6話:綾の決心
次の日の朝、俺はばあちゃんの家に向かった。
ばあちゃんの家は帝都高校の近くの団地に住んでいる。
最近は雨の日が多くなってきた。 まぁ梅雨なのだから仕方がないところはあるけど、雨の日は室内で筋トレばっかだから正直つまらない。
ばあちゃん家で生活を始めて3週間、俺はランニングに出かけようとした時、目の前に綾がいた。 俺はびっくりしたが綾の方がびっくりしていた。
「おう」
俺は声をふりしぼった。 案の定、二人の間には気まずい空気が流れた。
「あのな」
「あのね」
二人の声が重なった。 俺は笑った。 綾も笑った。
「で、何?」
綾が聞いてきた。 いつもなら先に言わせるが今回は大事な話なので俺が先に言う。
「あのな、俺の母さん・・・癌で死んだ。 これからどうやって生きていくか分からなかった。 だから別れようって言ったんだ。 でも綾と会わなくなってから綾の大事さが分かった。 やっぱり俺には綾がいないとだめだ。 また付き合ってくれ!」
言った気持ちに噓はない。 俺はばあちゃん家に住むようになって毎日を言っていいほど綾のことを考えてた。 思う気持ちが強すぎて、綾が夢に出てくる日も少なくなかった。
そして綾はうなずいた。
「私も大好き!!」
綾が飛びついて来た。 俺は優しく受け止めた。 この光景を見ていたばあちゃんはにやにやしていた。 俺はばあちゃんを睨むと外に出て、団地の中にある公園の椅子に座った。 すると綾が何かを思い出した様に顔を上げた。
どうしたんだろう
「明日、うちに来る?」
俺はびっくりして飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。
「マジで?」
綾はうなずいた。
「すっげぇ嬉しい」
俺は家に帰ると、さっそくあるだけの服を引っ張りだして一人でファッションショーをした。
2時間後、ようやく決まった服を横に置いて寝る準備をした。
そして布団の中に入って目をつぶった。
目を開けると死んだはずの母さんが立っていた。
『母さん?』
母さんは笑ったまま何も言わなかった。
『母さん、俺だよ!翼だよ!!』
母さんはどんどん離れていった。
「母さーん」
俺は大きな声で言った。
「翼?翼ー!」
誰かの声で現実の世界へと戻った。 前にいたのは母さん、ではなく綾だった。
「綾?母さんは?」
綾はびっくりした顔で
「翼のお母さんは、もう・・・」
と言った。 そうかあれは夢だったのか、ってかなんで綾がこんな所にいるんだよ、俺スゲーはずいじゃねぇかよ!
「なんで綾がここにいるんだよ」
俺は聞いてみた。 すると綾は
「だってうちもここの団地だもーん」
となぜか得意げに言った。 俺はびっくりして布団から飛び出た。 綾と俺が近所?考えてもみなかった。
俺は急いで着替えて綾の家に行った。
「おじゃましまーす」
小さな声で呟いた。
「誰もいないよ」
ってことは俺と綾の二人だけ? 俺はなんだか緊張してきた。 綾は慣れた手つきで紅茶を入れ始めた。
「あのね、私ね・・・」
「なんだよ」
「うち、東京行こうと思ってるんだ・・・」
・・・え? 東京?
「スカウトされたんだ。行っていい?」
「それはお前が決めろよ」
本当は行ってほしくなかったが自分の将来は自分で決めるのが一番だと思った。
「じゃあ私、東京にいくね」
綾は震える声で言った。 俺は何も言わなかった。 何も言えなかった。 大切な人がまたどこか遠くに行ってしまう。 そう考えると涙が出てきた。
「で、いつ行くんだよ。」
俺は出てくる涙を抑えて聞いてみた。
「7月23日だよ。」
7月23日・・・
一週間後だ。
「私東京に出て絶対売れる! だから翼は甲子園に出てほしい。 これは約束。 いい?」
綾は涙を流しながら言った。
「おう!まかせとけ。俺、絶対甲子園行くからな!」
俺は綾と甲子園に行くという約束をした。 そして二人は愛し合い、初めて一つになった。




