エピソード 3ー13
最低限の事情を説明後、ミリアと共に転移でクランハウスの玄関に戻る。そのまま集会所に顔を出すとエルフィナが駈けてきた。
「リシェル! ミリアが斬られたのは本当!?」
「本当よ。でも大丈夫、ほら」
私が一歩横に動くと、私の後についてきていたミリアの姿が露わになる。それを見たエルフィナは息を呑み、「無事だったのね!」とミリアに抱きついた。
「冒険者ギルドで、貴女が斬られたって、死んだって聞いて、私、すごくショックで……」
「エルフィナさん、心配掛けてごめんなさい」
「うぅん、いいの。それより私こそ、もっと気にかけてあげなくちゃダメだったのに、ごめんなさい」
そう言って二人は抱き合った。
そして遅れて他の夜明けの光の面々もやって来る。
「ミリア! 無事だったんだな!」
リオは抱き合うエルフィナとミリアを見たあと、「なにがあった」と私を見た。
「冒険者に斬られたの。どうも、私を引きずり出すのが目的だったみたい」
「……嬢ちゃんを? ああ……管理者権限か」
「ええ。それでミリアを治療したあと、犯人について冒険者ギルドに報告に行ったのだけど、そのときにミリアの意識がなかったことで誤解されたみたいね」
「なるほど、そういうことか」
そう言って頷く。
リオは私の言葉を信じたようだ。
「そう言えば、孤児院の子供達には?」
「まだ話してなかった。どう言えばいいか、分からなかったからな。だが、結果的にはよかったな」
「そうね。子供達には危ない目に遭ったと説明する程度に留めましょう。それと、心配を掛けてごめんなさい」
「いや、嬢ちゃんのせいじゃないだろ」
リオはそう言ってくれるけれど、私は首を横に振る。
「分かってる。でも、もう少し警戒しておくべきだった」
「かもな。だが、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。それより、これからどうするかだろ?」
「そうね。ひとまず、孤児院の子供達はクランハウスから出ないようにさせるわ」
ミリアを襲った冒険者は既に死亡している。だけど、そのことを教える訳にはいかないので、しばらくは警戒を続ける方向で対応を決めた。
そして翌日。
魔獣に殺されたとおぼしき、三名の遺体がダンジョンで発見され、この事件は幕を閉じた。
それから、私はいくつかの行動を起こした。
一つ目は、冒険者に情報を流した者達の特定だ。
イリスの調べによると、冒険者によからぬことを吹き込んだのはやはり私を襲った連中だった。
彼らは相応の罰を受けた後、領地からの追放という形で釈放された。そのときに復讐を企て、冒険者に私の情報を漏らしたらしい。
それを聞いた私はイリスに一つの命令を下した。
もっと早くにこうしていればという後悔は残ったけれど、彼らが悪事を働くことは二度とない。
そして二つ目は、数体のワーウルフを追加で召喚したことだ。
ライネルとメルティアは私の護衛と、最奥にある屋敷とクランハウスの管理に限定。新たに呼び出したワーウルフに、ダンジョンの素材の回収と、子供達の護衛を命じた。これで新たな危険が発生したとしても、子供達に危険が及ぶこともないだろう。
そして三つ目。
ノエルとの交渉から一ヶ月が経つ少し前、私はトンネルの偽装を解除した。
その結果、数日と立たずして、レイシャさんがクランハウスを訪ねてきた。私は彼女を集会所に案内し、ミリアにお茶菓子を用意させる。
「――え、貴女は?」
レイシャさんは、オバケを見たような顔でミリアを見る。ミリアが死んだことを知っているのだから無理はない――が、ここでの反応は想定済みだ。
「重症で意識が戻るか不安だったんですが……ようやく回復したんです」
死んだように思ったかもしれないけど、実は生きていたんですよ――というていで答える。レイシャさんは「あぁ……そうだったんですね。よかったです」と笑みを零した。
あっさりと、自分が勘違いしていただけだと思ってくれたようだ。まぁでも、まさか死んで生き返ったのを隠しているのでは? なんて思わないわよね。
という訳で、私はミリアが淹れてくれた紅茶を一口、レイシャさんに顔を向けた。
「それで、今日はどうなさったのですか?」
「そうでした。実は通行税の問題が解決したんです」
「まあ、イージーワールの領主が考えをあらためたんですか?」
何食わぬ顔で尋ねると、レイシャさんは首を横に振った。
「残念ながら、かの領主は最後まで無理難題を押しつけようとしていました」
「そうなのですか? では、問題が解決した、と言うのは?」
「草原エリアの片隅に大きな洞窟が見つかったのはご存知ですか?」
「ええ、報告は聞いています」
「では話は早いですね。それを冒険者に調査させたのですが……なんと、山脈の北側に繋がっていたんです!」
「え、山脈の北側にですか!?」
「そうなんです。そこを通れば、イージーワール領を通る必要はありません。セーフエリアから直接、王都の近くまで行くことができます」
「すごい!」
と、私は手を叩いて喜んで見せた。
まあ、私がそのトンネルを作ったんだけどね。なんて、おくびにも出さない。
「冒険者の話では、馬車がすれ違うことも問題のない大きさで、すぐにでも交易が始められるだろう、ということでした」
「それは、素敵ですね。早速交易を開始しましょう」
「ええ。王都と直接交易を出来るならイージーワールの領主の無茶振りに付き合う必要もありません。清々しますね!」
レイシャさんが晴々とした顔になった。
「……もしかして、だいぶ面倒でした?」
「ええ、だからリシェル様、イージーワール領とは手を切りましょう!」
笑顔で毒を吐く。
でも、私も同意見だ。これでイージーワールの領主に煩わされる必要はなくなった。
煩わしいお隣さんと縁を切れる。
あとは王都との交易を確立させて、アルステリア領を豊かにするだけだ
そうして交易に向けて動き始める。そんなある日、トンネルを通ってノエルが交渉にやってきた。




