第1話 一途なだけじゃだめですか?
毎週水曜日に更新します。
おれは長途一。元ヤンだ。
髪色は緑と赤のツートンカラー。
高校デビューってわけじゃないが、おれの恋を実らせるための通過儀礼のようなものだ。
おれは結構気に入っているが、この髪はかなり目立つ。
「葉っぱくん」、「枯葉くん」、「もみじくん」……いろんな呼び方をされるが、おれを苗字で呼んでくんのは幼馴染のあいつだけだ。
三脇葉月。
あいつも友だちからはよくあだ名の「イチョウ」と呼ばれる。
名前に「葉」とあることと、金髪で、よく振るときにビンタするからだ。
中学卒業の時点で2人、最近になって1人振ったらしい。
あいつはプラトニックな恋愛が好きだからな。
子どもの頃から恋愛ドラマが好きで、よくおれも強制的に見せられたっけな。
そのせいか、おれはラブコメ好きになった。
だが、現実はラブコメのように甘くはない。
好きだとか嫌いだとか、わかりやすく反応してくるやつはいない。
そりゃ、嫌いはわかりやすいかもしれんが、好きなのかどうかは一気にハードルが上がる。
たとえば、「好きなやつがいるのか?」と訊けば、セクハラだの、キモいだの言われ、「好きなのか?」と訊けば、自意識過剰だの、気持ち悪いだの言われる。
しかも巷では、仮に付き合えたとしても、蛙化現象ってのがあるらしいじゃねーか。
おれらにどうしろってんだ!? 恋愛はすんなってことか!?
いや、確かにおれの髪色は蛙っぽいが、そうじゃなくてだな……。
とにかく、おれは諦めねぇ。
ぜってぇ葉月と付き合ってみせる。
脱ヤンしたのもあいつのおかげだしな。
それにもう四月下旬に差しかかっている。
つまり、ゴールデンウィークが迫っているってことだ。
恋人同士のゴールデンウィークといえば、アレだ。
その、なんか一緒に過ごす……みてぇなやつだろ?
ラブコメでしか見たことねぇから知らねぇんだよ!
とりあえず、外で誰かと過ごす! それがリア充のゴールデンウィークだ!
とりあえず葉月と話そう! そして告白する!
そう思って放課後になったいま、葉月に近づこうとすると、番人二人が邪魔をする。
「どけよ、落ち葉女に蒼葉ちゃ~ん?」
「「……だめ!」」
「ケッ……」
こいつらは清和若葉と皐月蒼葉。
清和は髪色が茶色くて短髪だから、「落ち葉」と呼ばれている。
もう片方の蒼葉はもう一人の幼馴染で、よく「一くん一くん」って絡んできたっけな。
内気で根暗でマイペース。はっきり言うと苦手なタイプだ。
だが、いまはそんなことどうでもいい。
「おい葉月! 告白すっから、あとで校舎裏に来い!!」
「は? ダッサ。つーか、なんでいまここで告らないわけ?」
「んだとぉ!?」
人がいるのに告るのは、流石のおれも恥ずかしい。
「もう知らねぇ! 帰る!!」
「勝手にすれば?」
「おう! 勝手にする!!」
おれは礼儀正しくドアを開け、ピシャッと閉める。
「くそ!!」
なんでうまくいかねぇ?
ラブコメを好きにさせた責任を取れよ!!
そんなことを考えながら、校舎裏でおれは待つ。
「チッ……」
こんなことしてる場合じゃねーのに。
「ゴールデンウィークはどう過ごしゃいいんだよ!!」
一人で怒鳴り散らしても虚しいだけだ。
もう帰っちまうか。
そう思っていると――
「ごめんね、待った?」
「おう、遅ぇ――」
振り向くと、来たのは蒼葉だった。
「――ぞ? ……って、なんだてめぇ!?」
「イチョウちゃんが……あ、葉月ちゃんが行けって」
「なんでだよ! なんであいつはおれを見てくれねぇ!! なんでだよ!!!」
「一くん……」
「チッ……」
柄にもなく不満をぶち撒けるおれ。
「わりぃ、らしくねぇとこ見せた。帰るわ」
「私じゃだめかな!?」
「あぁ?」
「私じゃだめ……?」
蒼葉の目は慰めるような、流れに乗じて掻っ攫おうとするような目をしていた。
「好みじゃねーわ。それに……」
「それに……?」
おめーのは「ドロドロしためんどくせぇやつの目」だ。
……だとは言えねーしなぁ。
「ま、いいかぁ」
「一くん?」
「おめーは他人を傷つける覚悟はあるかぁ?」
「うん! ある――」
「ならよぉ、自分が傷つく覚悟はあるか?」
「え……」
どうした? 本性を見せてみろ!
「うん、あるよ……きっと」
「そうかぁ……残念だ」
「え……」
「おめー、嘘ついたろ? 即答できねぇ……か、『たぶん』だとか、『きっと』だとか、逃げ道を用意してるやつに、真実はねぇ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝んなよ」
「うん……」
こういうとこがメンドーなんだよな、根暗は。
「落ち着け。べつに責めちゃいねーよ。舎弟にも言ったことあっけど、身を守るのはわりぃことじゃねえ。むしろ普通だ」
「うん……!」
「まだおめーはだれも傷つけてねぇしな。自信を持て!」
「うん!」
さてと、こっからどーすっかな。
つーか、こいつほんとにおれのこと好きなのか?
訊いてみっか!
「蒼葉、確認してぇ」
「うん」
「おれのこと、好きなのか?」
「うん……!」
即答。迷っちゃいねー……
本当ってことか!
「やったな蒼葉! 今度は自分に嘘をつかなかった!」
「あ、うん……」
さてどうする……。
こいつとは付き合いたくはない。
……が、誰かを傷つける危険性がある。
ここは……
「なら、友だち以上になろう」
「え?」
「恋人にはなれねぇ。浮気もしたくねぇ。おれは一途な恋をしてぇ」
「だから、友だち以上……?」
「ああ。もう互いの気持ちを知っている。つまり、いまは友だち以上だ。恋人未満でもある」
「だから……?」
「だから、要するに! これからも仲良くしようぜってことだ」
「うん!」
これでいいんだよな?
「それじゃあ、葉月も来ねーし、一緒に帰っか!」
「ええっ!?」
「なんだよ? じゃあ一人で帰っかなー」
「私も帰ります!」
「ぷっ、なんで敬語なんだよ」
「あ、ごめん……」
「じゃあ2ケツすっか!」
「2ケツ……?」
「二人乗りってやつだよ! 嫌か?」
「う、ううん! 嫌じゃない!」
「そうだ。おめーはちょっとばかし根暗だ。何でも即答していけ!」
「うん!」
「じゃ、チャリに乗って帰っか!」
「うん!」
こうして、おれと蒼葉は一緒に帰った。
◇◇◇
翌朝、学校へ行くと、パンピー共がガンくれる。
おれの顔に何か付いてんのか?
おれは教室の中に入ってから、自分の席に礼儀正しく座る。
これでパンピーにしか見えねぇはずだ。
教科書は全部机に突っ込んである。
これで万全だな。
そう考えていると、パンピーから話しかけられる。
「なんだ?」
「もみじくん、蒼葉さんと付き合ったんだって?」
「あぁ!? んなわけねぇだろ!!」
「とぼけなくていいって! 地味だけどかわいいし……」
「あの根暗はどこだ!?」
「……えっ?」
「あのくそ根暗蒼葉はどこだっつってんだ!!」
「まだ来てないけど……?」
まだ来てないだぁ!?
つーことは、あいつじゃねぇか。
つーか、2ケツしてたのを見られたとしても、だれも言いふらしはしない。
おれは元ヤンだからな。
つまり犯人は……
「犯人はてめーか! 葉月!」
「そうだけど?」
「チッ……!」
ハメられた! この女にまんまと!!
おれだけならいくらでも泥を被ってやる。
だけど、自分の友だちである蒼葉まで巻き込んだのは許さねぇ!!
そういうやつは、我慢ならねぇ!!
「くそ!!」
「何もしないの?」
「るっせー、くそビビり。震え上がるだけのプルプル女が」
「逃げるんだ?」
「女に手を出すだなんてだせぇ真似はしねぇよ。ただ、蒼葉を巻き込んだのは許せねぇ」
「だって、そっちの方が面白そうだったから」
「本音を言え。蒼葉の背中を押したかったんだろ? だから昨日あいつに行かせた」
「だったら?」
「なんで嘘のうわさを流した?」
「……あんたには関係ない」
「まさか……蒼葉に言われたのか?」
「…………ちがう」
「あいつ……!」
「ちがうってば!!」
「いや、おめーが庇うってことは、そうだと言ってるのと同じだ!」
ここで蒼葉が何食わぬ顔で登校してくる。
「「あ、蒼葉!!」」
「な、何? 二人してそんなこわい顔して……」
「おまえ、なんかうわさ流してないか?」
「な、なんの?」
この動揺具合は……どっちだ?
「おれのうわさだ! しらを切っても無駄だぞ!」
「私、付き合ってるなんてうわさ、流してないよ」
「……そうか」
残念だった。
本当に残念だった――
「やっぱりおまえが犯人だったのか。残念だ――」
「何言ってるの?」
「『即答』、『逃げ道を作らない』、昨日言ったことは守っているようだが、どんなうわさかは言ってねぇんだ」
「……そっか」
「否定しねーんだな?」
「うん。イチョウちゃん、ごめんね」
「でも、まだ間違いだったで済む規模だ。二度とやるんじゃねーぞ。二人ともだ」
「うん」
「わかった……」
これで解決したな。
おそらく、昨日の校舎裏に来る前に葉月に言ったんだろ。
告白を断る体でやってきて、付き合えても、付き合えなくてもうわさが流れるようにセッティングしたんだな、多分。
本当に嫌なやつだ。
でもな……
「蒼葉、ここで断言してやるよ」
「何?」
「おめーは最低だ。そして恋人にはぜってーなんねぇ。これだけはしょうがねぇ」
「うん……」
「でもな、おれたちは友だち以上恋人未満。つまり、おれとおめーはマブダチだ。これも覆せねーかんな!」
「うん!」
「おめーらパンピー共もいいか!? 今回のうわさは否定してくれ。そんで、蒼葉を悪く言うやつはしばく。わーったか!? 蒸し返すな! 掘り返すな! おれはラブコメでも、ドロドロしたシーンは苦手なんだよ!」
「わかった!」
「葉っぱくんかっけーぜ!」
「俺も言いふらしとく!!」
「おーとも!! よろしく頼む!!!」
こうして、蒼葉の株が落ちた。
……けど、おれが持ち直した。人間少しぐれー腹黒い方がいいだろ。
そんなこんなで、パンピー共からの厚い信頼ってやつを手にしたおれは、今日もパンピーのフリをして、授業を受けるのだった。




