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コーヒー砂糖ミルクあり  作者: 長谷川真美
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【あなたの吐息は私の媚薬】

  一本の電話が彼との出会いだった。事務員が生徒の対応に追われていたため、アルバイト講師の私が塾の求人に関する問い合わせの電話を受けた。よく通る綺麗なテナーボイスと丁寧な対応が好印象だった。後日郵送された履歴書と職務経歴書も否の打ちどころがなかった。学校も国立の大学の大学院に在籍していた。大学受験用の講師の英語と数学と物理の採用テストも満点だった。正社員の講師による面接も一種の伝説物だったらしい。トントン拍子で彼の採用が決まった。


 そんなレジェンドの教育係が私に回ってきた。私の方が新しく入る講師の河口建基(かわぐち たてき)よりも講師歴が長く、私の大学卒業後の引継ぎを塾側が早くから行いたいという理由だった。私が内々定を頂いて就活が終了した4月の中旬に研修の為に初めて顔合わせをした。身長160cmでヒールの靴を履いている私でも見上げるぐらいの長身だった。河口さんは履歴書の写真以上に笑顔が素敵でにこやかさを絶やさないフレンドリーな人物だった。驚くべき事に彼は電話で一回しかやり取りをしていなかった私の名前を覚えていた。「廣瀬(ひろせ)さん、ご指導とご鞭撻のほどよろしくお願いします。」思わずたじろぐ。私の方が年下だが講師歴は長い。いくら経験してもそのポジションに慣れない。気まずい気持ちを隠して講師用のマニュアルを渡す。河口さんは軽く目を通す。簡単な質疑応答の後、バイト仲間同士で飲みに行く。


  居酒屋でビールを頼み乾杯をする。バイト仲間では河口さんが一番年上だったため、自然と彼が幹事の仕事をしていた。注文のタイミングや泥酔者の対応は慣れを感じた。私は料理の取り分けと店員さんへの対応に追われた。空のジョッキが増えていくうちに定番である恋人の話になった。思わず耳がダンボになる。河口さんに彼女がいないのはその場にいた全員が驚いた。長身で容姿端麗、頭も切れて、社交的な性格だから引く手あまただと思っていた。専攻が工学研究科の土木かつ研究室に篭ってばかりなので出会いがないらしい。私も土木程ではないが工学部の情報工学科に属しているので女子が少ない事は知っている。そんな工学部の些細な共通点から話が始まった。酔が手伝い工学部や理系あるあるから共通の趣味の読書や料理の話で盛り上がった。気がついたら居酒屋の閉店の時間になっていた。河口さんも名残惜しかったらしく二人で24時間営業のファミレスでドリンクバーだけで始発まで話し続けた。贅沢な時間だった。


 帰り際に河口さんから初めて聞く硬い声で話しかけられた。「廣瀬さんの事を廣瀬と呼び捨てしても良いですか?」いつもフランクな彼からの緊張した言葉にも関わらず思ったよりも軽い出来事に笑いそうになった。呼び捨てでもタメ口でも良いことを告げると河口さんは安心した吐息をついた。その吐息をついた彼の普段とは違う一面に恋をした。FIN.


相変わらずの不定期更新になってしまい申し訳ございません。

小説の産みの苦しみを味わっています。


単発物として書いた廣瀬と建基が気に入ってまた書いてみました。

知世さんと悠人の物語を楽しみにしてくださった方には申し訳ないです。


今回の廣瀬の年上の後輩に関する思いは私の実体験です。

職場の人間関係は自分なりの正解を暗中模索しております。


2017年6月18日 梅雨寒の日曜日の朝。

長谷川真美


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