12話:ぼうや
がらがらがら・・・
「すみません、遅れました」
みやびは教室に入り、担任に向かってペコっとして手招きをした。
先生は首をかしげたが、みやびの下手なジェスチャーで事を気付いたのかこちらへ向かってくる。
「君が白鳥 翼君ね? 良かった。 私があたなの担任の嶋谷 朋美よ、よろしく。 時間になっても来なかったから心配してたのよ? まぁいいわ、君は私が手招きするまでここにいなさい」
嶋谷はそう言うと教室に戻って生徒に何か話している。 クラスからは歓声が上がる。 どうやら俺の事を話しているらしい。 一時して嶋谷が扉を開け、手招きをした。
へぇ~いと俺はあいまいに返事をし、扉の手前で立ち止まり教室内を見渡す。
女子からはキャーと黄色い歓声が、男子からもオーッと声が上がる。
みやびを探す。 みやびは奥の一番後ろで俺に向かって大きく手を振っている。
「速く入りなさい」
嶋谷がせかす。 俺はそれに従い、教室へと足を踏み入れる。
「転入生の白鳥 翼君。 皆、仲良くするように」
嶋谷の紹介が終わると横にずれ、俺に自己紹介するように促す。
「えっと、白鳥 翼です、って紹介があったから知ってるか・・・ あっ、珍しい名前だけどよろしく」
クラスからは笑いが巻き起こる。
はぁ 転校初日から変な奴って印象を与えてしまうとは・・・ まぁ速くなじめそうだからいいか
「確かに白鳥 翼って名前は出来すぎだよな♪」
みやびの一言で笑い声が大きくなる。
「白鳥の席は・・・」
嶋谷はクラスを見渡す。 みやびはすかさず手を上げる。
「僕の後ろ、空いてる」
嶋谷は場所を確認する。
「そうね、そこしか空いていないわね」
そう言って嶋谷は俺をそこの席に座るように、と指示する。
俺はみやびの後ろの席に着く。
「やったぁ、翼が後ろだ♪ あ、でも僕が前だったら翼の事見れないじゃん! 先生~、席変えてよぉ」
みやびは祈るようなポーズをしたが、とりいってもらえなかった。
「ほらみやび、授業を始めるから座りなさい」
みやびはえ~、と言いつつ渋々従った。
その日の昼休み、俺に回りにはたくさんの生徒が集まった。
「どこから来たの?」
「何の部活に入るの?」
「今、彼女はいるの?」
さまざまな方向から色々な質問が飛び交う。
俺はその質問に丁寧に答えて行く。 部活は野球部に入るつもりで彼女はいる。 みやびだ。 みやびとは出会ってすぐ告られて俺はそれをOKした。
「ねぇ、君が転校生?」
声をかけてきたその男は丸刈りでがっちりとした体形だ。
「そうだけど」
俺はそっけなく答える。
「そうか、やっぱりな。 体つきもいいし、顔も整ってる。 おまけに野球まで上手いときた。 マスコミに騒がれない訳がない」
丸刈りは一人で淡々と喋ってる。
「ねぇ、誰?」
「おっと、自己紹介がまだだったね。 僕は坊屋 春道、野球部の時期キャプテンでポジションはキャッチャー。 よろしく」
坊屋は俺に握手を求める。
「よろしく」
俺はその手を握る。
「あぁ良かった、いい人そうで。 新聞とか雑誌には極悪高校生って書いてあったからもっといかついのを想像していたけど・・・意外と丸いんだね」
丸いって顔が? それって俺が太ってるってことか? 俺は眉をひそめる。
「い、いやそう言う意味じゃないって・・・ もっと良い方にとらえようよ」
坊屋は慌てて訂正する。 なんだか面白い奴だ。
俺は口元を緩める。
「俺がこの学校を案内してやるよ!」
坊屋は笑顔で言う。
「お、おう」
俺と坊屋は女子たちのブーイングを受けながら教室を出た。
「お前、前の学校でもこんなにもててたのか? 大変だな! ここが女子更衣室でこっちは体育倉庫、そしてこれが我が校の女子トイレ!」
坊屋がにやけながら説明をする。
「おい、案内する場所おかしくね?」
俺は立ち止まる。
「え、男子が興味をそそりそうなところを紹介しているんだけど・・・いや?」
坊屋は変に上目づかいを使いながら言った。
俺は首を大きく縦に振った。
「そうか、じゃあ今からは真面目にやるぞ」
外に出て校舎の隣にある小屋へと向かう。
「ここが野球部の部室だ。 どうだ、綺麗だろ?」
その建物はまだ建って間もないらしく、確かにきれいだった。
「そしてこれがうちのグラウンドだ」
涼宮学園のグラウンドは白土で帝都までではないが、よく整備されている。 そしてはしの方には山なりになった神聖に場所、マウンドがあった。
「どうだ、一球投げてみるか?」
坊屋はどこから持ってきたのか、ボールとグローブを俺に渡す。
「いいね、やろう!」
俺は上着を脱ぎ、マウンドを慣らし、あたりを見渡す。
「うわ、さぶっ!」
校舎の窓からは何事かとこっちを見る生徒がいて、その中にみやびもいた。
みやびもこっちに気付いたのか手を振っている。
一度深呼吸をし、俺はモーションに入る。
大きく振りかぶり、足を上げ少しの“間”を開け右足で地面を踏みこみ、左腕を鞭のようにしならせ、白球を投げる。
――――ズバーーン
!?
ミットに収まった時の音、今までに聞いた事がないくらい気持ちのいい音だった。
「ナイスボール」
坊屋はボールを俺に返し、再び構える。 俺は振りかぶり、白球をミットにめがけて投げる。
――――ズバーーーン
なんだこの音・・・
俺の球は速くなっていない。 夏の予選で負けて以来、ボールも触ってないから当たり前だ。 なのにこんな音が出るって・・・
俺は坊屋を見る。 坊屋は満足そうな顔でボールの収まったミットを見ている。
間違いない
あの男、ただものではない。
「すげぇなお前の球、二球取っただけでも分かった。 あの球は生きてる」
「お前、なにものだ?」
俺の質問に坊屋は首をかしげる。
「俺?俺は坊屋春道だけど・・・」
「そうじゃなくて・・・あぁ、なんて言えばいいのかなぁ お前、昔どこで野球してた?」
すると坊屋は困った顔をした。
「昔って俺野球始めたの高校に入ってからだけど・・・ それまではじっちゃんが教えてくれたけど」
こいつのじいさん? 素人にここまでのキャッチングをするように出来るとは・・・
こいつのじいさんすげぇなぁ
「あれ、お前はまだ知らなかったっけ? 俺のじっちゃんこの学校の校長なんだけど・・・」
学園の校長・・・ なんて言ったっけ
「しんねぇか、俺のじっちゃんは東堂 広行って言って昔野球選手だったんだ」
あ、あぁ!そうだ、そうだ!
東堂広行ってどっかで聞いた事があると思ったけどよく考えたら有名人じゃないか!
東堂広行は昔のプロ野球選手で、頭脳派の捕手として球界を湧かせたスーパースターだ。
そんなスーパースターの孫がこんな所にいるとは・・・それも俺の球をこれから取る事になるなんて。
なんかきっとこれって運命なんだなぁ。
こいつとなら行けるかもしれない・・・
――-キーンコーンカーンコーン・・・
「やばい、早く戻らなぇと遅れるぞ」
坊屋はそう言って走りだした。
「おい、待てよ!」
俺はそう言って坊屋を追いかけるけど坊屋は足が速く、見失ってしまった。
「あいつ・・・無駄に足速いな」




