蒼の衝突
ここから文字数少なめになります。
「おはよう、であってるかな?ユーリ」
あれから面会が許されたのはかれこれ10時間後だった。もう朝日が登ろうとしていたところだった。
クラベールは生きていた。生きていたことだけで幸いだと思っていた。
廃れた病室だった。
クラベールは奥のベットにいた。
傷が目立った。
俺が来たと分かるとすぐに起き上がった。
「見てよ、ユーリ私眼帯だよ、ちょっと目擦っちゃったんだよねーどう?似合う?」
似合ってるよ、とは言えなかった。
「命には別状無かったんだー安心だねっ!」
安心なんかしてる暇ないだろ。
沈黙が続くと、クラベールは少し悲しそうだった。
「ユーリちょっと手貸して。」
黙って言う通りにした。
「よいしょっと!」
特に変わった様子は見えないと思ってた。だけど、クラベールの服の下から鉄の棒が伸びていた。
「義足。」
「そうだよユーリ!義足、、、」
クラベールはにこっと微笑む。
「生き残れただけで幸せなんだから、神様に感謝しなきゃだよ。大丈夫だよ心配しないでよ?」
戦闘が終わってから一番現実を痛感したような気がした。もっともっと残酷なものを見てきたはずなのに、目の前にいる幼馴染みの姿だけが現実のような気がした。
他に比べたら重症、で収まる範囲だろう。生きてるだけで幸せだと思ってた。
「クラベール、なんであの時──」
クラベールは遮った。
「えっなになに、変な事考えてるんじゃないよね?私のためだよ、私のため。それよりユーリあなたは大丈夫?」
「大丈夫だよ、たぶん、」
「多分って何!ほらほらー男の子なんだからしゃんとしなさい!」
俺のことをひたすらつんつんしてくる。
聞いていて辛かった。元気そうにしているクラベールを見るのが辛かった。
「ほら、元気にしなさい?ユーリらしくないよ?」
元気にするなんてこんな状況で無理に決まってんだろ、、、。
「クラは本当にバカだな。」
クラベールはばかだから、大バカだから。
でも、
「知ってるよ、ユーリ」
俺はその笑顔に救われた。
突然、館内放送が聞こえてくる。
「全兵に告ぐ、飛行物体がこちらに猛スピードで接近中。繰り返す、飛行物体がこちらに猛スピードで接近中。」
こんな時に、、、また陽炎か?
「着地予想点は、医療棟2階クラベール教官の病室」
「は?何だって?」
思わず声をあげた。なぜピンポイントでここ?どうやって特定した?
壁を突き破り何かが入って来た。そこで尚放送が続く。
「我々は陽炎、目的は研究者クラベールの奪取だ」
既に放送室が乗っ取られてるみたいだな。それにしてもクラベールが目的?一体なぜ?
当のクラベールは怯えきった表情でベッドに横たわっている。
壁の破壊と共に出た砂煙の中でなにがが揺らめく。どうやら俺は今部屋に突っ込んできた奴を抑えないといけないらしい。クラベールを護るために。格闘には多少の自身がある方だ、増援が来るまでなら・・・
「は!冗談だろ」
思わず笑みがこぼれた。煙の中から姿を現したのは人間ではない、夜叉だ。
何で夜叉がこんな計画的に突っ込んできたのかって言う疑問はひとまず思考の外へ、朧もないこの状況をどうやって切り抜ける?
「我の力が必要か?」
脳に直接聞こえるこの声、辺りを見渡す。それは病室のドアの近く、目視3メートル、奴が動き出してもギリギリ間に合うか?
脚に力を入れ飛び出し、目的地へと走る。後ろで何かが動く気配、予想の範囲内。目的の物、朧を掴みすぐさま反転し攻撃の姿勢に入る。朧の中にいるあいつについてはもう何も驚かない、俺に害のあることはしないだろう。
クラベールに手をかけた物体に対し、大きく振りかぶった一撃を加える。夜叉の弱点は胸、よろけた今がチャンス、早めに決着をつける。二足歩行の片足に横から打撃を加える。夜叉は案の定転倒する。あとは胸にこいつを突き立てれば、
脇腹に強い衝撃、夜叉は倒れている。一体何が?脇腹に目を向けるとそこには赤黒い物体、一体なんだ?吹き飛ばされながらその物体の元を探る。赤黒い物体の根元には持ち手のようなものがついていて、それを握る手がある。その手の主は、
「ラエル!」
叫ぶと同時に壁に激突。体中に激痛が走る。起き上がるのさえもままならない程に。なぜ特務兵士が陽炎の幇助をする?
しかし考えてる暇はない。呼吸をするだけで痛む体に起き上がり始める夜叉、そして六段兵士ラエル。朧の攻撃は基本的に打撃系統、だが鋭利になっている先端部分のみは体を貫通してもおかしくない。殺す気は無かったのか?
この絶望的状況を打開する方法は決まってる。
「俺に力を貸せ!今すぐ!」
自らの手に握るモノに語りかける。これが最後の希望。
突如体に力がみなぎる感覚、あと少しだけなら戦える。痛みを抑えながら立ち上がる。先にこっちを倒さなきゃ。
「何でうらぎったんだよぉ!」
一瞬で踏み込み間合いを詰める、そして胴を狙い横から遠心力を用いて叩き斬る。が、それをガード。ならばこの身体能力を生かした手数攻め、今の俺は普通の人間では到底追いつかない速さで動いている。なのに何故、全ての太刀筋を防がれてる?
それだけではない。強い衝撃と共に後ろに後退させられる。六段兵士の実力は伊達じゃないって事か。最早援軍を待つ他ないのか?
「今、援軍来ないか。なんて考えてるだろ」
まるで心を見透かされているようだ。
「それなら良いことを教えてやる。援軍は来ない。今俺の傘下の兵士たちが抑え込んでるだろうな」
「何故クラベールを奪うためにそこまでする?それに今までだってチャンスくらいあったんじゃないのか?」
その疑問にラエルは不敵な笑みを浮かべる。
「その疑問に答えがあったとして、それを俺がお前に教える義理は、無いっ」
言い終わると同時に一気に間合いを詰めてくる。そう、この時を待っていた。相手に最も隙ができるタイミングはここ!相手の構えに合わせるように見せて、その逆にぶつける。今の俺ならできる。勝負は一瞬。
右側に朧を構えながら飛び込んでくるラエル。間合いに入るか入らないかの位置で逆側の脇腹を叩き斬る!
その斬撃は見事にラエルを吹き飛ばす。その隙に振り返り、クラベールを連れ去ろうとする夜叉を再び叩く。
筈だった。
気づけば壁に衝突し意識が朦朧としている自分がいた。その視線の先には体中に黒い気配を纏ったラエルが近づいてきていた。
もう体は動かない。
無抵抗のままグッと体を持ち上げられた感覚がする。
「アイズ、その女と朧を持っていけ。帰るぞ」
「御意」
そんな会話が聞こえたところで俺の記憶は途切れた。
次回は来週のこの時間くらいに投稿します。ぜひ読んで頂ければ幸いです。
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