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エピソード 3ー1

 クランハウスにある集会所。その席に、いまは私とレイシャさんが座っている。他の面々には、重要な話ということで遠慮してもらった。

 イリスが入れてくれた紅茶を一口、私はレイシャさんに顔を向けた。


「それで、イージーワール領の領主が通行税を掛けたというのは、事実なのですか?」

「事実です。うちの関係者も通行税を取られました。領内を通る一人頭いくら、馬車一台につきいくらと、高い通行税を取っているようです」

「それは……ずいぶんと無茶をしましたね」


 この世界において、ダンジョンの素材が流通する交易路は多大な恩恵を受けることになる。なのに、通行税を掛けるなんて自殺行為だ。

 普通に考えればあり得ない。


 だけど、アルステリア領は陸の孤島。王都に向かうには、イージーワール領を通る必要がある。もしも迂回するならば、東へと大きく遠回りする必要がある。


「イージーワール領の領主は、高い通行税を掛けても、アルステリア領から王都に向かうには、そこを通るしかないと、高をくくっているんですね」


 傲慢だけど間違ってはいない。東の迂回ルートを通れば、輸送費は何倍にも跳ね上がる。それを避けるには、通行税を支払うしかない。

 つまり、アルステリア領の利益が、イージーワール領に吸われることになる。


 ……せっかく上手くいきそうだったのに、また邪魔をされるの?

 悔しい――と、以前なら思っただろう。


 でも、アルステリア領のダンジョンは私の管理下にある。つまり、領地で不足している物資があれば、ダンジョンの設定を変えて供給するという荒技が使える。

 昔ならいざ知らず、無理に交易に頼る必要はない。


 もちろん、健全な領地経営をする上で他領との付き合いはあった方がいいだろう。

 とはいえ、別にイージーワール領と付き合う必要はないよね? というのが私の本音。


 王都と交易をするには、イージーワール領を通らなくちゃいけない? 迂回すると遠回りになって輸送費がたくさんかかる? それ、普通なら、だよね?


 私にはダンジョンがあり、ルミナリア様がついている。面倒なお隣さんの相手をせずとも、打開策はいくらでもある。イージーワールの領主の打算は最初から破綻している。


 心配なのは、やり過ぎて騒ぎになることくらいだ。という訳で、私は冒険者ギルドの方針を尋ねる。


「レイシャさんはどうするつもりですか?」

「このままだと、冒険者ギルドとしても痛手ですので、通行税を取りやめるよう、イージーワール領の領主に圧力を掛ける予定です」

「……圧力、ですか?」

「ええ。冒険者ギルドは国から独立した機関です。その冒険者ギルドに所属する人間から不当に搾取するのなら、我々はイージーワール領から引き上げることになるでしょう」


 予想外の強い言葉に私は目を見張った。

 でも、その脅しは確実に効果があるだろう。なぜなら、ダンジョンがない領地でも、冒険者ギルドには多くのことでお世話になっている。


 アルステリア領なら、害獣や賊の退治、それに護衛などだ。もしも冒険者ギルドが領地から引き上げれば、それらの仕事を自分たちの部隊でおこなう必要がある。

 それを引き合いに出せば、イージーワール領の領主も考えをあらためるかもしれない。


 ……あらためないで、盛大に自爆してほしいなぁと思ったのはここだけの秘密。

 だけど、きっと心配することはない。


「レイシャさんは、交渉が難しいと思っているのですね?」

「……そうですね。これだけのことをしでかして、無策ということはあり得ません」

「勝算があっての行動、ということですね」


 たとえば、最初に無茶な要求をして、それから妥協案を引き出す作戦。あるいは、冒険者ギルドを敵に回しても、通行税で元を取れる算段なのだろう。


「交渉次第では、今後の計画にも支障が出るかもしれません。ですから、リシェル様の方でも対策を考えていただけますか?」


 と、意味深な視線を向けられる。


「……私、ですか」


 なぜ私にと首を傾げてみせる。

 だけど、レイシャさんは確信に満ちた顔で言う。


「だって、領主の妹ですよね?」

「――うぇ」


 バレてると息を呑んだ。

 とぼけることも考えたけれど、彼女は確信しているように見える。ここで惚けるよりも、事情を話して協力してもらった方がいいだろう。


「……貴女の言うとおり、私は領主の妹です」

「やはりそうですか」


 私の告白に、レイシャさんはとくに驚いた風もなく頷いた。


「……参考までに、どうして分かったか聞いても?」

「貴女がウィッグで本来の髪の色を隠していたからです。それになにか意味があるのだと考えたとき、領主の娘である可能性に思い至りました」

「ウィッグ……」


 そう言えば――と、頭に触れる。そこにウィッグを被っていたときに煩わしさがない。すっかり、ウィッグを被るのを忘れていた。


「……気を抜いていました」

「そうでしょうね。この間も忘れていましたよ」

「……この間?」

「小屋でのことです」

「――あっ!」


 気を抜きすぎて、トレーナー姿で彼女のまえに立ったことを思い出す。

 そうだ。あのときはスカートも穿いてなかったし、ウィッグも付けていなかった。それ以前に……と、恐る恐るレイシャさんの顔を見る。


「でも安心しました。領主様の妹がダンジョン発見者であれば、こちらとしても連携が取りやすいですから」

「……やっぱり、見られていたんですね」

「ええ、まぁ。ルミナリア様は護衛を兼ねた隠れ蓑と言ったところでしょうか? そこまでして正体を隠しているのは、いま流れている噂が原因ですか?」


 完全にバレているし、見透かされていた。

 うん、最近、ちょっと気を抜きすぎだった。でも、ダンジョンマスターの証であることはバレてないはずだ。なら、かえってよかったかもしれない。


「お察しの通りです。黙ってていただけますか?」

「ええ、もちろん。以前にも言いましたが、共存共栄でいきましょう」


 レイシャさんがそう言ってくれるのなら安心だ。


「……分かりました。私もいくつかあてがあるので当たります。どの手段を執るかは分かりませんが、どうにもならないと言うことは……たぶんないでしょう」


 やり過ぎることはあっても、やれないことはないだろう、とはさすがに言わなかった。

 

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