翠の計画
うぐっ!
俺は目覚めた。
暫くたったような気がした。意識を失っていたに違いないだろうと感じる。
不思議と俺の記憶はハッキリしていた。俺が今誰の元にいるのかは分かった。
俺の管理は厳重で口、両手両足共に枷が嵌められ身動きが取れない。しかも檻に入れられているようで柵に囲われてるし、壁は黒く外の様子を確認することも不可能だ。
体が痛い。長い間この状態だったみたいだ。あちこちの筋肉が固まってそして痺れが止まらない。しかもここは馬車の上らしくテンポよく床が揺れている、微かだが馬の足音も聞こえる。
幸い大きな怪我は無いようだった。そして小さな擦り傷、かすり傷までもが丁寧に治療されている。痛みは無かった。
いきなりこんな目にあって、俺はどの様にされるのか。全く身に覚えがなかったが、妙にクラベールのことが気になる。長い間離れていればお互いの事などよく知る由もないのだ。昔と今は違う筈だ。あいつの考えてる事は分からない、だけど──
「やっと起きたんだな、ユーリ兵士」
ああ、お前と話したい。
そこには今さっき知ったばかりの筈なのに何故か馴染みがあるような、突然連れ去られたのにも関わらず憎むべきかも分からない上官が立っていた。
「俺に聞きたいことは山ほどあるだろうが何も教える気がないのは頭に入れておいてくれると有難い。」
けれど理由はある筈だ。
意味の無い行動なんてある訳ないだろ!
「、、、!」
あ、、、。
「なんの為の口枷だ。うるさくされては鬱陶しいだけだ。」
そのお前からの見下すような視線が悔しいんだよ、、、。何か、、、。
「今のお前は俺達の支配下にある。どんな抵抗も許さない。まずは俺の話を聞くことだ。」
檻が開けられすぐ近くにある椅子に俺の体はお前によって固定された。
「安心しろ、もう時期到着する。まずはクラベール教官、いやクラベールの話からだ」
クラベールが何をしたんだよ!
「ぐっ!!」
「いい加減学習しろよ」
喋れないのがもどかしい。それにこいつには聞きたい事がたくさんあるんだよ!
「お前は俺の質問にYESかNOかで答えてれば良いんだよ」
一方的すぎる。どうしたら良い、、、まさかクラベールもこんな目に遭ってるのか?
「一つ目。お前とクラベールの関係だが、お前の母の友人の娘であっているな?」
何故それを知っているのかと思いつつも頷く。
「中々素直じゃないか。では次だ。クラベールの父を見たことはあるか?」
今のこの状況との関係性が一切掴めない。しかし見た事ないのは事実、首を横に振る。
「自分の父親は?」
無かった。再び首を横に振る。こいつは俺のことをどこまで知っている?どうやって調べた?無性に不安になる。こいつの言う通り、クラベールと俺は父親がいない者同士でよく一緒に遊んでいた、と言うよりは遊んでもらっていた。母は2人とも仕事が忙しくて、まだ平和だった頃に遠くに遊びに行くことなんて無かった。そんな中2人で過ごした時間は楽しかった。
「お前のおかげでようやくあいつの予言が本物だとわかった。礼としてお前に良いことを教えてやろう」
顔を俺の耳元に寄せて来る。手が動けばぶん殴ってやりたいくらいだし、口が使えるなら噛み付いてやりたいくらいだがそうはいかない。そして
「お前は──────」
「!?」
思わず手を繋がれていることを忘れて身を乗り出す。
「おっと、驚くのも無理はない。折角だ、その理由も説明して」
チリンチリン!チリンチリン!
いきなり遠くの方で鐘の音が聞こえた。
「おっと、時間が足りなかったか、まあいい。また後でだ」
動揺を隠しきれない。こいつの言ったことは嘘か本当か。
お前は拡声器を持つ。
床の揺れが小さくなった。
あっ、、、眩しい!
いきなり現れる光に目が眩む。
俺の目の前の壁がなくなったかと思ったら、外にはたくさんの人がいた!
「?!」
驚いた。
俺の隣でお前は叫んだ。
「さあ!同士の御迎えだ!」
そう言うとお前は跪く群衆の奥にある重々しい扉の中へと消えていった。
ここ最近、息苦しい日々が続いている。力を行使し過ぎたのだろうか。それともユーリの一撃がそれ程までに重かったのか?そんな訳はないだろう。そんな事を考えながら、俺は彼の玉座のある扉を開けた。
「ただいま戻りました」
膝をつき、下を向く。
「そう畏まるな、ラエル。君も僕の同士だろう?力を持つ者同士もっと気楽に行こうじゃないか。さぁ、顔を上げて」
そう言われ顔を上げる。視線の先には玉座に座る黒髪の男、ミカエルがいた。正確に言えば夜叉の出現を予言したとされる予言者ミカエルの息子だ。
「ユーリの話はどうだい?クラベールからはそれなりの情報を手に入れることができたけど、彼は口が固そうだからね。僕の力が必要かい?」
男はにやりと微笑む。
「いいえ、大丈夫です。それにその様子だと、私の予想も正しかったと受け取ってよろしいでしょうか」
「そうだね、クラベールは君の言った通りの人物だったよ」
とても嬉しそうだった。そして自分も彼の役に立てたと思うと嬉しかった。
「で、そろそろ僕はユーリの話が聞きたいんだけど、聞かせてもらえる?」
「はい」
俺はユーリから得た情報を元に導き出される答について話すことにした。
次話は来週の木曜日辺りに投稿予定です