表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
共通ルート
18/51

十三、王立騎士団登場

 ココちゃんを抱き飼い主さんに届けミッションクリア。本部へ戻るため街を歩いていた私は偶然にも亡霊の噂を耳にした。

「ああ、また亡霊の仕業?」

 それはカノエさんのことか、それとも別の誰かの仕業か。とにかく騎士として放ってはおけず、噂の出所を探せば家の前に人だかりができている。

 その時、後方から蹄の音が響いていた。馬の鳴き声、回る車輪の音……馬車が近づいていることは間違いないけれど、気付いているのは私だけなのか誰も振り返ろうとはしない。

 馬車は一直線にこちらへ向かっている。

「なんで、速度が落ちないの?」

 みんな目の前の事件に夢中になっている。

「避けて、馬車が来るわ!」

 私の叫びを火種に異変は広がり、馬車のために道が開けた。

 最悪の事態は避けられたと息つく間もなく女の子が人波に押し出される。転んだ拍子にその場で泣きだしてしまった。


 馬車は速度を落とさない。


 考えるより先に足を踏み出していた。馬車より早く辿り着き、女の子を抱いて避けきる自信もあった。けれど私が動く必要はなかった。

 私よりも早く飛び出した黒い影。子どもを腕に抱え、その勢いで転がりこむ。

 馬車は私達の目の前で止まり、ほんの数秒前まで子どもがいた場所は車輪の真下。

「だ、大丈夫ですか!?」

 土埃を立てながら舞い込んだ傍らの存在に問いかける。

「子どもは無事だよ」

「おにーちゃん、ありがとう!」

 疲れを宿したカノエさんと無邪気に笑う少女、その対比に肩の力が抜ける。

「無事で、良かった」

 次にカノエさんに会えたら、言いたいことも聞きたいこともたくさんあった。そもそもまた会ってくれるのか不安だったけれど、今はどうでも良い。無事でいてくれたことが何より嬉しいから。


「騎士団様のお出ましだ」

 ――と、ゆっくり浸っている場合でもなかった。

 馬車の扉が開き、現れたのは白服を纏う集団。塵ひとつない純白が眩しく、腰には過剰な金細工を施した剣を帯びている。

 私たち以外の騎士団。初日のイベントを逃して以来どうしたものかと思っていたけれど、ようやく王立騎士団とも接触することになりそうだ。

「平穏乱す奴が出たってタレコミだけど、誰?」

 馬車から降りてきた男の人を私は知っている。

 退屈そうに剣の柄を撫でながら周囲に問う。口では名乗り出るのを待っているのに態度は至極どうでもいいといった様子。赤い髪を片手でかきながら、琥珀色の瞳にはやる気というものが見当たらない。彼、オニキス・クランベルは王立騎士団に所属している攻略対象。

 そもそも事件は泥棒騒ぎらしく、この場に犯人がいるはずもない。何を言っているのかと呆れた表情が並んでいる。

「それにしてもここ、埃っぽくない?」

 無駄足に終わって機嫌が悪いのかオニキスは派手に足を動かした。座ったままのカノエさんたちに土埃が掛かるようにとの計らいだ。

 でも思惑は失敗に終わる。カノエさんは素早く子どもを庇い、私が二人を庇うように間に割り入ったから。

「汚れるよ」

 これはカノエさんが、カノエさんが私に向かって言いました。問題です。最初に汚してくれたのは誰でしょうね!?

 私はにっこりと笑う。もういいんです、だって手遅れですからと。

「団服が黒くて良かったです。黒い服は汚れるためにあるんですよ。小麦粉の前では無力に等しいですけど!」

 黒なら多少の汚れは目立たない。白服にはできない芸当だ。

「あんた誰? フードまで被って、怪しい奴!」

 それらしい相手も名乗り出ず、嫌がらせも失敗に終わりったオニキスは当然ながら面白くない。せめて怪しい私の顔を晒してやろうと強引にコートを引っ張った。

 背を向けていたので無様に引きずられると思いましたか? 残念でした!

 銀が舞った。オニキスが手にしているのは私のコートだけだ。

「私が何か?」

 わかってはいたけど、オニキスってこういう人なのよね……。王立騎士団という地位を手に入れたことを誰よりも喜んでいる。

 そんな人が攻略対象で何が良いのかって思いました? 彼の魅力はその成長にあるんです。ここから立派に成長されるんですよ。そこが頼もしいというか……感動的なんです!

「へえ、あんた……。悪かったね。女神に愛されたお嬢さんが亡霊なわけないか」

 値踏みするような視線は居心地が悪い。

「私に謝罪は不要です。他に告げるべき相手がいませんか?」

 負けないですけど!

「え、そう? ごめん、見当たんないや」

 嘘ですよね。今ちらっとカノエさんたちの方見ましたよね!?

「さあて、何事もないみたいだし? 良かった、良かった。手間が省けて何より――ってわけで、俺らもう行かなきゃならないんだけど。オニキス・クランベル歳は十九ね。女神に愛されたお嬢さん、どうかまた会えますようにー」

「…………」

 一歩的に会話は切り上げるくせにしっかり名乗っていくとは強引な。

 私は無言で見送っておきました。正直なところ、オニキス相手にどう接するべきか迷っている。彼の場合どのルートでも死ぬようなことはないし……このまま適度な距離を保っておいたほうが賢明かもしれない。

「――て、どこへ行くんですカノエさん! 捕まえましたよ。本当に怪我はありませんか!?」

 あなたはどのルートでも破滅しますからね、逃がしません。カノエさんは目を瞬かせているけれど関係ない。この手を離したらカノエさんはまたいなくなってしまう。

「何この既視感……。あれくらいどうもしないよ」

 確かにカノエさんならもっと危険な体験をしているかもしれないけれど、それが心配しないという理由にはならない。

「騎士として危険を顧みない行為は注意すべきなんですが。おかげで助かりました」

「……どういたしまして」

「何ですか、その何か言いたげな表情は。また感謝、受け取ってくれないんですか?」

 以前、感謝を受ける資格は必要ないと言っていたことを思い出す。

「他に聞きたいこと、あるよね」

「――え? あ!」

 どうして時間停止の中で動けるのとか、あの警告は何のつもりとか、ここは問い正すべき場面。でも私にとってはカノエさんの安否の方が大事だった。それだけのこと。

「そんなことより安否確認です。心配したんですからね!」

「そう……。でも君さ、僕が行かなかったら助けに向かったよね?」

「そうですが、それが何か?」

「何かじゃないよ。同じ言葉を返す。……しかも目立ってくれて。本当、何なのさ」

 何なのと言われてもただの騎士です。人を助けようとしただけですが。

「あの、すみませんが、はっきり言ってくれないとわからないです。どうぞ? でないと私も直しようがありませんので。どこですか、どこを直せばいいんですか? 私の何が気に入らないんですか!?」

 そうだねとカノエさんが考え込む。どうしよう、これで罵られたら結構なダメージかも……。

「君が目立ちすぎると都合が悪い。正直、困る。どう、これで少しは伝わった?」

 いえ、全くですね。

「つまり妬み嫉みという話ですか? 新人騎士のくせに調子付いてんじゃねーよ生意気な、とか思われていたと? 別に目立とうなんて思っていません!」

 むしろひっそり希望してますが。

「曲解だ。あいにく僕はそういった心の狭さは持ち合わせていない。ただ――」

「ただ?」

「いや、もういい」

 しまったという表情でカノエさんが口を閉ざす。唐突に切り上げられた会話はそれきりになるはずだったが、しかし。

「あの! 勝手に一人で納得して切り上げるんですか?」

 私は遠慮するという選択肢を捨てました。

 何が正しいかなんてわからない。他人の行動も感情も推し量れるものじゃない。どうせ私が失うものは何もない。だったら引いてやるものか、後悔しないように生きるって決めたもの!

「もう遠慮しません」

 私にとってカノエさんはずっと憧れの人だった。その顔を見るたび嬉しくなって緊張して、距離感を図って慎重に会話して。でももう憧れているだけじゃダメ、遠慮してばかりもダメ、カノエさんは遠い存在じゃない。こうして目の前にいるんだから。

 できることなら嫌われたくないと思っていたけれど、嫌われたって構わない。どうなろうと私の目指す結末は変わらないもの。

「私のこと気に入らないのは勝手ですけど、私はあなたのこと嫌いじゃありません。だから、ちゃんと思うことがあるなら話してほしいんです」

 言いたいことは今言う主義だったはず。失敗ばかりを恐れてどうするの!

 私が一息にまくし立てればカノエさんが息をのむ。

「……君さ、騎士団を再建させるって本気?」

「本気です」

「ふうん。ほんと、面倒だ」

「カノエさんにいくら面倒と呆れられようが諦めません。夢って、簡単に諦められるものじゃないですよね?」

 この夢を叶えるために十年修行してきた。簡単には諦められない。

「……君って、恥ずかしいことを臆面もなく言えるんだね」

 へこたれない相手に別の角度から嫌味で責める作戦か。効果抜群ですよ!

「またですか! 私そういう共通認識なんですか!? え、あれをもう一度言えと!?」

 カノエさんは不思議そうに「僕はどうして八つ当たりされているんだい?」と首を傾げていた。

「だから、恥ずかしいものは恥ずかしいですからね! でも明日言えなかったら後悔するので、言いたいことは今言う主義なんです!」

「……そっか」

 諦めともとれる呟きを残してカノエさんが歩きだす。私は恐る恐るその隣を歩いてみたけれど、咎められることはなかった。

「あの、どちらまで?」

「君と一緒。配達がある」

 目的地に着くまで置いて行かれることはなく、少なくても一緒にいることは許されているようだ。


 道すがら教えてくれたのは何故あの中で動けるか解らないという嘘。

 私が危険な人物ではないかと警戒して自衛を働いたという嘘。

 怖くなって逃げたという嘘。

 偽りだらけの内容だったけれど、私にカノエさんを責める資格はない。本当のことを言えないのは私も同じだから。ただわかりましたと納得するしかなかった。

十三話にして攻略対象が四人揃いました。ここまでお付き合いくださった皆さま、本当にありがとうございます。――て、まだ続きますけどね!

乙女ゲーム『銀の姫騎士』は、頼れるナンパな外見王子アイズ、真面目な年下っ子フェリス、家事万能団長ロクロア、ダルダル気質のオニキスでお送りします。

奮闘する主人公リユ、暗躍するカノエもお忘れなく!


今日はこのあたりで更新終わりますが、またお付き合いくださると嬉しいです。

閲覧ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ