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コーヒー砂糖ミルクあり  作者: 長谷川真美
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【それは息をするのと同じ】

 愛と恋の違いについてつい考えてしまう。研究の合間にネットサーフィンをしたらいろいろな定義が出てきた。「恋」は他人を好きという気持ちを満たしたい欲求であり、「愛」は「友愛」と「無償の愛」の感情と定義されていた。私と悠人(ゆうと)は友情や仲間を大切に気持ちを表す「友愛」から始まった。悠人は見返りを求めず、自分を犠牲にしても、相手を満たす気持ちや行動である「無償の愛」を私に向けている気がする。彼女としての至らなさから来る後ろめたさを抱きながらインターネットブラウザを閉じる。


 肩をそっと叩かれる。「椎名(しいな)さん。恋に悩んでいるの?」ニマニマした顔を浮かべた研究室で同じ修士一年の大森翼(おおもり つばさ)から話しかけられた。院生部屋の先輩は教授とのディスカッションでいない。誰もいないから大丈夫だと思っていて見ていた勉強と研究以外のホームページを他人に見られたときほど恥ずかしいことはない。大森君は浪人をして大学に入ったので年齢も同じだし、高専専攻科時代に学会やシンポジウム、打ち上げで頻繁に会っていたので気心は知れている。そのため、つい「私が彼氏を待たせてばかりで申し訳ないと思っているんだ。」と本音をこぼしてしまう。彼は真剣に考える時の癖のメガネを上げる仕草をして返答する。「確かに椎名さんは没頭すると一直線になって他のことに回すキャパがなくなるけど、それを彼氏さんはわかっていて待っていてくれているんだよね。彼氏さんは椎名さんが研究が好きで研究に没頭しているときの事を知っていて付き合い始めたんでしょ。危なっかしいこともあっても1年以上なんとか付き合い続けているから大丈夫。むしろ、好きなことを取り上げる人なら別れたほうが良いよ。」的確なアドバイスに目からウロコ状態だった。「俺も月一しか会えない彼女がいるけど待っている時に自分の時間を過ごせないような子だったら、これから先のことを考えると付き合っていられないな。」そう言い切ると大森君は「いただき」と言って私のデスクの上に置いてあった個包装のお菓子を取って自分のデスクに向かった。


 まるで嵐が去っていったかのようだった。院生部屋にも先輩が戻ってきた。次の学会のためのやり取りをしてからパソコンに向かった。先程の大森君とのやり取りが気になって研究に身が入らずプログラムだけではなくTeX(テフ)もエラーばかり続いていたので気分転換がてら研究室生のお使いのためにコンビニに向かった。お使いリストには学内の生協では買えないタバコの銘柄が列挙されていた。20歳になった時に一回だけ興味本位でタバコを吸ったことがあるが煙たくて(むせ)てしまいタバコの良さがわからなかった。匂いが服や髪につくのも避けている。研究室は教授が何度挑戦しているかわからない禁煙に挑んでいるので室内では吸う人がいないのが良かった。悠人はタバコも吸わないし、お酒も必要最低限のときしか飲まない。ギャンブルもしない。そのため高専の研究室では浮いていた。そんなことを思い出しながらコンビニまでの道を歩いていく。コンビニでは暗号にも見えるタバコの銘柄リストをコンビニの店員さんに渡し、会計を済ます。研究室への帰り道では飛行機が夜間飛行していた。月と星と飛行機で描かれた夜空は幻想的だった。携帯のカメラで撮影して悠人に送った。悠人からの返信が早かった。「幻想的な写真をありがとう。飛行機の昼の航空も素敵だけど夜間飛行も綺麗だね。東京も月と星の夜空が広がっているよ。空もつながっているんだね。」悠人はこのようなロマンチックなメールを息をすると同じように送ってくる。私にはもったいない彼氏だ。無事にお使いを果たし、研究室生はタバコを吸うために喫煙所に向かった。私と大森君だけが研究室に残った。大森君はアイスモナカをかじりながら「椎名さん、また負のスパイラルに入っているんでしょ?」と私に問いかけた。図星である。先程、悠人について考えたことについて話すと大森君は吹き出した。「甘いっ!!甘すぎる。何そのノロケ!!椎名さんは自分でわかっていないだけできちんと彼氏さんを大切にしているよ。椎名さんは彼氏さんに自分が綺麗だと思った景色を彼氏さんにも見てほしくてメールをしたんでしょ。彼氏さんは椎名さんが思っている以上に椎名さんのことが好きだよ。椎名さんは研究はできるけど、なんでそんなに自分の恋愛については言語化できないのかなぁ。」想定外の返答でフリーズしてしまう。「あぁ。もう心もお腹もいっぱいだからこれからプログラミングの作業にはいるよ。」そう呟いて大森君はイヤホンを指しPCに向かった。


 もう集中力が必要なPCでの作業はとてもではないができそうにはなかったので今度の学会で必要な論文を英訳していった。英語で書かれた専門書と辞書を片手に英訳作業を進める。作業にのめり込んでいたら教授から本で軽く頭を叩かれ、終電までには帰るようにと言われた。教授の言葉に甘えて終電で帰った。電車に揺られながら窓に映る自分の姿をふと見る。少しでも女の子らしくしたくて違う学校に進学するのを機に4月から髪を伸ばし始めた。髪の色は黒である。付き合う前だったが酒の席で悠人が女性の黒い髪が好きだと言っていたので染めていない。好きな人に少しでも好きだと思っていて欲しい。それは息をするのと同じことだ。恋愛偏差値が低い私でもそれは分かっている。車窓から見る駅と街のネオン、自動車の明かりの個別の点が集合して線となる。その線は時折、途切れていても描き続かれていく。それはまるで私と悠人の関係を描いているようだった。FIN.


連続投稿です。


知世さん視点に戻ってきました。大森君が動かしやすく、また登場させる予定です。

大森君は私には珍しいことにフルネームがあっさり決まりました。大森翼(おおもり つばさ)です。


前作では悠人視点のほうが書きやすかったですが今作では動かしづらいです…。

小説を書いていない間に読みふけっていた本が女性の一人称だった影響もあるかもしれません。


BGMはラジオ越しに流れるAIさんの曲でした。


2017年6月18日 長谷川真美

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