第1章 3日目の夜は公園で @なんでお前は笑うのか? 教えてくれ、いやマジで(涙
「今日も雲が憎いの?」
満月って意外と黄色いよな、と考えていたらふと、そんな事を聞かれた。
まあ、正直に言うと石をジャリジャリ、ザクザク踏んでくる音で彼女が近づいてきているのは分っていた。でも、分っていた振りをするのは、自ら声をかけられるのを待っていたような気がするので、気がつかない振りをすることにする。
相変わらず、ひねくれているな、と思う。
「お生憎様。今日は晴れているから憎くない」
俺は体温が僅かに残っているベンチから起き上がり、彼女に言った。
彼女はいつものように笑っていた。
「昨日ぶり」
「うん、昨日ぶり、だね」
彼女は満月が欠け始めた空を仰ぎながら言う。
そのまま「隣いい?」と聞いてきた。しかし僕が答える前に昨日のように僕の隣に座る。
「……まあ、いいけど」
僕は心なしか、ベンチの手すりに体を預けた。
「あれ? 何で不機嫌になるの? 女の子が嫌い?」
「嫌いじゃあないし、べつに不機嫌でもない」
「なんで上機嫌になるの?」
「上機嫌でもねえよ!?」
からかわれた。
しかし、気分は、どっちかというと良いと思う。理由は聞くな。
「……たださ、昨日も思ったんだけど」
「ん? 自分がおろかで小さい男だって気がついたの?」
ちょっとまて。
「あー……。お前、失礼きまわりないな」
「きまわってるよ」
……知らねえよ。
「まあ、半分くらいは冗談だって」
「半分くらいは本気なんじゃねえか」
あと、そんなに楽しそうに笑うな。
俺を馬鹿にして笑うな。
「……正直に言って良いかな?」
「あ? 何がだよ? 別に言って良いと思うけど?」
俺は彼女を見て首を傾げる。
「さっきのは嘘で、9割以上が本気かな」
「なにが……ああ。本当に言わない方がいいことだったな!」
俺はベンチから立ち上がり、まだ寒さの残る遊具に背を向け、彼女をにらみながら言った。
「それより。俺は何で知り合って間もない女の子に、ここまでけなされなくては、いけないうだ?」
……噛んだ。
最後のところ噛んでしまった……。
「……愚かだから?」
「そうだった!」
俺は自分で言うのもアレだけど、そこまで愚かな心が小さい男ではないと思う。
いや、そう思いたい。
そしてこいつ、噛んだことはスルーなのな……。
俺は脱力して、ベンチに倒れるように座る。
「そんなことよりも君」
彼女がこちらを向いてくる。
あー、そんな綺麗な顔をあまり近づけるな。危ないぞ。
何が、とは言わないけど。
「君、さっきから少し五月蝿いよ? 夜なんだから近所迷惑なんだよ?」
近所迷惑を注意された。
たぶん、共犯者になるであろう女の子に。
「……お前のせいだ」
「責任転嫁は良くないよ」
「どうとでも言え」
本当、お前の相手は疲れるよ。
そのまま勝手に喋ってて。
「……心が小さい。女の子に少し注意されたぐらいで泣かないでよ」
「泣いてねえよ!?」
「うるさい」
疲れなんて吹き飛んだ。
「いやいや、ちょっと待て!お前はアレか!? 俺が泣いているようにみえるのか!?」
「もーうるさいよ。 ただの冗談だって」
そう言って笑う。
とても楽しそうに、笑う。
「……たしかに俺の心は、お前にボロボロにされて泣いてるだろうな」
「ハハハッ。おもしろいね」
冗談じゃないんだけど。
「まいいか。」
俺は小声で納得した。
隣で笑っている彼女を見ながら、納得した。