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銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
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十五、騎士の休日~夜

 日暮れにはまだ少し早い時間。

 朝から日課となるトレーニングを終え、畑仕事での汗を流した私。袖を通したのは団服ではなく、一般的な女性の普段着と呼ぶに相応しいものだ。長めのスカートにブーツ、これまたフードを被れば色は違うけれど赤頭巾のような雰囲気になる。

 たとえ住処が廃墟のような見た目だろうと雨風しのげれば立派な住まい。では何が不満かというと、街まで遠いことだ。

 ちょっと買い物に出るだけで山を下るなんて! 団員が多かったころは王都に詰所が設置されていたけれど、現在では廃止され王立騎士団が使用している。

 それでも休みの日に山を下りて街へ向かうのには理由がある。騎士としてではなくリユとして街を見て回りたいと思った。肩書を背負ってばかりじゃなくて、きっとそういう時間も必要だ。


「お疲れ、リユちゃん」

 カノエさんだ。壁にもたれ優雅に腕を組んでいる。

 団服を脱いだだけでカノエさんに会えるなんて! やはり時と場合によっては肩書なんて必要ないこともある。

「今晩は。でも私、今日は騎士じゃありません。ただのリユですから労われることはしていませんよ」

「だとしたら余計に感心しないね。女の子が遅くに一人歩きなんて」

 仮にも治安を乱す亡霊の発言とは思えません。でもそれについては私も反省していた。

「ご忠告ありがとうございます。想定していたよりも女子トークが炸裂してしまって……」

「女子トーク?」

「おしゃべりです!」

 エマさんやアニスさんは数少ない女友達。彼女たちも王都の話をたくさん聞かせてくれて、居心地良すぎてつい遅くなってしまったところだ。

「そう。……まあ、日ごろ仕事に精を出しているんだし。休息も必要だよね。でも本当に、夜は危ないよ」

 重ねて亡霊本人の発言とは思えません。

「送る」

「……はい?」

「何?」

 カノエさんは平然としているけれど、私の口はあいたままだ。

「え、それはまさか……カノエさんが私を!?」

「他に誰がいるのさ」

「え、ええっ!? い、よ、よろしいんですか!?」

「そんなに慌てること?」

「慌てもしますよ! だって、そんな……心配、されているみたいで」

「いや、してるんだけど。間違いなく」

「だって、出て行けって、言われました」

「ああ、そういえば。……新人いびりだと思ってくれていいよ」

「絶対違いますよね。それ、違うって言ったじゃないですか!」

「じゃあ、気になる女の子をいじめてしまった、という解釈で構わないよ」

 

 好意に甘え、送られることになったけれど。

 私、結構気にしていたのに! さてはカノエさん忘れてましたね!?


「……そんなに私が気になりますか?」

 恐る恐る聞いてみた。どうせ適当な理由付けだろうけど、やっぱりどうしたって非常に気になる。

「そりゃあね。何処に行っても君の噂でもちきりだし嫌でも気になるさ」

「私の噂?」

 予想外の返答だった。しかも聞き捨てならない。

「そうだね。あの騎士団に女の子が入団したとか。しかも銀髪美少女となれば女神の再誕とも崇められている。だから噂の姫騎士さんに会いにきたんだ。君のファンでね」

 仮に前半が本当だとしても後半部分が信用ならない。私はそういった眼差しを送っていたのだろう。

「君のことが気になるのは本当。だから教えほしいな。どうしてあの中で動けるのか」

 偶然だと思ったけれど、本当は目的があって会いに来てくれたんだ。たとえどんな理由でも、偶然でも必然でも嬉しいことは変わらないけれど。

「以前お伝えした通りです。カノエさんも解らないんですよね?」

 女神の力で生き返った私には女神の加護が、止まった時間の中で動く資格がある。ちなみにカノエさんは黒幕から許可されている。 

「そうだね……」

「カノエさん?」

「ずっと、迷っていることがある。どうしていいかわからない。いくら考えても答えは出なくて、いっそ迷うより行動してしまおうと、こうして君に会ってみたけれど。……ねえ、僕はどうしたらいい?」

 ここは街中だ。けれど時間帯のせいか人通りは少ない。

 ゆっくりと上がる口角にはナイフが添えられている。いつ出したのかも知れない早業で唇に振れるナイフが獲物を狙う。

「君は誰、何を知っている? 口を割らせるの、結構得意だけど」

 それは私の命綱、簡単に話すことはできない。

「私は弱い自分が嫌いです。だから簡単には屈しません。たとえ、あなた相手でも」

 実力行使に訴えるなら受けて立つ覚悟はできている。

「随分強気だね。そういう子って、好みだな」

 別のシチュエーションで聞けたなら! なんて感動的なセリフなの!? どこかに録音機材はないものか。

「本当は気が進まないんだけど、これはある程度追い詰めないと駄目なのかな?」

「相手になりますよ」

 ヴィスティア騎士団の証はないけれど、短剣にナイフなら装備済みだ。

「やめた」

 いつでも抜けるよう構えていた私は拍子抜けする。言うなりカノエさんはナイフを隠してしまい、本気で止めるつもりらしい。

「君の休日を僕の都合で奪っちゃいけないよね。また改めて」

 また改めてがあるんですか? ということは、また会えるんですよね?

「カノエさん、私は騎士です。いつでもあそこにいますから、受けて立ちますよ」

 だからいつでも会いに来てくださいね。

 カノエさんは考え込んでいる。再戦の申し出を受け入れたつもりが違っただろうか。

「君が騎士として生きるように、僕にも果たすべき役目がある。君と話していると自分の行いを忘れそうになるね。本来、顔を合わせるべきじゃないのかもしれない」

「そんなことないです!」

 間髪入れず、条件反射で反論していた。

「会いましょう、たくさん! 毎日だって私、会えたら嬉しいです。明日も明後日も、その先もずっと、ずっと……あなたに会いたい。だから、いなくならないで下さい。もっとずっと、私と会っていてください!」

「君って、……おかしなことを言うね」

 私、必死過ぎ……。自分でもそう思って十分後悔していますから。でもカノエさんがいきなり不穏なことを言い出すから焦ったんですよ!? 決して私だけのせいではないと責任転換も混ぜた。 

「そっか、君は僕を知っても変わらないね。君が変わらず接してくれるのなら、僕もまた荷物を届けに行くよ」

 待っていますと、私は満面の笑顔で答えた。

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