Arc 1 – 第1話 (一年の終わりと始まり)
晴れた日だった。
学校が終わるまであと一ヶ月ほどしか残っていない。
とはいえ来週にはテストがあるため、休みのことばかり考えてしまう自分の気持ちは、常に心を蝕んでいた。
昨日、学校で足を滑らせ、先生の持っていたお茶をこぼしてしまった——あの恥ずかしい出来事のせいで、正直学校に行きたくなかった。
いつものように登校の準備を終え、母の作った朝食からパンを一枚だけ取って食べると、靴を履いて家を出た。
母:「勉強、ちゃんと集中するのよ」
ユウトは玄関の前で手を振る母に軽く手を振り返した。
ユウト:「行ってきます」
どうしても学校に行きたいという気分ではなかった。
毎日同じことの繰り返しが、心を少しずつ空っぽにしていく。
将来のことを考えても、成績は良くない。変わりたいとは思っているが、それを実行できるほど真面目でもなかった。
歩きながら、独り言が漏れる。
ユウト:「24……あと24日で夏か。その時は絶対どこかで働こう」
カフェの前を通り過ぎたところで足を止め、ガラス越しに店内を覗いた。
ユウト:「カフェで働くのも悪くないかもな……まぁいいか」
そう呟いて再び歩き出す。
少し進むと、学校が見えてきた。
---
「失礼します!」
ユウト:「……は?」
声がした。
歩道で立ち止まり、辺りを見回す。確かに誰かが自分を呼んだ気がした。
「失礼します!こちらです」
ユウトが振り向くと、路地裏の暗がりに人影があった。
フードを被った人物だが、そこは路地裏の影になっており、顔ははっきり見えない。
ユウト:「……俺ですか?」
次の瞬間、何かが強く顔に当たった。
ユウト:「あぐっ……」
反射的に落とさないようにそれを受け止め、鼻を押さえながら手元を見る。
ユウト:「なんだこれ……?」
路地裏を見た時には、すでにその人物はいなかった。
手に残っていたのは、テレビのリモコンのような物だった。
黒い本体に、中央には10個の緑色のインジケーター、先端には長い赤いアンテナ。下部には大きさの違う赤いボタンが並んでいる。
ユウトは顎に手を当て、少しだけ笑みを浮かべた。
さっきまで感じていた虚無感が、ほんの少し薄れていた。
ユウト:「なんで俺、こんなガラクタ見てちょっと安心してんだ?」
適当にボタンの一つを押した。
その瞬間、アンテナから青白い波が放たれた。
しかし何もなかったかのようにすぐ静かになる。
変わったのは、緑のランプが一つ消えていたことだけだった。
ユウト:「今……何か通ったような……?」
少し間を置き、首を振る。
ユウト:「いや、何やってんだ俺。遅刻する」
リモコンをジャケットのポケットに入れ、走り出した。
学校に着いた頃には、始業まであと5分しかなかった。
席に座り、準備を整える。ポケットの中のリモコンが気になるが、ただの玩具のようにも見えるため、見せるのは少し怖かった。
昨日のことがあるため、何か起こると思っていたが、周囲はいつも通りだった。
教師が教室に入ってくる。
昨日お茶をこぼされたあの教師だ。
黒板にチョークを走らせる。
「プロジェクト課題」
教室が一気にざわついた。
生徒:「先生、来週テストですよ!」
別の生徒:「そんなのやってる時間ないですよ……」
ユウトは周囲を見ていた。
昨日も同じことがあったはずなのに、同じ反応だ。
教師は机を叩いて静かにさせる。
数学教師:「大半はこの科目で落ちる。これは救済措置だと思いなさい」
ユウトは小声で呟いた。
ユウト:「……昨日も同じこと言ってたよな?」
教師が説明を続けるが、ユウトには既に知っている内容だった。
その時、窓からボールが飛び込み、机の上のプリントが床に散らばった。
それも昨日と同じ光景だった。
ユウト:「え……?」
ユウトは違和感を覚え、机の下でリモコンを取り出して見つめた。
ユウト:「これ……過去に戻してるのか?」
興奮と不安が同時に押し寄せる。
しかし不用意に触れるのは危険だと感じ、そのまま放課後まで待つことにした。
---
男子トイレには誰もいなかった。
ユウトはすぐにリモコンを取り出し、別のボタンを押した。
何も起きない。
さらに何度も押すが変化はない。
しかし、最初に押したボタンだけは反応しているようだった。
ユウト:「これが動く条件……?」
そして、もう一度そのボタンを押した。
すべてのランプが一つずつ消えていく。
ユウトは不安な表情でそれを見つめた。
次の瞬間——
アンテナから強烈な光が放たれた。
視界が真っ白に染まる。
---
気がつくと、そこはトイレではなかった。
床はタイルから草へと変わっている。
手には木の剣。服装も違う。
ユウトは辺りを見渡した。
ユウト:「……ここ、別の世界?」
目を輝かせる。
ずっと夢見ていた“異世界転移”が現実になっていた。
彼は笑みを浮かべる。
「ここなら……やり直せるかもしれない」
そこは巨大な塔の庭だった。
しかしすぐに疑問が浮かぶ。
ユウト:「どうして、こんなことに……」
地面に落ちたリモコンを拾い上げ、裏面を見る。
そこには何か文字が書かれていた——




