第一話:ひねくれ者の僕と落ちこぼれな人形霊 その三
朝六時三十分。目覚ましの喧しい音にたたき起こされ、若干鬱陶しく思いながら目覚ましを止める。一つ伸びをして起きだし、欠伸を噛み殺しながら自室を出て居間に入ると、昨日と変わらない様子のメリーさんがいた。亜麻色の髪が寝返りの度に左右に揺られ、幼い女の子の可愛らしさをふりまいてる――ように見える。細められた口から小さな呟きが漏れる。
「ふへへへへぇ、わたしを捨てた、罰ですよぉ……」
「…………ふぅ」
残念なメリーさんから視線を逸らし、台所に入ると、オーブントースターにパンを二枚入れて撮みを捻る。次いでフライパンを取りだし油を引いてコンロに火をつけた。程よく熱が通ったら冷蔵庫から取り出しておいた卵を三つフライパンに落とす。忽ち、フライパンから卵が焼ける子気味良い音が鳴り始めた。卵の底に火が通ったら、油が跳ねるのに気を付けながらフライパンに水を入れ、直ぐに蓋を閉じる。
目玉焼きが出来上がるまでに、同じく冷蔵庫から取り出しておいたレタスを水で洗い、タイミングよく焼けたトーストの上に乗せる。
パンはもう一枚焼いておき、その隙に目玉焼きの様子を見る。うん、中の水がほとんど蒸発し、目玉焼きに充分火が通っただろう。
最後に、焼けたトーストのレタスの上に目玉焼きを乗せ、塩で軽く味を付ければ完成だ。
目玉焼き乗せのトースト。朝はこれにコーヒーのセットが一番だと僕は思う。
日本風の古民家に住んでいて朝は洋風、そんなミスマッチなど気にしない。朝はコーヒー。そして、コーヒーにはご飯よりパンだ。
トーストを乗せた皿を持って居間に戻ると、メリーさんはまだ寝ていた。気持ちよさそうに寝ているので、とりあえず起きるまで放っておこうか。
「秋人。朝ごはんだよ」
押入れに声をかけると、押入れの戸が僅かほど開かれ、その隙間から秋人の両目が覗いた。
「……その子、まだ寝てるの?」
「うん。起きるまでそっとしとこうかと思ったんだけど……秋人?」
秋人は珍しく――一年に一度あるかないか――押入れから這い出てきた。目玉焼きトーストを取りに来たかと思ったけど、秋人はそれを無視してメリーさんの頭に近寄り、
「あっ――」
僕が止める間も無く、その頭を蹴飛ばした。思いっきり。一切の容赦もなく。
気持ちよさそうに安眠を貪っていたメリーさんは、突然の襲撃にぐるんと畳の上を転がり、そして憤怒の形相で起き上がった。
「い、いったいなにするんですかぁ! せっかくの気持ちのいい夢が台無しです!」
気持ちのいい、ねぇ。明らかに悪役じみた下品な笑いを溢していたけど。
メリーさんはギラリと輝く双眸を巡らせ、その両の瞳が秋斗を捉える。
「人を起こすのに蹴飛ばすって、どういう了見ですかぁ! かくなる上は、あなたを地獄の果てまで追いかけて後ろからグサッと……!」
「うるさい。居候の癖に、朝まで寝てるお前が悪い」
ポーチからギラリと光る刃物――カッターナイフ――を取り出そうとするメリーさんに対し、秋人はぽつりと呟くと、興味を失くしたと言いたげにトーストを乗せた皿を持ち、押入れに引っ込む。
「ちょ、ちょっと待ってください! まだあなたには言いたいことが……」
「まぁまぁ、僕らも朝ごはんを食べようよ。今日は君を捨てた人を探す聞き込みだよ。どのくらいかかるか分からないのに……」
憤怒のメリーさんを何とか抑える。その間、秋人は完全にこちらを無視していた。
スッと静かに閉めに入る押入れの襖は、最後だけパタンと嫌に音を響かせて閉じられた。
朝ごはんを食べ終え、洗濯などなどの家事を済ませた僕とメリーさんは早速町へと繰り出した。
時刻は午前十時。ここまで遅くなったのは、朝ごはんが足りないと言うことで目玉焼きトーストをもう一枚焼いたからだ。無論、所望したのはメリーさんである。慣れてくると図々しい存在だと思う。
「あ。そこです。そこの角を右に曲がって」
自転車の後ろの荷台に立つメリーさんに指差され、危うく倒れかけながらもカーブに成功する。
「ねぇ、ちょっと怖いんだけど」
「自転車に乗るのは初めてなんですよ! すごいですねぇ、風を切って進むのがこんなに気持ちいいとは思いませんでしたよ~」
メリーさんは自転車の後ろの荷台に立ち、僕の肩を掴んでバランスを保っている。周囲から見れば、僕が自転車を使うのが下手なだけに映っているだろうけど、実際にはなれない二人乗りを強要されているのだ。まったく、危なっかしくて仕方ない。
メリーさんの指示に従って坂道を駆け上がり、しばらく進むと真新しい家々が見えてきた。綺麗に整備された街並みに建てられた新築の家屋たち。誕生してから五年も経っていないような新興住宅地だ。確か、地名は若木台といったはず。
新興住宅地の中を走り、公園に自転車を停める。そして、二人でゴミ捨て場に向かった。
「ここです」
メリーさんの言葉に僕は立ち止まって辺りを窺った。何の変哲もない新興住宅と周辺住民が利用するごく普通のゴミ捨て場。
「ここで、わたしは生まれたんです」
そこが、メリーさんの誕生した場所だった。
さて、僕の予想では、メリーさんの元の持ち主はこのゴミ捨て場を利用する周辺住民だた。何らかの理由で去年の十月に引っ越し、その際にメリーさんを捨てた。と、こういったところだろうか。
となると、この周辺住民に聞き込みをするのがもっともな手法だろう。近所の人が引っ越すと言う出来事はそれなりに大きなことだ。記憶にも残りやすい、と思う。きっと、知っている人がいるはずだ。
昨今では近所づきあいが冷たくなっているなどの話もあるが、ここは東京なんかの都市部とはかけ離れた田舎県の小さな住宅街。多少の近所づきあいはあるはずだ。
はずだが……
「あきさめさん。どうしたんですか?」
「あ~うん。まぁ、ちょっとね」
時刻は午前十時三十分。時間的に出歩いている人は、あまり多くはないだろうか。僕の住む地域はけっこうな田舎だから、住宅地でも出歩いている人はちらほらと見かける程度だ。その数少ない人に聞くだけ。そう、それだけの簡単なことだ。今までだって何度もやって来た。怪異の相談事というのは、自分たちに気づかない生きている人々の何気ない行動に不満を持っていることが多い。だから、そういった人々にそれとなく話を持って行くのだ。
「あ、あの人に訊いてみたらどうです?」
メリーさんが小さな指を持ち上げて指差す。フラフラと空を見上げながら歩くお爺さんだ。少し足元がおぼつかない気がするけど。
「気が重いなぁ」
「どうしてです?」
「うん。僕さぁ、人と話すの苦手なんだ」
「話すのが苦手、ですか? それでよく相談役を名乗れますね」
「うーん、メリーさんみたいな人ならざる者、怪異とか相手なら別にいいんだけどさ。どーも、同じ人間相手は話し辛いんだよなぁ」
「あきさめさんも変わってますね。でも、わたしじゃ話すこともできないんですよ。だからお願いします」
「ま、引き受けた以上やるけどさ」
ちょっと陰鬱な気分ながら、これもいつものことだと公園のベンチから立ち上がり。ふらふらと歩くお爺さんに近づく。お爺さんは、僕が近づいて来るのに気付いた様子もなくふらふらと歩く。どこか、やつれている感じもするな。
「あのぉ」
「…………」
「あ、あのぉ~」
「…………」
「すいません! お伺いしたいことがあるんですが!」
「……ん? なんだい?」
再三の問いかけでやっと反応した。疲れる。
「えっと、つかぬ事を窺いますが、去年この地域から引っ越した人いますか?」
「引っ越し?」
「はい」
「さぁね。儂は知らんよ」
「あ……そうですか」
「そもそもここはどこだろうね?」
「は……?」
「儂は、散歩じゃ」
そう言うと、お爺さんはふらふらと町の中へと消えて行った。それと反対に、離れて耳を傾けていたメリーさんが駆け寄ってくる
「なんか、変なお爺さんですねぇ。人間って、もっと話したがりな騒がしいものと思ってましたよ」
「人にもいろいろだからね。人付き合いが苦手な人も多いんだよ」
「耳が遠い上にふらふらと危なっかしく歩くお爺さんとか」
「うん」
「同じ人間なのに、人間を嫌う人とか?」
「…………うん」
その後、僕は公園のベンチに陣取り、不本意ながらも公園近くを通りがかる人に話を訊いた。買い物に向かう主婦のおばさん。散歩するお爺さん。訪問販売をするサラリーマン。などなど、とにかくこの地域に関わっている人に、去年の十一月に引っ越した人が居ないか訊いて回った。
だけど、驚くことにそういう人は一切いなかったという。これは、引っ越したメリーさんの持ち主が捨てて行ったという前提を覆す事実だ。ということは、持ち主は引っ越しておらず、要らなくなったからメリーさんを捨てた。という予想が成り立ってくる。だとしたら、うん、少し重苦しいな。単純に要らなくなったからという理由の方が際立ってきてしまう。メリーさんの怨念がさらに高まりそうだ。
そのメリーさんはと言えば、今僕の目の前でカップヌードル――キングサイズ――を啜っている。
「す、すごい! こんなおいしいものがあるなんて! しかも二百円で買える! 感動ですよ!」
何か、すごく嬉しそうにカップヌードルを啜るメリーさん。 今の時刻はだいたい十三時。聞き込みを始めて二時間半が経過している。そろそろお昼時だろうし、コンビニで昼食のカップ麺を買うことにしたんだ。ちなみに食べている場所は公園の東屋。近くのコンビニで買って、中でお湯を入れて持ってきたのだ。
キングサイズを選んだのはもちろんのことメリーさん。心底嬉しそうに「これ! これにしましょう! これ!」と指差しで、目をキラキラ輝かせながら訴えるメリーさんに根負けし、懐に痛い出費をしたのだ。
幸い、公園には誰もいない。もし誰かいたら、ものすごい勢いで虚空へと消えていくキングサイズカップヌードルに目を点にしたことだろう。ちなみに、僕は『どん兵衛』のきつねうどん。
お昼ご飯を済ませ、ここまでの聞き込みの成果を整理する。と言っても、持ってきた手帳に話しをまとめ、メリーさんが何か思い出さないか訊くぐらいかなぁ。
「さてと。ねぇ、何か思い出すことはあるかい?」
「なにか、ですか?」
「うん、メリーさんが生まれた場所はここなんでしょ。だったら、今までは思い出せなかったことを思い出せたりするんじゃないかな」
怪異は実体を持たない存在だ。僕のクラス古民家を所有している大家さんのように実体を持って人の世に適応する輩もいるが、大概の怪異は所謂『霊感』、そちらに反応するアンテナのようなものを持っていないと話すことはおろか、存在を感知することもできない。また、霊感がとても強い人でも、常にその存在を視認することや触れることは到底できない。
僕は、特別霊感が強いんだ。だからメリーさんに触れたり話したり、視認し続けられる。
そして怪異は、形の無い『想い』というのに強く影響を受ける。
よくフィクションの物語なんかであるだろう。この世に未練を残して成仏できない幽霊の話だ。それも特定の場所・出来事・生物に強い『想い』を残しているから、場所や出来事や生物に縛られていたりするのだ。
「君が元の持ち主を思い出せないのも、ここから離れていたからじゃないかと思うんだ。君たちはそういったものに強く影響されるから」
「はぁ~なるほど。つまり、わたしも自分が捨てられたこの場所でなら思い出せることがないか? ということですね」
「まぁそういうこと」
「う、う~ん」
メリーさんはしばし考える仕草をし、結局思い出せなかったのかカップヌードルをずるずると啜った。
「……ふぅ、ごちそうさまでした。一つ、覚えていることがあるのです」
記憶の奥底を探る様に、どこか遠くを見るような目つきでメリーさんは話し始める。
「わたしがただの人形だった頃です。えっと、いつのことかは覚えてないですけど、短い間の出来事です。どこか真っ暗な部屋に置かれていたんですよ。でも押入れとか物置の中とか、狭くて苦しい場所じゃない。なにか意図して作られた広い部屋に、無造作に置かれていたんですよね。それで、定期的に人が来るんです。二人ペアが多かったですね。男の人と女の人、くっついて仲好さそうでした。わたしの所に来て、そしたら明かりがぼや~って点くんです。わたしを見た人たちはみんな驚いて……」
「驚かす感じかぁ……お化け屋敷の人形だったのかなぁ」
「分かりません」
「だよねぇ。でも、それっぽいな」
相槌を打ちながら脳内で地図を漁る。この町、さらに言えば市街に出てもお化け屋敷などどこにもない。一番近いお化け屋敷でも、車で二~三時間はかかるだろう。そんなところにあった人形が、こんな辺鄙な田舎の新興住宅地に捨てられている。
「わたし、その頃から驚かす側の人形だったんでしょうか。でも、とっても楽しかったですよ。脅かすお仕事? が終わった時、持ち主の人が言ってくれたんです。『最高だ!』って。……すごく、嬉しかったんです。ただの人形で、しかも驚かす役ってあまり好まれないじゃないですか。でも、あの人はとっても喜んでくれたんです。……ま、こんな可愛いわたしをお化け扱いするその神経は理解不能ですけどね」
今日も毒を吐きつつ、メリーさんの表情は昨日の様に暗くなかった。どこか晴れやかで、楽しそうに笑って、かすかに嘆息した。
そんなメリーさんを見ていると、僕の中でどうにかしてあげたい想いが湧き上がってくる。メリーさんは捨てた相手へ復讐をするんだと言うが、どうにか笑って終われる形にできないだろうか。
「あれ? あきさめさん。あのお爺さん。ちょっと前の人じゃないですか?」
東屋から道路の方に目を向けると、メリーさんの言う通りお爺さんが居た。ふらふらとおぼつかない足取りで、空を仰ぎ見ながらぼんやりとしている。
僕は、なんとなくお爺さんが気になりカップ麺を机に置いたままお爺さんに近寄った。
「あの、お爺さん?」
「……うん? なんじゃ坊主」
「あ、いえ……ずっと、お散歩されているんですか?」
「ずっと? 何を馬鹿なこと言っとる。儂はさっき散歩し始めたばかりじゃ」
「さっき……?」
「それより坊主はどこの誰じゃ? うん? 近所の小冬ちゃんか?」
お爺さんの言葉に違和感を覚え、僕は携帯電話を取り出すとこの町の名前とある検索ワードを打ち込み、検索をかけた。そのワードは『行方不明』。一緒に出て来た写真を見て、確信する。
「……やっぱり」
「どうかしたんですか? もしかして! わたしの持ち主はこのお爺さん!?」
駆け寄るメリーさんを手で制止し、僕は携帯電話を操作し電話をかけた。
「もしもし……はい。行方不明になっている人と思われるお爺さんを見つけたんです。場所は……」
みつけたお爺さんは、少し前から行方不明になっていた認知症の人だった。家族に何も言わず出掛け、そのまま住宅街の周辺を放浪していたらしい。住宅街だからすぐに見つかるのではないか、と思われるだろうが、ここの住宅地はかなり入り組んでいる。それに山を切り開いて作った関係上、住宅街の外側には昔の山道がまだ残っていた。お爺さんは、その山道に入り込んでしまっていたようだ。どうにか出てきたところを、偶然僕たちが発見した。と、そういうことだ。
その後、駆け付けた警察の人たちに事情を話し、状況確認も兼ねてそのままお爺さんに付き添って交番に向かった。お爺さんの家族の方が駆けつけ、丁寧にお礼を言われてその日は帰ることになったが、すでに日も暮れかけていた。思わぬ事件に遭遇し、すっかり時間を使ってしまった。
明日は朝早くからバイトだし、今日はこの辺りで切り上げよう。
僕は自転車を曳き、メリーさんはその荷台にちょこんと腰かけ、夕暮れ時の帰宅ラッシュで騒がしい道路脇の道を歩く。
「認知症って、だんだん物忘れがひどくなる人間の病気、なんですよね」
「正確には、何かを忘れているってことすら忘れるんだ。アルツハイマー型っていう症状だね。症状が重くなると、過去のことを近い出来事から少しずつ忘れていくんだって」
認知症はかなり辛い。発症した人にとっても、それを世話する人にとっても、とても辛いことだ。そのどちらも体験したことのない僕には、どうともいえないのだけど。
「だったら、今のわたしはそれに近いのかもしれません」
「幽霊とかに病気はないよ。あるとすれば、悪霊になることか、消滅か」
「そうじゃないんです。物事を忘れてしまうってことが、わたしに近いのかもしれません。わたし、秋雨さんに訊かれるまで、お化け屋敷の事も覚えてなかったんです。ただ、わたしを捨てた人への復讐しか考えてなかったんですよ」
メリーさんはポーチから本体の人形を取りだし、ギュッと握りしめた。
「持ち主の人との楽しい思い出も、本当はもっとたくさんあったかもしれないんです。でも、わたしが覚えているのはほんの僅かな時間だけ。捨てられた理由も分からない。あるのは、持ち主への恨みだけです」
寂しげにポツリとつぶやくメリーさん。その横顔は最初に会った時と同じ、悲しみに浸かっていた。ただ、復讐のためだけに、怨念を頼りに持ち主を探すメリーさん。
彼女が言う様に、メリーさんと認知症のお爺さんは一緒だろうか……?
妖怪に病気はなんて存在しない。僕ら人間が病とするものは、お化けという怪異には存在しないのだ。あるとすれば、心の病(?)くらい。それは、人形の怨念と持ち主だった人の想いから生まれたメリーさんだって同じ。
だからメリーさんは認知症じゃない。でも、持ち主を思い出せないというのは、メリーさんという存在からしておかしいのだ。
だって、メリーさんは捨てた元の持ち主に復讐するために生まれたのだ。そういう都市伝説で、怪奇現象だ。だったら、復讐すべき相手を思い出せないのはおかしい。どこか狂ってしまっている。
「ねぇ、ちょっと人形を見せてもらっていいかな」
「え? ……どうぞ」
自転車を停め、メリーさんから人形を受け取る。偶然その瞬間を見ていたのか、何もない虚空から突如人形が出現するのを見た車の運転手が危うく事故を起こしかけた。まぁ、僕にとっては関係ないのでほったらかし。じっと人形を見る。
「秋雨さん?」
人形は悲しい目をしていた。捨てられたことを恨む想いが、可愛らしい見た目とは対照的な暗い瞳から窺える。そう、その対照的な差は、お化け屋敷で突然動き出す人形に相応しい。
去年の十一月を思い出す。
この町にはお化け屋敷がなければ、そもそも遊園地すら存在しない。新興住宅地のある、とある田舎県の片田舎。でも、
「そっか、あったじゃないか。お化け屋敷」
「え?」
驚き、目を見張ったメリーさんに僕は、気付いた真実を言う。
「分かったよ。君の持ち主が誰だったのか」
答えは、僕の身近なところにあったんだ。