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お隣さんはもういらない! ~陸の孤島の令嬢が、冷暖房完備の詫びダンジョンで箱庭無双を始めるようですよ?~  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー5

「リシェル様、お願いがあります!」


 午後になってクランハウスの集会所に顔を出すと、いきなりリオさんに拝み倒された。というかこの人、私を嬢ちゃんと呼んだり、様付けで呼んだり、忙しいわね。


「そんなふうにかしこまらなくても要望くらい聞くわよ。というか、いちいちそんなふうにかしこまらなくていいわ。私はあくまでルミナリア様の代理人だもの」

「……え? あ、あぁ、そういうことに……なってたんだったか」


 歯切れが悪いが――言いたいことは明らかだ。


「もしかして、レイシャさん、いえ、エルフィナさんあたりから聞いたの?」

「は? いや、聞くまでもないだろ。嬢ちゃん、自分の格好をみてみろよ?」

「……私の?」


 と、自分の姿を見下ろす。さすがの私も同じ失敗を繰り返したりはしない。

 いまの私は、ちゃんとドレスを纏っているし、手袋やウィッグもしている。レイシャさんや、エルフィナさん経由でないのなら、私の正体がばれる理由はない。


「……どこか変かしら?」

「いや、変ではないぞ。シンプルだが、シルクのドレスも様になってると思う。ダンジョン発見者としてなら、完璧だろうな。だが嬢ちゃん、代理人なんだろ?」

「そうよ?」

「なら、どうしてそんなに着飾ってるんだ? 貴族でもあるまいし、土地の売却利益で買ったんだろう? それに、そのレースの手袋は分かりやすすぎだ」

「………………そういえば、そうだったわね」


 ドレスを持っている理由は彼の勘違いだけど、たしかに代理人がする格好ではなかった。


「……まあ、いいか。私の情報は部外秘ということにしておいて」


 色々とめんどくさくなった私は、その場で手袋を外し、ついでにウィッグも外した。


「……は? プラチナブロンド? 待て、プラチナブロンドでリシェルって、まさか……アルステリアのご令嬢!?」

「そんなにたいそうな身分じゃないけどね」

「――っ。い、いままでのご無礼、お許しください」


 リオさんが慌ててかしこまるけれど、私はパタパタと手を振った。


「いいわよ、いつも通りで」


 王都で過ごす貴族ならともかく、私は陸の孤島にあるアルステリア領の令嬢だ。令嬢として振る舞うことも出来るけれど、そうじゃない時間の方が圧倒的に多い。だから、堅苦しいのはめんどくさい――とはさすがに声に出さなかったけれど、私の心の声は届いたのだろう。


「嬢ちゃんがそう言うのならいいけどよ。それなら、俺達のことも呼び捨てでかまわないぞ」


 リオさん――あらためてリオはこちらの反応を窺うようにそう言った。


「……そうね。じゃあそれで行きましょう。で、リオのお願いというのは?」

「き、切り替えが早いな。頼みだが――俺達の報酬を素材でもらうことは可能か?」

「素材で? あぁ……ファリーナに装備を作ってもらうのよね。それなら必要経費にして問題ないわよ。装備品は支給する約束だもの」

「……いいのか?」

「いいわよ。というか、そっか……そういう調整をする管理人がいないのね」


 今後もこういう調整は必要だろう。

 私一人でクランハウスの管理をする限界だ。誰か、調整役はいないかなと考える。イリス辺りに任せるのも手だけど、護衛でもある彼女にあまり仕事を割り振りたくない。


「リオは、そういう人材、知らない?」

「そういうのはセシリアが得意だな」

「……彼女? 経理とか、結構大変よ?」

「あまり広めて欲しくはないんだが、あいつはもともと商家の娘でな」

「あら、それはちょうどいいわね。ありがとう、頼んでみるわ」

「え、マジか? 俺が言うのもなんだが、夜明けの光のメンバーだぞ? 自分たちの管理を任せて、不正とかしたらどうするつもりだ?」

「そのときは首にするから、気を付けてね?」


 真顔で返すと、リオは「了解した」と引きつった笑みを浮かべる。

 ――それから、私はセシリアの元へとやってきた。


「という訳で、セシリアにクランハウスの運営をお願いしたいのだけど」

「無茶言わないで。狩りと運営の兼任なんて、どれだけ大変だと思ってるの?」


 後ずさるセシリアのまえで、私は数本の指を立てる。


「むろん、報酬は支払うわよ。そうね……これくらい」

「それは魅力的だけど……というか、どうして私なのよ?」

「リオから貴方に適性があると聞いたわ。それに、契約内容を話し合ったとき、貴女は正当な契約を目指してくれたでしょ? そんな貴女になら安心して任せられると思ったのよ」

「そう言われると……分かったわ。私にも利のあることだから受けてあげる」

「じゃあ商談は成立ね」


 これでクランハウスを回す算段はついたと、私は彼女にいくつかの業務を委託した。

 それからファリーナの部屋を訪ねる。



「ファリーナ、いま少しいいかしら?」

「かまわないけど、どうしたの? いま、二人は出払ってるけど」

「用があるのはファリーナだから大丈夫」

「そういうことなら座って」


 ファリーナがソファに座り、私もその向かいに座る。メイドのメルティアに紅茶を淹れてもらい、それを飲んで一息吐いたファリーナがおもむろに口を開いた。


「それで、私に話というのは?」

「うん。夜明けの光の面々が装備を作って欲しいって話だったでしょ? それでね。ファリーナに最高の素材を用意するとも約束したから、どんな素材が欲しいのかなって」

「欲しい素材はあるけど、都合よくこのダンジョンにあるとは限らないわよ? ひとまず、このダンジョンで得られる素材で、彼らに合う装備を作るつもり」

「それは分かってるけど、欲しい素材が分かってた方がいいでしょ?」


 そう言いつつ、私は他人には見えないモードでウィンドウを虚空に浮かべた。そうして、ダンジョンに設置できる採取ポイントや、配置出来る魔獣を確認する。


「欲しい素材の名前を並べればいいの? それだったら、グラン・ヴァナルの心核結晶とか、ノクス=ミレアの角とか、深紅の竜バル=ドラカの鱗とかあるといいわね」

「……ふむふむ、ほかには?」


 私が続きを促すと、ファリーナはなぜか胡散臭そうな顔をする。

 だが、私が続きを促すとそのまま話を続けた。


「ほかは……ネラフィラの樹脂も欲しいし、炎蜥蜴の体内核も欲しいわね。後は……そうだ! セラフィニウムがあれば最高ね」

「ネラフィラの樹脂、炎蜥蜴の体内核、セラフィニウムと……」


 メモを取り、それらの素材を入手できる魔獣や、採取ポイントを検索に掛ける。


「な〜んて、冗談よ。手に入れば嬉しいけど、ほとんど伝説上の素材ばっかりだし」

「……ん、うん。そうね……」


 メモを見ながら検索を掛けていた私は、それらがすべて管理メニューにあることを確認した。

 必要ポイントも五桁と少し高いけれど、なんやかんやでレベルが上がっているので問題はなさそうだ。


「リシェル、聞いてる?」

「……え? うん、ちょっと待ってね。……うん、なんとかなりそうだよ」

「……本気で言ってる?」

「え? もちろん本気だけど、どうかした?」


 端末から視線を外してファリーナに視線を向ける。彼女はなにやら視線を泳がせた後、ゆっくりと首を横に振った。


「うぅん、なんでもない。素材、手に入るといいわね」

「そうね。まあ、その辺りは冒険者に期待ってことで。このダンジョンに素材があったとしても、冒険者が見つけてくれないと意味がないもの」


 そう言って笑うと、ファリーナはどこか引きつった笑みを浮かべた。

 こうして自室に戻った私は、事前に用意しておいた屋敷の庭にファリーナが欲しがっていた素材の採取ポイントを設置。ついでに、夜明けの光が行きそうな場所からも採取できるように設定を弄った。

 

 

 ながら作業で聞き流すから……

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― 新着の感想 ―
リシェルってかなりぽんこつだよね?(;・∀・)ちょっと色々心配になってきた(;・∀・)
ウィッグはともかくダンジョンの管理者とセーフティエリアの管理者の違いがバレたらまずいんだから手袋は外しちゃまずいだろ!この主人公だんだん隠蔽が面倒くさくなってないか? アルステリア家って爵位は何なん…
「ほとんど伝説上の素材」ゆーとるやろ! それがそうホイホイ採れるようになったらおもくそバレるやん!(笑) やらかしお嬢様めぇ……(笑)
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