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何でも屋  作者: 汐琉
2/5

何でも屋の俺

前回が『僕』視点なので、今度は『俺』視点となります。特殊設定なので、ご注意ください。

 俺は、雨の日に落ちていた。


 拾ってくれたのは、変わり者。


 次は、俺が拾ってやるのも良いかも知れない。

 ――アーシアリ。何でもありな、この世界の名前。あいつが教えてくれた。

 あいつは、結構博識で、色々知ってる。けど、知れない事も多いから、俺が教えてやる。

 二人で、旅しながら、何でも屋ってのをしてる。  今いるのは、この世界の中でも、ワチャワチャしてる国で、ワーチャだってよ。俺は聞いた瞬間、笑った。腹を抱えて。

 そんな俺に、あいつは困ったように首を傾げ、通りすがりのヤツに声かけられてた。

 俺から見ても、あいつ程綺麗な生き物は見た事がない。あと、実年齢は知らねぇけど、会った時から、見た目は全然変わらねぇ。

 俺がいないと、あいつはすぐにどっかに連れてかれそうになる。だから、本当は、キナ臭いこの国には来たくなかった。

 街並みや、良い雌がいたとか、食い千切りたくなるような服装だとか、あいつに説明しながら、俺は殺気を飛ばして歩く。これで、あいつに近づくヤツは減る筈だった。

 本人がはぐれるまでは、俺はそう思っていた。

 気付いた時には、小さくてキラキラしたあいつは、俺の毛から手を離して消えていた。

 思わず、喉奥で唸り、あいつの名前を叫んでいると、いつの間にか武装した兵士に囲まれていた。

 イライラして殺気を向けると、ヒィ、と息を飲んで、何人かの兵士が体を退く。余計、イライラした。

 退かなかった兵士の一人が、見覚えのある紙切れを俺に見せてくる。

「お前、何でも屋なんだよな?」

 しょうがない、無言で頷いてやる。

「相棒はどうした?」

 前言撤回。俺は思い切り怒鳴ろうとするが、それを察したらしい兵士が、数枚の写真を見せてくる。

「依頼をしたい! 今この街では、誘拐事件が多発している! 見ての通り、見目麗しい子供ばかりが、狙われている!」

 兵士の言葉を聞き、俺は怒りで目の前が真っ赤に染まった気がした。

 見目麗しい子供? まさにあいつの事だ。すぐに見つけてやらねぇと……。

「もしかして、君の相棒も消えたのか?」

 毛を逆立てんばかりの俺の様子に、察しの良い兵士が恐る恐る声をかけてくる。

「そうだよ!」

 怒りのまま怒鳴り返すと、兵士は落ち着いた様子で、こちらへ、と俺を誘導する。

 連れて来られたのは、兵士達の詰め所らしい。人数は減り、さっき俺に怯えなかったヤツを筆頭に、五人の兵士が俺を見つめている。

 早くあいつを見つけないと、何かされたらどうすんだ、と内心イライラしていると、兵士達の間に苦笑が広がる。

「すまない、あそこでは話しづらくてね。実は、誘拐犯の目星は付いているんだよ」

「はぁっ!?」

 思わず牙を剥いた俺は悪くない。だが、兵士は相変わらず怯えた様子もなく、地図上の大きな屋敷を指し示す。

「……恥ずかしい話、誘拐犯とおぼしき男は、身分が高くてね。証拠が出ても揉み消され、上からも圧力がかかり、手が出せないんだ。そこで、君に依頼をしたい」

 揃って頭を下げて来る兵士達の考えを悟り、俺はニヤリと笑って頷く。兵士達も、頷き合い、ニヤリと笑う。

「しょうがねぇ、暴れてやるよ」

 俺なら、どんなに暴れても、天災扱いにされ、ついでに俺を捕獲するとか何とか言えば、兵士達も屋敷に乱入出来る。




「さあ、派手に行くぜ」

 兵士達を木陰に隠れさせ、俺は喉奥で唸って気合を入れる。

 タイミングを計る為、窓から中を覗き込むと、ちょうど奥の重々しい扉が開く所だった。

 出て来たのは、気持ち悪い若い男と、そいつに無理矢理手を引かれた、あいつだった。

 気が付いた時には叫びながら窓を突き破って、男をぶち飛ばし、あいつの体を確保しいていた。

 いつも念入りに磨いている自慢の毛並みを擦り寄せてあいつを包み込み、俺の匂いを上書きする。

 あいつが色々馬鹿な事を言ったから、怒鳴り付け、尻尾まで巻きつけて、さらにしっかり寄り添う。

 しばらく離れたくは無かったが、兵士を呼ぶように言われたので、俺は外に向けて怒鳴る。

 やって来た兵士が、あいつを見て、チビとか言うから、キレそうになる。

 貶して良いのは俺だけなんだよ。

 そんな想いも込めて、あいつの頬に冷たい鼻を押しつける。




「お仕事とってきてくれて、ありがとう」

 二人きりなった後、あいつがポツリと言って、俺の体に触れてくる。頭を撫でたいんだと察した俺は、しょうがないから伏せてやる。

 いつまで経ってもチビなあいつは、俺がどちらの姿をしていても、伏せなければ頭に手が届かない。

「いつも、心配かけてごめんね? 僕の言い付け、守ってくれて、ありがとう」

 わしわしと頭を撫でられながら、俺は今更ながら、そんな言い付けがあったなぁ、と思い出す。

 自然と揺れる尾を意識しながら、俺はあいつの美しい瞳を覗き込む。



 白目も瞳孔も無い、美しい銀色の眼を。


 雨の日に俺を拾ったのは、美しい変わり者。



 何も映さない銀の眼に、ボロボロの自分が映り込む。


 問われた気がした。生きたいか、と。俺は心のままに叫ぶ。


 生きたい! 生きたい! 生きていたい! 死にたくない!



 俺の叫びが聞こえたのか、銀の眼がさ迷い、俺のいる辺りを見つめる。



「僕と生きて行く?」



 応えるように一声吠えて、俺はあいつの胸に飛び込んだ。



 お互い、いつまで生きるかはわからないが、いつか終わりが来るまで。



 生きて行くつもりだ。この何でもありな世界を。

 あいつと何でも屋として。


これも、元短編から移動しました。

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