしっかりと見張っておるのだぞ!」

思った通り、直ぐに俺達は移動を止めて野営の準備に取り掛かる事になった。

ブランがああも偉そうに言ってくるのは少し予想外だったが些事な事だ。


野営の準備といっても特に俺とエルにやることはない。冒険者としてはここにいる皆が野宿に慣れているだろうし食事も僅かながら携帯食をそれぞれ持参してきている。それは、ラインハルト等兵士も同じでやるのは火を起こしての番位だろう。



冒険者達は地面や手頃な岩に座して各々好きに休憩を取っている。

彼等の邪魔をしては悪いと俺とエルは馬車を中心にした円からは離れた所で訓練をすることにした。


離れたといっても変に距離を取っても怪しまれるだろうし、ラインハルト達から見える位置にはいるし、此方からも煌々と燃え上がる火が見える。


エルとは向かい合うようにして立っている。


「格闘戦をやるのか」

「……ん、少しちがう」

「違う? なら、何で素手なんだ?」

対面に立ち会ったときエルが武器を地面に置くように言ってきたため現在俺とエルは無装備の素手の状態だ。素手で行う訓練なんて素手による格闘戦しか思い付かないのだがどうやら違うらしい。


「ジン、隠形おしえる」

「隠形……」

何処かで聞いた覚えがある。確かエルが奴隷商人が何者かに襲われた時に身を潜める為に使っていたというやつか……そこまで思い出すと同時に、エルが何を教えおうとしているのか理解した。もし、俺がそれを使えるようになったのならばそれは大きな武器になる。


「分かった。教えてくれ」

「……ん、じゃあ、きて」

腰を低くして戦闘体勢をとったエルが手をくいと挑発するように曲げる。

かかってこいって意味だというのは明白だ。


「じゃあ、遠慮なしに行くぞ」

勢い良く地を蹴り、エルへと迫りかかる。

強化された肉体による突撃はエルとの距離をあっという間に縮める。

肉薄し腕を伸ばせばエルに攻撃が届く頃、俺は腕を伸ばす。


……さぁ、どうする。

今のところ隠形を使った素振りは見せていないはずだ。エルがどうでるか気になりつつも突きだした腕の力は緩めない。


「……隠形」

「なっ!」

呟きと同時にエルの姿を見失った。突然の事に思わず動きを止めてしまう。


左右を見渡してもエルの姿は何処にも見当たらない。


……本当に消えた。

隠形という単語から予想は出来ていたがそれでもやはり、驚きは大きい。


「ジン、ここ」

「うぉ! って、何だ真ん前にいたのか」

声と共に目の前にエルが現れる。


「エル、ずっといた」

「マジか。全然分からなかったぞ」

「ん、ジンの、認識ずらした」

「俺の? 他の人からは見えているのか?」

「……そう。エル、みんなは、できない」

そうとはいえ、完全に姿を見失ったのだ、凄い事には変わらない。


「それに、隠形、つかえる、もりだけ」

「森だけでしか使えないのか」

「……ん、でも、モンスター、もりおおいから、魔法、いらいおえてから教える」

「確かに主にモンスターが出そうなのは森とかだけだもんな」

隠形を使えれば今回の依頼もグッと楽になるだろうし、今から依頼終わりの稽古まで格闘戦を教わるなら隠形を教わって確実に依頼を達成する方が合理的か。



「隠形なら、モンスター簡単」

それは、そうだろう。森の中でという制約はあるものの隠形は間違いなく強力な魔法? だ。

対人戦などで使われなどしたら急に攻撃が飛んでくるのだ。考えるだけで恐ろしい。


「あれ、もしなしてさっきの戦闘でも使ってたのか?」

モンスターはやけにアッサリと魔法の直撃を食らっていた。もしかして魔法速度が速い以外にも隠形を使っていたからだとすれば納得はできる。


「……ん、そう」


推測は正しかったようでエルは首肯する。


「隠形、すごい」

エルはまたも自慢気に胸を反らす。


「ああ、本当に凄いよ。早速やってみようかな」

嘘偽りなしで同意できる。森限定とはいえ、隠形は強力だ。その強力な力を俺は使えるのか是非試してみたい。


「どうやればいいんだ」

「……ん、まほうとおなじ」

「魔法とって大丈夫なのかそれ」

隠形が魔法なのだとしたら使って大丈夫なのかという心配はある。


「ん、大丈夫」

「そうか。なら、やってみるよ【精霊魔法】発動」

言われた通り魔法を行使するかのように隠形を発動させるイメージを行う。発動する対象はエルへと向けるイメージだ。


イメージすると内に流れるエネルギー……魔力が外へと溢れ出るのを感じる。


「……どうだ?」

魔力の流出を感じたものの実際に発現したのかは目に見えては分からない。

分かるのは対象となったエルだけだ。


「……ジン、すごい、きえた」

「良かった。出来ていたか」

成功していたようで一安心する。


「それにしても、いいな隠形」

消えるという強大さは勿論の事、魔法を使った際、魔力の放出こそ感じるものの発動速度は傍目からは分からないというのもポイントが高い。

これなら、いくらでも隠形を使える。


「発動の仕方が魔法と一緒なのも簡単で分かりやすいしな」

発動している隠形を魔法解除のイメージで消える様を想い浮かべる。


「どうだ?」

「ん、消えた」

発動と同じく解除もまた成功したようだ。


「良かった。やっぱ、魔法と同じイメージだとスムーズにいくな。成功したしそろそろ戻るか」

「ん、お腹すいた」

「そういえば、まだ食べてないしな。携帯食だけど戻って食べるか」

「……ん!」

俺が槍を拾うと空いているもう片方の手を見つめながらエルが手を差し出してくる。


「ジン、て、にぎろ?」

「お」

珍しく此方に伺ってきた事に僅かな驚きを得るが色々と助けてもらったんだ、断るなどできようはずがない。


「ほら」

「ん、ありがと」

差し出された手を受け取り握るとエルは嬉しそうにブンブンと腕を振り上げる。


「向こうに戻るまでだからな」

「ん!」

ほんの十数メートル。その間は好きにさせてあげるとしよう。そんな、決意をしていると火の周りが騒がしくなる。


「何だ?」

「パーティー? ごはん?」

「いや、どう見ても違うな」

聞こえてくる騒々しさは緊迫したものだ。賑やかにパーティーとはとても見えない雰囲気。


「十中八九ハプニングだろうな」

此処までの経験で何となく理解している。


「面倒事じゃなければいいんだけどな」

「ん」

恐らくそんな願いが叶わないのを何となしに察しつつ俺はエルと手を繋いだままラインハルト達の下に歩いていく。







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