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コーヒー砂糖ミルクあり  作者: 長谷川真美
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【営業スマイルで挨拶を】

河口健基(かわぐち たてき)。それが俺の名前だ。両親は共に工業系、特に父親が土木出身でゼネコンに勤めているから跡取り息子への思いが強く込められている。3つ下の弟も悠人(ゆうと)なので土木への執着を感じざるお得ない。中学卒業後の進路として高専、大学、大学院は物心がついた頃から決められていた。悠人の2つ下にも妹の美波(みなみ)がいるが悠人の方が一緒にいる時間が多く、からかいやすいので愛着がある。


 そんな悠人に彼女ができた。本人は隠しているつもりだがバレバレである。高専では女子が圧倒的に少ないので可愛い新入生の女子は必ずチェックされる。悠人の彼女は高専では俺の一つ下の学年だがそのチェックから外されていた。だからこそ、ひょんな事で悠人と一緒にいた本人と会った時に思ったよりも可愛くてびっくりしてしまった。


 バイト先で大絶賛されている営業スマイルを携え狼狽している悠人を尻目に知世(ともよ)さんから時間が許す限り情報収集をする。知世さんの左手薬指にも悠人とお揃いの指輪がはめられている事に気づき若干嫉妬する。博士課程に進学してから中退しなければ30歳目前まで学生であることが確定している身にとっては修士課程在学中に彼女を作っていておけばよかったと痛感しているだけに嫉妬は色濃くなる。博士課程をストレートに修了させてからは父と同じ研究職を希望しているが倍率が高い。そんな兄貴を見ているからか悠人は博士課程に進学をせずに修士課程修了後には転勤がない地方公務員を目指し、さっそく公務員試験の勉強を進めている。昔から両親に冒険家の建基(たてき)に地道な悠人(ゆうと)と言われているぐらいだ。クジラは海では悠々と振る舞っているがいまの俺は岸に上がったクジラのごとく無力だ。無力な自分に気づいたことを同じ研究室のメンバーに気づかれないように飲んだ酒はいつもよりも安っぽく苦い酒だった。


二日酔いが残っている中、プレゼンテーション能力を磨くために選んだ学習塾教師のバイト先の塾に向かう。理系コースの高校生相手に数学Ⅲと物理、英語のリーディングの講義を行った。講義の後に年下だがバイト先では先輩である私立大学の工学部情報工学科の学部4年の廣瀬祐奈(ひろせ ゆうな)からお茶のペットボトルを投げ渡される。「廣瀬(ひろせ)、サンキュー」軽く声を掛ける。廣瀬は外資系の検索エンジン会社からすでに内々定をもらっている。大学卒業後は俺よりも先に社会人になる。昨晩少々、将来を憂いていたためテンションが思わず低くなる。廣瀬は空気を読むのがうまく俺の異変に気づいたことが多々あった。今回も異変を知られるのが嫌なので悟られないように軽めのノリでいても廣瀬には感づかれた。廣瀬は今日も俺の鉄壁の営業スマイルを打破した。「河口さん、元気ないですよ。スマイルは心からですよ。今週末に気分転換にショッピングに付き合ってくれないでしょうか?ちょっとプレゼントを探しているのでアドバイスしてくれませんか?ランチをおごりますよ!!」元気が無いのは確かだし、金欠の身にはランチの奢りは嬉しい限りだ。廣瀬との買い物だったら長くはならない。「オーケー。廣瀬、俺の舌を満足させろよ!!」その買い物が新たな世界を開くことをこの時は知ることはなかった。


廣瀬はいつものパンツスーツスタイルと違い刺繍がなされたニットにフューシャピンクのスカーチョとラフな格好をしていた。靴は歩きやすいようにローヒールだった。百貨店を梯子していく。メンズの小物を中心に見ていった。店員が誰へのプレゼントかと尋ねても廣瀬は「親しい人です。」と答えるだけだ。時々俺にどのようなものをプレゼントをしたら男性は喜ぶか、どんな色が好みかと聞いていく。その問いに淡々と答えていく。1時間ほどで廣瀬はベルトを選びプレゼント用にラッピングを施された包みを手にした。廣瀬とイタリアンの店に入った。生のジャズの演奏に聞き惚れる。二人でメニューを開き注文する。やっぱりプロの味は違う。久しぶりの学食以外の外食で気を良くした。食べ終わって地下鉄の駅についた途端、廣瀬から呼びかけられる。「河口さん。よかったら受け取って下さい。」それはさっきまで一緒に選んでいたベルトが包まれたラッピングが施された箱だった。「へっ??」想定外のことで声が裏返る。「俺がもらっていいの?」廣瀬の顔が赤くなる。「今しか渡す事ができないと思って。誕生日プレゼントだと思って下さい。迷惑なら良いです。」廣瀬は言葉を続ける。「河口さんが元気になれれば良いです。元気な河口さんが好きです。」こちらに往来の人の目が向けられる。かっこいい言葉が出てくればよいがなかなか出てこない。とっさに出てきた言葉はいつもの俺の言葉だった。「廣瀬!合格!!こちらこそよろしくな。」そんなロマンが欠けている言葉でも廣瀬なら受け取ってくれる。違った、受け取る。思わず営業スマイルではない満面のスマイルが出てくる。そのスマイルを廣瀬はかすかに笑って受け止めた。FIN.


今回はサイドストーリーです。

この話はずっと書きたかった悠人の兄ちゃんの話です。

ここまで来てようやく悠人のフルネームが判明します。

悠人の兄ちゃんはモデルがいます。

わかった人は某作家さんの初期作を読み込んでいる人です。

私の偏った趣味が暴露された作品でした。


2017年6月4日 長谷川真美


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