第10話 無断攻略
翌日。俺は簡単に支度を済ませ、ダンジョンの入口へと向かった。
入口の前には、すでにユナと《夕凪の翼》のメンバーが揃っていた。隊長のグレンを先頭に、仲間たちはそれぞれ武器や魔導具を確認している。
「お、来たなレン!」
大剣を肩に担いだグレンが手を振ってきた。豪快な声が周囲に響く。
「遅いよ。置いて行くところだった」
ユナは相変わらずの調子で、けれど口元に小さな笑みを浮かべている。俺が遅刻しなかったのはちゃんとわかっているはずだ。
「悪い悪い。昨日、ちょっと準備に時間がかかってな」
言い訳を口にしたところで、グレンがにやりと笑った。
「ハッ、相変わらずだな。……にしても、こうして顔を合わせるのは久しぶりだな、レン」
「そ、そうですね...」
もう話したくもない。早くダンジョンに行かせてくれ、ユナ。
「よし、それじゃあ準備も整ったし、そろそろ行こうか。立ち話してても仕方ないしね」
「おう、賛成だ」
グレンが大剣を軽く担ぎ直すと、他の仲間たちもそれぞれ武器を構える。 グレンが大剣を軽く担ぎ直すと、他の仲間たちもそれぞれ武器を構える。
そして俺たちは、ダンジョンの入口を抜けた。
薄暗い通路、湿った石壁。だが《夕凪の翼》の面々は臆することなく、むしろ慣れた様子で歩みを進める。最前線を進むグレンは、時折迫り来る魔物を片手で斬り伏せていった。
ゴブリンの群れが現れても、一撃で薙ぎ払う。洞窟狼が飛びかかってきても、大剣の一振りで壁に叩きつける。
(あんなゴミみたいなやつだが、やっぱりBランク冒険者なんだよな)
そう内心で吐き捨てながらも、俺たちは無傷のまま最終層へと辿り着いた。
「ここが最終層……か」
グレンが大剣を突き立てるように地面へ立て、警戒心を隠さず辺りを見渡す。
「気を抜くな。ここからが本番だぞ」
仲間たちも武器を構えるが、ユナだけは少し表情を曇らせていた。
「……レン、気をつけて。このダンジョンも例外じゃないわ。攻略した瞬間に新しい階層が現れるから」
「だから、援護が来るまで下手に突っ込まない方がいい。無茶すれば全滅するわ」
全滅、か。このパーティーが全滅するなんて考えられないな。まあ油断は大敵とも言うしここはユナの言う通りにしよう。
俺は深く息をつき、広間の隅に移動した。ユナもすぐ隣に立ち、俺たちはここまでの通路や分岐、罠の跡を確認しながら簡易マップを作り始める。
「グレンさんたちはここで待機しておいてください」
ユナがきつく指示を出す。
「おう、わかった。俺たちはここで見張ってるぜ!」
仲間たちも頷き、それぞれ広間の角や通路の入り口を固める。俺とユナだけが、少し離れた位置で作業に集中できるようになった。
「よし、ここまでの通路を整理しよう」
ユナが羊皮紙を広げ、俺は鉛筆を持つ。通路の分岐、罠、魔物の出現箇所――全てを記録していく。
――――――――――――――――――――
ユナとレンがマッピングをしに、上の階層へ移動し始めたのを確認すると、グレンは胸の前で大剣を組み、仲間たちに目を向けた。
「よし、お前たち。俺たちで最終層を攻略するぞ!」
広間に静かな緊張が漂う中、仲間たちの間に小さなざわめきが起こった。
「……あの、隊長。先程、ユナさんから指示がありましたが、僕たちだけで突っ込んで大丈夫でしょうか?」
一人が少し不安げに声を上げる。
グレンは腕を組んだまま、仲間たちの顔を順に見渡す。
「ふん、心配するな。いいか、俺たちがこんなダンジョンでやられるわけがないんだよ」
声に力がある。揺るぎない自信と豪快さが、周囲に伝わる。
「ここまで来て、ユナやレンがいないと勝てないなんてことはねぇ。俺たちの力で攻略して、報酬をガッツリ手に入れるんだ!」
言葉と同時にグレンは大剣を肩に担ぎ直す。
「雑魚の群れも、隠れた罠も、俺たちの前では無力だ。行くぞ!」
仲間たちは徐々にざわめきを収め、頷く者、武器を握り直す者。広間の空気が徐々に変わっていく。
「最終層、俺たちの力を見せてやろうぜ!」
グレンが前に踏み出すと、仲間たちもそれに続いていった。
――――――――――――――――――――
俺達は少し離れた位置で、慎重に通路や分岐、罠の跡を記録していた。
「……ここまでの流れは、だいたい把握できたね」
ユナが呟く。俺は頷き、次の分岐の位置を指さした。
――その時、遠くの広間から慌てた声が聞こえた。
「隊長! 隊長、助けを――!」
レンとユナは顔を見合わせた。声の主は、さっきグレンと行動を共にしていた《夕凪の翼》の一人だった。
「グレンさんたちが、グレンさんを助けてください!!」
「おい、ちょっと待て。何があった?」
「グレンさんたちが無断で最終層を攻略し始めたんです!!」
またあいつかよ...。一体どれだけ邪魔をするんだ。
「わかったわ。それで今の状況を教えてくれる?」
「……もう、全滅してるんです!!」
一瞬、空気が凍りついた。
「全滅……? 本当に?」
レンが確認するように問いかける。団員はうなずき、息も絶え絶えに続けた。
「隊長の指揮で、突っ込んだんです。魔物の数が予想以上で……あっという間にやられてしまいました!」
「……行くしかないな」
俺は転移魔法を唱える。すると、目の前には最終層へと続く広間が広がっていた。俺は扉を開け最終層へと進む。
「こ、これは!!」
扉を開けた瞬間、そこには瀕死のグレンと体の至るところが魔物に食われた仲間たちがいた。




