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俺のステータスが留まることを知らない  作者: 軌黒鍵々


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第21話

 ダンジョン手前の広場。


「ここが……A級ダンジョン」


 ユナが肩をすくめ、ゼノは剣の柄を軽く叩きながら周囲を見回す。アルベルトはいつも通り無言だ。


 そして――すでに先客がいた。

 黒と銀を基調とした装備、洗練された立ち姿。五名ほどの精鋭たちが、静かにこちらを振り返る。


「彼らが……クロウレインか」


 一歩前に出た男――金糸のような髪を持つ青年が、落ち着いた目でこちらを見据えてきた。間違いない、ギルドリーダーのルカだ。


 ルカは軽く顎を引き、丁寧とも傲慢とも取れる絶妙な角度で頭を下げる。


「初めまして。クロウレインのルカだ。君たちが今回同行する新設ギルドで間違いないかな?」


 俺は前へ出て、簡潔に名乗った。


「そうだ。今回の任務、よろしく頼む」


「こちらこそ。……とはいえ、心配しなくていい。危険な場面は私たちクロウレインが対処する。君たちは無理をせず、後方で観察してくれて構わない」


 ユナが「は?」と小声で漏らし、ゼノは露骨に眉をひそめる。

 俺は少しだけ深呼吸し、笑顔を貼りつけた。


「助言には感謝する。だが俺たちも依頼を受けて来ている以上、できる範囲で前に出るつもりだ」


「……熱意があるのは良いことだ。では、足を引っ張らない程度に動いてくれ」


 クロウレインのメンバーがくすりと笑う。


 その時、アルベルトが一歩前へ出た。


「ルカ殿。若い彼らを侮るのはやめておくといい。我々も役割を果たす」


 ルカはアルベルトの風格を見て、一瞬だけ言葉を止める。そして――苦笑した。


「なるほど。……まあ、実力は中に入れば分かることだ」


 言い終えると、ルカは手を軽く掲げた。クロウレインのメンバーが一斉にダンジョン入口へ向かう。


「では、行こうか」


 俺たちはそれぞれ武器に手をかけ、足を踏み出した。

 A級ダンジョン――そして、上位ギルドとの共同攻略。


 どちらも侮れない。だが、負けるつもりもない。


「……行くぞ。実力を見せるんだ」


 薄暗い入口を前に、俺たちは深く息を吸い込んだ。


 ――第一層に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


「……もう出てきたか」


 ゼノが剣を構えたその前方。

 岩壁の隙間を押しのけるようにして、灰褐色の巨体が姿を現した。全身に骨のような外殻をまとい、赤い目をぎらつかせている。


「スカルベア……! なんで第一層からこんなのが?」


 ユナが息をのむ。

 これはC級ダンジョンの最下層にようやく出てくるような中型モンスターだ。


 だが、今は驚いている暇はなかった。

 俺とユナは無言で目を合わせる。――いつもの連携だ。


「ユナ、右から!」


「任せて!」


 ユナは鋭く踏み込み、右側の関節部めがけて魔力刃を放つ。

 俺は逆方向から回り込み、死角となる顎の下へ斬撃を叩き込む体勢に入った。


 その瞬間――。


「下がれ」


 嫌に冷たい声が割り込んだ。


 次の瞬間、俺たちの間を黒い影が駆け抜ける。

 ルカだ。


 彼は一歩も足を止めず、細身の剣を軽く振った。

 刃が閃いたのは一度だけ――しかし。


 ドッッ!!


 スカルベアの巨体が、頭部を失ったまま前のめりに崩れ落ちた。

 血が岩床に広がる。


「……は?」


 ユナが呆気にとられ、俺も思わず足を止めた。

 確かに、奴は強い。だが今のは「必要ない介入」だった。俺たちの攻撃はすでに決まっていたのに。


 ルカは剣を払って血を落とすと、振り返りもせずに言い放った。


「遅い。こんな初歩的な魔獣に時間をかけるな。先が思いやられる」


 クロウレインのメンバーがくすりと笑う。

 明らかに――いやらしい。

 まるで手柄を確実に自分たちのものにしたいと言わんばかりの動きだ。


 ゼノが歯噛みする。


「おい……今の、完全に横取りじゃねえか」


「気にするな」俺は言うが、声に力が入っているのが自分でも分かった。


 ルカは薄暗い通路を進みながら、振り返りもせずに声を投げた。


「勘違いしないように。これは共同任務ではあるが、依頼の成功率を最優先しているだけだ。君たちの実力では、安全を確保するためにも助けられる場面が多くなると思ってくれ」


 助ける、だと?

 俺たちが仕留める寸前だったろうが――


 喉元まで込み上げる苛立ちを飲み込み、ユナの肩にそっと手を置く。


「まだ始まったばかりだ。次だ」


 ユナは強く頷いた。

 ゼノも苦々しい表情のまま前を見る。


 ――それから、どれほど歩いただろうか。


 第二層、第三層、第四層……

 階層が深くなるほど魔獣は凶暴になり、数も増えた。


 だが――


「まただよ……!」


 ユナの声が震えていた。


 そう、どれだけ俺たちが先んじて動こうとしても、結局すべてルカたちが横入りして討伐を終わらせた。


 こちらが攻撃に入ろうとする直前に斬り込み、

 魔獣が弱った瞬間だけを狙って、

 狙い澄ましたように“とどめ”を刺す。


 巧妙に、滑らかに、そして悪意すら感じるほどに。


「ゼノ、後ろに回れ! くそっ……!」


 俺が指示を出すたびに、ルカがその一歩前を行く。


 ひとつ前の階層では、俺とユナが連携魔法で魔獣の足を封じた瞬間――


「どけ」


 そのたった一言で割り込み、魔獣の心臓を貫いた。


 ゼノが怒鳴りそうになるたび、アルベルトが腕を押さえつけて抑えてくれたのが救いだった。


 だが、そのアルベルトですら眉間に深い皺を刻んでいる。


「……なるほど、こういう連中か」

「ええ、あからさまですな」


 と、彼はわずかに吐き捨てるような声で答えた。


 俺たちが仕留めた魔獣は――ゼロ。


 階層を下りるたびに悔しさが蓄積し、胸の奥に渦を巻く。


 そして、ついに――

 広がった空洞に到達した。


「ここが……最下層か」


 洞窟とは思えぬほど広い空間。

 天井から無数の光石が淡い光を発し、巨大な影を壁に落としている。


 その中央には、瘤のように盛り上がった黒い岩塊。

 地鳴りのような低い脈動が響いている。


 明らかに、このダンジョンの主――ボスの気配だ。


「安心してくれ。ここまで見れば、君たちが雑魚戦ですら役に立てないことは明白だ。ボス戦は私たちが片付ける」


 ユナが拳を震わせた。


「ふざけ……っ!」


「ユナ、待て」


 俺が制止した瞬間、ユナは悔しそうに唇を噛んだ。


 ルカの仲間たちは余裕で武器を構えながら、こちらを冷ややかに見ている。


「まあ、見学しているといい。力の差を理解するにはいい機会だ」


 ――もう限界だ。


 怒りが沸々と湧き上がる。

 ずっと抑え込んできた悔しさが胸を焼く。


「ユナ。もう少しだ。きっと俺たちが最下層で活躍するさ」


 そうだ。もう少し。もう少しの辛抱だ。

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