第8話 新たな戦いへの準備
「レン、待った?」
「いや、別に」
あのダンジョンに挑んだ後、俺たちはギルド本部へ行った。俺たち――といっても、俺みたいな無能は玄関で待つだけ。主にユナが報告した。
今回のダンジョンのみならず、他のダンジョンでもこのような被害が出たらまずいからな。
もし階層が勝手に増えていく現象が頻発すれば、冒険者たちの犠牲は計り知れない。ギルドとしても黙って見過ごすわけにはいかないだろう。
「どうやらあるダンジョンで、これと似た出来事が起こったみたい」
「やっぱり、俺たちのだけじゃなかったか」
「ええ。ギルドは、今回の件を無関係とは見なせないって。だから――私たちに調査と攻略を任せるって決定が下された」
「……つまり、行けってことか」
「もちろんレンもね」
あっさり言い放つユナに、俺は思わず顔をしかめた。
「ちょっと待てよ、俺はただの足手まといだぞ? この前だって、ゴーレム倒せたのはユナの絶対回復があったからで――」
「でも最後にとどめを刺したのは、レンの《黒掌》でしょ。しかもギルドマスターに歯向かえると思っているわけ?」
「……うっ」
言い返せなかった。
ギルドマスターに逆らうなんて、即座に冒険者資格を剥奪されるようなものだ。そんなことになれば、俺はもう飯すら食えなくなる。
「で、次はどこ行くんだ?」
渋々問いかけると、ユナは涼しい顔で答えた。
「Bランクダンジョンよ」
「えぇ...?」
これは最終層にたどり着く前に命を落としてしまいそうだ...。
「でも安心して。私たちだけじゃないから。同じ事例があったCランクダンジョンに挑んでいたパーティーも参加するらしいから」
「……おい、ちょっと待て」
胸の奥に嫌なざわつきが走る。
「そのパーティーってまさか……」
ユナは肩をすくめ、あっさりと言った。
「そう。《夕凪の翼》よ」
「……は?」
頭が真っ白になる。まるで脳の芯を氷柱で貫かれたようだった。
《夕凪の翼》――あのグレンたち率いる最低最悪のギルドだ。まあでも、ちょうど一ヶ月の休暇が終わるところだったしな。
「ちなみにそのダンジョンにはいつ...」
「2日後よ?」
えぇぇ...。
「その話は置いといて」
いや置いとくなよ。
「それよりもレン、この間にちゃんと交換所で換金してきたでしょうね?」
「……はいはい。言われた通り換金してきましたよ」
腰に下げた小袋を軽く叩いてみせる。
「おお、やればできるじゃない」
「子ども扱いするなよ……」
ユナは満足げにうなずきながら、くるりと踵を返した。
「じゃあ、さっそく武器を買いに行くわよ」
俺は重い足取りでユナの後ろについて行った。
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武器屋には、所狭しと剣や槍、弓、盾が並び、壁にはさまざまな魔法付与の札が貼られている。
「ここで選ぶのは、なるべく実戦向きの武器ね。レン、何か希望はある?」
「希望って言われても……前みたいに短剣で十分だと思うけど」
俺に高価なものを扱えることのできる実力もないと思うけどな。
「せっかくこんなにお金があるんだから、良いもの買いなさいよ」
俺は剣のコーナーをじっと見つめた。
武器屋なんて言ったことがないし、並んでいる剣はどれも同じように見えてしまう。
「……どれを選べばいいのか、正直わからないな」
そんな俺に、ユナはあっさりと言った。
「魔力の込められている剣を買えばいいじゃない」
「魔力……?」
魔法付与の札が貼られた剣を見て、ようやく意味がわかった。
攻撃力だけでなく、魔力の流れを利用できる剣なら、俺の《黒掌》の力も活かしやすいということか。
「なるほど……そういう基準で選べばいいのか」
ユナは満足げに頷く。
俺は何本かの剣を手に取り、順番に振ってみた。
重さやバランス、握り心地。どれも微妙に違う。その感触を確かめながら、自然と「これだ」と思える一本に手が止まった。
「……これにしよう」
握った感触がしっくりきて、魔力の流れも感じられる。ユナもその剣を見て、うなずいた。店員に声をかけ、剣を正式に購入する手続きを済ませた。
試しに鑑定してみるか。
《オブリビオン 耐久値:800/800
品質:上級
特殊効果:魔力付与(150)
備考:持ち主の魔力を増幅する。》
「そういえばレンって、戦士の割には魔力量が多いよね」
ん? そうなのか? 知らなかった。
「機会があったらジョブチェンジしてみたら?」
戦士の俺が魔法系のジョブになる? そんなこと、考えたこともなかった。
「でも魔法使いでは、魔力が少ないからなぁ。魔法剣士なんてどう?」
「魔法剣士?」
「ええ。剣で戦いながら、自分の魔力を剣に流し込むことで攻撃力や特殊効果を強化できるジョブよ」
なるほど、魔法使いとは違って直接戦えるわけか。俺みたいな前線向きの戦士には合っているかもしれない。
「少し考えてみるよ」
職業についても考えたいところだが、俺にはより重大なことが迫っている。俺は次のダンジョンへ向けて準備を急いだ。




