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何でも屋  作者: 汐琉
1/5

何でも屋の僕

一応、ファンタジー。突発的に始まり、唐突に終わる。ちょっと特殊設定なのでご注意ください。

 始まりは雨の日だった。

 僕は、道でとある物を拾った。

 後悔する事もあるが、多分、また落ちていたら拾うと思う。

――アーシアリ。

 人も獣も魔物も、精霊すらもごっちゃになった、何でもありなこの世界が、僕の住む世界。

 僕は、この世界で、何でも屋をして生きている。

 容姿は悪くないと思うけど、年齢より下に見られてしまう事が多い。こう言うと、一緒に旅してる奴、つまり同行者は、「は? いつも、の間違いだろ?」と容赦無く突っ込んでくる。

 だけど、容姿に関しては否定しないから、僕の容姿はまあまあらしい。

 僕が今いるのは、混沌としたこの世界でも、指折りにわちゃわちゃした国、ワーチャだ。別に駄洒落ではなく、本当にそういう名前の国だ。

 最初に知った時、僕も笑ってしまった。同行者は腹を抱えて笑っていたようだ。

 最近、キナ臭い噂の多いこの国は、何でも屋の出番もあるだろうと、やって来たまでは良かった。

 同行者が、良い女がいるぞ、とか、建物の屋根が原色だぜ、とか、服はヒラヒラしてるのが流行りか? とか評してるのを聞きながら、街中を進む。

 僕が聞こえてくる色々な音に気を取られていると、大通りに入ってしまったようで、運悪く同行者とはぐれてしまった。

 いつもは、はぐれないよう気をつけていたのだが、今日は新しい土地に来て、僕も油断していた。気付いたら、同行者の声も音も聞こえなかった。

 人波に潰されないよう、必死に手足を動かしていたら、気付いた時には、湿った臭いのする、狭い通路に逃げ込んでいた。背中を壁に預けて腕を伸ばすと、手がギリギリ反対の壁に触れたので、かなりの狭さだ。

 自慢じゃないが、僕はかなり小柄な方だ。周囲がデカイという可能性もちょっとあるが。

 そんな事を思いつつ、僕が必死で息を整えていると、通りの方から声をかけられる。

「大丈夫かい? この国は初めてかな?」

 幼い子に話しかけるような、殊更優しそうに意識しているらしい男性の声に、僕は小首を傾げて、そちらの方へ顔を向ける。

 きっと、人波に流されていた所から見られていたのだろう。

 あれを見たら、この国に慣れてないなんて丸わかりだ。一応、サバを読んでおこう。

「……二度目ですが?」

「ほぼ初めて、って事だね。一人なのかな?」

 効果が無かった上、ああ、この流れはヤバい。

 キナ臭い噂の一つにあった、誘拐という単語が、僕の頭を過る。

「いえ? 落としてしまった相棒がいます」

 内心の動揺を悟らせないよう、余裕な笑顔を意識して、口の端を上げる。僕の笑顔は、同行者からのお墨付きだ。

「でも、今は一人なんだよね?」

 また駄目だったようだ。男の声が近くなる。

「君の瞳は美しいね?」

「ハハハ、ソウデスカ」 思わず片言になるぐらい、男の声が気持ち悪かった。

 早く、同行者の声が聞きたい。

 そう思いながら、甘ったるい匂いのする布に口と鼻を覆われ、僕は意識を手放した。

 まあ、全く不安は感じていなかったが……。

 次に目覚めた時、僕はぼんやりとする頭を持て余しながら、ゆっくりと体を起こす。

 拘束はされていない。手足は、自由に動かせる。でも多分、背中に触れる固い感触と空気の匂いから推測すると、ここは何処かの地下牢。

 そんなに時間が経っていないようだから、街中か、そんなに離れた場所ではない筈。

 さらに辺りを探る。僕の他にも捕らえられているのか、人の気配。獣の臭いもした。

「あの、大丈夫?」

 くらくらする頭を抱えていると、幼い少年の声が聞こえ、僕はそちらに顔を向ける。

 小さく息を飲む音が聞こえ、僕は安心させるように微笑む。

「大丈夫だよ。驚かせてごめんね?」

「あの、その目……」

「生まれつきなんだ。気にしないで」

 僕の目の色は珍しいらしく、怯えられる事も多い。少年を落ち着かせようと、優しい声を意識する。

 人じゃないんじゃないか!? みたいに言われるのも多いので、自然と定住する事は止めて、何でも屋をしながら旅をしている。

 僕が自らの過去に思いを馳せていると、少年の方から衣擦れの音がする。向こうも拘束されていないらしい。

「そっち、行っても、良い?」

「いいよ、おいで。僕の傍にいれば、安全だから」

 声と共に衣擦れの音が近付き、体の左側に温もりが触れて来る。

「ごめんなさい、目のこと……」

「気にしないでって。それより、君も無理矢理連れて来られたの?」

 頷く気配と共に、啜り泣く声。

「知ら、ない、男の人が、変な布で、ぼくの口を……」

「僕も一緒だ。でもね、大丈夫」

 泣きながら、途切れ途切れでも、一所懸命説明する少年。僕は泣き止ませようと、ふわり、と柔らかい笑みを意識して、口の端を上げる。

 今回は成功したらしく、少年の泣き声が止まり、代わりにもう聞きたくない声が近づいてくる。

「みんなー? 良い子にしてたかなあ?」

 気持ちの悪い、猫なで声に、僕は鳥肌の浮いた腕を擦る。

 地下牢は一つではなかったらしく、少女の声や、獣の鳴き声も聞こえる。

「目が覚めたんだね。気分はどう?」

 新入りの僕の様子を見に来たらしく、猫なで声の主は、僕と少年がいる鉄格子の前で止まる。

 僕は返事もしたくないので、怯えた少年を抱え……そんなに体格が変わらないみたいなので、抱きつきながら、そっぽを向く。

 すると、それが気に障ったのか、男の気配が変わる。舌打ちをすると、ガチャガチャと音をさせて、僕のいる檻を開けようとしているらしい。

「さあ、悪い子にはおしおきだ」

 腕を掴まれ、僕は咄嗟に抱きついていた少年を離す。巻き込まれたら、可哀想だ。

 僕は、ちょっとだけ抵抗するフリをして、男にわざと連れて行かれる。

 でも、男に引きずられて歩く僕の姿を見たせいか、他の檻から聞こえていた声や音がしなくなる。

 怯えさせちゃったかな、と僕が後悔してると、足の裏から伝わる感触が変わり、さらに、現れた階段で転びそうになる。

 おかげで男に抱き留められた。気持ち悪い。臭い。同行者の匂いが懐かしい。

 同行者は何だかんだで身嗜みに気を使っているみたいだ。特に、匂い。気付かれていないと思っているだろうが、それが僕の為だという事を、僕は知ってる。同行者は、結構照れ屋なので、言わないが。

 僕が思考を飛ばしていると、階段が終わり、重い扉の開く音。

 流れてくる新鮮な空気。でも、外の匂いはしない。

「さあ、私の部屋で、おしおきだよ?」

 いかにもな台詞に、僕は状況も忘れて、クスクスと笑ってしまう。

 人身売買とか、生け贄説とか、僕が噂を聞いた時に、同行者とした真剣な会話を思い出したから。

 結局、そんな深い理由ではなくて、あの時、同行者の言ってた通りの……。


「こぉの、ド変態がーーっ!」

 ただの変態さんだったようだ。

 怒号と共に、僕の腕を掴んでいた男が消える。風と、壁か何かにぶつかる音が聞こえたので、多分吹き飛ばされたのだろう。

 僕は巻き込まれないように、じっとしている。怒号の主は、良く知っている相手だから。

 絶対に僕を傷つけないとわかっているから、僕は微笑んで、相手に顔を向ける。

「何笑ってるんだよ!」

 これは、怒っている訳ではない。恥ずかしがり屋め。

「何勝手にさらわれてんだよ!」

 うん? 許可を得たら、さらわれても良いのかな?

「んな訳あるか!?」

 つい口に出していたらしく、烈火の如く怒られた。

 そのまま、黙り込むと、無言で寄り添ってくる。

「はぐれるなって、言っただろ……」

 相当心配してくれたらしい。これが、僕の同行者だ。一緒に何でも屋をしている、相棒。

「そうだね。……で、兵士は呼んで来てくれた?」

 宥めるように同行者の背中を撫でる。本当は頭を撫でたいところだけど、僕の背丈では届かない。

「ああ、外で待機してるぜ?」

「呼んであげて? 他にも捕まってる子がいるんだ」

 僕は同行者に寄り添いながら小首を傾げて、背後にある筈の扉を示す。

 盛大な舌打ちは聞こえたが、それでも巻き付いていた気配が離れる。

「おい! 犯人確保したぞ!」

 兵士に向けた怒鳴り声を聞きながら、僕は安堵の息を吐く。

 助けを信じていたとしても、やっぱり、緊張はする。特に僕は……。

 つい不用心に、同行者の声がする方へ歩き出した。何か、兵士と言い争ってるなぁ、と思っていると、何かに躓き、体が宙に投げ出される。

地面にぶつかる前に、温かい物が僕を受け止め、衝撃を和らげてくれる。

「ば、な……っ!?」

 馬鹿、何してんだ、って言いたかったんだな、と現実逃避をしつつ、僕は受け止めてくれた同行者の顔に触れる。

「ごめん、ありがとう」

 指先から伝わってきた、情けない表情をした同行者に、同行者お墨付きの笑顔を向ける。

「あー、何でも屋? その小さいのが、相棒か?」

「はい、小さいけど、僕がその相棒です!」

 同行者がキレる前に、僕は声の聞こえた方を向いて、笑顔をもう一回。

「あ、ああ、了解した。今回は後払いって形になるが、代金は払わせてもらう。協力、感謝する」

 カサリと音をさせたのは、兵士が持っているであろう広告だと思う。

 同行者だけでも仕事を探せるように、僕が頑張って作った力作だ。

 僕と同行者の特徴と、何でも屋です、というシンプルなもの。同行者の首から下げた鞄に入れてある。

「ご利用ありがとうございます」

「てめぇら、どんくせえんだよ! こいつに何かあったら、どうすんだ!」

 代金を受け取り、頭を下げる僕の隣で、同行者が脅すような低音で吠えている。




 僕以外には、この姿の時の同行者の言葉はわからないので、僕はニッコリと微笑んで、真っ黒だと教えてもらった、同行者の毛並みを撫でていた。



 何も映していない、銀色の瞳を細めて。

 雨の日に、僕らは出会った。

 濡れ鼠になっていた小さな生き物を、僕は手探りで拾い上げた。

 生きたい、と泣き叫ぶ声を聞き。


「人狼だとは思わなかったけど……」



 喋る犬だと思っていたのは、墓まで持って行く予定だ。

 きっと、その時まで、一緒に生きているだろう。


 この何でもありな世界を共に。何でも屋として。

短編だったのを、一ヶ所に纏めるために、連載にしました。

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