二十三、暴露大会
私も転生者、そうおっしゃいました? まさかの女神様からの告白にどう反応すればいいのか、混乱することしばらく……
「……ま、まあ、私も転生者ですし、他にもいたところで驚きませんけど――いえ驚いていますけど……。さすがに女神ポジションなんて想定外で……」
「他にもいるぞ。パン屋のエマに、定食屋のアニスも転生仲間だ」
「はい!?」
今度こそ心の叫びが押さえられなかった。でも思い返してみれば――
「確かにあの二人は、初めから役立たず騎士団の私にも好意的だった……それはつまり、私が主人公で、この世界がゲームの世界だと、自分たちが転生者だと知っていたから? もしかして私が最初のイベントに遅刻したのもゲームには存在しないはずの人間の力が働いていたから!?」
「否定は出来ない」
「うわあ……」
とりあえず、二人とは良い友達になれそうだと思う。
「『銀の姫騎士』はな、私が初めて生み出したゲームだった」
それはとても感慨深い呟きで。
「えっと、それはどういう意味で」
「文字通りの意味さ。私が考え企画し、徹夜で形にしたものだよ」
そこまで説明されてしまえば熱心な『銀の姫騎士』信者である私が気付かないはずもなく。企画・制作・シナリオなどなど随所に記載されていたあの名前を――
「う、嘘でしょう、そんな……生み出したって……あなたまさか、流星きらら!?」
あまりにも綺麗な名前なので。オープニングにもエンディングにもたくさん表記されていたから憶えてしまった。
女神様が息を呑む。
「まさか別世界に転生して尚、前世の真名を呼ばれる日がこようとは」
「真名!? 真名って……本名!?」
「私はずっと後悔していた。私の力ではカノエを救えなかったことを。だから無意識のうち、カノエを救ってくれる存在を探していたのかもしれない。プロローグではお前のことを可笑しな人間だと思っていたが、なんてことはない。私の望みもお前と同じだった」
「女神様もカノエさんのために?」
「最近ではサブキャラクターたちが運命に抗って生きる決意を固めていると、いつかお前は言ったな」
「……言いましたね、そんなことも」
「始めこそ私もエマとアニスに期待していた。これが主流、サブキャラクターたちがやってくれると思っていた」
「はあ……」
「だが人とは、運命とは望むように動いてはくれないものだな。彼女たちは姫騎士の記憶を得てもなお傍観者を選んだ。そして満を持してのお前、私は主人公に賭けた」
「私ですか?」
「お前が主人公の勤めをはたしてくれて助かったよ。ちゃんと私が見たかったものを見せてくれた」
女神様――もとい流星きららさんが微笑む。まるで最後の別れのようにすっきりとした表情で私を見ていた。
「悔いはない、満足したよ。私は成仏する」
「成仏!? そんな仏教みたいな、この国女神信仰ですけど……え、女神様って、悪霊?」
「物の例えだ。忘れていた真名も聞け、願いが叶ったのだから未練はない」
「女神ってチート……」
「初期設定を忘れたか。女神には一度だけ奇跡が約束されている」
そんな設定もありましたね。さすが原作者様、よくわかっていらっしゃる。
「ありがとう、リユ。とても良いものを見せてもらった。感動したよ。来世ではまたゲームを作りたいものだ……そう、今度はアイドルものとか!」
「あ、はい……」
どうしよう「はい」しか言えない。プロローグと完全に立場が逆転している。色んな事を暴露され過ぎて思考が追いつきません! あの日の女神様もこんな気持ちだったんですね。こうなってみて初めて実感しました。
「でも私は、また流星きららのファンタジーが見たいです」
だからこれはほとんど無意識の呟きだったと思う。女神様はしっかり受け取ってくれたみたいだけれど。
「考えておこう」
「――て、女神どうするんですか!? 国の象徴、平和、私が頑張った意味!」
「落ち着け。いや、慌てたお前を見るのも愉快だがな」
「いや慌てますよ普通! 目の前で女神様が成仏とか言い出すんですから!」
「消えるのは私の意識だけ、女神の存在自体が消えるわけではない。すでに後任は決めている。お前が救い、彼女を変えてくれた。立派に女神の器たりえるだろう」
「お母さま、なんですか?」
「そうだ。お前も最後に別れを告げていくといい」
「すみません、なんだか怒涛の展開でついていくのにやっとで」
「ああ、いい気分だよ」
本当に楽しそうで何よりですね!
「そう腹を立てるな。巻き込んでしまった私が言うのも虫の良い話だが、私はお前が主人公で良かったと思っているよ。たとえ私の生み出した主人公よりお転婆で破天荒でも。……私の主人公はもっと奥ゆかしかった」
「あの、もしかして悪霊発言恨んでます?」
「まさか。何なら恨んでいない証明に一つ、褒美をくれてもいい。私と共に行くか?」
「行くって……」
どこへなんてわからないけれど、この世界ではないどこか。少なくても私の居場所は、私という存在が消えた虚しい世界ではなくなる。
「望むなら連れて行くことも可能だが」
「女神様が望むくらいですから、そこは乙女ゲームのある世界なんですよね」
たくさんの人に溢れていて、剣も騎士も存在しない平和な時代なんだと思う。
「でも私は、平和になったエデリウスが見たいですから。たとえそれが一人ぼっちだとしてもここで、この世界でいいんです。乙女ゲームも冷蔵庫がない生活にも慣れましたから」
「そう答えると思ったよ。……良かったな」
ん? えっと、誰に話しかけて? 心なしか私の後ろの方に向かって話しています? お母さまでもいらっしゃるんでしょうか。
「やっとお許しが出ましたか。さて、リユちゃん。説明を求めたいところだね」
女神様じゃない。
お母さまでもなくて。
この声って、まさか……とても振り返りたくないんですけど!
「やあ、リユちゃん。これ、どういうことなのかな?」
「いやああああ! なんで、どうしてカノエさんが!? ここに!?」
ここ時の狭間ですよ! そりゃ、カノエさんの笑顔見られなかったなとか、ちょっと会いたいなとか考えてしまいましたけど。何ですか、時の狭間には妄想を現実にする力でもあるんですか!
「連れてきてやったぞ」
「ちょっと、もしかして親切だとか気が利くだろうとか思ってます!? 何勝手してくれたんですか!」
「それはお前だ」
「それは君だろ」
こんな時に二人の息がぴったりなんて! 女神様、さっきは私のことを責める人間なんていないとか言いませんでした!?
「お前は勝手に忘却ルートなんてものを作りたがっていたが、阻止してやろうとずっと考えていたよ。そのために連れてきたのさ。幸いにも銀の加護は十分すぎるほど。さんざん天罰だなんだと危惧していただろう? そろそろ女神の加護を信じさせてやろう」
「意地が悪い! どこに余計な力使ってるんですかっ! 私は忘却ルートで満足しているんです!」
「へえ、最初から消えるつもりだったわけ」
カノエさんの眉が器用に吊り上り、何を言い逃れようとしても手遅れな気がする。
聞かれてしまった。というか、うん……きっと最初からいらっしゃいましたよね? どこから聞いてとか、聞くだけ無駄なパターンですよね。女神様の登場が遅かったのってカノエさんと口裏合わせてたからですか? 私とんでもないことばかり喋っていた気がするんですけど……
もう開き直るしか道はないと思う。
「……だって、そうでもしないとカノエさん、笑ってくれないじゃないですか!」
「笑えるわけないだろ」
「そうですよ、だから忘れてもらおうと思ったんです!」
「ふざけるな。僕は君を忘れたくない」
ああもう拗れてる! 女神様の馬鹿ー!
「お前たち、痴話喧嘩は戻ってからにしろ。私は早く成仏したい」
「いやこれあなたのせいですからね! 責任もって場を治めてから成仏してください!」
「主人公の仕事だろう」
「なんて無責任、明らかに主人公の業務外です!」
「そう言うな。お前ならばと信じてのことさ」
「いい感じにまとめようったってそうはいきませんからね!」
「ちっ――」
「今舌打ちしました!?」
「リユちゃん、話を逸らそうとしたって無駄だよ」
「いえ決してそんなつもりでは!」
ここには私にとっての脅威しか存在していないのか。
久しぶりに名前が登場しましたので、そっとデータを貼っておきますね。
エマ→ゲームには登場しない人。パン屋の娘で弟がいる。
アニス→ゲームには登場しない人。リユに助けられた定食屋の娘。




