~第二十九話~元勇者、宣伝する~
今日のお仕事は、いつもよりかは楽な感じだったので、あっという間に終わらせる事が出来た。
他の所で作業していたタマコも終わったらしく、上司のバルバに終了の報告をした後、私はタマコと一緒に行動する事にしたのであった。
「ナナさん、今日は私もリアネちゃんのお誕生日のお祝いをしますよ」
タマコがそう言うので、私はタマコに
「ありがとう、で……リアネは可愛い物って言っていたみたいだから、可愛い物って、バルバさんが教えてくれたパッチドールでいいのかしらね?」
「多分大丈夫だと思いますよ? あ、あと甘い物なんかも一緒に渡すといいかもしれませんね?」
確かに、リアネも甘い物は結構好きだと思うしな……
そう考えた私は、とりあえず……そのパッチドールが売っていると思われる場所、バイトール王国の中央市場に向かう事にした。バイトール王国の国の中を歩いて数十分、目的地、中央市場に辿り着く。
この場所は、色々な出店が出店されているので、必要な物はある程度はここで揃える事が出来て、この国で暮らしている者としては、助かっている場所でもあった。
「ナナさん、まず……甘い物から探しましょうか?」
「そうね……あ、もしかして……タマコも食べたいんじゃない?」
「あ、え、えっと……実はそうです……私も甘い物は結構好きですし」
「そう……じゃあ、まずはパッチドールより、甘い物を探す事にしましょうか?」
「はい、解りました」
そう決めた私達は、まずは甘い物を捜索する事にした。中央市場の出店を調べていると、私が知っている物を発見した。それは、花林糖と呼ばれている品だと言うのを思い出したので、私はその花林糖を売っている店員に話しかけてみる事にした。
「すいません、これってもしかして……花林糖ですか?」
私が話しかけると、店員が
「あ、はいそうですよ? よくご存知でしたね? 南方の国から取り寄せた甘い甘味物ですね。このバイトール王国では、あんまり知らない方を多いと思ったんですが……ちなみに購入いたしますか?」
そう言われて考える。
確かに花林糖は、この国では珍しいのかも知れない。まあ今までこの国で見た事はなかったし。前に食べた事があるので、味は十分に理解しているつもりだから、これだったら娘のリアネも喜ぶかも知れないと思ったので、私は
「ちなみにこれって、いくらなんですか?」
「そうですね……大量に仕入れたのはいいのですが、見た目からなのかあんまり売れてはいないんですよ、けど甘味物ですから、それなりの値段で売らないと採算は取れそうにないですから……」
「じゃあ、私達がこれは美味しいって宣伝したらいいですか?」
「お客様にそのような事を頼むのは何か悪いですけど……やってくれるのですか?」
「私は大丈夫です、ナナさん、やりましょうよ?」
タマコがそう言うので、まあ……これくらいならいいかもって思ったので
「解ったわ、けど……どんな方法で宣伝とかするの?」
「それはやっぱり、品を褒めればいいんじゃないですかね? 美味しい物だったら人々の興味が沸くと思いますしね」
「それは確かに……じゃあ、早速その方法でやってみましょうか?」
「はい!」
とりあえず……私達は、その花林糖を売っているお店の前で、ちょっとした商品の宣伝を行う事になった。
「この花林糖って言う物、すっごい甘くて美味しいです~」
「確かに甘くて美味しいわね、これなら何個でもいける感じだわ」
そのような事をお店の前で語り合っている私達。うん……こんなんで効果はあるのだろうか? と、疑問に思ったりはしたけど、けど、甘くて美味しいのは事実だし、効果はあるのかも知れない。そして一時間後、私達が宣伝したおかげなのか、花林糖は、結構な数が売れたみたいだった。
「ありがとうございます、おかげで助かりました、あの……これはお礼と言ってはなんですけど、御裾分け致しますね? お金はいりませんので」
店員が袋に花林糖を沢山入れてくれて、分けてくれた。
「あの……本当に貰ってもいいんですかね?」
「はい、構いませんよ? あ、でも次からはお客として、このお店で商品などを購入して下さいね?」
「解りました、では行きましょうか? ナナさん」
「そうね」
店員にお礼を言った後、私達は移動する事にして、次はパッチドールを探す事にした。
探している途中、私は嫌な物を見つけてしまった。タマコも気がついたらしく、私に
「あのナナさん……あそこにいるのって、勇者様ですよね?」
そう、そこにいたのは、エルさんと話し合っている勇者君だった。
何で勇者君がこのような場所にいるのだろうか? もうこの国から離れたんじゃないのか? それと……エルさんと何を話しているのだろうか? ちょっと遠いからか、二人の会話が全く聞こえてこなかった。
「どうします? ナナさん? ナナさんは勇者様に会いたくはないのですよね?」
「まあ……そう言う事ね? ちょっと様子を見て判断する事にするわ」
「解りました、でも勇者様、あの女性に楽しそうに話している風に見えるけど、あの女性の事が好きなのですかね?」
そうだったらいいのにな……って期待したら、駄目なのだろうか? けど、エルさんにはお世話になっているし、エルさんが勇者君の事をどう思っているかなんて、解らないし……そんな事を思っていると、勇者君がその場から立ち去ったので、私達は勇者君に見つからないように、エルさんに話しかける事にしたのだった。私達が辿り着くと、エルさんが
「あ、ナナさん、聞いたわよ~」
「あの……エルさん? 聞いたって何がです?」
「勇者が貴方の事好きなんだって、あれ? でもナナさんって娘がいるわよね?」
「はい、いますけど」
「そっか……うん、解ったわ、私に出来る事はない?」
「出来る事ですか……あの、エルさんは何を企んでるんです?」
「……もしかして、ナナさんは勇者の事、好きじゃなかったり?」
「はい、そうですが」
「……そっか……いやね? 何だったら私が恋の手助けでもしてあげようかと思ったのだけど、ナナさんにはいらぬお世話だったみたいね? ごめんなさいね? えっと……それで今日は、何か御用かしら?」
「はい、あの……パッチドールって置いてありますか?」
「パッチドール? ああ、最近この国で流行っているお人形ね? ちょっと待ってね」
エルさんがそう言って離れて行ってから、数分後
「お待たせ、これがパッチドールよ? あ、もしかして……リアネちゃんにプレゼントするつもりなのかしら?」
「はい、まあそう言う事になります、今日お誕生日ですし」
「あ、そうなの? そう言う事なら早く言ってよね? なら……」
パッチドールを箱に入れて、リボンで結ぶと
「はい、ナナさんにプレゼントするわ、これをリアネちゃんに渡しておいてね?」
「え、あの……お金払わなくていいんですか?」
「今日はいいわよ、それより、リアネちゃんの反応が知りたいから、詳しく教えてね?」
「解りました、ありがとうございます」
「いいわよ、あ、そろそろ暗くなるし、戻った方がいいんじゃないかしら?」
「そうですね、ナナさん? 戻りましょうよ?」
「そうね……じゃあ、それでは」
「ええ」
そう言って、エルさんと別れる事にした。
エルさんと別れた後、タマコが「今日は私もリアネちゃんの事、お祝いしたいですから、ナナさんの家にお邪魔させて貰ってもいいですかね?」と提案して来たので、私は断る理由が無いので、了承する事にして、タマコと一緒に家へと戻る事にしたのであった。