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銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
カノエルート
24/51

一、色んな意味でここはどこ?

『銀の姫騎士』ではここから先は個別ルートになります。

なのでリユの物語もここから先は個別ルート扱いになります。

 王宮招集はゲームでのルート分岐点。高感度の最も高いキャラクターが窮地を救ってくれるので、プレイヤーは誰のルートに入ったのか確認することができる。

 だからこそ私は一人で窮地を脱出するつもりでいた。この日のために薬への耐性をつけ、抜け道も調べ、実は罠なんていうのも仕掛けていたんです。

 それなのに私の前に現れたのは――

 心は正直なもので、彼の姿を見つけて嬉しいと訴えていた。死神が微笑んだ瞬間だったかもしれないのに。


 ここはどこだろう。

 背にある柔らかな感触は地面ではない。数日前にも似たような状況を味わった――そんなことを考えながら目を開ける。

「――え?」

 起き抜けに間抜けな声を上げて固まったのは眼前に人の顔があったからで。

「あ……」

 至近距離にいたのはカノエさん。手は私のブラウスのボタンを外している最中で、既にコートは脱がされていた。胸元のリボンも消えているし、結い上げていたはずの髪も下ろされている。

「なっ!」

 反射的に私の右手は動いていた。これがカノエさんでなければ炸裂していたはず。

「リユちゃん落ち着いて! 何もしてないから!」

 難なく受け止められベッドに縫いつけられては余計に動揺を誘った。

「わかりました! まず離してください!」

「いや、離したら僕の身が危ない!」

「こんなの知らない! 私こんな展開知らないー!」

 暴れる私を押し込めようとカノエさんはベッドに乗り上げる。軽く乗り上げていただけの体も、いつしか遠慮なく馬乗りになっていた。

 すかさず私は反対の手から第二撃を放っていた。不可抗力ではあるが私の服は更に乱れる。いったい誰が悪かっんだろう……。

「だから大人しくっ!」

 カノエさんがその麗しい顔をぐっと近づけるので私は変な悲鳴を上げてしまった。


 悲鳴を掻き消すような絶妙なタイミングでドアが開く。

「カノエー、茶を入れたんだが連れの子は起きたかーって……」

 三者三様全員が顔を見合わせ固まった。

 しばらくの沈黙が痛い。


 真っ先に我に還ったのはドアを開けた人でした。

「あー、悪い、邪魔した。冷めても良いなら、ごゆっくり」

 迅速に閉め何ごともなかったように去って行く。これが大人の対応か。

「何か、誤解されたような気がします……」

「だろうね」

「そうですよね……。とりあえず、座って話しましょうか!」

 カノエさんは黙って退き、無言で背を向ける。身なりを整えろという気遣いなのか、私は急いでシャツを掻き合わせた。同時進行で『銀の姫騎士』登場人物情報を脳内再生してみるが、先ほど現れた人物に覚えはない。

 気になることはたくさんあるけれど、まずはこれを聞いておきたい。

「どうして私は見知らぬ部屋にいて、目の前にカノエさんがいるのでしょうか」

「僕が見つけて、僕が連れてきたからだろうね」

 気のせいではなく、不満を隠そうともしてくれない。

「その理由が知りたいと言いますか……」

「君に何があったかは理解してるよ」

「理解していて、それで……助けてくれたんですか?」

「そうだよ。助けた」

 助けてくれた。それはとても簡単なことで、私にとっては何より大事なこと。ボタンを止めながら状況を確認するけれど理解が追いつかない。私を『助けて』くれたの? あなたの主人が望んでいるのは私を消すことなのに。

「――で、寝苦しいだろうと緩めていたんだけど」

 なんて威圧感……。

「取り乱してすみませんでした」

 ただただ謝罪するしかなかった。でもですね。起きぬけに大好きな顔が目の前にあって、その人の手が自分の服にかかっていら誰だって取り乱しませんか!?

「君が面倒な子だってわかってはいたけど、想像を上回ってくれて驚いたよ。仕方ないから、僕が傍にいるしかないよね」

 意味が分からないので、どういう反応をするべきか困った。

「……はい?」

 出せたのは間抜けな声だけだ。

「僕は、ずっと君を見てた」

「は、え、ずっとって、それは……どういう?」

 詳しく説明を求めたい。でも聞きたいような聞きたくないような。

「君が王都に来てからずっと、目が離せなかったってこと」

 金色の瞳が私を射貫く。本当に射貫かれそうですが!?

「私の居場所がわかったのは、まさか見ていたから?」

「そうだよ」

 できれば否定してほしかった。

「もしかして、ずっと見てました?」

「そう言ったよね」

 後をつけられていた?

 もしかしなくても猫を探していると知っていたのは、最初から見ていた?

 それはつまり、それってつまり――

「ストーカーじゃないですか!」

「なんて?」

 現代用語の通じないカノエさんが首をかしげているので素直に犯罪者のことですと言った。

「それは酷いんじゃない? まあ、犯罪者云々の否定はできないけど」

「そうですね。私だって助けてくれた相手に言うべきものではなかったと反省していますよ。でも残念なことに訂正しようがないですよね!? いえ、訂正してくれていいんですよ!? してください!」

 助けられたことには感謝している。でもこっそり後をつけられていたなんて、どう対応すればいいのか私にはわからなかった。

 確かに、いつもいつも都合良く会えたけれど……。もしかしなくても私を見張っていたから亡霊暗躍している暇がなかったのでしょうか。だとしたら図らずも私は治安維持に貢献していたのでしょうか。複雑です!

「心配しないで。君専門だから」

 危害を加えるつもりはないという意思表示なのかカノエさんは両手を上げる。でも安心できる要素が見当たりません。

「危害を加えるつもりはない、本当に。僕は、君を守りたかった」

「何から、ですか」

 知っていても、カノエさんの口から聞かされることが重要だ。

「王妃様から」

「王妃、様……」

 期待してしまう。私を助けてくれたなら、信じてもいいんですか?

「女神信仰も行き過ぎれば怖ろしいものだね。あの人は銀に執着している。こんなに完璧な銀を妬まないはずがないんだ。君は王都へ来るべきじゃなかった。あの時、無理やりにでも引き返させておくべきだったのかな……。でもまさか騎士団に入って注目の的になるなんて思わないだろ? だから目が離せなかった。こうなったからにははっきり言うけど、危険だからすぐに王都から出て行ってほしい」

 だから警告してくれたの?

「でも私っ――」

「きっと、君は反発するんだろうね」

 カノエさんは疑いもせず言い切る。

 何も知らない銀髪の少女だったら逃げ出すべきだ。王家から狙われるなど危険極まりない。でも私は何も知らない少女じゃない。世界も救って、あなたも救うためにいる。

 騎士の仕事だって投げだせない。せっかく挨拶してくれる人ができたのに、騎士である私に感謝してくれる人がいたのに。ここで逃げたら王都の人たちはまた落胆する。ヴィスティア騎士団の評価は何も変わらない。

「確かに逃げませんが、よくわかりましたね?」

「君が頑固なのは学んだよ。だから面倒だった……。けど、せめて一つ約束して。もう王宮には近付かないでほしい」

「約束はできません」

 カノエさんは目に見えてがくりと項垂れた。

「あのねえ、男がこんなに必死で頼みごとをしてるってのに! ささやかなお願いだよ? でないと縛りつけてでも聞いてもらうけど」

「それはもうお願いじゃないです!」

 最終決戦は王宮なのでお願いは聞けないけれど、せめて真摯に向き合いたいと思った。

「だったら、ずっとそばで見張っていてください。カノエさんが見ていてくれないと、王宮に行ってしまうかもですね」

 カノエさんの答えが想像できて、私は挑発的に挑む。

「君、さっき犯罪者扱いしたよね」

「ストーカーでもいいです。甘んじて我慢します。だから! 遠くへ行ったりしないでください」

 全てが終わって、独り黙って姿を消してしまう可能性も考慮している。

「カノエさん。今までのこと全部、私の身を案じてくれてのことだったのに。勝手なことばかり言ってしまって、すみませんでした」

「いいよ。はっきり言わなかった僕が悪い」

「そしてありがとうございます。でも私は騎士です。自分で選びました。必要があればどこへでも行きますのであしからず」

「なんて凛々しい子なんだろう」

 薬の影響か、不意に揺れた体はカノエさんに抱き止められた。

「無理しないで」

 甘く優しい響きで囁かされる。それは何に対してかけられたものだろう。体への気遣い? それとも騎士として?

「君には……生きていてほしい」

 まるで『誰か』は死んでしまったかのようなことを言う。

「僕は昔、取り返しのつかない罪を犯した。あの日からずっと、後悔してた。そして君と出会って……似てるんだ。だから、これはせめてもの罪滅ぼし」

「私、似ていますか?」

「うん」

 まあ、本人ですしね。髪色が違うことで緩和されているけれど骨格は変えようがないもの。

 カノエさんは私を助けることで心を軽くしたいんだ。きっと崖から落ちた私を助けてくれたのも同じ理由のはず。

「ずっと終りを探してた。どうすればいいんだろうって……。でもやっと、すべきことがわかった気がするよ」

 カノエさんが微笑む。ほらまた、少し悲しげに。

「え、ちょ、カノエさん!?」

 なんか不穏な呟き頂いたんですけど!

「あの、カノエさん! 終わり、まだ探していますか? すべきことって、なんでしょう!」

 仮にその終わりが明日なら絶対阻止してやるのでぜひ聞いておかないと。

「君、そんなに僕のことが気になるかい?」

 はぐらかされてはたまらないと私は必死になっていたと思う。

「気になるに決まってます!」

 だからこんな発言も勢いでできたと思う。

「そっか……。僕の終わりは、まだ先みたいだ。すべきことは、言ったよね? 君を守りたいって」

 この話は終わりとばかりにカノエさんはドアの方へ向かってしまう。

「あの!」

 引き止めてどうするの? 助けられたとはいえ、彼は本当に見方? こんな確証もない状況で明かしていいの? それとも上辺だけの言葉をかけるの?

 どれも私には許されていない気がして結局何も言えなかった。

「行こうか。いい加減、あいつも焦れてるよね?」

「あ……」

 ひとまずどうやって誤解を解くべきか優先的に考えるべきかもしれない。

閲覧ありがとうございました。

本日の連続更新はここまでになりますが、またお付き合いいただけると嬉しいです!

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