1話 スキルツリー
気づくと、天井があった。
「……っ、ここは……?」
身体を起こそうとした瞬間、激痛が走った。
「っ、ぐ……!」
全身が鉛のように重い。特に右腕と左足、それから背中の痛みがひどい。骨がいってたのは間違いなさそうだった。
「ようやく目を覚ましたか。……死んだかと思ったぞ」
低い声がして、視線を向けると、目の前にはグレンがいた。
「グ、グレンさん。無事だったんですね」
「この前はすまなかったな。まだ倒しきれていない魔物が襲ってきてな。お前だけで対処させるつもりはなかったんだが……まさか、ここまで追い詰められるとは思わなかった」
本当は俺を裏切ろうとしたくせに……はめやがって、許さねぇ。
「……グレンさん、どうして俺だけを?」
「……まぁ、そういう言い方もできるな。でも、命を助けたのは俺だ。感謝しろ」
感謝? 冗談じゃない。
お前が笑顔で俺を置き去りにしようとしたあの瞬間、俺の命は紙一重だったんだぞ!
「ところで聞いたか? 俺たちの実力が認められて、ギルドランクが上がるそうだ。……良かったな、レン」
「……良かったですね、グレンさん」
俺は唇を噛みしめながら、力なくそう答える。
「一週間の休暇をやるからそれまでに体を休めておけよ」
グレンはそう告げると、まるで俺の返事などどうでもいいといった風に、さっさと踵を返した。
――ランクアップ。
冒険者にとっては名誉であり、自分たちの力を他ギルドに証明することができる。ま、グレンたちが証明する力なんて無いけどな。
……それよりも。
「スキルツリー、だっけ。あの時はそうやって聞こえたけど……」
あのミノタウロスとの死闘の最中、確かに頭の中に響いた。
《スキルツリーを獲得しました》――そう、間違いなく。
俺は試しに、頭の中で意識を集中してみた。
「スキルツリー」と念じる。
瞬間、視界の奥に奇妙な光景が広がった。
――枝分かれする線、並んだアイコン、そして数字の羅列。
木のように広がった光の幹から、スキル名らしきものが枝のように伸びている。
「……っ、な、なんだこれ……本当にスキルツリー?」
光の枝の一つには《体力強化Ⅰ》、別の枝には《短剣術強化Ⅰ》と書かれている。
さらに奥の枝には《鑑定眼》や《隠密行動》なんて、今まで自分には縁のなかったスキルまで。
「俺……今までスキルなんて全然使えなかったのに……」
まさか、自動で経験値が割り振られた結果……これが開いたってことなのか?
指を伸ばすように意識を向けると、枝が淡く光り、
《スキル取得条件:スキルポイント1》
という表示が浮かび上がった。
「スキルポイント……? まるでゲームのステ振りみたいだな」
経験値が、そのままスキルポイントに変換される……ということだろうか。
だとすれば、俺はミノタウロスとの戦闘でレベルが上がって、ポイントを得たってことになる。
「……とりあえず、今取得したスキルを見てみるか」
意識を集中させると、光の枝のひとつ――《体力強化Ⅰ》がぼんやりと輝いている。
どうやら、これがすでに自動で振られたスキルらしい。
《体力強化Ⅰ:基礎体力を常時+10》
「……って、たったこれだけか?」
俺は思わず天井を仰いだ。
ミノタウロス相手に死にかけて、奇跡的に生き延びて……その報酬がこれだけ?
まるで運営にナメられてるゲーム初心者の気分だ。ゲームをやってこなかった俺でも感じる。
いや、でも考えるんだ。本来なら、レベルアップ時に「どこにポイントを振るか」を自分で選べる仕組み。
だが俺は気絶していたせいで、勝手に《体力強化Ⅰ》に振られてしまった――。
「……ってことは、次にレベルが上がったら……自分で解放する能力を選べるのか?」
俺は光の幹をたどるように意識を伸ばしてみる。
すると《体力強化Ⅰ》から三つの枝が派生しているのが見えた。
一つは《攻撃力強化Ⅰ》――条件はスキルポイント1。
一つは《防御力強化Ⅰ》――これもスキルポイント1。
そしてもう一つ……《鑑定眼》。必要スキルポイント3。
「……やっぱり」
攻撃力と防御力は、冒険者なら誰もが欲しがる基礎スキルだ。
だが《鑑定眼》だけは明らかに異質で、必要コストも跳ね上がっている。
「つまり、それだけ貴重スキルってことか」
考えてみれば当然だ。
未知の魔物の弱点を即座に見抜けたり、ダンジョンの罠やアイテムの真価を見破れたり……
《鑑定》があれば、戦闘力以上のメリットがある。
「……でもポイント3か。簡単には取らせてもらえないってわけだな」
俺は光の枝を眺めながら、自然と口元が歪むのを感じた。
攻撃力や防御力を取れば、きっと冒険者としては順当な強化になる。
けど、俺に本当に必要なのは……。
「冒険者として駆け上がっていくにはやっぱり鑑定眼だよな」
俺は心の中でそう呟き、枝の奥に揺らめく《鑑定眼》の文字を睨みつけた。
俺は、急いでダンジョンへ向かう準備をした。




