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銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
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五、面接編突入

 あれ? まるで面接みたいだな――と思った。

「申し遅れました。わたくしリユと申します。ただのリユで歳は十七です。この度は約束も取り付けず急な訪問、申し訳ございません」

「そんなかしこまらなくていいよー。団長のロクロア・ウォルツです。えっと、さっそくだけど君はヴィスティア騎士団の現状を知ってるのかな?」

「団長、その辺りは確認済みです」

 何故か私が答えるよりも早くカノエさんが答える。

「え、カノエ君が? どういうこと!?」

 団員でもない人からの申告に団長が驚く。私だって驚きだ。

「差し出がましいとは思いましたが、不審な人物が徘徊しているのを見過ごせず。少し尋問しただけです」

「え……」

 団長は言葉を失った。

「あの、カノエ君。君、確か配達業をさせておくにはもったいない腕っぷしだったと記憶しているんだけど」

「僕なんて大したことはありません」

「大したことない子はね、騎士から不審者扱いされて職質されたところに反撃して一本取ったりしないから」

 それには私も激しく同意。ちなみにこの騎士というのは攻略対象フェリス・ローゼスタのことで、この一件を得て二人は険悪だ。

「リユ君、大丈夫だった!?」

 団長は血相変えて私の心配をしてくれた。一方カノエさんはこともなげに「挨拶を止められただけです」と言う。

「えっ! カノエ君の挨拶とは到底思えないアレを止めたの? ……カノエ君、女の子にアレはやめてあげようね。普通の子は腰を抜かしちゃうから」

「以後気をつけます。……やっぱり、とても女の子とは思えないな」

 小さくではあるがしっかり本人まで聞こえている。たしなめられたカノエさんはさらりと受け流すけれど、止められたことを根に持っているのか言い方が刺々しいような。

 ゲームでは主人公の実力や正義感については、すでに出会っているはずの攻略対象二人から口添えがあるのだが、私はといえば実力どころかまだ名前すら認識されていない始末。だからカノエさんの進言はありがたい、のだが。おかげで団長からの眼差しが信じられないものを見る目に変わってしまった。早々に普通の女の子規格外認定……。

「うん、わかった。騎士として実力が申し分ないのは伝わったけど、どうして騎士になりたいのかな? 君は現状を知っているんだよね。それでも君を突き動かすものは何?」

 世界とカノエさんを救うことなんですが、それは伏せておくので。

「騎士に助けられたからこそ、現在の私が存在しています。その人と同じ存在に憧れるのは自然なことでした」

「うーんとね、綺麗なだけの仕事じゃないよ。風当たりも相当強いし、もう嵐なみ。船なら沈んじゃうとこだよ……。仕事だって自主的な見回りぐらいしかないし。そもそも女の子が騎士なんて親御さんは反対なんじゃない? 心配掛けるのは良くないよ。危険な仕事より家庭に入ってほしいと思ってるんじゃないかな。口には出さなくても早く孫の顔がみたーいとかさ」

 大丈夫です、ある意味親御さん公認です。

「たとえ世間一般の幸せと違ったとしても、これが私の目指す幸せへの道ですから。孫の顔だって諦めてはいませんし!」

 老後は平穏に暮らしている予定ですからね。孫に囲まれるのも素敵だと思いますよ。

「引き返してもかまわないんだよ」

「団長まで同じことを言われますね。私、ご迷惑でしょうか?」

 騎士に女が志願するなどとやっかまれているのかもしれない。

「まさか!」

 団長は首は横に振るわ、慌てて左右に手を振るわ、全身で否定してくれた。

「ただでさえ団員不足で困ってたし、こんなに可愛い女の子が入ってくれたら華やかで嬉しいに決まってるよ!」

 一度咳払いをし、落ち着きを取り戻してから再開する。

「でもね、かつての同志たちは皆辞めていったよ。それくらいキツイってことを先に伝えておかないとね」

 その顔つきは真剣で、心から私のことを案じていることが伝わった。けれど私にも引き下がるという選択肢はあり得ない。

「それでも、団長はここにいるんですね」

 まさか話を振られると思っていなかった当事者はあっけにとられている。

「あ、そう言われたら、そうだね……。えーと、私は未練に縋っているだけだよ。友をね、待っているんだ。ここはあいつが帰ってくる唯一の場所だから、私一人でも待っていてあげないと。あいつは逃げ出すような奴じゃないから」

 遠い目をして語る姿は友を想っているのだろう、胸が温かくなった。団長はエルゼさんの帰る場所を信じて守っている。

「団長は、強い方なんですね」

「え?」

 そんな人の下で働けるなんて光栄だ。団長は戸惑っているけれど私の心は変わらない。

「実力を示す必要があるなら何度でも示します。ここで諦めるつもりはありません。たとえ困難が待っていようと、夢が叶うのなら後悔するはずがありません。女神の愛した国を守るヴィスティア騎士団、私はその一員になることを望みます。拠点が廃墟? 雨風しのげれば立派な住まいですからご心配なく。私、嵐に負けてやるつもりはありません」

 

 シンとした空気の中に拍手が響く。

 面接官兼団長から送られた拍手は、つまりそういうこと?


「今時珍しい志のお嬢さんだね。ようこそ、ヴィスティア騎士団へ」

「へ?」

 今、さらりと告げられたのは――

「うん、採用。こんなに可愛いお嬢さんが入団したって聞いたらアイズ君たち驚くだろうなー。いやー、新入団員なんて何年ぶりかな!」

 採用、確かにそう聞こえたけれど。そもそもいつの間にか面接が始まっていた!?

「今日はおめでたい日だし、ご馳走作っちゃう? はりきっちゃおうかなー! あ、カノエ君も食べてかない?」

「遠慮しておきます。アイズ・メルディエラはともかく、フェリス・ローゼスタがうるさいでしょうから」

「そんなことないよ。フェリス君だって君と仲良くしたいんだって」

「いえ、それはないかと」

「この際だから誘っちゃうけど、カノエ君も騎士団に入らない? 以前からその腕前には一目置いているんだよ」

 ここぞとばかりに団長は勧誘を始めた。確かに人手不足は申告だけれども!

「僕は……。騎士には、ふさわしくありませんから」

「カノエ君?」

 慌てるように口を閉ざしたカノエさんは、とたんに良い笑顔を浮かべる。とても嘘くさい雰囲気を纏っていた。

「僕は、僕には配達業が天職なんです。尊敬する人がこの仕事で、その人に助けられて憧れて……まあ、そんな感じです。なので騎士になることはできません」

 絶対嘘だ。だってどこかで聞いたような志願理由だもの。

 本気で残念がる団長はさておき、気づけば私は入団許可を得ていた。なぜかカノエさん立会いの元、面接が進行していた。

「新米騎士さん。たまに配達で顔を出すから、よろしくね」

 すっかり話が脱線したおかげか、あるいは団長に毒気を抜かれたのか。カノエさんからはピリピリした気配が消えている。

「あ、は、はいっ! こちらこそよろしくお願いします」

 これからしっかり破滅への道を阻止させてもらいますから、そのつもりでいてくださいね!

「ああ、それとこれ。落ちてたよ」

 何ですかと差し伸ばされた手を取ろうとして、止まる。

「返すよ」

 にっこりと微笑まれ差し出されたものは、街中で亡霊とやりあったときに放置してきた見覚えあるナイフだった。

 何故ばれた!?

「なんですか?」

 いや、まだ決めつけるのは早い。顔はわれていないはず! 全然知らないですと言い切ったけれど心臓がうるさい。

「そう……。ああ、団長。落とされましたよ」

 カノエさんはあっけなく踵を返しターゲットを団長に変える。カマをかけていたと……危なかった! とはいえ疑われている可能性はある。衣服の下に隠した同じ形のナイフを見られないよう、注意して気を引き締めなければ。


 風が私の髪を揺らす。夜の空気を連れた冷たい風が。

「――て、外でする話じゃなかったね。これは失礼」

 すっかり面接を終えてしまった団長が我に返る。そう、ここは室内でもなければ玄関ホールでもない。ただの騎士団本部の裏手。

 絶対私、女神様に嫌われているんだ……。

 あそこで好き勝手言い放題したのがいけなかったのかな……。

 甘い展開を求めていたわけではないけれど普通の日常くらいは望んでいたのに。なのに! 現状ほぼ修行、酷い目、イベント欠席、疑惑の眼差し待遇しか受けていない。

閲覧ありがとうございます。

ここまでくるのに、というかまだここまでしかきていない恐怖……。

リユ、これからまだまだ苦労するよ?

ともあれ次こそは攻略対象たちとの交流がありますので、またお付き合いくだされば幸いです。

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