ムサシという犬
ムサシが我が家に来たのは私が小学4年のときぐらいだったと思う。
私の兄が「犬を飼いたい」と言い出したのがキッカケで、
幸いにも我が家にはそこそこ広い庭があったし、犬を飼う条件はそろっていた。
何件か動物ショップを回った記憶があるが、
結局知人か誰かの家の犬を引き取るという形で格好がついた。
その家には犬が何匹かいて「うちの犬の二匹いるうちの一匹を引き取ってくれ」、
ということで兄と弟(つまり私)で好きなほうを協議することになった。
現在我が家のマスコットとなった愛犬を選んだのが兄で、
私はもうすこし年老いた犬の方を選んだので意見が分かれたが、
当時まだ小さかった子犬のかわいさに最終的にはやられて収まりがついた。
その後、車で家まで帰る最中に何が困ったかというと、名前である。
母、兄、私で意見を出したがまとまらず、途方にくれていた。
そんなとき、車内でちょうど空前のブームであったポケモンの話を兄としていて、
分かる人には分かると思うがロケット団のムサシというキャラクターの名前を聞いて、
母が「それが良い!」ということで折り合いがついた。
それがムサシという犬が誕生した瞬間だった。
家に帰って庭に放してみたものの最初はうるさかった。
まず知らない家族とともにするのにムサシは、まだ抵抗があったからだろう。
ムサシは明らかに落ち着かない様子でクゥーンクゥーンと鳴いていた。
その次は、首輪。
前の家では首輪をつけておらず、いざ我が家でつけてみると明らかに嫌な反応を示され、
これまた庭で鳴いていたのも覚えている。
しかし、それを過ぎればムサシはうちの家族としてすっかり定着した。
知らない人が玄関に来ればワンワン吠える番犬っぷりと、
それでいて普段はそれなりに静かという今思えば優秀な犬だった。
多分だが、アイツは自分の役割がこれだと思っていたのかもしれない。
ワンワン言うのがうるさい、と思った時期もあったが、
アイツはアイツなりの仕事をこなそうとしていたのかもしれない。
そんなこんなで体も成長し、私が小学校を卒業する頃には立派な犬になっていたような気がする。
基本的には母や父が散歩に連れていっていたが、
ようやく慣れてきた私もようやく一人でムサシと散歩に行けるようになったし、
餌なんかも与えるようになっていた。
中学時代には、ムサシの筋肉もすごかったし、散歩では私を引っ張るぐらいのパワーを持った犬だった。
今思えばあのあたりが元気というピークに差し掛かっていたのかもしれない。
そして、現在私が大学を卒業する頃になるのだが、
あまり特別だったイベントは無かったように思える。
アイツがしたことは私が学校へ行くとき見送ること、
そして私が家に帰ってきたときに一番に迎えてくれること。
しかし、私は、それを悲しいとは思わない。
それだけ家族の生活の中に自然調和した結果だと思うし、みんな違和感なく生活できていた。
何となく家族の精神的支柱にある存在、ペットってそれでいいんじゃないのかな。
当の本人がどう思っているかは知らないけど。
でも、きっとアイツも同じ気持ちなんじゃないのかな。
学校から家に帰れば、一番最初に顔を見せるのは決まってアイツだった。
もし言葉を話せるなら聴いてみたかった。
「お前はこれで幸せなのか。満足しているのか」って。
時間は現在、午前10時半。
どうなるのだろうか。