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銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
エピローグ
48/51

一、帰還

 ゲームのエピローグらしく、その後の話をしようと思う。


 まずは無事に解放された私。カノエさんには追及したいことがたくさんあるでしょうが、それどころではありません。これがゲームなら二人の世界が広がっているんでしょうけど、現実はそうもいかないようです。

 陛下の異変を察して王宮が騒然としている。そちらへの対応が最優先だ。私にとっては幸いだけど、カノエさんは不満そうですね。


 意識を取り戻した陛下は私を見るなり「リージェン」と呼び抱きしめてくれた。


 どんな奇跡が起こったの? これもお母さまが助けてくれたからなの?

 いずれにしても感動的な再会は兵士たちが庭園に突入したことで先延ばしとなった。幸いなことに突入は陛下が意識を取り戻してからで危機一髪。状況だけ見れば犯罪者は完全に私たちだった。

 こんなところで「お父さま」なんて叫ぼうものなら真偽はともかく大スキャンダル。兵士たちはシルヴィス・エデリウスという王妃の存在を覚えていないのだから……


 一連の王宮での騒動及びヴィスティア騎士団への侵攻は亡霊の仕業ということにされた。亡霊が事件を引き起こし、検挙するために騒ぎが起きたと。それというのも亡霊本人カノエさんからの提案だ。

 陛下も納得され、これでもう亡霊が現れることもないと断言されていたように思う。


 一方ヴィスティア騎士団本部の様子はといえば、私の名を叫びながら王宮へと駆けつけてくれたのはアイズさんで、改めてリユとしての時間が消えたわけではないと実感させられた。リユとして生きてきた時間は無駄じゃなかった。

 歴史の真実を知るのは私とカノエさん、そして陛下。この場に居合わせた三人だけ、そう覚悟した私を驚かせたのは長く待ちわびていた人物だった。


 アイズさんからの知らせに借りた馬を走らせ、騎士団本部へと駆けこむ。髪なんて適当にカットしたばかりでとても人前に出られるような格好じゃなかったけれど気にすることも忘れていた。

 私を出迎えてくれたのは団長とフェリスさん。そしてもう一人――

「よっ、待たせたな。そっちも全部片付いたのか?」

 よく頑張ったと私を労うエルゼさんは傷だらけで、いたるところに包帯が見える。それでも腕を広げて出迎えてくれるから疲れなんて吹き飛んでしまった。

 エルゼさんは全部、憶えていた。カノエさんの故郷を守り通して帰還したのだ。


 シルヴィス・エデリウスは確かに存在していた。

 この世界に残った私を通して、かろうじて繋ぎ留められている? そう都合よく解釈してもいいのだろうか。

 いずれにしても、シルヴィス・エデリウスの存在なくして人生を語れない者ばかり。ある者にとっては恩人、ある者にとっては逃亡人生へ進むきっかけ。そして私にとっては母であり、陛下にとっては最愛の人だった。

 大切な人に自分が消えた世界を見せつけるのはそれもまた罰と呼ぶのかもしれない。それとも想いの強さと称えるべきか、問い掛けたところで答えは得られそうにない。


 ここで正直に告白します。エルゼさんの帰還に頭が一杯で、カノエさんが消えたことに気付きませんでした!

 さりげなく団長やアイズさんに話を振ってみましたが、騒ぎに便乗するように姿を眩ませたそうです。不甲斐ない私ですみません……


 十九日目、ゲームでいうところの最終決戦日は非常に短い一日だった。だってもう翌日、生誕祭なのだから。

 エデリウスに『悪夢の夜』という痛ましい事件は存在しない。悼む者もなく、悲しむ必要もないのだから、人々はただ浮かれるだけだ。街は完全にお祭り騒ぎという有様で、夜空を彩る星に地上を彩る銀がどちらも負けじと眩しく輝いている。

 王宮では華やかなパーティーが催され、騎士として私も出席していた。再会したばかりのエルゼさんの傍についていたかったけれど、その本人から是非にと出席を促されては断れない。実はこのパーティー、エルゼさんの勲章授与式も兼ねている。

 背を押すように送りだしてくれたエルゼさんは「俺はこのとおり行けそうにない。代わりに勲章を受け取る人間が必要だろ? ぜひとも自慢の娘に頼みたいね」と、騎士団本部で私の帰りを待っている。

 そんな伝説の騎士だが、今後は前線で活躍するつもりはないという。騎士団の剣術指導員兼料理長に就任するそうだ。料理は得意で天職だと喜んでいたし、私を鍛え上げたのはエルゼさんなので、教えることはこの十年で慣れたみたい。


「皆、聞いてほしい」

 陛下の声を合図に注目が集まる。

 これから行われるプログラムはエルゼさんの勲章授与と聞いているけれど……もしかして私はこの中を突っ切るんですか? 国の重鎮やら貴族やら騎士やら、あらゆる人が集まっているこの中で、このタイミングで!?

 ううっ、尚更ヴィスティア騎士団の制服で登場したかった! だってほら、ここで騎士の制服を着ていたらヴィスティア騎士団への好感度上がると思います。宣伝大事! それにドレスなんて年単位で着ていないので落ち着かないというのが本音だ。ちゃんと人前に出られる仕様になってますか?


 それでも私がドレスを着ているのには理由がある。

 お母さまが消えた今、王宮の一室に敷き詰められた謎のドレスを来たがる人間がいないのだ。誰のための部屋? 誰のためのドレス? ……正直不気味だと怖がられてるらしい。

 せめて娘のお前に着てほしいと望まれてしまったら、応えないわけにはいかない。これが騎士服で出向く予定だった私がドレスを着ている理由だ。


 手を引かれるように陛下の隣に並ばされる。

「紹介しよう。この者はエルゼ・クローディアの娘、リユ・クローディアだ」

 これから先の、私の身分。存在は消えたけれど王女でしたなんて悪戯に国を混乱させるわけにはいかない。そもそも王女なんて私にはつとまらない。


 たとえ悪夢の夜が消えようとエルゼ・クローディアの罪は存在した。ここでは王家に反旗を翻したとされ、やはり騎士団の存亡も危うかった。歴史の辻褄を合わせるのはそれだけ大変なのかもしれない。

 そこで真実を知った陛下がある発表を決めてくれた。


 公の場で久しく聞いていなかった伝説の騎士にして逃亡者の名、さらにはその娘の登場に会場の動揺は少なくない。

「エルゼ・クローディアは密命を受け、王家の宝を保護する任についていた。それは何にも代えがたき銀の秘宝であり、彼は無事任務を終え帰還してくれた。すべては偽り。よって誇り高き英雄に勲章を授与する」

 刹那、割れんばかりの歓声と拍手が起こる。

 銀を宿した娘の登場、逃亡者が実は英雄だったというのだから興奮は冷めない。これでエルゼさんの名誉と騎士団の存亡には兆しが差したと思う。

 すでに会場を飛び出した第一陣は街へ吉報を運ぼうとしていた。本来ならば無礼な行為だろうと、この場において咎めようとする人間はいない。むしろ知らせてやれという空気が大きかった。


 私は本人に代わって勲章を受け取り、うん、任務完了。早く帰りたいところなんだけど……しかしもう一つ大きな発表が待っていた。こちらに関してはまったくもって聞いてないんですけど!

時間が許す限り、また更新致します!

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