7話:夏、始まる
蝉がうるさい程に鳴き、夏が来たと再確認する。
あれから俺は野球づけの毎日を送っていた。 甲子園に出る、という綾との約束を守るために・・・
――――そして夏の県大会一回戦
あれから一年、俺はかなり成長した。 身長は7㎝も伸びて速球は140㌔後半にまでなった。 変化球はスライダー、フォーク、スローカーブに加えて現代の魔球、ナックルを覚えた。
背番号「1」をもらい、この試合も先発で出ることになっている。
「よし、行くか」
俺はマウンドへ向かった。 そして大きく振りかぶり第一球目を投げた。 白球はミットの中に入り、それと同時に心地良い音がした。
観客がどよめいている。 どうしたんだろう。
俺はそんなことを思いながら二球目を投げた。
また観客がどよめいた。 それから俺は試合に集中した。
試合を終えてみると9回を3安打10奪三振で完封勝利をおさめた。 観客がどよめいた理由がスコアブックを見て分かった。 1球目は144㌔で2球目は146㌔出ていたからだ。 だけどこの日の最高速度は148㌔だったらしい。
二回戦の相手は成京高校という優勝候補の1チームだった。 俺は4点を取られながらも打線が奮闘し4-4で延長戦へともちこんだ。 俺は10回にも1点を取られ、この回で点を取れなければ負けになる。 1アウト1、2塁で俺に打順が回ってきた。 俺は打席に入って集中力を高めていった。 そして相手の投手が投げた球を思いっ切り振った。
「ストラ~イク」
心を落ち着かせてバットを構えた。 二球目は高めの甘いコースにきたのでバットを振りぬいた。 俺の打った打球はライトスタンドへと消えていった。
サヨナラ・・・
俺は嬉しくて、嬉しすぎてベンチに帰ると仲間達と抱き合って新藤とハイタッチをした。
三回戦の相手は栄光学園という四番の川村を軸とした攻撃重視のチームだった。 しかし波に乗っている俺は17奪三振で完全試合を達成した。 しかもMAX150㌔と一年生記録を打ち出したのでマスコミが騒がしかった。 俺達は順調に決勝までたどりついた。 決勝の相手は優勝候補筆頭、王者のあかつき大橘だった。 あと一つ勝てば甲子園だ。 この試合、負けられない。
そして試合が始まった。
あかつき大橘の先発は背番号「10」の友沢だった。
「ウ~~~~」
試合が始まるサイレンが鳴った。 友沢はサイドスローで変則フォームから出てくる140㌔の速球は右打者からすると内にえぐりこんでくるように見えて、なかなか打てるようなしろものではないし、スライダーはプロでも通用する程速くてキレもある。 そんな友沢と俺の始めの対戦は2回、1アウトで俺に打順が回ってきた。 俺は一球見逃してストライク、
2球目はストレートをなんとかバットに当ててファール。
追い込まれての3球目、ストレートを意識しすぎて遅めのカーブにタイミングを外されて空振り三振。
その裏、俺はヒットとエラーでワンナウトランナー1,3塁とピンチを招いたが、次の打者を4-6-3のダブルプレーでなんとか抑えた。
その後試合は動かず、0-0のまま9回の攻撃に差し掛かった。
ワンアウトランナーなしという場面で俺に打順が回って来た。 一球、二球と空振りした俺は一度打席を外した。 頭の中には綾の事があった。綾は今では売れっ子アイドルとなっている。綾は約束を守った。次は俺の番だ!
俺は覚悟を決め、打席に着いた。 少し足場を慣らし、次に来る球を考えた。
思えば俺と友沢は小学生の頃からライバルだった。 友沢のお母さんは重い病気に罹ってて、高い医療費を払うためにいくつものバイトを掛け持ちながら野球の練習もしているのだからすごい。 俺と友沢は今までよく比べられてきたけど、努力の数では圧倒的に負けている。 それでも俺だって人一倍努力はしてきたつもりだし、この勝負にも負けるつもりはない。 俺は少なからず友沢のことを意識しているし、友沢もしていると思う。 だから3球勝負、俺はそう考え友沢の得意なスライダーで勝負に出ると読んだ。
友沢は足を上げ、3球目を投げた。
―――ッ!
スライダーを待っていた俺に対して友沢はインコースにチェンジアップを投げてきた。 タイミングを完全に外された俺のバットは空をきった。
「ストラック、ッタ―アウト!」
主審は独特なイントネーションで俺の三振を告げた。
新藤が友沢からホームランを打って先制したが、後続が波に乗れず、一点止まりとなった。
9回裏、俺はツーアウトまでは簡単に取ったがヒットを二本立て続けに打たれ、あげくには何でもない送りバントをエラーし満塁となった――――




