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銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
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九、亡霊潜む街

どうかカノエさんの存在が忘れられていませんように――と願って!

 あれほど不気味だった森も、朝になれば木々の隙間から日差しが差し込み清々しさを感じさせる。日光に後押しされるよう私は両腕を上げおもいきり伸びた。

 口数こそ少なくそっけないフェリスさんは話しかければ律義に返答してくれる。彼以上に案内に適したメンバーはいないだろう。その横ではアイズさんが時折茶化しながら私の質問に答えてくれたり。団長のこと、騎士団での生活、仕事について教えてもらいながら街を目指した。


 騎士団の基本的な仕事は治安維持、有事の際はかりだされるが通常は見回りをしている。この人数ではできることも限られているため自主的に巡回するしかないそうだ。ですよね!

 さて、さっそく重大な問題に直面した。巡回メンバーの組み合わせだ。

「俺たちの数は三人、どう足掻いても割り切れない関係か。リユは初仕事だし、誰か案内をするのが妥当だな」

 年長者でもあるアイズさんが仕切る。

「リユ、王都は始めてか?」

「昔住んでいましたが、幼い頃なのであまり覚えていません。物覚えはいい方だと思うので、頑張って覚えます!」

 いずれ矛盾が湧かないように嘘と本当を織り交ぜる。ゲーム上の大まかなマップなら頭に入っているが、細かな通路までは把握できていない。

「それは頼もしい――が。なぜフードを被るんだ? 雨避けか?」

 共通の疑問だったのか、私に視線が集まっている。

 街に入ってからというもの私は頭からすっぽりフードを被っていた。いつでも被れるようにと団服改造の際、襟元に縫い付けておいたものだ。

 私は周囲を窺ってから内緒話のように声を潜める。

「それは……。私の髪、目立つので。恥じているわけではありませんが、注目集めるだけならまだしもたまに拝まれたりすることもありまして。さすがにちょっと……」

 お年寄り方は可愛がってくれるけれど、その分崇めぶりも熱心で。両手を合わせ一心不乱に拝まれたりするのも日常だ。あれはさすがに勘弁してほしいと思った。自分は女神のような尊い存在ではなくただの人間、とても居心地が悪かった。銀髪の件を抜きにしても街に入れば騎士団というだけで十分注目を浴びているののに、拝まれるのは遠慮したい。

「役立たずのお出ましね」

 最初に私の耳に飛び込んできた言葉。喧騒の中でも確かに届くものがある。

「いつもの騎士たちと、あの子は誰? 女の子、よね。まるで騎士服のような格好だけど」

「まさか、そんなはずないでしょう」

「そうよね。進んであの騎士団に入りたがる子がいるわけないわね」

 慣れているのか先輩団員たちに気にする素振りはなく、何食わぬ顔で先ほどの話題を続けていた。

「それだけ女神に愛されていれば仕方ないだろうな。俺もこれほど程見事な銀は初めてだ」

 アイズさんが感動している。「さすがに拝みはしないけど」と付け足してくれて一安心。 

 私も噂を気にするのはやめよう。こうなることを知っていて、それでも我を通したのは自分なのだから。

「そうですね。女神の加護、幸せな子とはよく言われますけど。でも私にとってはただの……」

 かつて主人公もこの銀髪をそうたとえた。まさか同じ立場で同じことを考える日が来るなんて――

 言い淀む私を不信がったのか自然と足が止まっている。

「え……、あの、そんなに深い話ではないので気にしないでくださいね!」

 このメンバーから視線を集めるのは心臓に悪い。右を見ても左を見ても憧れの人たちばかり。

「早く言えばいいのでは?」

 フェリスさんが急かす。はっきりしない物事が嫌いな人だ。もし高感度が目に見える世界なら下がったことだろう。

「……呪いだと、そう思っただけです」

 この発言で驚かぬエデリウス国民はいない。国で女神の加護を呪いと表現する人間がいるだろうか。

「随分と物騒だな」

 追求するようなアイズさんの視線から逃れるように空を見上げた。その先にいるはずの彼女を想い描いて――

「目が覚めたらこの色で、自分じゃないみたいで驚きましたから」

 光り輝く銀は街を歩けば注目され羨まれるけれど、この人生でも前の人生でも両親が撫でてくれた髪は黒。綺麗な髪だと褒められてきたのは真逆のような黒で、己の姿を自覚するたび忘れるなと現実を突きつけられるのだ。

 この世界を救え。忘れるな、主人公はお前だと。

 これが呪いでなくて何だというのか、私にもわからない。

「似合っています」

「え――」

 何を言われたのか理解が追いつかない。驚いて聞き返すとフェリスさんが明後日の方を見ながら呟いた後だった。余計な気を使わせてしまったことに反省し、私は告げられた言葉を享受する。もちろん嫌なはずがないので口元は自然と緩んでしまった。

「ありがとうございます。嬉しいです!」

「そう必死になるほど感激することでもないでしょう」

「貴重なお言葉なので、つい……」

 つい先ほど好感度を下げてしまったのではと心配したばかりなので嬉しかった。

 私にとって彼らと話す一言一言が大切な宝物。大切な時間を少しでも鮮明に覚えていたくて、フェリスさんの顔をまじまじと眺めてしまう。

 そんな私の和やかな心を嘲笑うように時間は待ってくれないけれど。

「また亡霊が出たらしいわ」

 つられるように私は振り返った。亡霊――その言葉が示す人物を探して。

「物騒な世の中になったものね」

 注意深く意識を向けてみれば街行く人がやたら呟いている単語である。私が気にしていることを悟ったのかアイズさんが説明してくれた。

「亡霊は通り名だ。この界隈を騒がせている正体不明の輩で、金品略奪、暗殺、裏世界を牛耳るボスとも噂される。ようするに誰も正確な正体は知らないし、本当に亡霊なんているのかも怪しいってことだ」

「七年前、当時ヴィスティア騎士団は怪しい男を追いつめた。逃げ場のない通り、簡単に拘束できるはずが――、奴は消えたんだ」

「消えた……」

 その真実も私は知っている。

「忽然と一瞬にして消えた。その噂が広まって皆亡霊が出たと比喩したんだろう。ちょうど悪夢の夜の件も後押ししてな、姫君の無念が形になったとも言われていたか」

「それで亡霊ですか」

「最近だと、悪夢の夜も亡霊の仕業だって話だぜ」

「金品略奪に暗殺に裏世界を牛耳ったり、怨念だったり王女暗殺犯だったりと忙しい人――じゃなくて幽霊さんですね」

 姫君の無念はない。本人ここにいますから。

 お察しの通り、カノエさんこそが最初に亡霊と呼ばれ始めた張本人です。現在も騎士団の無能さを知らしめるため、夜な夜な暗躍を行っています。本当に多忙な人なのです。

 そんなことを考えている間に幽霊という表現の撤回を求めたのはフェリスさん。現実主義の彼には不愉快だろう。

「そんな非現実的なことあり得ません。当時の騎士たちが無能だっただけです」

 違うんです。追い詰められたカノエさんの前に、偶然時間停止が起こったというのが誰も知らない真相だ。

「なんであれ、結果として騎士団の功績に泥を塗られたことは事実ですが。悪夢の夜以降低迷していた評判がさらに低下しましたね。幽霊騒動がなくても、最大の失態はエルゼ・クロ―ディアの逃亡ですが」

「……フェリスさんも、そう思いますか?」

「他にどう解釈しろと? 団長は友を信じているなんて甘いことを言いますが、国中の見解は違いますよ。彼は任務を全うできず、責められることを恐れ逃亡した。僕らもとんだ巻き添えです」

 肯定なんてできない。私という存在を隠すために、エルゼさんは誰にも告げることなく王都から去る道を選んでくれた。けれど違うとあからさまに否定するのも不自然なので口を閉ざすしかない。

 エルゼさん、ごめんなさい。ただ心の中で謝罪することしかできないなんて……。無事、ですよね? 

 最強の騎士を信じよう。団長は言葉なんてなくてもエルゼさんを信じていられるのに、私はなんて弱いんだろう。団長のように強く在りたいと思った。

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