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お隣さんはもういらない! ~陸の孤島の令嬢が、冷暖房完備の詫びダンジョンで箱庭無双を始めるようですよ?~  作者: 緋色の雨


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エピソード 3ー3

 数日が過ぎ、クランハウスの集会所。レイシャさんと領主、それに私でイージーワール領の領主が掛けた通行税についての対策を話し合うことになった。

 その席で、領主――お兄様がすごくなにか言いたげな顔をしてる。


「お兄様、そんな顔をしてどうなさったんですか?」

「いや、おまえ……お兄様って。変装はどうした。おまえが正体を隠しているとファリーナから聞いたから、他人として交渉を進める予定だったんだが?」


 私の髪に視線を向けながら呆れ気味に呟く。


「いえ、レイシャさんにはバレてしまいまして」

「そういうことか。俺はてっきり、ウィッグを付け忘れているのかと思ったぞ」

「……ぐっ」


 私は思わず呻いて、それからついーっと視線を逸らした。


「……リシェル?」

「今日は、違います」

「今日は?」

「先日、ウィッグを忘れてバレました。ついでに言うと、私がダンジョン発見者であることもバレました。なんなら、ファリーナと知り合いという線でもバレていた気がします」

「……おいおい。おまえはその辺、しっかりしていると思っていたのだが……もしや、屋敷の外での生活に疲れているのか?」

「いえ、まあ、その、なんと言いますか……生活環境の変化は大きかったですね」


 疲れているのではなく、快適すぎて気が抜けているなんて口が裂けても言えない。私は曖昧に誤魔化しながら、「そういえば、王室はなにか言ってきましたか?」と尋ねる。


「いや、原因について心当たりはないかという問い合わせはあったが、おまえのことには一切触れられていない。おそらく大丈夫だろう」

「そうですか、なら一安心ですね」


 地鳴りの原因を知る私は、災害が起きないことも知っている。この件は解決と見ていいだろう。

 まあ、領主の妹がダンジョン発見者であることは引き続き隠しておきたいけれど。


「そうだな。もう戻ってきても問題はないと思うが……」


 お兄様はそう言って私の反応を待つ。


「私は、このままセーフエリアに留まり、領地のためにがんばろうと思っています。セーフエリアの管理もありますから」

「やはりそうか。ならば今後もセーフエリアで活動を続けるがいい」

「ありがとうございます、お兄様」


 ということで、その件は解決。今度は「イージーワール領の件について話し合いましょ」と話を振る。


「レイシャさん、冒険者ギルドとしてイージーワールの領主に圧力を掛けると仰っていましたよね。なにか進展はありましたか?」

「冒険者ギルドに対しては話し合いに応じる気があるようです。冒険者の移動に対しては、通行税の免除を提示してきました。ただ……」


 レイシャさんが言葉を濁す。

 だが、その先は聞かずとも予想できた。


「交易に対しては譲歩する気がない、ということですね」

「はい。担当の者が、イージーワールの領主から、アルステリア領に対しての敵意を感じたと報告してきました。なにか心当たりはございますか?」

「たぶん。うちは昔から見下されてきたので、アルステリア領でダンジョンが発見されたこと自体が気に入らないのでしょう」

「……なるほど。格下だと思っているから、なにをしても許されると思っている訳ですか。そうなると、向こうは妥協しないかもしれませんね」

「そうですね。色々と確執があるので難しいと思います」


 バルサズの件はグラセッド商会がやったことだけど、そのバックにいるのはイージーワールの領主であることは確認している。


 そっちとの確執もある以上、仲直りとは行かないだろう。

 いや、そもそもだ。

 こちらには仲直りする必然性がない。

 交渉しようと努力したが、向こうが一方的に突っぱねたという事実があれば十分だ。


「事情は分かりました。こちらとしても、アルステリア領の領主を敵に回したくはありません。ましてや、ダンジョン発見者がリシェル様となればなおさらです」


 彼女はそう言いながらも、申し訳ない顔をして、「とはいえ」と付け加えた。


「イージーワールの領主が冒険者ギルドに対して話し合いに応じる素振りを見せている以上、むやみに圧力を掛けることも出来ません」

「それは、分かります」


 うちと冒険者ギルドの契約まえならやりようはあった。

 でも、既にセーフエリアの土地の譲渡はおこなわれている。いまからそれらを反故にすることは出来ないし、アルステリア領のために協力しろと言うことも出来ない。

 そう思っていたから、続けられたレイシャさんの言葉は少し意外だった。


「だからお聞きしたいのですが、リシェル様、あるいはエルネスト様になにか案はございますか? 可能性があるのなら、私は可能な限り力を貸すつもりです」


 レイシャさんはそんなことを口にした。


「……そんなこと言って、いいんですか?」

「さっきも言いましたが、アルステリア領との関係を拗らせるわけにはいきません。私はリシェル様の正体を知っていますから」

「……なるほど」


 彼女はそれがギルドのためだからと言っているけれど、もしそうじゃなくてもある程度協力してくれそうな気がする。なんとなく、だけど。

 そんなことを考えていると、お兄様が口を開いた。


「アルステリア領としては、ゼルダリア領と交易をすることを考えている」


 ゼルダリア領? たしか、東北東にある侯爵領だったわね。イージーワール領を通らずに王都へ向かう迂回路から比較的近い場所にある。


「お兄様、ゼルダリアの領都は大きな街ですし、距離もそこまで遠くありませんが……王都との取引を諦める、ということですか?」

「いや、諦める訳ではない。ゼルダリア領と取引をしつつ、陛下に窮状を訴えるつもりだ。陛下としても、新しいダンジョンの素材は安く手に入れたいはずだからな」

「……あぁ、なるほど」


 アルステリア領から、ゼルダリア領に売った素材が、王都へと流れる。だが、他人を介し、長い交易路を通った商品には、高額な輸送コストが上乗せされる。

 イージーワール領の領主が通行税さえ掛けていなければ……という流れに持っていく訳か。


「お兄様、意外と策士ですね」

「リシェルが手にしてくれたこのチャンス、みすみすイージーワールの領主に奪われる訳にはいかないからな。俺も色々と考えたまでだ」

「……お兄様」


 そんなふうに思ってくれていると知って少し嬉しい。


「では、私からも一つ。クラウンリンク商会に相談するというのはいかがでしょう?」

「クラウンリンク商会? あの、王室御用達のか?」

「はい。実は、伝手があります」


 私はそう言ってペンダントをテーブルの上に置いた。


「……それは?」

「クラウンリンク商会の関係者から、セーフエリアの土地を売って欲しいと打診されています。その気があるのなら、このペンダントを使って連絡して欲しいと」


 クラウンリンク商会は王都に拠点を置き、王室に繋がりのある商会だ。アルステリア領のセーフエリアに拠点を置けば、イージーワール領を通って交易をすることになるだろう。

 だが、イージーワール領が通行税を取っていたら?


「なるほど。そちらから圧力を掛けさせるのか。だが、王室御用達とはいえ、ただの商会にそこまでの影響力があるか?」

「実は、打診されてから少し調べたんですが……あの商会、ただの王室御用達ではありません。おそらく、経営に王族が関わっています」

「……王族だと? それはたしかなのか?」

「確証はありませんが、いくつかの調査報告書を見る限りは間違いないと思います」


 というか、調べたのは侍女のイリスだ。

 見た目はゴスロリ少女だが、その正体はエニグマ種、優秀なマギアメイドだ。その有能さは、既にいくつもの分野で発揮してくれている。


「なるほど。試してみる価値はあるな」

「はい。お兄様の計画と合わせて、イージーワールの領主に圧力を掛けていきましょう」


 どちらかが上手くいけば、イージーワールの領主に辛酸を舐めさせることができる。そして失敗しても問題はない。私は北の山脈を抜けるトンネルを掘るつもりだから。


 ここでの話し合い、計画は、私がトンネルの開通に無関係、トンネルが出来るなんて思ってなかった。

 だからこそ、対策を必死に考えていた――というアリバイ工作である。


「以上がアルステリア領の方針です。レイシャさん、冒険者ギルドもこちらに足並みを揃えてくださいますか? ……レイシャさん?」


 声を掛けるが反応がない。視線を向けると、彼女は私がテーブルの上に置いたペンダントに釘付けになっていた。

 

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― 新着の感想 ―
そして、隣領の四方八方に、魔物でも無い、面倒な雑草・毒草が蔓延り街道が塞がるとか。クズとかイタドリとか、先日、この世界の北大で逃げ出した毒草「バイカルハナウド」みたいな。魔物なら冒険者や騎士団も討伐す…
あ、ひょっとして、商会にいる王室関係者のみが持つペンダント、とかか?
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