1話:出会い
俺は朝食べた豪華料理に腹をたぷたぷにしながらも、自転車で試合会場に到着すると、早速アップを開始した。
予選は先日行われ、ベスト4までを決め、今日は準決勝と決勝だけ行うことになっている。
そしてベスト4に残った俺達は準決勝に挑む――――――――
見事準決勝を勝ち進んだ俺達の決勝の相手は強敵の暁中学校。
ここには俺がライバル視している友沢がいる。 友沢と俺の実力はほぼ互角。
試合が始まると、俺と友沢の投手戦だった。
試合が動いたのは7回、友沢が四球でランナーを出して俺に打順が回ってきた。 2-1とおいこまれた俺は一度集中し直し、打席に入った。 友沢がセットポジションから4球目を投げる。 ストレートが甘いコースに入ってきたので俺は思いっきりバットを振り抜くとボールは高々と上がり、風に流されてスタンドへと入っていった。 友沢は表情1つ変えずに涼しい顔をしていた。
試合はそのまま進み俺達の中学が優勝した。そして家に帰ると案の定母さんが結果を聞いてきたので優勝した事を伝えると 「あら、おめでとう、今日は腕をふるわなきゃね」 とか言ってキッチン方へ消えていった。 俺はクールダウンを済ませて帝都高校のパンフレットを見た。 そこには野球部の監督と野球部のスローガンである『明るく楽しくそして勝つ』と書いてあり、その下には野球部員が最高の笑顔で写った写真が貼ってある。
「明るく楽しく、か・・・」
その言葉に引かれていった。 俺は野球をやって楽しいと思った事が無かったから、とびっきりの笑顔で写っている野球部員が羨ましかった。
一階に下りてリビングに入った。
「母さん、俺帝都に行く!」
母さんはびっくりしていた。
「本当に帝都でいいの?あそこはここ何年か甲子園に出てないわよ」
母さんは俺が甲子園への強い憧れを知っているからびっくりしたようだ。
「大丈夫だよ 推薦が来た高校ってほとんど男子校だろ? 俺あつぐるしいの無理なんだよ。」
言った事に嘘は無かったが、一番の理由は帝都が公立だからだ。 公立は私立と比べて授業料とか、色々なことが安く済む。 でもそんな事、口が裂けても言えない。
「でも・・・」
母さんはまだ納得していない様子だった。
「大丈夫だって!!」
俺は怒鳴ってキッチンを飛び出た。
夜ご飯を食べている時、俺と母さんの間に気まずい空気がただよっていた。 その空気を打ち切ったのは母さんだった。
「さっきはごめんね」
母さんが弱々しくつぶやいた。
「俺も言い過ぎたよ、ごめん」
・・・翌日
「翼ー、早く起きなさい」
母さんは今にも裏返りそうな声で言った。
俺には父さんがいない。 俺が小さな頃に交通事故で死んだらしい。父さんは野球をしていて甲子園にも出た事があり、俺はそんな父さんの影響で野球を始めていつしか父さんと同じ舞台に立ちたいと思うようになった。 母さんはそんなどうしようもない野球馬鹿を応援してくれている。
「はーい」
俺は一階下りてパンをかじり、ジョギングに出かけた。
そして門を出ようとすると目の前の誰かとぶつかった。 そこには俺と同じくらいの年の女の子が倒れていた。
「大丈夫?」
俺が声をかけるとその女の子が
「大丈夫です」
と言って軽くおじぎをした。 その顔は少し子供っぽくてとても可愛かった。
「あの~、もしかして陽子さんの知り合い?」
女の子が聞いてきた。
「陽子?あぁ俺の母さんだよ」
俺が言うとその女の子がびっくりした顔でこっちを見る。
「母さんの知り合い?呼んでこようか?」
「お、お願いします。」
俺は玄関のドアを開ける。
「母さーんお客さーん、あっ名前はなんて言うの?」
俺は名前を聞いた。
「田崎です。」
「母さん田崎さんって言う人が来てるよ。」
俺が大きな声で言うと母さんがこっちに来た
「あら、綾ちゃん久し振り~、で、何?」
綾、かぁ・・・ あれ、何だろうこの感じ 今までには無いこの気持ち、もしかしてこれって恋? いや、それはない。 だって一目見ただけで好きになるなんてドラマの中だけの話だ。
「翼~?つ・ば・さ~~」
母さんの声で俺は我に返った。 そこにあの女の子はいなかった。
「あれ、さっきの人は?」
俺が聞くと母さんはあきれ顔で
「綾ちゃんなら帰ったわよ、翼大丈夫?さっきからずっとぼーっとしてたのよ」
と言った。
「だ、大丈夫だよ。じゃあランニングに行ってくるよ。」
俺は慌てて家を出る。 ランニング中はずっとあの女の子のことを考えていた。 帰って寝る時もずっと考えていてなかなか寝れなかった。
次の日の朝、俺はそのせいで寝不足で授業中、ずっと夢の世界の中だった。
「翼ー」
誰に起こされて現実の世界へと戻された。
目の前にいたのは俺の女房役の新藤だった。
新藤はリードが評価されていて、肩が強くパンチ力もあり俺同様にいくつかの高校から推薦が来ていた。
「翼は高校どうするんだ?」
「俺は帝都に行くけど」
俺が言うと新藤も母さん同様のリアクションをしていたが、理由は聞いてこなかった。
「お前はどうすんだ?お前にも推薦いくつか来てただろ。」
「う~ん、俺はまだ考えてねぇなぁ・・・ でもあかつき大橘には行ってみてぇ気はあるよな」
・・・あかつき大橘、たしかあかつき大橘はあかつき大学の附属高校で、友沢がいる暁中もあかつき大の附属校だと聞いた事がある。 あかつき大、高、中学校は野球の名門で附属橘は甲子園の春、夏と連覇していた。
「翼、聞いてるか? でもお前が帝都なら俺も帝都、考えておくよ♪」
「まじかよ。またお前とバッテリーが組めるかもしんねぇのかよ! お前と俺だったらマジで甲子園行けるかもしんねぇな!!」
俺は嬉しくてつい大声を出してしまった。
「お前は大げさなんだよ。」
と新藤が照れくさそうに言うと教室から出て行った。




