15話:死ぬのか
俺は急いで綾の元に向かう。
「綾・・・? 綾、綾!」
いくら俺が揺すっても俺の中にいる綾はピクリともしない。
綾の口元に耳を寄せたが息をしていないし、心臓の鼓動も止まっている。
噓だろ・・・ 綾が、し・・・綾がしん・・・・・だ・・・・?
「お願いだ、目を覚ましてくれよ・・・ お願いだよ、誰か助けてよ・・・・・・・・・・神様・・・」
その瞬間だった。 あたり一面が真っ白になる。 そしてその先には人影が見える。
「私をお呼びでしょうか?」
その声は聞くだけで心が落ち着くような、暖かい声だった。
「神・・・さま?」
俺は今見ているもの全てを疑う。
「はい。 正式にはリリスというのですが、あなた方の世界ではそう呼ばれております」
自分の事をリリスと呼ぶ『それ』は男でも女でもない、中性的な顔をしている。
「あなたは私を呼んだ。 それは何か私に願いがあったから、そうでしょう?」
俺は頷く。
「あなたは非常に純粋だ。 その願い、私が叶えましょう」
それはほほ笑む。
・ ・ ・
長い沈黙
・ ・ ・
「どうしたんですか? 早く願いをおっしゃって下さいよ」
この沈黙を破ったのはリリスだった。
「あ、あぁ・・・そうだ! 綾を…綾を助けてくれ」
なかなか信用はできないが今の俺にはこのリリスしか頼れるものがいない。
「助ける、といいますと?」
リリスは相変わらず穏やかな口調だ。 少し落ち着く。
「綾が車に引かれて…息が無い」
「ほう、車ですか… 『原動機の動力によって推進し、軌条によらないで進路を変更できる。 進路と速度を、運転者の意思に基づき自由に制御できる』といわれているあれですよね? あれは実にすばらしい。 火星人もあれを元にUFOを作ってますし・・・ 実に面白い」
UFO? いや、今はそんな事は関係無い。 綾は助かるのか?
「分かりました。 その綾さんは私が救ってあげましょう」
リリスは胸を張る。
「ほんとか?」
「えぇ、私は噓をつきません。 ただ、一つ条件が・・・」
「ありがとう!! これで綾は、綾は・・・」
俺は天を見上げる。 目の前が曇っている。
「話は最後まで聞いてください。 確かに綾さんは助かります、しかしそれには誰かが死ななければならない。 その人は綾さんがもっとも愛する人・・・ その方を失う事で人は生き返る事が出来る。 そして綾さんがもっとも愛している方は・・・白鳥翼さん。 あなたです。 どうしますか?」
俺が死ぬ事で綾は生き返る事が出来る・・・
どうするか、なんて愚問だ。 答えは既に決まっている。
「それでもいい。 綾を助けてくれ」
俺は綾を裏切った。 なのに綾はまだ俺の事を愛してくれている・・・
「分かりました、では白鳥翼さん。 あなたをあっちの世界に送ります。 最後になにか綾さんに伝える事はありますか?」
綾は俺の人生に大きな大きな幸せをもたらせてくれた・・・ その時間が色あせる事はない
「ありがとう・・・ それだけでいい」
俺は・・・綾の人生でどんな存在だったんだろうか
「分かりました。 私が責任を持ってお伝えします」
俺が綾に・・・幸せを与えた存在だったら嬉しいな
「では目をつぶって楽にしてください」
俺は軽く深呼吸をして、目を閉じる。
俺は今までの人生を振り返ってみる。 7歳の頃、俺に父親がいなくていじめられていた時は母さんが優しく抱きしめてくれた。 その母さんが死んで落ち込んでいた俺に救いの手を差し伸べてくれた綾。 綾がいたから甲子園っていう夢が出来たんだ。 一度は夢破れ、荒れていた俺をそれでも好きだとみやびは言ってくれた。 そして坊屋がもう一度夢を見させてくれた。
こうして振り返ってみると俺は、色々な人達に支えられながら生きていた事を再確認できる。
あぁ、なんだか頭がぼやけてきた。 俺は死ぬのか・・・
俺は幸せだった。 たくさんの仲間に囲まれて、その日常は時に穏やかで、時にはすごく荒れていて・・・
白鳥翼という人間は良い人間ではなかったかもしれない。 それでもこれだけ信頼できる仲間たちがいるんだから俺は幸せ者だ。
眠い・・・
その時が近づいてきたのだろう。 意識がだんだんと遠ざかっていく。
あれはいつだったか・・・
誰か知らない、多分近所のおじさんとキャッチボールをしたんだ。 あの時俺は野球というものを知って、その面白さにのめりこんでいった・・・




