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何でも屋  作者: 汐琉
4/5

何でも屋と、探し物。〜僕視点〜

息抜きに何でも屋更新です。

最初の部分だけ、だいぶ前に書いてあった物を加筆したので、矛盾がありそうで怖いです。

特殊設定ですので、ご注意を。

――アーシアリ。


 何でもありなこの世界、僕らは、何でも屋として、今日も生きている。


 これは、僕らの物語。

 初めまして、何でも屋です。


 相手の反応が薄いので、僕は相棒お墨付きの笑顔を浮かべる。

 それでやっと動き出した相手は、握手のつもりなのか、僕の手を握った。手が冷たい。

 近くなった距離。ふわり、と何処かで嗅いだ事のある匂い。

 思い出せず、僕は緩く首を振って思考を切り替える。

「あ、ああ、すまない。予想外に……」

 依頼人である相手が濁した言葉は、小さい、または幼い、だろう。

 僕の見た目は、実年齢と合っていないらしい。

 初対面で、相手が戸惑う事はよくある。そういう時は、相棒がフォローしてくれるのだが、その相棒は別の仕事に出ていて、いない。

「良いですよ。で、何でも屋に何のご用ですか?」

 町から町、国から国を渡る僕らは、事務所を持たずに何でも屋をしている。

 今は、先日事件に巻き込まれたワーチャに、宿をとって、お仕事を探している。

 得意なのは、失せ物探し。庭の雑草退治(僕は気付かなかったが、噛みつく草がいたらしい)。買い物代行。とかも、よく頼まれる。

 相棒は、お前は拐われるのも得意だろ、って言うけど、別に得意な訳じゃないと声を大にして言わせて欲しい。


 閑話休題。


 僕は黙って、依頼人が話し出すのを待つ。

「妻を、妻を探してくれないか?」

「奥様を、ですか?」

「ああ。恥ずかしい話、先日喧嘩をしてしまってね。家を出て行ってしまったんだ」

 ちなみに、僕達が今いるのは、大通りに面しているらしいカフェ。相棒がチェック済みのお店なので、安心して僕も利用している。

 依頼人の男性が飲んでいるのは、コーヒーらしい。その香りに混じって、また嗅いだ事のある臭いがする。

「心当たりは探したんだが、見つからないんだ。お願いだ、妻を見つけてくれ」

「分かりました。奥様の特徴を教えてください」

「しかし、君は……」

 依頼人の男性から伝わってくる戸惑った空気。僕は、ニッコリと笑って胸を叩いて見せる。

「大丈夫です。僕には優秀な相棒がいますから」

「ああ、あのチラシに描いてあった黒い……」

「そう、その黒い相棒です。強くて頼りになる相棒ですから、心配しないでください。で、料金の事なんですが――」

 こうして、僕は依頼人から、奥様を探すという依頼を受ける事となった。

 とりあえず、相棒が別任務から戻らない為、僕は依頼人から聞いた情報を書き出しておく。

「金髪、小柄、青い目で、依頼人と同じブレスレットをしてる、と……」

 触らせてもらったブレスレットは、特徴的な形をしていたので、僕でもしっかりと覚えられた。

 僕は壁に手をついて歩きながら、手当たり次第、聞き込みを続けていく。

「あのー、すみません」

 僕が話しかけると、ほとんどの人が一瞬固まってしまう。理由は分かっているのだが、ほんの少しだけ、傷ついてしまう。

 今回の相手もそうだったようで、動揺した気配の後、綺麗なアルトの声が聞こえてきた。

「何かしら、可愛らしい坊や」

 とりあえず、完全なる子供扱いをされてしまい、僕は苦笑しながら、特徴を書き上げた紙を相手へ向ける。

「あの、こんな女性を探しているんですが、知りませんか?」

「……あら、ふふ、髪色以外は、私と良く似た方みたいね。でも、私はお会いした事はないわ」

 笑い声と共に返ってきた答えと同時に空気が動き、相手からは甘い花の匂いがし、僕の鼻腔を擽る。多分、相手が首を振ったのだろう。あと、微妙な違和感を感じたが、理由は分からず、僕は内心首を捻りながら、会話を続けようと口を開き、

「……そうですか。ちなみに、貴方の髪色は?」

 とりあえず、当たり障りのない質問をする。

「え……あ、そうだったのね。ごめんなさい。私の髪色は、金ではなく金茶よ。少しだけ暗い色なの」

 僕の問いかけに、相手はハッとした様子で謝ってくれてから、答えをくれる。

「へえ、そうなんですね。ちなみに、これから聞き込み続けるんですが、どちらが人多いですか?」

 ニコニコと笑って問いかけると、相手からは笑顔の気配と同時に、優しく頭を撫でられた。また、ふわり、と甘い花の匂い。

「私、暇してるから案内するわ。あなたみたいな可愛い坊や、すぐに引き込まれちゃうもの」

 楽しそうな弾んだ声と共に、相手から柔らかく手を取られ、僕は違和感の正体を悟るが、問題がない答えだったので、そのまま相手の手を握り直す。

「じゃあ、遠慮なく、よろしくお願いします」

「ふふ、任されたわ」

 気付いた僕に気付いただろう相手は、一層笑みの気配を強めると、僕を気遣いながらも、迷いなく歩き出す。

 僕は、ただただついていくだけだった。




 ――結果、何故か僕は、捕らえられていた。甘い花の匂いと人の気配があるので、多分道案内してくれた相手も一緒のようだ。

 本当に、何故だか分からないが、僕達を捕らえているのは――依頼人だった。

 どうしてこうなったか、痛む頭を押さえつつ、記憶を辿っていく。

 道案内してくれていた相手は、まだ気絶しているらしく、動く気配はない。だが、呼吸音はしっかりしているので、体調に問題はないようだ。

 まず相手に連れられ、酒場っぽい所や、化粧と香水の匂いが混じった場所を巡り、聞き込みを続けた。

 結局、ほとんど空振りで、聞けたのは『金髪で青い目の女性が、何人か姿を消している』という噂話ぐらいで。

 それも、噂話が出始めたのは、依頼人の奥様が消えた日より、だいぶ後で、関係性は無さそうだった。

 僕は肩を落とし、相手へ礼を告げて帰ろうとしたが、心配した相手は、相棒との待ち合わせ場所までついていくわ、と言ってくれて……。

「その後、どうしたんだっけ?」

 記憶はそこで途切れていて、後頭部には謎の痛みが残っている。

「……あ、そうだ。依頼人の声がして、ガンッと殴られたんだった」

 だから、僕達を捕らえたのが、依頼人だと思い至った事を思い出しながら、僕は隣の相手を起こそうと、花の匂いがする方へ声をかける。

「あの、起きてください。しっかりして」

「……う、ここ、は、何処?」

 やはり気絶していただけらしく、相手は掠れた呻き声を洩らし、起き上がったようだ。声にも聞き覚えがあり、隣にいるのは、あの道案内してくれた相手で決まりだ。

「何よ、真っ暗で、何も見えないわ」

「真っ暗なんですか。明かりとかは……」

 ブツブツ文句を言う相手に、僕は改めて周囲を窺い、様子を探りながら、触れ合える位置にいるであろう相手へ問う。

「明かりはないわ。……ねぇ、隣にいるわよね?」

「はい、いますよ。少し触りますけど、ビックリしないでくださいね」

 不安を滲ませた相手の声を聞き、僕は話しかけながら相手の方へと手を伸ばし、腕の辺りらしき箇所に触れる。

「今、触ってるかしら?」

「はい、腕に触らせてもらってますが……?」

「私は、触られてないわ」

「……え?」

 嘘を言っているような雰囲気ではなく、僕はおずおずと触れている人肌を辿っていく。それは、やけに冷たく、まるで脱け殻のようで……。

 その時、空気が動き、花の匂いに混じって、依頼人から感じていた、あの臭いが隣から強く臭ってくる。

「ああ、思い出した。この臭いは……」

 死の臭い。口に出さず、僕はやっと思い出せた既視感を感じる臭いの正体を、内心で呟く。

 つまり、僕の隣にいるのは、花の匂いがする相手ではなく、死の臭いをさせた、物言わぬ誰かだ。

「ねえ、どうしたの? 何処にいるの?」

 不安を隠せない相手の声に、僕は手を中空へ差し伸べ、声の聞こえる辺りを探る。すぐに、温かく張りがある人肌が、指先に触れる。

「……今度こそ、触ってますよね?」

「ええ、ええ、分かるわ……」

「立てますか? 出口を探そうかと思うんですが」

 安堵の声を洩らす相手へ手を差し伸べ、僕は小首を傾げて見せる。が、全て無駄である事に気付き、一人で苦笑する。

 つい忘れてしまう。この空間が真っ暗闇で、相手の目には何も見えないという事を。僕にとっては、慣れ親しんだ日常だから。

「今度は、私があなたに道案内される訳ね」

 肝の据わった相手は、悪戯っぽい声音で応じると、僕の声が聞こえる方へと手を差し出したらしく、しっかりとした触り心地の手に触られる。

「間違わず、私の手を握ってちょうだい?」

「もちろん、今度は間違いません」

 真っ暗闇の中、小さく笑い合うと、僕達は手を繋いで、ゆっくりと歩き出した。




「地下室、なんでしょうか。空気が湿っぽいし、カビ臭いです」

「確かに、陰気よね。……血の臭いも、するわ」

 暗闇の中、僕達は手を繋いで移動しながら、ボソボソと会話を続けている。

「気付いてたんですね。僕も、気になってました」

「……ちなみに、何の為に、私達を捕らえたのかしら?」

「多分、ですけど……僕のせいだと」

「あなたの? どうして?」

「依頼人が狂ってる事に、気付けませんでした」

「……狂ってる?」

 僕の言葉が予想外だったのか、疑問系の返しと共に、僕の手を掴む力が強くなる。

「さっき、少しだけ、僕、一人で行動しましたよね」

「ええ、ほんの少し、私を置き去りにしたわね」

 今度は少し悪戯っぽく、相手からの反応が返ってくる。だいぶ、この空間にも慣れたらしい。

「それは、ごめんなさい。でも、あなたには見せたくなかったので。少し、闇に慣れて、見えてきてますよね?」

「……あら、気付いてたの」

「だてにこの生活が長い訳じゃないですよ? まあ、それは置いといて、あそこには隠し部屋があって、中には、今回、僕が依頼人に探すよう頼まれた『人』がいました」

「自分で奥さんを捕まえときながら、あなたに探させてたの? 確かに狂ってるわ」

「……違うんです、そうではなくて、依頼人は――」

「私の妻を何処へ連れて行くんだい? 君がわざわざ見つけてきてくれたんじゃないか」

 僕の言葉を遮った聞き覚えのある声と共に、隣から、眩しい、と小さな悲鳴が聞こえる。依頼人が明かりを持っていたのか、それとも出口なのか、僕には判断がつかないが、目眩ましを食らった状態の相手を自らの背後に隠す。

「違います! この人は貴方の奥様ではないんです! お願いです! 思い出して……」

 ここまで来る途中の惨状から、僕の頭の中には二種類のストーリーが描かれていた。

 まず一つは、依頼人が稀代の殺人者で、逃げ出した奥様と同じ特徴の相手を殺しまくっている。

 もう一つは――。

「奥様は、もう亡くなってるんです! 探しても、もうこの世界の何処にもいないんです! お願いです、他の方を傷つけるのは止めてください……」

 とても、悲しい結論だった。あの隠し部屋で、僕が見つけたのは、枯れ木のような触り心地の、変わり果てた探し人。細い手首には、辛うじて、あの特徴的なブレスレットが残されていた。

「そんな事、ある訳ない! 妻は、出て行ってしまったんだ! なあ、君が見つけてきてくれただろ? 妻はそこにいるじゃないか。今度こそ、『本物』なんだ! 今まで私が連れてきていたのは、みんな偽者だったんだ!」

 ずっと依頼人から感じていた馴染みのある臭い。それは、死臭だった。このところ、生命力に溢れる人とばかりあって忘れかけていた、僕にとって、身近で嗅ぎ慣れた臭い。

「本当に、狂ってるわ」

 喚き散らす依頼人。隣からは、ポツリと冷ややかな声が聞こえる。そこに、同情の色は一欠片もない。それどころか、感じるのは冴えた殺意。

「……可愛い坊や、勝算は?」

「やっぱり、一般人ではないんですね。……勝算は、もうすぐ――来ました」

「あら、まあ……」

「何を話してる……っ!?」

 言い切った瞬間、大きく空気が動いたのを感じると同時に、隣からはのんびりとした驚きの声、目前の依頼人からはくぐもった呻き声。

「あれが、坊やの勝算なのね」

「はい、とても頼りになる相棒なんです」

 畏怖を滲ませる相手の声をあえて無視し、僕はニッコリと笑って見せる。



 外からの光を背に立っているであろう、最高の相棒を思いながら。



「人狼が来るのは予想外だったわ」



 一発で相棒の正体を見抜いた相手にも、ちょっとびっくりだ。

 僕の驚愕が伝わったのか、相手の視線を感じ、僕はゆっくりと目を細める。



 もう何も見る事が叶わない、銀の瞳を。

 蛇足だが、相棒によって気絶させられた筈の依頼人は、狂人の馬鹿力なのか、すぐに復活したが、

「妻を返せぇ!!」

「うるせぇ! 沈んどけ!」

と、ドスの効いた相手の声が聞こえた、と思った時には、ドサリと地面に倒れた……ようだ。

「あら、私ったら、はしたないわ」

 おほほ、とわざとらしく笑う相手に、僕は深々と頭を下げる。

「ご迷惑おかけしました」

「良いのよ、可愛い坊や。私も、こいつを追っていたのだから」

 肉を蹴るような音と一緒に、軽やかなアルトの声が、僕の謝罪に優しく答える。

「なあ、こいつってさ……」

 相手に対し、何かを言いかける相棒を、僕はやんわりと制し、相棒の持つ鞄から、手作りのチラシを差し出す。

「僕らは何でも屋です。犯罪以外は何でもいたします。どうぞ、お見知り置きを」

 受け取ってくれた相手に、止めにニッコリと微笑み、僕は傍らの相棒の毛並みを掴んで歩き出す。



「……やっぱり、お前の得意技だろ、拐われるの」

「違うから」

 軽口を叩いてくる相棒の尻尾を軽く引っ張って、僕らは歩いていく。

 相棒が隣にいれば、僕は何でも出来るし、迷う事もない。




 何でもありなこの世界で、僕らは今日も生きていく。

気が向いたら、私視点と、俺が何をしていたかを書きたいです。

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